騎手引退直後から重賞級と感じていた馬 キンショーユキヒメ
2018/5/10(木)
-:中村厩舎と言えば、福島牝馬S(G3)でキンショーユキヒメ(牝5、栗東・中村厩舎)が制しましたね。おめでとうございました。
長:ありがとうございます。僕が調教助手になった年に2歳として入ってきて、最初からすごく手の掛からない子でした。新馬戦も勝っていますし、ずっと調教に跨って期待していた馬なので。いつか重賞を勝てる馬だと思ってやってきたので、それが現実になって、ホッとしているというか。
-:先ほど「距離適性というのは、関わる人によってちょっと上下するよ」という話があったと思うのですが、この馬もデビューは1200でしたね。
長:そうですね。その頃から女の子にしては馬格があって、けっこうダイナミックな走り方をする馬だったのですが、3歳の秋くらいからすごく成長しました。馬体もかなり大きくなったので、向いているとしたら短距離じゃなく、中距離という印象の成長をしてきたので、そういう面では調教でどれくらい変わったかという感覚はないですけどね。
-:見た目でもかなり体は大きくなりましたか?
長:ええ、逞しくなりましたね。
-:その辺は、父のメイショウサムソンが出てきた感じですか?
長:そうですね。良く言えば、脚捌きの重たいというか、シッカリとしたパワータイプの印象はありました。そういうところも含めて、長距離までは行かないですけど、中距離の方が向いている感じでしたね。
-:むしろ1200、1400のスピード競馬では、ちょっと器用さが足らないという感じだったのですか。
長:まあ、そうですね。新馬は条件戦と違って、もともと速い馬も出てきますし……。競馬の内容として、ある程度の距離で使った方が内容は上がってくるのかなと思っていたので。もうちょっと早く勝ち上がれて、もっともっと使えたら良かったのですが、けっこうタフな競馬もしてきましたし。
-:ミルコ騎手で去年の3月に小牧特別を1番人気に応えて勝利しましたね。最後の最後で、最内からすごい脚で飛んできたのを覚えています。
長:確かにそうでしたね。どちらかと言うと、馬格もあって、器用さにやや欠けるというか、出来るだけリズム良く上がってこられる方が大事ですからね。
-:前に壁がない状態で、ずっとエンジンを吹かしっ放しでないと、1回止まって切り替えしたりするとしんどいタイプですね。
長:そういうところがあったので、ジョッキーは替わっていますけど、ミルコもずっと見ていてくれましたし「追い切りはどうだ?」と声を掛けてくれたりしましたね。色々なジョッキーが期待してくれていたところがあるので、そういう面と秋山(真一郎)さんの全場重賞制覇の執念が上手く噛み合って、良い騎乗をしてもらったので。
▲重賞勝ち馬用の名前入りゼッケンをまとうキンショーユキヒメ
-:4コーナーを回ってくる時に、3着あたりはあるのかなと観ていました。
長:僕は3コーナーくらいで勝てるかなというのはありましたけど、4角でちょっとゴチャついて、トモのバランスを崩した時に、交わすまではちょっとないかなと思いましたけどね。
-:(2着馬の)カワキタエンカのスタートが抜群に決まって、速かったですからね。
長:そうですね。あの馬は強いなと。
-:でも、小回りの福島ながら、後方から差し切るというのはやっぱり1回使って良くなっていましたか?
長:そうですね。JBC(レディスクラシック12着)の後、もう1回芝に戻した愛知杯(10着)の時は掛かっていました。あんまり掛かるイメージのない子がやっぱり条件がガラッと変わって、ちょっと苦しい部分もあったのかなと思ったので、そこから立て直して2回目で福島牝馬Sを使えたので、そういう面では上積みはありましたね。
-:その間、JBCレディスクラシックの後が+20キロで、その後の中山牝馬S(7着)が-10キロでしたね。
長:そうですね。その間、調教をしていて増えているのは分かっていたのですが、増えていても動きは抜群に良かったですからね。
-:結局、JBCレディスクラシック自体が-8キロだから、これで細くなってしまって、今回の福島牝馬Sがちょうど良いくらいに持ってこられたということですね。
長:ちょうど適正くらいですね。数字的に20キロ増えていた時でも、芦毛ですし、見た目的にポテッとしたところがあったかもしれないですけど、調教の内容や調教過程というのはすごく良い状態で行っていたので。その時も期待はしていたのですが、やっぱり1回使うことで体重がスッと適正くらいに戻った時に、さらに馬が良くなったので、ちょっと調整が甘かったのかなとは思いましたけど。
「(重賞を勝てて)ホッとしていますけどね。乗り役を辞めてすぐの感覚の中で、この馬は良いなと思っていたので」
-:でも、待望の重賞ウィナーになりましたからね。
長:ホッとしていますけどね。乗り役を辞めてすぐの感覚の中で、この馬は良いなと思っていたので。重賞は獲れるレベルとは新馬の時から思っていたので、時間は掛かりましたけど、現実になってホッとしています。
-:メイショウサムソン産駒という雰囲気もありますか?
長:血統的には良いですし、サムソンというか、オペラハウスというのか、そういう部分はユキヒメには出ているイメージがあるんですけどね。
-:一瞬の切れというよりは、長く良い脚を使える馬だなと。
長:そうですね。その中でも小回りで重賞を勝てたというのは、まだまだ色々な可能性も広がりますしね。
-:これからも楽しみな馬ですね。
長:そうですね。これで箔も付いたので。
-:現在は一旦、休養ですか。
長:まだ状態をみている途中ですけど、次も勝ちに行けるように調整して、将来繁殖に上がった時に優秀な種馬を付けてもらえるように、従業員として頑張っていきたいですね。
-:ちなみに、今回勝ったのは1800だったのですが、マイルに行くのか、2000mに行くのか、2択だったらどっちがキンショーユキヒメにとってベストの距離だと思われますか。
長:難しいですね。マイルはある程度の距離を使い出してから、実際に使っていないですし、マイル自体勝っていないので何とも言えないですけど、行ってみたいという気持ちはあるにはあります。やっぱり競馬場の外回りというよりは、コーナーが4つある方が良い感じだと思うので、そういう面に関しては、2000mの方が安心して観ていられるなという感じですね。
-:右、左はどうですか。
長:右かな。
-:乗っていてそう感じるツボはどこですか。手前ですか?
長:手前を替えるのはすごく上手な馬なので、あんまり大差ないと思うのですが、(右回りで)右手前から左手前に替えた時の乗り方が実際に調教で左回りの追い切りをする時もあるのですが、右の方が乗った感触は良いので。
▲キンショーユキヒメと記念撮影!
-:乗っていると、コーナーを曲がってから右回りの方が良い走りをするという感覚があるのですか。
長:そうですね。もともとトモがシッカリしている馬なので調教で乗っていると顕著で、やっぱり遅いスピードから速いスピードに変わるので、競馬よりは良いイメージが湧きやすいというか。
-:じゃあ、右回りということですね。
長:でも、あんまり考え方を固めてしまうとかわいそうなので(笑)。
-:でも、左回りでも勝っているということは。
長:実績がない訳ではないので。ただ、重賞のレベルになった時に、積極的に使いたいのは東京じゃなくて、右回りの阪神、京都の競馬場なのかなというのはありますけどね。
-:色々なジョッキーが乗っても合うというのは、この馬の能力があればこそ、ですね。
長:そうですね。色々な経験をしているでしょうし。
-:とにかくおめでとうございました。今回は色々な話題をありがとうございました!
プロフィール
【長谷川 浩大】Kodai Hasegawa
1983年11月19日生まれ、京都府出身。現在も調教助手として所属する中村均厩舎所属として、2003年に騎手デビュー。初騎乗初勝利を挙げた。騎手デビューの同期には石橋脩、松岡正海、公営から移籍した安藤勝己らがいた。
2004年には福島記念を制し、競馬学校卒業の同期の中では重賞勝利を一番乗りで達成すると、2005年にはダイワパッションとのコンビを組み、重賞2勝をマーク。桜花賞にも駒を進めた。騎手としての通算成績は3979戦213勝。2012年から中村厩舎で攻め専として活躍。現在は調教師転身も意識しつつ、日々の調教に励んでいる。