今期はすでに2つの重賞を制し、母の活躍に迫るところまで成長したディアデラマドレ。昨年のエリザベス女王杯は条件馬の身で挑んで9着だったが、今年は主役と言える立場まできていることは間違いない。乗り替わりが当たり前の昨今で、主戦と共に成り上がっていく様もファンが多い一因で、同レースはひとつの集大成といっても過言ではないだろう。一年振りの登場となる酒井貴之調教助手に、当時からの変貌を聞かせてもらった。

昨年9着からここまでの道程

-:エリザベス女王杯(G1)に出走するディアデラマドレ(牝4、栗東・角居厩舎)ですが、酒井助手に出演して頂くのは一年ぶりです。先日の府中牝馬Sでは鮮やかな勝利、おめでとうございました。

酒井貴之調教助手:ありがとうございます。

-:去年のこの時期から比べると、色々と成長したところがあると思います。どこが変わったか教えて頂けますか?

酒:去年の今頃は、夏前からポテンシャルが高いのは分かっていたのですが、力が発揮できていませんでした。休み明けを小倉で2回使った後、康太(藤岡康騎手)が馬のリズムを大事にして脚をタメて、後方から末脚勝負という形を作ってくれた。それでエリザベス女王杯に向かいました。去年のエリザベス女王杯は初めての内枠で、馬の経験不足の面が出てしまいました。それに、行きたがっていて、テンションも高くなってしまい、その後に骨折。夏を明けた時は、僕が怪我をしていて、その間にマーメイドSで阪神2000mの内回りとスタンド前発走を克服してくれていました。

-:京都に比べて重くパワーのいる阪神の芝で走るイメージがあまりなかったです。

酒:こうして結果を見てみると、坂のあるパワーのいるところで瞬発力を見せてくれています。それが一番の武器になっているような気がします。

-:その後はクイーンSに行って、同じ厩舎のキャトルフィーユの素晴らしいレースの中で5着になってしまいました。この敗戦というのも、ディアデラマドレの形を実戦した上でのものですか?

酒:厩舎の都合上、僕は触れなかったのですが、マーメイドSで中団の位置で競馬ができました。クイーンSもそういう形で行けたら対応できるんじゃないか、という手応えもあったのですが、小回りコースが結果としてこの馬には合わず、エンジンが掛かりきる前にゴールしてしまいました。


「今度は去年みたいに“内枠入っちゃった、どうしよう?”ではなく、内枠でも外枠でもやることは変わらない、と話しました。馬のリズムを大事にして、可能であればロスなく回ってほしいです」


-:それを証明してくれたのが、先日の府中牝馬Sでした。あの伸びは、胸がすく思いだったのではないですか?

酒:ハイ(笑)。その1週間くらい前に、馬のリズムを壊さないというのが大前提で、今までの大外一気だけじゃない競馬ができれば、と康太とは話していました。枠順も内枠に入ったことをポジティブにとらえて、無理する必要はないけど、そういう競馬ができるのであれば、ロスなく回ってきて、馬の力を最大限に出せれば、とも話していましたね。そういう意味では100点満点の成果です。

-:あのゴール前の伸びを見たら、1年でよくぞここまで成長したな、という気がしました。器用さが出たというか、注文がつかなくなったとは言えませんが、より幅が広がりましたよね。

酒:今度は、去年みたいに「内枠入っちゃった、どうしよう?」ではなく、内枠でも外枠でもやることは変わらない、と話しました。馬のリズムを大事にして、可能であればロスなく回ってほしいです。

ディアデラマドレ

藤岡康太との名コンビで成長

-:府中牝馬Sの後、1800だったこともあり、エリザベス女王杯に向かうのか、1F縮めてマイルCSに行ったほうが良いのか、という選択肢があったと思います。ここは藤岡康騎手が決めたのですか?

酒:そうですね。先生(角居勝彦調教師)が任せる、ということだったので、康太が決断してくれました。

-:エリザベス女王杯の方が勝算アリだったのですね。今週の1週間前追い切りを見させてもらったのですが、3頭併せでゴール後も追っているのですか?

酒:牝馬なので、当該週には目一杯やらず、1週前にしっかりやりました。1回使ったことで素晴らしい状態になっています。来週は良い状態をキープして競馬に臨みたいです。

-:社交辞令ではなく、本当の上積みが見込めるのですね。

酒:もともとこの馬は使い込んで良いタイプかなと。どんどん研ぎ澄まされていく馬なので、間違いなく前走よりも良い状態で出走できると思っていますし、そういう状態で出走させるのが僕たちの仕事だと思っています。

-:舞台としても、京都の外回り2200mならば申し分ないんじゃないですか?

酒:そうですね。大きいコースですし、直線も長いです。それでもチャレンジャーの気持ちは変わらず、府中牝馬Sの前と同じ気持ちで、この馬の力を出し切るだけです。


「2200mは去年のエリザベス女王杯しか走ったことがないです。ただ、去年の状態と比べ、今は馬も色々な経験をして、それをクリアしてくれています。成長してくれているので、これで結果が証明してくれるんじゃないかと思います」


-:右回りでも左回りでも結果が出ていますが、右回りでも府中牝馬Sの様な末脚を使えるのですよね?

酒:2200mは去年のエリザベス女王杯しか走ったことがないです。ただ、去年の状態と比べ、今は馬も色々な経験をして、それをクリアしてくれています。成長してくれているので、これで結果が証明してくれるんじゃないかと思います。

-:去年も期待していたファンは多かったと思うのですが、今年はさらに期待しているファンが多いと思います。角居厩舎のファンも、ラキシスとキャトルフィーユも出ますし、悩ましいエリザベス女王杯になったと思います。それにプラスして3歳勢が加わります。競馬としては相当面白いですが、担当者からすればけっこう難しいレースじゃないですか?

酒:角居厩舎の馬でワン・ツー・スリーが獲れれば、それに越したことはないですが、一担当者としては、康太とも話しように、やることは変わらないです。万全の状態で競馬のゲートまで迎えることです。そして、最後まで慢心しないと。チャレンジャーの気持ちで、という思いは変わらないです。

-:昨日の追い切り後に藤岡康騎手と話しましたが、満面の笑みでした。その笑顔だけで、調子がだいたい分かったのですが、相当良さそうですね。

酒:府中牝馬Sの前は、康太が追い切りに乗った後で、叩き2戦目だったマーメイドSの状態まではきていない、と言っていました。本番はエリザベス女王杯だし、ここを使って絶対に良くなるとも話していましたね。もし、府中牝馬Sが内で競馬ができなければ、本番は腹をくくって大外一気しかないだろうし、エリザベス女王杯を獲るために府中牝馬Sと、僕と康太はとらえていました。

ディアデラマドレ

自分で体をつくる馬。勝って更に上昇

-:去年よりも幅の広がったディアデラマドレが楽しみですね。今の馬体重は、府中牝馬Sと比べてどれくらいの変動がありますか?

酒:放牧明けから過去最高体重できています。追い込んでいって、追い切りを進めていって、東京への輸送も含めて計算していました。府中牝馬Sの当日、馬も分かるので、最後は自分で素晴らしい体になっていきました。そういうことを考えれば、レース後もまだ余裕のある体だったので、本当に成長していて、充実しているのだと思います。

-:それがパワーアップ分なのですね。是非、去年の雪辱を果たしてください。

酒:G1は何回もチャンスがあるわけではないので、最後の10日間、気を抜かず、マドレと全力投球でいつも通り頑張ります。応援よろしくお願いします。

-:もしディアデラマドレが来たら、僕たちカメラマンは非常に撮り難しい、内外離れたゴール前になると思うのですが、それぐらいの接戦が見たいです。

酒:G1を獲るということを、他の馬やお母さんと絡めて考えてはいけないんでしょうが、獲ったことがないので、レースが終わるまでできる限りのことをして、ベストを尽くしたいです。

-:結果は流れや、色々な状況で変わるでしょうが、最後まで懸命に走るディアデラマドレを応援しています。

酒:有り難うございます。

(取材・写真=高橋章夫 写真=武田明彦)

●昨年のエリザベス女王杯前・ディアデラマドレのインタビューはコチラ⇒


ディアデラマドレ