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荻野仁調教助手

当初はマイラーズCの勝ち負けなくしては、安田記念出走は難しい様相だったフィエロだが、数頭の回避馬が出たことにより参戦できる運びに。5歳春にして初のG1挑戦となるものの、前走は数いる重賞ウイナーに先着しており、名門厩舎2頭出しのダークホースとして目が離せない。藤原英昭厩舎と言えばこの人、荻野仁調教助手に強敵相手の見通しを伺った。

ノンタイトルでのG1挑戦

-:安田記念でフィエロ(牡5、栗東・藤原英厩舎)が初めてG1に出走します。マイラーズCは1番人気に支持されるも、2着という結果でした。

荻野仁調教助手:ワールドエースが強かったですね。さすがダービー1番人気馬です。最後の直線で同じ脚色で、差が縮まりませんでした。

-:上がりの時計を見ると、2頭とも33.2秒ですし、あの時の京都も極限まで硬い馬場でした。使った後の反動が心配ですが、マイラーズCを使った後は大丈夫ですか?

荻:その前のレースでオープン特別を勝って、次がマイラーズCということで、武豊騎手(今回は岩田騎手)に乗ってもらいました。イメージでは勝って安田記念に行ければいいな、という気持ちでしたが、負けてしまいました。ワールドエースの凄さを認めつつ、賞金を調べてもらったら、出られるかもしれないということだったので、一度放牧に出してケアして逆算して今は調整中です。出られるからには、胸を借りて挑戦してみようと思います。


「負けたマイラーズCも勝つつもりで出しましたし、恥ずかしい競馬ではありませんでした。力はありますし、一線級でもそんなに恥ずかしい競馬はしません。だから、あっと思わせるところがあれば楽しめるなと思います」


-:この馬はディープインパクトのように切れて、軽さがあります。ただ、トーセンラーとはちょっと違う特徴がある馬ですよね。

荻:この馬は3歳の時に馬が弱く、トモが甘くて時間が掛かりました。ただ、その時から古馬になれば走ると分かっていたので、時間を掛けました。中京で最初のレース(3歳未勝利)から勝ってくれましたが、使った後にトウ骨が痛くなったり色々ありました。

-:浜中ジョッキーが乗った3歳の500万の時ですか?

荻:ええ。出るレースは全部勝ってやろうというぐらい良い馬でしたが、骨が弱かったです。そこからケアして、その後はずっと1、2着です。それから間を空けて東京に連れてきた時に後藤騎手に乗ってもらって3着でした。あのレースは出れず、出れずでした。その後は順調に勝ちましたね。

-:3連勝でマイラーズCに挑みました。

荻:だいぶ馬がしっかりしてきましたが、まだ弱いところがあるので、使った後に疲れが中に残るんです。だからしっかりケアして、今日の動きを見ても馬は大丈夫。このメンバーで重賞勝ちしていないのはフィエロだけだと思いますけどね。

-:ノンタイトルですね。

荻:タイトルを獲っている馬はそれなりに走る馬ばかりです。恐れ多いことは言えませんが、僕は負けたマイラーズCも勝つつもりで出しましたし、恥ずかしい競馬ではありませんでした。力はありますし、一線級でもそんなに恥ずかしい競馬はしません。だから、あっと思わせるところがあれば楽しめるなと思います。



走らなければおかしい素質馬

-:デビュー時から、500キロ近い498キロありましたが、骨格的な成長が追いついていなかったのですね。母父デインヒルなので、骨量的にもかなりある馬ですよね。

荻:そうですね。体型的には不恰好ですが、良い背中を持っています。

-:乗られていて、総合的にはどうですか?立ち写真だけを見ていると、33秒台の脚を使えるのかなという重さを感じます。

荻:抜群に馬が柔らかいです。背中も口、脚、関節の使い方など柔らかいです。根本的には素晴らしい血統で、走るんです。気性も良いですし、体の弱ささえ解消されれば、走らないとおかしい馬なんです。

-:心配事として、デビューからマイル重視できていますが、府中のマイルはそれ以上のスタミナがいるイメージがあります。フィエロに関しては、そこが未知かなと思います。

荻:そうですね。未知ではありますが、これも挑戦です。不安視はしてないです。府中のマイルどうこうは先生(藤原英昭師)が考えることです。そこで思いっきり走れる体にしておくことが仕事です。

-:東京を1回走って3着ですが、輸送に関しては未知な部分がありますか?

荻:全然平気です。どこへ行ってもそんなに変わりません。

-:前回がびっちり仕上げて506キロの馬体重ですが、あれが基準でいいですか?

荻:はい。多少減っても良いぐらいです。



-:位置取りに関しては、器用なスタートをして、ある程度のポジションを取って、その後、組み立てるのが、この馬の良さですよね。

荻:展開や競馬の仕方は、枠順もありますし、ジョッキーと先生で考えると思います。

-:格負けと言うと失礼ですが、ノンタイトルの馬がG1級のビッグネームの中に入った時に、馬自信がビビったり、格負けすることはないのでしょうか?

荻:馬は基本的に集団動物で、集団でいたら相手を威嚇したりするのは、群れで暮らす動物のしきたりですから、生意気な奴がいたら蹴りに行く馬もいます。

-:フィエロにボス的なオーラはありますか?

荻:いやいや、馬に対して怖がりです。オープン馬になるような馬は、集団の中で前に行ったり、後ろに行ったりする馬だと思います。

-:この馬はどうですか?

荻:真ん中に紛れていると思います(笑)。後ろの方にいて様子を窺うかもしれません。今回は相手がむちゃくちゃ強いです(笑)。前走乗った豊ジョッキーが言うには、「坂下で馬が行きたがったので、あそこでもうひと呼吸我慢していたら、もっと切れていたかもしれない」とのことです。あそこで少し(ハミを)噛んだ、とも言っていましたね。



目標のレースで見せ場級の走りを

-:今回は強敵を相手に120点の競馬をしないといけませんが、それはいかに抜けるかということですか?

荻:競馬は生き物ですし、何が起こるか分からないので、馬を調子良くゲートインできれば、あとは馬も競馬を知っていますし、ジョッキーも一流ですし、先生がどう判断するかです。なかなか、思い描いたようにならないものですよ。

-:岩田騎手は今回が初騎乗になります。

荻:追い切りにも乗ってもらって、馬を知ってもらっています。今週の火曜日にも乗ってもらいました。「乗りやすい馬で、走る良い馬だ」と。そのままです。

-:岩田騎手にも攻めの騎乗をしてもらいたいですね。ストレイトガールの時は1テンポ躊躇しましたよね。

荻:ハープスターのあれも競馬ですし、何のせいでもなくて、勝負のアヤで着順がきまるんです。勝つ馬は前が開いたりしてヴィクトリーロードを行くんです。そのヴィクトリーロードが自分の馬の道にあればいいですね。

-:では、この馬も楽しみにしています。堂々とパドックを回って下さい。

荻:見ていて面白い競馬になるんじゃないですか。


「目標はまず、早くG1に出ることでした。だから成長させて、早くこの馬が走れる姿を見せたかったんです」


-:近年にない、注目の安田記念ですね。現地で楽しみにしています。

荻:両方(もう1頭はトーセンラー)とも良い状態で出走させることが、僕らの仕事なので、それに徹してやります。

-:もともと骨格の弱かったフィエロが大きな故障もなく、ここまでこられましたね。

荻:目標はまず、早くG1に出ることでした。だから成長させて、早くこの馬が走れる姿を見せたかったんです。ただ、ここまでくるためには、いくつも勝たなければいけません。普通はそんなにポンポンと勝てませんが、勝ってきました。普通の馬はどこかで壁がありますが、ちゃんときて、出られるチャンスも巡ってきました。何とか良いところを見せたいです。

-:応援しています。頑張って下さい。


【荻野 仁】 Hitoshi Ogino

卓越した調教技術は、専修大学時代の馬術チャンピオン(障害)という裏付け。藤原英昭厩舎の開業当初から調教助手として屋台骨を支えており、フードマンとして各担当からの意見を取り入れ全頭の飼い葉を調合している。2つ上の先輩である藤原英昭調教師とは小学生時代から面識があり、両人の絆と信頼関係は絶大。名門厩舎の躍進を語る上でこの人の名前は欠かせない。


【高橋 章夫】 Akio Takahashi

1968年、兵庫県西宮市生まれ。独学でモノクロ写真を撮りはじめ、写真事務所勤務を経て、97年にフリーカメラマンに。
栗東トレセンに通い始めて17年。『競馬ラボ』『競馬最強の法則』ほか、競馬以外にも雑誌、単行本で人物や料理撮影などを行なう。これまでに取材した騎手・調教師などのトレセン関係者は数百人に及び、栗東トレセンではその名を知らぬ者がいないほどの存在。取材者としては、異色の競馬観と知識を持ち、懇意にしている秋山真一郎騎手、川島信二騎手らとは、毎週のように競馬談義に花を咲かせている。
毎週、ファインダー越しに競走馬と騎手の機微を鋭く観察。馬の感情や個性を大事に競馬に向き合うことがポリシー。競走馬の顔を撮るのも趣味の一つ。

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