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丸田恭介騎手



プロフィール
【丸田恭介】
1986年北海道生まれ。
2007年に美浦・宗像義忠厩舎からデビュー。
JRA通算成績は29勝(12/3現在)
初騎乗: 2007年3月 3日 1回 中京1日 2R ノースリヴァー(16着/16頭)
初勝利: 2007年5月26日 3回 東京3日 5R グラスレンヌ

デビュー年は3勝にとどまったが、2年目の2008年は20勝を超える勝ち星をあげ、年間30勝のカベも破る勢い。08年4月に2日連続で16番人気馬で勝利をあげるなど数々の高配当に絡み、穴ジョッキーとしても存在感を示す。




記者‐丸田騎手は現在通算で29勝。1年目が3勝で、今年は既に26勝です。急激に勝ち星が増えましたね。

丸田-良い馬に乗せてもらっているからですね。本当にそれだけです。中京開催でも、けっこう声かけてもらって、有難い話です。

記者‐…謙虚ですね。

丸田-いや、簡単に話しが終わっちゃって申し訳ないんですけど(笑)、勝たせてもらっているのは馬のおかげなんですよね。自分では全然上手く行ってると思っていないんです。

記者‐成績が伸びているのに。

丸田-乗せてもらっている馬の質を考えると、もっと勝たないといけないですよ。「こんなにいい馬乗せて貰ってるのに、何で勝てないかな?」って、いつも思うんですよね。僕が乗っている馬をそのまま全部、ほかのジョッキーが乗ったとしたら、多分2ヶ月くらいで僕より10勝くらい多く勝てるんじゃないですかね?多分。

記者‐それだけ取りこぼしている、という気持ちがあるんですか。

丸田-そうですね。良い馬にたくさん乗せていただいてますけど、僕の技術が追いついていないんで焦りがありますね。焦ってもしょうがないのは分かっているんですけど。考えすぎなんですよね、多分。悔しいのが、失敗すべくして失敗しているレースが多いというか…。レース中「その位置にいたら失敗するよ」っていうところが分かっているのに、その位置に行って失敗してしまったり。全部のレースで完ぺきに乗ることは難しいですけど、自分で「こうしたらダメだ」って分かっている乗り方はしないとか、自分の出来る事はキチンとやりたいと思っているんですけど、それが出来ていないんじゃないか?って。

記者‐丸田さん、自分に対して厳しい言葉が続きますね。

丸田-まあ、それが本心ですからね。別に謙遜しているわけじゃなくて、本当にそうだから悔しいんですよ。減量がある時に結構勝つ騎手って今までもいたと思いますけど、減量が取れた先も生き残れる人ってひと握りですからね。



記者‐今は勝てて、ご自身も好循環の波に乗っているかもしれないけれど。

丸田-いつまでも続くわけないですもん。今も全然安心できるところなんてないですし、…厳しいですね。吉田隼人さんに話を聞いたら、隼人さんは1年目3勝、2年目23勝、3年目60くらい勝ってるんですよね。

記者‐年を追うごとに順調に勝ち星を伸ばされて。

丸田-それが凄いんですよね、やっぱり。

記者‐「自分もそうなれる」と想像できます?

丸田-まだできないです。その辺の技術が僕はまだ全然だなあ、と思っていて。自分の足りないところが気になるんですよ。(競馬ブックを見ながら)連対率は1割ちょっとか…。もうちょっとだな。勝率が…。

記者‐自分の成績でどこかこだわっている数字ってあります?

丸田-ありますよ!いま僕が一番イヤなのが、1着より2着3着の数が多いことなんです。それが凄くイヤです。いい馬に乗せてもらってるのに勝ちこぼして。去年(2007年)だって、3勝したけど2着は9回もありましたからね。

記者‐もちろん、その中には人気薄を2着、3着に持ってきているのもあるんでしょうけど、丸田さんにしてみれば、そういう問題じゃない、と?

丸田-やっぱりちょっと情けないなあって思いますね。リーディングの上にいる人たちはほとんど1着の方が多いですからね。

記者‐丸田さん、向上心強いですね。

丸田-どうでしょうねえ?普通にやっているだけですけど。

記者‐ご自身にしてみれば、そう思われるでしょうけど、競馬学校の卒業プロフィールか何かで「お金を稼いだらトレーニング用の木馬を買いたい」というような事が書いてあったのを事前に読んで、ああ向上心が強いんだなって思っていたところだったんで。

丸田-ああ、木馬ですね。あれ、買いたいと思っていたんですけど、寮に置いてあって、いつでも乗れるから買わなくても済んで(笑)。最初の頃は「木馬を買って厩舎に置こう」と壮大な計画を立てたけど(笑)、助手さんたちの反撃を食らって。

記者‐(笑)木馬を置くスペースなんて無い、と?

丸田-そうです。いつもみんなが使ってるスペースを丸々潰す事になるから(笑)。寮だけじゃなくていろんな厩舎にも木馬があるし。

記者‐それなら買わなくてもいいですよね(笑)。プロフィールの木馬の話も気になったんですけど、ジョッキーになる前に、乗馬クラブへ通うお金をバイトして稼いだっていう話も読んでいたんで、苦労されているな、と。

丸田-苦労…、まあ、いい感じに育ててもらったんですけどね。ウチも裕福ではなかったですけど、乗馬クラブ代くらいは出してもらえたと思うんで、甘えても良かったんでしょうけど…。でもバイトして損は無いですし。お金を稼ぐって大変だなって事を知ったし、いい勉強になりました。バイトする動機も「遊ぶ金が欲しい」とかそういう事じゃなくて、自分の夢、目標に必要なお金を稼ぐって事ですからね。

記者‐なかなかそういうのを実行出来る中学生っていないですよ。丸田さんはスペシャルウィークが勝った天皇賞秋を観て、ジョッキーになりたいと思ったそうですね?

丸田-はい。スペシャルウィークが好きだったんですよ。あとあのレースで2着だったステイゴールドも好きで。僕が競馬を見はじめたのがその頃なんですよ。もうちょっと前の、オペラオーの皐月賞くらいからかな。中学生くらいの時です。

記者‐中学生頃から競馬を見始めたんですか。北海道出身という事でもっと早い段階で興味を持たれるきっかけもあるかな、と思いましたけど。

丸田-僕がいた旭川ってウインズも無いし、あんまり中央競馬っていうイメージが僕の中では無いんですよ。競馬に詳しい友達も2~3人しかいませんでしたし。

記者‐そうなんですか。それで競馬に興味を持って、バイトをしながら競馬学校を受験して1年の浪人されたのち入学されて。あと、これも資料によると、在学中に技術が未熟で留年された、と。

丸田-しました。馬乗りがヘタクソなんです、僕は。

記者‐当時はそれは悔しかったと思いますが。ちなみに、何年から何年に上がる時に?

丸田-1年から2年にあがる時ですね。悔しいけど、それはしょうがないですよね。だってヘタなんですもん(笑)。



記者‐しかし、いざジョッキーとしてデビューすると頭角を現して。

丸田-いや全然ですけど、馬乗りの技術だけじゃない何か別の要素があるのかもしれませんね。

記者‐丸田さんに何かいい魅力が。

丸田-それは分からないですけど(笑)、僕は下手だから、いろんな所に顔を出したりして自分がアピールできるだけの土台を作って初めて仕事になるかな、とデビューの頃から思っていたんです。だから目の前の勝ち星を追いながらも、来年以降に乗り鞍を増やして勝っていくにはどうしたらいいかなって考えながら動いて。1年間で2勝、3勝っていうのが続いたらもう先が厳しいんで。なんたってやっぱり、それなりのレベルで良い生活をしたいし。そうやって、気持ちに余裕がある状態で競馬に乗るとまた感覚も違うだろうし。

記者‐追い詰められていると大概は良くない結果に終わりますよね。

丸田-ただでさえ切羽詰って余裕の無い僕なんで、そこで余裕を作っておかないと(笑)。生活が心配で、焦って狭いところ突っ込んでひっくり返る、みたいな(笑)。そこまでの状態になるか分からないですけど、そうならないように純粋に競馬で頑張ることだけが出来る環境を作らないといけないですね。仕事ですから稼がないといけないし。

記者‐リッチな生活を送れるようになったら、何か買いたいものは決まっていますか?

丸田-いや、特にないです(笑)。美味しいものを食べたり、あとは「こういう部屋に住みたい」っていう野望はありますけど(笑)。

記者‐(笑)野望実現のため、騎乗技術を上げるためにどのような事をされていますか?

丸田-自分が乗った競馬を観てますね。あと、自分が乗っている開催場のレースを多く観て、その中で成績が出ているジョッキーの乗り方を観ながら「こうやって勝ってるのか」とか勉強して、自分も変えていきたいなって思っているんですよ。

記者‐どういう点を注意して観ているんですか?

丸田-うーん、レースの流れの中での位置取りですかね。例えば、上手いジョッキーが前の馬を捌く時、周りの馬の動きを予測出来ているというか、要所要所で不利になりそうな位置にはいない感じで。

記者‐なるほど。

丸田-そういうところが僕はまだ全然、周りが見えていないのかなあ。もし仮に、僕の前にいる馬が下がってくると予測できるなら、その位置にいない方がいいじゃないですか。そういう事も考えながら乗っているんですけど上手くいかなかったり。あと、他のジョッキーがどれ位の事まで考えているか全部は分からないから。レース中に動きを見て「この人は外に行きたいんだな」とか、それくらいは何となく分かりますけど。他の人がどういう狙いがあってそのポジションを取りに行ってるのかとか、そういうのは分からなくて。

記者‐そういう流れが予測できるに越した事はないですよね。

丸田-そうなんですけど、それを考え過ぎて、いつも変な結果、変な結果になったり。余計なんでしょうけどね、そんな事を考えてるのは。出来る人は、周りの馬がどんな動きをして、自分はどうしたら良いか、ピンと来るはずなんですよ、きっと。

記者‐自然に察知できる感じで。

丸田-そうです、だから僕は感覚が鈍いんですよ、多分。鈍いのか、余裕が無くて周りが見えていないか、まだ経験不足で正しい見極めが出来ていないだけか。見極めが出来ていないだけだったら、まだいいと思うんですけどね。これから経験積んでいけばわかる話ですから。

記者‐こういう悩みに関して、先輩ジョッキーに助言を求めました?

丸田-あー、なんか今話したような事って、聞こうと思っても何をどう聞いていいか分からないんですよね。何だか、言いにくいというか、表現しにくいと思うんです。先輩達に伝えたい事がストレートに伝えられるかも自信ないですし。というか、これだけレースに乗せてもらって経験させてもらってるんだから、そろそろ気付けよって話なんですけど。僕は僕にそう思いますよ(笑)。

記者‐丸田さんから聞く形でなく、先輩から「こうした方がいいぞ」っていうアドバイスを受ける事はありますか?

丸田-はい。僕、余計なことをよくするんで怒られますよ、一杯。

記者‐あ、お叱りを…。

丸田-余計なことを一杯しますからね。微妙に動いてちょっと誰かを挟んじゃったり。

記者‐それでよく注意を受ける、と。注意を受けたあとはしばらく大人しくします?

丸田-いや、余計な動きはしちゃいけないけど、チャレンジもしなきゃいけないので。ジッとしているだけのレースをして、いざという時に思い切って捌けなくなるのはイヤなので。

記者‐怒られつつも。

丸田-チャレンジはしていかないといけないと思います。

記者‐先ほどのレースの流れを予測する感覚の話ですけど、丸田さんから見て「感覚が鋭いな」と感じるジョッキーは誰ですか?

丸田-もう、上の人はみんな凄いと思うんですけど、やっぱりノリさん(横山典弘騎手)は凄いですよね。

記者‐そういえば丸田さんの目標とするジョッキーも横山典弘騎手と書かれてますね。

丸田-ノリさんのレースって、なんでそうなるのか分からない時があるんです。かなり際どい所を捌いてくるし、凄いなと思って。北海道で一緒に乗った時も勉強になりました。

記者‐貪欲に学ばれて。

丸田-もっと上手くなりたいですから。これから僕がもうちょっと上手くなるには、負けたレースでも勝ったレースでも、内容の濃いレースが出来ていないといけないと思うんですよね。

記者‐内容が濃いレースですか。

丸田-はい。もし負けたとしても「これだけやる事をやって、この結果ならしょうがない」って自分が言えるようなレースですね。もちろん自分だけで納得していてもダメなんで、周りの人が観ても同じように思ってくれるような競馬が出来るようになりたいです。今までも自分の中では手応えを感じることが出来たレースはいくつかあったんで、その数を増やしたいな、と。

記者‐日々努力をされている丸田騎手ですが、ちなみに仕事以外のプライベートはどんな事に時間を使われてるんですか?

丸田-時間があれば、牧場に行って馬に乗ったりします。今はひっくり返ってケガしたんで(笑)、治療で体を治しに整体や病院に行ったり。今できる事をやっておこうかなっていう感じですね。それで時間が余ったら買い物に行ったり。

記者‐運転免許は?

丸田-持っています!

記者‐じゃあ、車を自分で運転して。

丸田-そうですね。車を買った目的は、牧場に自分一人で行きたかったのもあるんです。行動範囲が広がるし、誰かに頼むと申し訳ないっていうのがあって。

記者‐車を持っている相手の予定に合わせて移動しなきゃいけなくなりますもんね。

丸田-僕、ひとりでコソコソやるのが好きですから(笑)。他の人と一緒にやらないで。

記者‐単独行動好きなんですか?

丸田-牧場に行くのも、他の人と行くより一人で行った方がインパクトあるじゃないですか(笑)。もう一番最初だけその場所に連れていってもらって、いろいろ教えてもらったら、そこから先は自分で行けばいいかな、と。やっぱり、ただ乗るだけじゃ周りに追いつかないんで、たくさん数を乗せてもらうためには、そこからアピールする、アピールできる機会を増やさないと。全てが上手く行くわけじゃないかもしれないけど、やらないよりは。

記者‐プライベートにも競馬が深く関わっているんですね。では最後に、仕事をする時に気をつけている事を教えてください。

丸田-馬から降りている時は…笑顔ですかね。とりあえず元気に笑っていますよ(笑)。イメージが良い方がいいんでスマイル系です。

記者‐丸田さん、よくいろんな方に声を掛けられてますもんね。

丸田-「いじられてナンボ」って自分でも勝手に思っています。話しかけやすいと思ってもらえればそれでいいかなって。あと、馬に乗っている時は、馬とのコミュニケーションですね。僕が感情的にならないように気をつけています。馬だって毎日毎日同じことが出来る訳でもないので、少しずつでも良くなっていってくれればいいなって。

記者‐辛抱強く接するわけですね。

丸田-そうですね。馬が好きじゃないと出来ない仕事ですけど、僕は馬が好きなんで。もしもの話ですけど、僕が好きでいるのを馬が感じ取って頑張ってくれたらいいなっていう、メルヘンチックな気持ちも込めて(笑)。

記者‐どういうキャラを打ち出そうとしているんですか?

丸田-いや違うんですよ(笑)、本当にそう思っているって恥ずかしくて言えないですよ、正直。でも、そういう、理論的には説明できない部分もあるんじゃないかな、と信じて。「馬乗りの技術は下手かもしれないけど、君の事は好きなんだよ。だから走りにくいかもしれないけど何とか頑張って」という気持ちが馬に通じてくれればって(笑)。

記者‐馬が好きという気持ちは確かだからとにかく走って欲しい、と(笑)。

丸田-そうです。科学で解明出来ない部分を大事にして(笑)。

記者‐イイ話ですね。ではもう一つ最後の質問になりますけど、今一番欲しいものは何ですか?

丸田-今一番欲しいものですか。今は…、何だろうな…。健康な体があればいいです。

記者‐ケガされてますもんね。

丸田-はい(笑)。万全にバリバリに動く体が欲しいなと思いますね。ただ、それは今現在ケガしたばかりなんで。

記者‐ケガが無かったら。

丸田-そうですね…、G1とか重賞の雰囲気が欲しいですね、まずは。その先で何を感じ取るかは分からなけど、乗りたいんですよ。特に変わりは無いのかもしれないですけど、重賞で乗った事の無い身としては、そこの雰囲気を感じ取って何か糧になればな、と。

記者‐残り一開催のうちに。

丸田-僕が行く中京だと、愛知杯とか中日新聞杯あたりだとハンデ重賞なんで、声がかかればな、というのをひそかに期待しているんですけど。そういう経験を積んで、できれば決まったパートナーと一緒にステップアップしていける日が来ればいいなと思います。

記者‐そうなれば楽しいですよね。

丸田-はい。リーディング上位の騎手はもうそういう楽しみを経験されているじゃないですか。2歳の新馬からクラシックまで一緒に戦っていったり。馬とコンビを組んで戦っていってG1を勝つって、競馬の世界に入りたいと思った時に、最初から一番楽しみにする部分だと思うんですよ。まだ僕はその舞台にも立てていないので、とりあえず重賞に乗りたいです。

記者‐G1の本馬場入場なんか気持ちいいでしょうね。

丸田-いや、ブルッちゃうんじゃないですかね(笑)。田中博康くんも菊花賞の返し馬の時、アブミが長かったですからね。「落ちられない」と思ったんじゃないですか(笑)。レースの時は詰めていましたけど。ビビッたんだなー、と思って。確かにそうだよなー、と。…いやー、重賞乗りたいですね。

記者‐重賞初騎乗初勝利っていう事もあるでしょうからね。どうします、そうなったら。ヒーローインタビューの準備はしてますか?

丸田-してないですよ(笑)。興奮して何しゃべっているか分からなくなるだけだと思いますよ、多分。

記者‐期待しています(笑)。今日はありがとうございました。

丸田-ありがとうございました。

★取材日=08/12/03
★取材場所=美浦・南スタンド