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西浦和良厩務員

西浦和良厩務員(栗東・服部厩舎)


5月28日(土)、道悪にもかかわらずルーラーシップが驚異的な末脚で、金鯱賞を快勝。その3.8秒後、ニホンピロレガーロが15着でゴールに入線。苦手な道悪に加え、両前脚の蹄鉄が外れてしまっていた。
約9カ月前、真夏の小倉記念で重賞初勝利を挙げたニホンピロレガーロは、レース後に左前脚の屈腱炎を発症。生まれつき左前の蹄が少し内側にねじれている為、入厩時からスタッフは左前脚のケアに注意を払っていたのだが、この時は(腱の)損傷率3%という診断で、屈腱炎としては症状が軽かった。
そして、さきの金鯱賞でようやく、復帰戦を向かえたレガーロだったが、一転して、6月2日(木)付けで競走馬登録を抹消することが発表された。そのレガーロと苦楽をともにした栗東・服部利之厩舎の西浦和良厩務員を訪ねた。


西:金鯱賞は馬場もぐちゃぐちゃで、両前の落鉄もありました。結果的に大敗でしたが、レース後に歩様が乱れたという事もありませんでした。獣医さんに脚を触ってもらうと、少し違和感があったようで、念のためエコーを撮ったら症状が悪化していたんです。前回は屈腱炎といっても3%でしたが、今回は12.4%でした。休ませる事も考えましたが、年齢を考えると復帰できたとしても9歳以降になってしまう。それで、引退の運びになったんです。

-:レガーロの左脚が少し内側にねじれているというのが、屈腱炎の原因だったのでしょうか?

西:蹄の付き方が少し内側にねじれていると、裏筋(屈腱炎の発症箇所)より、球節や軽靱帯に負担がかかるんです。ですから、直接の原因ではないと思いますが…。レースでの馬場状態もパンパンの良の方が脚には良い、という人もいます。悪い馬場だと柔らかいから良い、という人もいます。本当のところは馬に聞かないとわかりませんよね。

-:西浦さんにとってレガーロとはどんな馬でしたか。

西:重賞を取ってくれた最初の馬ですからね。あの時の、小倉記念は一生忘れないと思います。僕は、これまでニホンピロさんの馬を何頭か担当させてもらっていますから、ニホンピロ+酒井学ジョッキーのコンビで重賞を勝てた事が一番うれしかったです。体型的にはいわゆる『背ったれ』でした。背中が落ちているのがわかるでしょう?それに気性も激しくて、若い頃は一人で引き運動もできない馬だったんです。助手さんに跨ってもらって運動していたんです。歳をとるにつれ、少しは扱いやすくなりましたけどね。

-:それじゃあ、相当苦労せれたんでしょうね。

西:脚元の心配は常にありましたけど、レガーロだけでなく、他の馬も足元には注意しながらやっていますから、特に苦労したとは思っていません。レガーロは飼い食いの良い馬で、いっつも飼い葉を食べています。『過食症か?』ってくらい食べている(笑)。そういう意味では楽な馬でしたよ。全部食べてくれるから飼い葉の調整できるでしょう。今回の金鯱賞でも+2㎏で出走できましたし。

-:レガーロの好きなモノってなんでしょう。

西:芦毛の馬が大好きなんですよ。なぜか牝馬じゃなくても芦毛を見たらブヒブヒ鳴いています。隣の(庄野)厩舎にホクトスルタンがいるんですけど、レガーロはホクトスルタンが大好きで(笑)、目黒記念で一緒に走った後、上がり運動をしている時もホクトスルタンに鳴いていたのが印象に残っています。レースで芦毛の誘導馬見ても平気なんですけど。



-:兄弟はニホンピロサートやニホンピロキースと、走る条件が多彩な血統でしたね。

西:サートはダートの重賞を勝ちましたし、高齢まで走っていました。キースは芝の1600mや小回りローカルの芝2000mで活躍しました。付ける種馬によって適性の変わるお母さんなのかもしれませんね。
実は、キースも小倉記念に2回出ていたんですよ。その時は、3着、2着と勝てなかったんです。兄の勝てなかった小倉記念を弟のレガーロで勝てたら良いなと思っていました。それに母のニホンピロポリーナの父ニホンピロウイナーは、服部先生の父である、先代の服部正利厩舎の馬でしたが、小倉記念前に亡くなったんです。その何日か後にレガーロが小倉記念を勝ってくれた。
際どいハナ差を勝てたのも母ポリーナの後押しがあったからかもしれません。いろんな巡り合わせが詰まった馬でした。服部厩舎の通算100勝も、去年にレガーロが勝った大阪‐ハンブルグC(OP)でした。


-:レガーロで果たせなかった夢はありますか。

西:レガーロは500万を勝った後は、ハンデ戦でしか勝っていないんですよ。斤量に敏感なのか、白川特別、万葉S、大阪‐ハンブルグC、小倉記念、と勝ったレースはすべてハンデ戦です。2~3着に来た新潟大章典もハンデ戦でした(笑)。そういう意味では一度、GⅠに出てどれくらいやれたのか見てみたかった。トップクラスの集まるGⅠの雰囲気を味わってみたかったですね。

-:レガーロはイタリア語で「贈り物」という意味ですが、西浦さんはどんな贈り物をもらいましたか。

西:公私にわたって、いろんなものをもらいましたよ。レガーロに一番勉強になったのは『レース前に厩務員が気負っても勝てない』って事です。気楽にレースに行かないとレガーロは走ってくれない。僕が厩務員としてレガーロに教えてもらったのは平常心でいることの大切さですね。勝ちたいと思っても勝てないのが競馬ですから。

-:最後にニホンピロレガーロにお別れの言葉をお願いします。

西:『本当にお疲れ様でした』としか言えませんよ。最後まで良く分からない馬でした。追い込みなのか先行なのか、勝ちパターンの一つじゃないし不思議な馬でした。もっと走らせてやりたかったけど、やるだけやりましたから気持ち的にはホッとしていますし、僕にとっては悩みも多かった馬ですが、ここまで活躍してくれて感謝しています。なんだか今日(1日水曜)は凄く落ち着いているので、レガーロも引退を知っているのかな?


【西浦 和良】 Kazuyoshi Nishiura

神戸市出身の34歳。厩務員歴7年目。
ニホンピロレガーロの他に、ハートマークで注目されたハマノバレンタインや、障害オープン勝ちのハマノオラトリオを過去に担当。
今年の担当馬の勝ち星は、リュンヌで2勝、ニホンピロシュラブで1勝。「成績に関係なく、馬主・調教師が納得してもらえるような仕事をすること」がモットー