「勝てるとは…」最低人気コパノリッキー 必然が引き寄せた激勝!

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14年2月23日(日)、1回東京8日目11Rで第31回 フェブラリーS(GⅠ)(ダ1600m)が行なわれ、田辺 裕信騎手騎乗の16番人気・コパノリッキーが優勝。勝ちタイムは1:36.0(良)。

2着には半馬身差で2番人気・ホッコータルマエ(牡5、栗東・西浦厩舎)、3着には1番人気・ベルシャザール(牡6、栗東・松田国厩舎)が続いて入線した。

「強い馬が揃った一戦。オーナーとも『この相手にどういう競馬をしてくれるか楽しみですね』という話をしていたんです。まさか勝ちきるまでとは思わなかった。掲示板には載るかなと思ってはいましたが……」という村山明調教師のコメントが陣営の偽らざる本音だろう。誰もが驚く逃走劇。ドバイ遠征を先に見据えるG1馬たちを差し置いて、2014年第一弾の中央G1を制したのはコパノリッキーだった。

陣営の思惑通り、スタートから勢いよく飛び出すと、内からダッシュをきかせたエーシントップにハナは譲り、砂を被らない外目の2番手を追走したコパノリッキー。期せずしてペースも落ち着き、結果的には好ポジションとなったが、直線を向いても手応えは楽。ホッコータルマエらが競りかけてくるも、脚色は乱れず、相手を待つ余裕もあったほど。ゴール前までホッコータルマエもしぶとく食い下がったが、リードを縮めさせることはなく押し切った。

「厩舎からも『前に行ってほしい』という指示はありましたし、僕も行きたいと思っていました。強い馬相手ばかりでしたが、強い馬同士で牽制しあってくれれば、という思いでしたよ。スタートも決まって、折り合いもついた。絡まれることもなかったし、最後の最後まで、どの馬が出てくるのかドキドキしましたね」

レース直後は雲をつかむかのような、興奮冷めやらぬ表情の田辺裕信騎手だったが、表彰式を終えて、ひと息ついた様子でレースを振り返った。


ちょうど昨年の1回東京開催。条件戦で5馬身差の圧勝劇をみせ、春の兵庫チャンピオンシップでは、この日、3番人気の上位人気に支持されていたベストウォーリアに6馬身差をつける圧倒的なパフォーマンスを披露。しかし、陣営がジャパンダートダービーを目指そうかという矢先に、5月に右前トウ骨の骨折を発症。休養を余儀なくされ、11月に復帰も、その後の2戦はいずれも着外。誰もが復調に手間取っていると思われる結果が続いた。

「骨折で1ヶ月ほど安静にしていて、見た目以上に立ち直るまでに苦労したんです。ただ、この2ヶ月間はあえて間隔をとって、しっかりと調教量を増やしました。壊したくない思いもありましたが、オープン馬だったら、もっと負荷を掛けた調教量じゃないと、と思い、これまでは坂路が主体の調教を、追い切りや追い日以外でもコースで乗るようにしたんです」

復活の要因を村山師は語ったが、奇しくも、フェブラリーSを予定していたテスタマッタが根岸S後に故障。そのまま引退の運びになるも、その厩舎の大先輩がいれば、抽選対象ともならなかったコパノリッキー。テスタマッタの調教を担当していたスタッフが、コパノリッキーを調教をつけていた経緯もあり、少なからずとも、陣営の努力によって流れが向いていたことを感じさせる結果であったと言える。
また、テスタマッタに騎乗するはずの田辺騎手の騎乗予定が空いたことで、騎乗馬をスライドさせるように初コンビ結成。伏兵馬でも臆することなく、強気の競馬をみせた鞍上のファインプレーも見逃せない。

「休み明けだけど、それは頭に入れず、小細工なしに正攻法の競馬で行こうと思いましたね。僕自身、G1は幾つでも勝ちたいと思っていましたし、最近は順調に見えるかもしれませんが、G1は未勝利でしたし、G1はそうそうチャンスがないもの。運も必要ですから」


晴れてG1ジョッキーの仲間入りを果たした鞍上は清々しく振り返った。さらに、G1で史上2番目という単勝272.1倍の高額単勝配当を演出したように、戦前は脚光を浴びることのなかったコパノリッキー。それでも、独特な言い回しでパートナーを高く評した。

「レース前から良い馬だと聞いていましたし、パドックで跨っても、確かに馬格もあるし、物怖じしないな、と感じましたよ。それに返し馬でも、ゴールしてからもなかなか止まらない(笑)。本当はもっと圧勝できるくらいの馬かもしれませんよ」

紆余曲折を経て、遂にみせた大器の走り。今後は追う立場から追われる立場ともなるが、「方位が重要だったりするので……」と、風水でお馴染みの「Dr.コパ」こと小林祥晃オーナーになぞらえて、村山師は冗談混じりに具体的な次走を明言せず。それでも「距離は2000mまでは持つと思います。海外のレースもありますが(ドバイWCには登録済み)、交流競走もこれからありますから、今後はどこでも使えますからね。まずはダートの大きいレースを目指していきたいですね」と将来のプランを描いた。

また、村山師は「装鞍所に行く時も入れ込んだり、パドックでも後ろの馬に気をとられたり、もうちょっと古馬のオープン馬らしい、どっしりした様子をみせてほしいですね(笑)」と、愛馬に対する注文を忘れなかったが、裏を返せば、まだまだ伸びしろがあるという証明。勝てるべくしての素質を持ち合わせていた馬が、しっかりと能力を引き出すための調教を施され、積極的な騎乗に導かれ掴んだタイトル。世代交代を完全に象徴づけるには、まだまだタイトルは足りない。今後はライバル達の逆襲も待っている。いずれにせよ、これからの存在ではある馬だが、ダート界のニュースターの誕生で、一層、ダート界の層が厚みを増すことは違いない。

コパノリッキー
(牡4、栗東・村山厩舎)
父:ゴールドアリュール
母:コパノニキータ
母父:ティンバーカントリー
通算成績:9戦5勝
重賞勝利:
14年フェブラリーS(G1)
13年兵庫チャンピオンS(Jpn2)


写真:武田明彦