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西口修治郎厩務員

ダービー卿CTで長い長いスランプを脱したカレンブラックヒル。かつては無敗でNHKマイルCを制し、毎日王冠では古馬を封じ込めた実力馬で、復調なればこの豪華メンバーでも侮れない1頭だ。残念ながら久々の勝利にケガで立ち会えなかった西口修治郎厩務員だけに、安田記念に懸ける意気込みは人一倍。連勝での戴冠なるか、漆黒の馬体から目が離せない。

復活後も闘争モードを持続

-:カレンブラックヒル(牡5、栗東・平田厩舎)のお話を聞かせてください。ダービー卿チャレンジTは久々の勝利となりましたが、西口さんはケガで休んでいらっしゃったとか。

西口修治郎厩務員:そうなんです。だから何と答えたらいいか……(苦笑)。

-:ただし、馬のコンディションとしてはダービー卿の後に、もう一戦くらい使って本番なのかな、と思っていました。

西:その前に阪急杯を使っているでしょう。そこから続けてだったから、良いタイミングで放牧に出してもらったとは思いますよ。全体の力が抜けて、いい感じでした。

-:放牧と言っても、期間は3週間くらいだったんですよね。

西:そうです。放牧先でも元気が良かったらしいです。一度、力が抜けて、ユッタリした感じで帰ってきましたね。

-:そこから調教をしていく流れですね。

西:まずは14-14ぐらいの、若干速めのギャロップをやって、先週、今週はジョッキーを乗せて追い切りました。先週よりも今週の方が、ずっと動きも良いし、スタートから“行くぞ”という感じの姿勢で走っていましたからね。



-:調教の変化といえば、しばらく入れてなかったプールを使っているそうですね。3歳時は時々行っていたようですが。

西:もうだいぶ前ですね。一昨年の夏以来かな。体を引き締める感じで、色々と取り入れていますよ。

-:調教にも変化をつけて、ブラックヒルをより良い状況に持って行こうとしているわけですね。追い切りに跨った秋山ジョッキーのコメントはいかがでしたか?

西:馬がどうのというより、「自分が乗ると、どうしても思っているよりも速すぎる時計が出る」と言っていました。僕は良い傾向だと思いますけどね。思っているより速くなるというのは、馬の状態は良くなっているということ。ジョッキーが乗った時の反応は、闘争モードに入った感じです。やる気が十分にみなぎっているという感じですね。

-:今日(5/29)、馬の整体師の方が来ていらっしゃって、各馬の関節をチェックされていましたね。

西:特に問題はないということでした。以前は少し痛い部分があったけど、今回はないということで、良い状態ですよね。

気持ちと体が一致したダービー卿CT

-:ダービー卿で復活したのか、あの時は馬場が悪化したことで他馬が走れなくて、押し出されて勝った形なのか。判断が難しいところです。

西:僕はテレビで見ていましたけど、スタートも良かったですね。阪急杯の時が抜群のスタートで、二の足も非常に良かったんですよ。ダービー卿でも凄くいいスタートを切って、サッと前につけられる状態で気分良く行けました。ブラックヒルの一番良いパターンです。NHKマイルでもそうでした。もし速い馬が行けば、慌てず引っかからず後ろにつけることもできますし、1000mを58秒くらいの平均ペースで行ければ、直線でブラックヒルが生きてきます。気分良く最後まで走ろうとしますし、1600mなら十分に息が持ちます。ダービー卿はフロックでも何でも無く、押し出されたわけではなくて、あの子のペースで走って勝ち取ったという感じがしましたよ。

-:57.5キロのハンデを背負って、それよりも軽い馬たちに勝ったことを評価してあげたいですね。安田記念は昨年も出走して14着と思わぬ大敗をしたレースですが、あの頃を振り返ると、直線でやめてしまうところが見られました。阪急杯でも同じような場面がありましたが、その理由はどう感じていますか?

西:結局、自分のリズムで展開が向かない時は、「これ以上無理だ」って馬が思ってしまうんでしょうね。息が切れたわけではないんですよ。上がってきてもすぐに息が入っていたので、走り切れていなかったというのが本音です。体が動かなかったんだろうね。

-:気持ちと体が一致しなかったんですね。

西:やっぱり、一致しないと重賞級では爆発しないからね。


「気分良く行かせてあげることが大事ですね。今までの勝つ姿を見ていると、スムーズに行けたレースでは、直線で長く息を使っています。前後左右に馬がいると、がむしゃらになってしまって自分のペースが乱れる。ちょっとしたことで変わってしまうんです」


-:タメて緩急をつけるよりは、ある程度流して行くほうがいいんでしょうね。

西:気分良く行かせてあげることが大事ですね。今までの勝つ姿を見ていると、スムーズに行けたレースでは、直線で長く息を使っています。前後左右に馬がいると、がむしゃらになってしまって自分のペースが乱れる。ちょっとしたことで変わってしまうんです。負けた時はいつもそんな感じです。

-:ブラックヒルは馬場が悪くなった時に強いイメージがあるので、NHKマイルや、ダービー卿など、時計がかかった時に勝っている印象がありますよね。

西:そうですね。どちらも1分34秒台でした。

-:しかし毎日王冠で勝った時は1分45秒0で、最後の1Fが12秒2でした。これに勝とうと思えば、グランデッツァのレコードあたりを引き合いに出さないと、なかなか勝てないですよ。硬い馬場が苦手というわけではないですか?

西:そうではないですね。



-:ただ単に、気性の問題だったと?

西:気分良く走らないとダメなんです。先行で、ハナを切ってもいいですけど、自分のペースで行けた時には、本当に長い脚を使えるんです。グッと追い込んでくるわけでもなく、ビュッと思い切り逃げるわけでもないのですが、NHKマイルのように平均ペースから崩れないんです。それどころか、さらに上げていけるのが、あの子の強みですね。逃げた馬に34秒台で上がられると、いくら追い込んでも難しいでしょう。如何に速い平均ペースで、スムーズに走れるかがカギです。秋山ジョッキーもそれは理解していると思います。

カレンブラックヒルの西口修治郎厩務員インタビュー(後半)
「描いているドラマは“完全復活”」はコチラ⇒

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【西口 修治郎】Shujirou Nishiguchi

大阪府堺市出身。叔父が小川佐助厩舎に所属しており、自然とこの世界に入る。キャリアのスタートは清水久雄厩舎。一筋で28年勤務し、厩舎解散後に平田修厩舎へと異動。
ベッラレイアなども担当していた腕利きだが、思い入れの馬はミスベロニカ。「レイアと同時期に入って2頭とも担当。負けじと凄いバネの持ち主だったけど、亡くなってしまった。生きていたら、いい成長を遂げてくれた気がしますね」。馬と接する上でのモットーは「何かを要求している場合が多いから、それをできるだけ理解してあげること。手入れの仕方でも、気持ちが大事」。馬とのコミュニケーションを大切にするベテラン厩務員。


【高橋 章夫】 Akio Takahashi

1968年、兵庫県西宮市生まれ。独学でモノクロ写真を撮りはじめ、写真事務所勤務を経て、97年にフリーカメラマンに。
栗東トレセンに通い始めて17年。『競馬ラボ』『競馬最強の法則』ほか、競馬以外にも雑誌、単行本で人物や料理撮影などを行なう。これまでに取材した騎手・調教師などのトレセン関係者は数百人に及び、栗東トレセンではその名を知らぬ者がいないほどの存在。取材者としては、異色の競馬観と知識を持ち、懇意にしている秋山真一郎騎手、川島信二騎手らとは、毎週のように競馬談義に花を咲かせている。
毎週、ファインダー越しに競走馬と騎手の機微を鋭く観察。馬の感情や個性を大事に競馬に向き合うことがポリシー。競走馬の顔を撮るのも趣味の一つ。


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