関係者の素顔に迫るインタビューを競馬ラボがオリジナルで独占掲載中!

濱名浩輔調教助手

濱名浩輔調教助手(栗東・石坂正厩舎)


姉がアプリコットフィズ、コロンバスサークルという良牝系の出身ながら、年明け1月5日にデビューしたクレスコグランド。デビューも遅咲きだったが、初勝利も4戦目。決して良血馬のそれとはいえないキャリアだが、未勝利勝ちから瞬く間に3連勝で京都新聞杯(GⅡ)を制覇した。例年、皐月賞出走組が圧倒的優勢の日本ダービーだが、ここへ来ての見事な上昇曲線は、他を上回るもの。クレスコグランドの育成を担当する若き調教助手・濱名浩輔助手に同馬の成長過程を語っていただいた。

競馬をこよなく愛するオーナーの為にも


-:前走の京都新聞杯はおめでとうございました。競馬ラボでクレスコグランドを紹介させて頂くのは、初めてのことになりますので、入厩当初の印象から教えて頂けますか?

濱:入って来た時は、走るような雰囲気が一つもなくて…、今でさえも牛みたいな、モッサリしたところがある馬です。血統馬(姉にアプリコットフィズ)ということもわかっていましたし、血統馬特有の品があって繊細な感じを想像していましたけれども、検疫に行って(初めて顔を会わせ)たら、顔はデカイわ、体は太いわ・・・。イメージとは全然違いました(笑)。

-:この血統ですと、姉同様に社台さんが所有されたりしているようなプロフィールですが、このオーナーの方が所有された経緯はご存知でしょうか?

濱:この馬のオーナーさん(堀川三郎氏)は、G1馬は所有されていないのですが、買う馬がコンスタントに勝ち上がっているオーナーさんなんですね。
毎年一頭、社台さんから買われているようで、アストンマーチャン(1)の上のクレスコワンダーや、デビューはできなかったんですけれども、クレスコティアラといってタスカータソルテ(2)の下の馬も持っていらっしゃったんです。
これまでは(兄弟を選ぶ年の)順番がちょっと違っていれば、ということも多かったのですが、今回はアプリコットの下とはいえ、重賞も勝ちましたし、この馬は(石坂)先生も選んで入って来たようです。


(1:ウオッカらと同世代で、石坂厩舎に所属。スプリンターズS勝ち、阪神JF2着など)
(2:08年札幌記念など、重賞3勝)


-:口取り写真を見ていると、オーナーさんのご家族でしょうか?勝負服の柄のTシャツを子供達が着ていますね。

濱:そうですね。クレスコ(冠名)さんの馬を担当させて貰えるということは、本当に嬉しいことです。石坂厩舎もクラブや個人のオーナーさんもいますけれど、堀川オーナーは、人一倍、馬に愛情が深いオーナーさんです。競馬の前後にも労いに厩舎に来てくれるし、ああやって家族を連れて、子供達に勝負服を着せて競馬場にいらっしゃりますからね。
いつもパドックから、返し馬などもビデオを回して、DVDにまとめて毎回くれるんです。ビジネスとは別に競馬が凄く好きな方ですし、自分の馬に対しての愛情を感じるので、「オーナーのために馬を走らせてあげたい」と思わせてくれる人ですね。




-:クレスコグランドはデビューから初勝利まで時間はかかりましたが、その要因を教えていただけますか?

濱:血統的に期待されていましたが、攻め駆けする方でもなかったですし、大人しくて体も太かったので、正直、デビュー戦は「走れるのかな」という思いでした。そんな中でも新馬戦はいきなり2着に頑張ってくれましたね。次の2戦目は出遅れて、スローペースの中、後方になっちゃって、終いはいい脚を遣ってくれましたけれど、2着争いが精一杯でした。
それでも、センスというか、素質は感じていたので、そのうち走るだろうとは思っていましたが、ここまで早くポンポンと勝てるとは思いませんでした。大成するのは古馬になってからか、夏を越してからだろうと思っていたので、この結果には驚いています。


-:目方だけみると、デビューから馬体重は減り続けています。

濱:結果も伴っていますし、そんなに馬体重は気にはしていないです。俊(浜中俊騎手)も『だいぶ動ける体つきになってきましたね』と言っていましたし、現状では今くらいでいいのかと思います。成長すれば、もっと増えてくるかもしれませんが、デビュー2戦目までは如何にも無駄肉が多かったので、今はちょうどよく素軽いくらいですね。

-:2走前のムーニーバレーRC賞は勝ったものの、道悪でバタバタしていたようにも見えました。

濱:そうですね。ゲートを出してからジョッキーもおっつけ通しでしたし、ポジションを取りに行ってもエンジンがかからない。最後の直線もバタバタしていましたね。あんな中で、2着の馬にいったん外から交わされたような格好になりながらも、グイっと出たところが、この馬の勝負強くていいところだと思います。俊も『道中は駄目だと思ったけれど、馬が頑張ってくれた』と言っていましたし、道悪そのものは下手だと思いますね。

-:そこまでの戦績の印象をみると、上がりが掛かって、ジワーッと来るタイプにみえました。

濱:そうなんです。俊も『キレる馬ではない』と言っていましたし、前々でレースをして、ジワーッと脚を使うレースを未勝利や勝った時もしていましたね。
ムーニーバレーの時は道悪だから参考外でしょうが、この前の京都新聞杯は、こんなにキレる脚があるのかと思いました。(武)豊さんも『思った以上にキレるね』と言っていましたし、レースを使う度に馬が競馬を覚えてくれていますね。
そもそもが道中で全く引っ掛からない馬ですし、力の出しどころもわかってきたのかもしれません。競馬の後も息の入りが早いですし、無駄な力を出さないというか、今はそれがいい方に出てくれていますね。その辺りは持っている潜在的なセンスなんでしょうね。
それにああいう脚がないと、大舞台では通用しないと思っていましたし、近年のダービーをみても、33秒台の上がりがないと厳しいですからね。「(速い上がりの脚をもっていない)これまでの脚ではどこまでだろう」と思っていましたが、前回の競馬を見て、楽しみは増えましたし、ダービーへ向けて弾みになるようなレースでしたね。


担当者の想像を上回る成長度


-:デビューから一貫して、2000m以上を使っていることに意図はありましたか?

濱:攻め馬に乗っていても引っ掛からない馬で、短い距離は忙しいイメージもありました。先生もそういう見解だったようで、自然とそうなっていきましたね。

-:このローテーションだけをみると、デビュー当初から、菊花賞を意識されたりしているのかと思いました。

濱:僕は菊の頃には良くなると思っていたので、ダービーはいけたらいいな、とは思っていましたが、こんなに上手くいくとは思っていませんでした。当初は『秋は菊花賞だ』なんて、冗談交じりに話はしていましたよ。

-:ここへきて3連勝しましたが、結果を出せるようになったキッカケとなるような要因はありますか?

濱:そんなに大きなキッカケは感じないんですよ。今でもなんで、そんなに走るのか、わからないというか…。でも、攻め(調教)は53の13で来るような馬だったんですけれど(坂路で4F53秒-ラスト13秒)、今は終い12秒台で上がってきますからね。
馬の意識もそうだし、体をしっかり使えるようになったこともあると思います。使っても疲れは出ないですし、前走よりも(道悪で疲れが残り易かった)ムーニーバレーの方が疲れたかな、と思ったくらいですからね。そんな中ででも、ダービーまで間隔もありますから、調整はしやすいですね。
人間は重賞だとか、意識はしますけれど、馬には関係ないから、毎回一生懸命走ってくれますし、無駄なく走ってくれるので消耗も少なくて、いつも通りですね。タフといえばタフですし、本当に賢い馬です。


-:初めての関東圏への輸送となります。

濱:長距離輸送というのも、左回りの競馬もやったことはないですからね。それに関しては大丈夫です、という保証はないですよね。でも、今までの競馬をみていると、東京の2400mという条件は合いそうに思えますね。
日曜日の調教でCW()とかを乗っていて、左回りが下手だとも思いませんし、そこはそんなに気にならないですね。長距離輸送も北海道から入厩してくれましたし、クリアしてくれるしかないですね。


(栗東トレセンでは、本来右回りの調教コースを日曜日は左回りで使うため)

-:普段の素振りとして、テンションが上がったりすることはないですか?

濱:基本的には厩舎では大人しいです。馬房から出ると、元気なところはありますが、みんなそういった事をクリアしていきますし、大丈夫だと思います。
スタンド前の発走もこれまでに経験していますし、なんとか大丈夫じゃないでしょうか?そんなに大きな影響を受けないタイプの馬だと思っています。パドックはチャカチャカすると思いますけれど、兄姉と違って気負うこともなく、先程いったように牛みたいな馬ですからね(笑)。




-:レース展開についてイメージされるところはありますか?

濱:そうですね、ハナに行く脚もないでしょうし、逃げることはないと思います。あとは俊に任せようと思います。
彼は若いけれど、ポジションを取りに行ったらひかないし、度胸もある。上のジョッキーにもひかない根性もあって、大舞台だからといって、ガチガチになることはないでしょうから。たぶん、俊自身もダービーでこれだけ十分意識ができる馬に乗ってはいないだろうから、気合も入っているだろうと思います。


-:前回、キレがあるところをみせましたが、やはり、多少は上がりが掛かった方がいいですよね?

濱:一番、俊にしてほしくないのは、前回の内容を信頼しすぎて、ジックリ行き過ぎることですよね。このレベルになってくると、そこそこの位置で競馬をしないと、厳しいと思いますし、オルフェーヴル、サダムパテック達は、凄い脚をもっていますから。
この馬も本当の一線級とやるのは初めてですし、その相手に「どこまでいい競馬を出来るか」というチャレンジャーの精神で挑みますが、東京の2400mとなれば、向こうも同じような競馬はできないだろうし、僕は自分の馬向きの距離だと思いますから、楽しみはあります。
周りの人にも『ダービー出走おめでとうございます』と、声をかけてもらえるけれど、まだ出走していないですからね。そこまでに怪我をする馬もいますし、気を緩めず、返し馬で馬場に放すまでが僕らの仕事なので、そこに辿り着くまでに、まずは無事に当日を迎えられれば、と思っています。


-:最後に大まかな追い切りのプランを教えてください。

濱:週末にCWで気合をつける程度だと思います。実質、来週水曜日の追い切り一本のみですね。今年はもう7戦目ですし、前回も中一週で、今回も中二週。一本で仕上がると思います。体調次第で調整加減を変えますし、馬は勝手に仕上がってくれると思いますよ。

-:わかりました。未知の条件が多い中で、どれだけやってくれるのか、楽しみにしています。健闘をお祈りいたします!

濱:ありがとうございました。本当によくなるのは、もっと先かもしれませんが、頑張ります。


【濱名 浩輔】 Kousuke Hamana

1984年8月1日生まれ、兵庫県出身。
中学2年生の時に友人の影響で競馬に興味を持ち、乗馬を始める。 武豊騎手がタニノギムレットでダービーを制したレースを観て、「豊さんがインタビューに答えて、関係者が喜んでいる姿を観て、テレビで観ている立場じゃなくて、自分もその輪の中に入りたい」という思いから、競馬界での就職を目指す事を決意。

知人の紹介もあり、重賞ウィナーのダイタクバートラムなどがいた時代に太陽ファームへ約2年半勤務。競馬学校厩務員過程を経て、石坂正厩舎に所属。
キャリア2年目にして、「馬自身が色々知っていて、私について来れば大丈夫と言われているようだった」と評する転厩当初のブルーメンブラット(府中牝馬S~マイルCSを連勝)を担当。昨年はエクセルサス、現在はクレスコワンダーとチカリンダを担当している。