2019年の落馬負傷、2020年の復帰から歳月を重ねて臨んだこの一年。昨年は勝ち星もひと息に留まったことを踏まえて年間100勝を目標に掲げていたが、結果的には楽々とクリア。130勝を超える勝ち星を残した。ただ、予ねてからお伝えしている通り、当人は目先の結果よりも感覚的な面を重視していた様子。この一年、または周囲の環境などについて振り返ってもらった。

騎手人生の中でも最も充実した一年

——(年内開催が終わっていない時点)まだ終わってはいませんが、この一年を振り返っていただくと、どんな一年だったでしょうか。

騎手人生の中で一番楽しかった一年だったなと思います。

——「楽しい」と。

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乗っていて楽しかったですね。デビューした頃は必死でガムシャラにやっていたし、ある程度、結果を出せるようになってからは勝たないといけないというプレッシャーがありました。そういうところから解き放たれて、一頭、一頭、集中できているといいますか、馬を感じるように乗れているのが凄く楽しいですね。

——その感覚は今年に入ってからですか。

今まではどうしても怪我の影響だったのか、どうも違うなという思いがあって。今年に入ってからはその点もなくなってきて、それからですね。

——浦和のJBCで落馬してから3年は経ったわけですね。

怪我は治っているのでしょうが、感覚の領域はなかなか戻ってこなかったのかなというのが正直な部分ですね。

——その中でやりくりはしてこないといけない訳で、レースに乗る以上、過去の怪我云々は関係なく乗らないといけなかった訳です。

難しさはありましたね。思い切って乗れないといいますか、どこか不安がありながら乗っているところはありましたからね。馬に遊ばれたり、御せていないところもありましたから。依頼してくれている関係者や、応援してくれているファンには迷惑をかけたなと思います。

——その点、もちろん技術は重要でしょうけど、心持ちの部分で違って臨めているのは大きいですね。

大きいと思いますね。リーディングを獲らせてもらっている時よりも上手く乗れているんじゃないかと思います。

——細かい当時を覚えているわけではありませんが、馬の質でいえばリーディングを獲っていた頃の方が若干良かったのではと思います。

それは自分でも感じるといいますか、依頼が少なくなってきていることは正直感じますよ。今の若い世代も盛り上がっていますし、それは切に感じますが、その中でやっていかないといけません。感覚が戻るか戻らないかの中でやっていましたけど、戻ってきて、これだけ勝つこともできたことは感謝しかありません。幸せだなと思いますね。G1、重賞は勝てていませんし、「中身はどうなの?」と思われるかもしれませんが……。でも、今は良いですね。

——確かに重賞以上のクラスは勝っていませんし、最近では「遠征していない」とはよく仰っていますが。

そうね。でも、遠征すると、重賞以外の馬がなかなか乗れないですからね。今はそうなってしまっているので、極力頭数も乗りたいです。乗って充実しているので、近場で乗りたいという考えになりますね。

——その中でも年明けはちょくちょく遠征の予定も入っています。

行く時は行きたいですね。かといって、ちょっと行き始めたところで、関西圏でそんなに乗り鞍も増えないでしょうけどね。

——その中でも後半戦の追い上げは顕著だったのではと思います。

夏は良くて、その流れで東京もいい結果でこられたと思いますね。ここへ来て中山で勝ち切れていないところはありますが、やれることはやれている意識はあります。課題もしっかり見えてきているので、それを来年、いや残りの日程からでも補えていければと思います。そんな点からも自分の中での成長はありますね。

——来年へ向けて期待している馬はいますか。

ダートではドライスタウトレモンポップ。芝ではミッキーカプチーノですかね。

久々に多数参戦、外国人騎手についてどう感じた

——今秋は渡航制限も緩和されたことで短期免許を取得する騎手が増えましたね。数年ぶりのことだったと思います。

ジャパンカップでもそうでしたけど、ちょっとした隙間でもグーンと縫ってきますよね。

——ヴェラアズールは乗ったことがある分、余計に感じたということですか。

でも、あの馬の場合は手応えがあって走る気持ちもあるので、しっかり持っていれば狭くなっても伸びてこられるタイプだと思いましたね。

——完歩が大きいので器用さに欠ける競馬になりそうな懸念も感じました。

走る気持ちが強いので狭いところでも平気ですね。その前の京都大賞典で(松山)弘平ちゃんが勝ちましたけど、あの時もコーナーで全然動けていないんですよね。あの馬にはそれが良かったのかなと思いました。馬格があってトビも大きいからダラっと脚を使わせると良くないと思いますね。瞬発力勝負の方がいいと思いますね。

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——短期免許で来ている人でも、(ライアン・)ムーアさんのような競馬ができる人は限られませんか?

でも、(デヴィッド・)イーガンは狭いところを捌いてきますね。彼に限らず、感覚が違うのでしょうね。主にリーディング上位が来るから上手いのは当たり前でしょうけど。単に狭いところを来るだけでもなく、馬の気を抜かせないところが大きいですね。

——やはり真似しようとして簡単にできることではないのですね。

(でき)ないと思いますね。横の馬、前の馬、間隔の差は大きいといいますか、日本人の場合、どうしても開けちゃいますから。外国人はギシギシでも危ないと思わないはず。日本人なら危ないというところでも平気で来ますからね。

——日本に来て怪我したり、落馬したりということはないですよね。

ないですよね。外国人ならアタマが入るなら狙う、といいますか。その点、制裁点は多少ありますけど。

——よく言われる「外国人の方が追える」という感覚はどうですか。

あると思います。動かしている印象もあります。それは厩舎スタッフに聞けば一番わかるでしょうね。疲れていれば良いわけではないのですが、レース後の疲労度にも差が出るでしょうから。外国人ジョッキーが乗ってスイッチが入るということはありますからね。そういう点から言えば若い子たちは近づいているんじゃないですか。

——乗り方もヨーロッパ的な日本人騎手が増えてきましたね。

本当に増えてきた。でも、自分は自分のクセがあるから無理だなあ。やったとしても、そこを意識しながら乗らないといけないから、レースにならなくなりそうで(笑)。

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——その中でもジョッキーも色々なトレーニングをした成果も今は出ているようですね。

自分はもともとデビュー直後に落馬して左腕の上腕もやっちゃって、それをきちんとしたリハビリをせずに来てしまったので。ただ、それはそれで元がそうだから、自分としては当たり前でした。でも、そこに右も怪我をして、そういった面も踏まえトレーニングをさせてもらってきたことで全体的に体の使い方が良くなりましたね。股関節や背中も段々と使えるようになってきた魔はがあります。自分は股関節の使い方も良くなかったのでね。そういった面からも楽しさを感じますね。

——単に楽しいだけではなく、地道にやってきたことが実になっているから、ということですね。

ただ、お陰様で今になってもどこかが痛くて乗れないということはないのですが。

——いまだに疲れが出やすい箇所はないですか。それは凄いですね。そういう人いますかね?

ユーイチさん(福永祐一)もそんなこと言っていたかな。ユーイチさんもケガもされてきたのでしょうが、きっちり治されているのかなと思いますね。

——外国人騎手の体格はどう感じられますか。

日本人とは違うかな~。腕は太いかなと。それにケツがデカい。ただ、日本人は基本的に「前」を使う。外国人は「後ろ」を使えますよね。後ろを使った方が爆発力は秘めていると思います。パワーを発揮できるんですね。

——野球と似ていますね。

でも、全部の競技でそうらしいです。

——大谷翔平さんもノーステップのスイングですけど、ノーステップは皆できても、後ろの力があるからあれだけ飛ばせると聞きますね。

そうなんですね。後ろを重点的に鍛えるのもアリかもしれませんけど、使い方ができないと意味がないんですよね。

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——来年の抱負、目標はありますか?

いや……ないねえ。充実しているから。毎週、毎週、一頭、一頭が楽しいから。

——単純な質問になりますけど、今はテン乗りの方が楽しいということですか。

でも、その時々で状態があるじゃないですか。そこを含め、どんな感触なのか、感じるのが楽しいですね。

——今年の年末年始はどうなりそうですか。古い話ですが、リーディング争いをしていた頃は1月が鬼門でしたが。

いや、勝ち星的には大きく変わってないけど、一時よりマシになったじゃないですか。飲む量は変わってないけど(笑)、1月2日からトレーニングを入れるようにしたのが良かったのか、気の持ち方もあるのかな。それが良くなっているように感じました。

——年代的にはベテランという領域にはなっていますよね。ベテランの定義もよくわかりませんが。

冷静に考えるとそうなんですけど、精神的にそんなドッシリしていないですからね。だから、あまり変わらないのかなと。

——そろそろ後進を育てようといった意識はないですか?

ほんとねえ、やらないといけないのですが、聞いてくれれば答えるけど、なかなか進んで自らはやっていないですね。若手も関西ばかりですから。関東で位置的には上にいるだけに自分の責任もありそうですけど。

——夏場はそういった面への意欲も感じられた気もしますが。

なかなか何を教えたらいいのか、となってしまいますからね。(永野)猛蔵は自分と似ているように感じるので、伸びてもらいたい一人ではありますけど。

——ジョッキー自身はヘアースタイルも成長しましたかね。

成長じゃないでしょ(笑)。

——染めた部分が若干増えたまでは見えましたけど、より増えました。

ちょっと前は何も言われなかったけど、今の髪は「どうした?」って言われますから。この歳になって初めてブリーチしましたから。

——そんな心境の変化も色々あった年ということですね。長くなりましたが、今年一年もありがとうございました!

ありがとうございました!

※次回は1月4日(水)に更新予定です!当コーナーは電話で取材を行っております。