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グレゴリー・ブノワ騎手

昨年、本年の2度に渡って短期免許で騎乗し、JRAで通算11勝を挙げているグレゴリー・ブノワ騎手。オーギュスタン・ノルマン氏と専属騎乗契約を結び、フランスでもめきめきと頭角を現しているが、その中でも注目されるのが牝馬クラシック2冠を達成したアヴェニールセルタンとのコンビ。陣営は凱旋門賞への参戦を表明しており、昨年トレヴに続き今年も3歳牝馬が日本馬に立ち塞がる。今回は現地に滞在する日本人記者に、その大一番への展望やライバル、日本競馬の印象や思い出を振り返ってもらった。

アヴェニールセルタンと挑む凱旋門賞

-:今年はJRAで2度目の短期免許取得後、今春はアヴェニールセルタンとのコンビでフランスの3歳牝馬クラシック2冠を達成されました。

グレゴリー・ブノワ騎手:アヴェニールセルタンは素晴らしい牝馬です。追い込み馬ですが、AWコースでの競馬を含めて5戦無敗。2冠目の仏オークスのあとは厩舎で調整されていますが、その後も順調、と聞いており、凱旋門賞を目標とすることが正式に決まったので、今から秋を楽しみにしています。

-:今後の予定はどうなりますか?

ブ:7月中に(厩舎のある)南仏からドーヴィルに移動し、調整すると聞いています。次走は8月19日のノネット賞(G2)で、そこから凱旋門賞に直行するプランです。前哨戦のヴェルメイユ賞は走りませんが、凱旋門賞の行われるロンシャンでは仏1000ギニーをすでに勝っていますし、距離延長も心配していません。






アヴェニールセルタンで仏1000ギニーを制し(上中)、仏オークス(下)も制した。


-:凱旋門賞に遠征する日本馬についてはいかがですか?

ブ:どの馬も強敵です。なかでもジャスタウェイは最大の脅威です。斤量面で有利なアヴェニールセルタンと同じ3歳牝馬(ハープスター)もやって来る、と聞いていますし、ゴールドシップも強い馬です。ゴールドシップが勝った2012年の有馬記念は何度も見ました。私が初めて日本に遠征する1か月前のビッグレースで、そのレース映像を見ながらドキドキしていたものです。

日本の競馬とジョッキーの印象

-:昨年の2月初めての短期免許を取得されました。きっかけのようなものはありましたか?

ブ:フランスのたくさんのトップジョッキーが冬の間、日本で騎乗していますから、多くの若手騎手が日本競馬に興味を持っています。僕は日本とのつながりもあって、小林智調教師には普段からたくさん乗せてもらってお世話になっていますし、ユタカ(武豊騎手)とはフランスのエージェントが同じなので、ずっと面倒をみてもらっていました。2年前にケザンプールというアガカーン殿下所有の馬で初めて凱旋門賞に騎乗することができました。ソレミアが優勝した年ですが、もっとも強い競馬を見せたのが2着のオルフェーヴルです。香港という選択肢もあったと思いますが、そうした縁と馬産に力を入れているところにも強く惹かれて、日本を選びました。

-:実際に騎乗されて競馬のレベルやフランスとの違いなど、どのように感じられましたか?

ブ:日本競馬は想像していた通りにレベルが高く、素晴らしいものでした。週末のみの開催で、たくさんのファンの方の前で競馬に乗れることは何事にも代え難い経験でした。もっとも異なるのは、やはりレースの流れでしょう。日本はフランスに比べてペースが流れますし、それによって馬の造り方や騎手の騎乗スタイルなどに異なる部分が生じているのだと思います。フランスの馬はスローペースで最後に脚を伸ばすように調教されていますし、日本の馬はよりスタートから出ていけるように調教されている。ただ、トレセンにいる馬もシャンティーで調教されている馬も、よく仕付けられているという点では、まったく変わりはありません。



-:ジョッキーのスタイルについてはいかがですか?

ブ:どの国でも手綱を詰めたり長手綱で乗ったり様々なスタイルの騎手がいます。日本人騎手は非常に高い技術をもっていて、日本の競馬は外国人騎手が簡単に勝てるような甘い競馬ではありません。日本のジョッキーと数ヶ月間共に競馬に乗って、もっとも感心させられたことは精神面でのあり方です。フランスのジョッキールームはたとえそれが凱旋門賞の直前であっても、競馬と関係のない会話が飛び交っていますが、日本人は良い意味で「おとなしい」というのでしょうか。大きなレースになればなるほどレースが近づくにつれて寡黙になり、気持ちを高ぶらせ集中力を高めます。

-:日本で特に苦労されたことなどはありましたか?

ブ:競馬ではダート戦が苦労しました。フランスにはPSFというAWコースの競馬はたくさんありますが、ダートでの競馬に乗るのは日本での騎乗が初めてでした。ルメール騎手やリスポリ騎手、藤沢和調教師にアドバイスをもらいました。来日中はつくばで過ごしていますが、普段の生活で食事には困りませんでしたね。ただ日本の方々は英語を使わないので、どんな場面でもコミュニケーションを取るのが一番大変でした。


藤沢厩舎の調教にも参加するブノワ騎手(右、レッドスパーダに騎乗)


貴重だった藤沢和雄調教師との出会い

-:1年目は3勝に止まりましたが、今年は8勝。さらにG1初騎乗、東京での一日5勝など中身も濃くなっていたように感じます。

ブ:位置取りや仕掛けのタイミングに慣れた、ということはあるかもしれませんが、1年目と2年目で乗り方を大きく変えたとか、そういうことはありません。関係者の方々に名前を知ってもらえて、騎乗依頼をいただけたことが大きいですし、2年目は1月の最初から2ヶ月間滞在したので、継続して騎乗できる馬も増えました。日本に来て、なにより幸運だったことは藤沢先生と巡り会えたことです。僕にとって藤沢先生はこれまでに出会ったホースマンのなかでも、もっとも尊敬する一人です。

サラブレッドと向き合うためのたくさんの助言をもらいました。弥生賞の前に、調教で一度だけコディーノに騎乗させてもらったこともあったのですが、残念ながら先月コディーノが亡くなったと聞き、ショックを受けています。今年もまだ一ヶ月分免許期間が残っているので、秋に来日できるかもしれませんし、受け入れてもらえるのなら、来年の冬も藤沢先生のもとで勉強したいと考えています。


-:凱旋門賞ジョッキーとしての来日となる可能性も十分ですね。

ブ:過去2年の凱旋門賞ではケザンプールとゴーイングサムウェアに騎乗しましたが、見せ場なく終わってしまいました。凱旋門賞はジャパンCと同じ2400mの世界最高峰レースで、各国の強豪が集う競馬のワールドカップのようなもの。素晴らしい牝馬と出会えましたから、今年はいい勝負ができるといいですね。


【グレゴリー・ブノワ】Gregory Benoist

1983年 ベルギー出身。
1999年にフランス騎手免許を取得。
2012年842戦100勝(仏リーディング5位)
2013年754戦77勝(同10位)


■最近の主な重賞勝利
・14年 仏1000ギニー/14年 仏オークス(共にアヴェニールセルタン号)
・13年 クリテリウムアンテルナシオナル(エクトー号)


1983年2月7日生まれ。身長157センチ。体重53キロ。血液型A型。JRA通算181戦11勝。
幼少期はサッカーの天才少年として名を馳せるが、騎手の道を志す。フランスではオーギュスタン・ノルマン氏と専属騎乗契約を結び、昨年11月クリテリアムアンテルナシオナルで念願のG1初制覇(騎乗馬エクトー)。M・デルザングル、小林智、D・スマガなど多数の有力厩舎からの信頼も厚い。今春はアヴェニールセルタンとのコンビでプールデッセプーリッシュ(仏1000ギニー)、ディアヌ賞(仏オークス)の3歳牝馬クラシック2冠を達成。14年は386戦41勝で仏リーディング12位(7月27日現在)