関係者の素顔に迫るインタビューを競馬ラボがオリジナルで独占掲載中!

山本康志騎手

山本康志騎手


-:クリーバレンで新潟ジャンプステークスを制した山本康志騎手に伺います。新潟ジャンプステークス優勝、おめでとうございました。

山:ありがとうございます。

-:まずはレースを振り返っていただけますか?

山:自分がいつも思っているのは、競馬に行く前に競馬は決まっているというか、攻め馬の段階でどこまで仕上げたかが競馬の着順に反映する、ということなんです。もちろん競馬で前をカットされたり、ゲートが悪かったりで後ろの着順になってしまうこともありますけど、何事もなければ攻め馬が全てなんですよ。攻め馬が終わった段階で「自分が何着になりそうかな」という目星をつけて競馬に臨んで、なるべくその目星に近づける、もしくはそれよりも上に出来たらいいな、という競馬を目指すわけです。

-:なるほど。今回の新潟ジャンプステークスですが、レース前にはどのような目星をつけていらっしゃったんですか?

山:前走の競馬が終わった段階で「あと2段階ぐらいアップしたら、もしかしたらG3の舞台でも良い勝負になるんじゃないかな」と思いました。そう思えたのは、今までに自分がG3を勝って来たからなんですよね。

-:G3を勝つなら、このくらいの力は欲しいな、という。

山:そうです。で、それが前走から2段階アップというのが僕の感触だったんですよ。新潟ジャンプステークスの1週前、当該週と稽古で乗って来て「あ、何とか2段階アップ出来たかな」って思えたのが、当該週の追い切りの段階だったんですよ。

-:そうなんですか。

山:ただ、2段階上げたところで前走時はマジェスティバイオとは斤量差もありましたし、トリビュートソングともほとんど同着みたいなものだったので、もしかすると着順が変わる可能性もありますから「本当にミスは犯せないな」と思いましたね。で、そう思いながらパドックまで来たんですけど、パドックでポンと跨ったら「あれ?これは勝っちゃうかもしれないな」と思って。

-:おや。

山:というのは、跨った感じ、2段階よりも更にアップしていたんですよね。それで返し馬をしながらも「やっぱり良いな、これは」と思って。まあ、返し馬なので速いところをやったわけではありませんから、本当のトップスピードになってからは分かりませんけど、とりあえず2段階よりもアップしちゃったな、という思いはあったんですよ。

-:では更に期待が高まりますよね。

山:ただ、そうは思いましたけど、とりあえず前走と同じような感じで、今まで通りの作戦でいこう、と。今回の場合は、強そうな相手は自分の後ろから来るような馬で、前に行く馬はそうでもないんじゃないかな、という見立てがあったので「どうしたら後ろの馬に水を開けられるかな」と考えると、自分の馬は出来るだけロスのない走りをして、後ろの馬には自分よりも外を回って後から追いかけて来ることで、自分よりも距離を走ってもらう形がいいだろう、と。そうしたら競馬自体、その思い通りに進んでいったんですよね。逃げる馬が1、2頭いて、周りはそれに連なって競馬をして、後ろの馬は僕より外からやって来るという。だから密集を割って4コーナーを回ったぐらいで「あ、全部思い通りにいっちゃったな」という思いだったんですよね。

-:本当に考えていた通りの展開ですもんね。でもマジェスティバイオが上がっていったときには「マズイ」というようなお気持ちはありませんでしたか?

山:マジェスティには途中で交わされましたけど、向こうが1番人気だというのは分かっていたので「まあ、1番人気に負けたらしょうがないよね」とも思ったんですよね。そこで張り合いに行って3着に終わるくらいなら、マジェスティの後を走って、前が止まってくれれば嬉しいな、自分は最悪2着でもいいかな、というのが交わされたときの思いなんですよね。「強いよね~」なんて感じで見送っていました(笑)。

-:そうだったんですか。



山:今までの競馬の中で、クリーバレンがあまり長く良い脚を使える感じがしなかったこともあって、見送っていたんですけど、いざ追ったらビュンッと来たんですよ。「あら、伸びちゃったよ」と思って(笑)。

-:どことなく他人事のような、落ち着いたご感想ですね(笑)。

山:で、後ろを気にするよりも前の1頭を交わせば勝っちゃうな、と思って追ったら、勝っちゃったんですよね。「勝っちゃったー」と思って(笑)。

-:後ろからトリビュートソングが来ていましたけど、気配は感じませんでしたか?

山:ありましたけど、あの距離でこの伸び脚で後ろから差されるってことは無いんじゃないかなって。「これで差されちゃったらしょうがないでしょ」と思いました。

-:では実質、マジェスティバイオを交わした時点で。

山:勝っちゃった、と思いましたね。交わした後にムチで一発叩いたんですけど、叩かなくても勝っていましたね。

-:気合いを入れよう、という意味だったんですか?

山:いえ、今まで力を温存して来て、追って動き出したときにはもう伸びていたので、叩くことはなかったんですけど、とりあえず叩きもしないで後ろから交わされたらカッコ悪いな、と思って(笑)。僕はあまりムチを使うのが好きじゃないんですよ。まあ、使いますけど、伸びる馬にまでムチで叩くことはないですからね。

-:ムチも1回しか使わなかったわけですし、完勝でしたね。本当に思い描いていたレースが出来た、ということで。

山:そうですね、攻め馬では、思い描いていた以上の攻め馬が出来て、競馬としては思い描いていた通りの内容で4コーナーまで来て、4コーナーから先は思い描いていた以上に伸びてくれた、という感じです(笑)。

-:言うことないですね(笑)。レース後のインタビューも嬉しそうでしたね。山本騎手は、どのレースの後もコメントを整然と話をされている印象がありますけど…。

山:僕はいつも競馬前からコメントを考えているんですよ。レース前から着順の目星がついていますから。ただ、今回は勝つとは思っていなかったので…。斤量差があったからマジェスティに勝つのは厳しいかな、2着に来ればいいかなと思っていたんですけど、勝っちゃって(笑)。「やべー、コメントを考えてなかった」と思ったんですけど、嬉しくてニコニコしちゃって(笑)。

-:重賞を勝ったんですから、そりゃ笑っちゃいますよね(笑)。

山:口取り写真を撮りに行くため、地下馬道を歩いているときも、コメントを考えなきゃ考えなきゃって思ったんですけど、ニコニコニコッて笑っちゃって(笑)。実際、お立ち台でインタビューを受けたときも「馬ともども山本もよろしくお願いします」なんて言っちゃって、馬のことよりも自分の宣伝をしちゃったな、と思って(笑)。

-:選挙みたいでした(笑)。

山:自分を売り込みたいとは思っていましたけど「あ、コレはダメだよな」って終わってから思いました(笑)。「馬ともども障害レースの応援をよろしくお願いします」って言えば良かったなって(笑)。

-:アハハ(笑)。ところで話は少し戻りますけど、クリーバレンが前走時から2段階上がった中で、特に変化が見られた点はどんなところですか?

山:僕としては、前走乗ったとき、この馬は飛ぶのがちょっとおっちょこちょいだな、と思ったんですよ。臆病だから早く事を終わらせたくておっちょこちょいだな、というタイプだなって。これでは攻められないなと思って、競馬でもずっと構えながら乗っていましたけど、それでも1、2箇所失敗しましたからね。そういう内容でも勝ったので「もうちょっと飛びが安心すれば、それだけでも競馬がしやすくなるぞ」と思ったんですよ。で、それを直そうということで、この馬の担当助手さんに「もう一度障害練習をし直すから手伝ってください」ってお願いをして、練習し直したんですよね。そうしたら臆病な分慎重に、でもスピードを落とさず綺麗に飛び越えるようになって来たんですよ。だから競馬を迎えるにあたって、もうほっといても勝手に飛んでくれるわ、という感じになったので、前走よりも今回の方が安心して乗っていましたね。

-:実際に競馬で違いを感じるところはありましたか?

山:競馬に行って1個目の障害で「あ、教えたことが馬に身についたな。練習の効果が出たな」と思いましたよ。結局、飛ばすにあたってこっちが気を使わないといけない馬だと、それだけでポジション争いでも遅れになりますからね。どこからでも綺麗に飛ぶ、もしくは失敗しても転ばない馬を仕上げないと、競馬に参加しづらくなっちゃいますから。競馬に参加しやすい馬になれば、あとはその馬の追い出しのポイントなんかを思い通りにやるだけですからね。

-:乗りやすい馬を作ることで、競馬に参加しやすくなる、と。

山:僕はそう思うので、他の人よりも練習をしていると思います。その分「ウチの馬はちゃんと飛ぶのに、なんでそんなに練習をするんだ?」っていう見られ方もしますよ。

-:それは厩舎の方が?

山:練習のし過ぎで脚に負担がかかるんじゃないか、という考えの人もいるので。

-:あまりやり過ぎると、馬が傷んじゃうだろう、と。

山:そうですね。でも競馬で失敗すると取り返しのつかない事故や怪我になるので、そうならないように、それほど速くないスピードで、大きな失敗をしないような練習を何度もして、速いスピードでも綺麗に飛べるようにしていこうと。

-:なるほど。山本さんの中では、結構早い段階からそういう考えが芽生えていらっしゃったんですか?

山:ここまで徹底はしていませんでしたけど「あ、何か違う」というのはありました。最近は「ここがこう違うからこうなんだ」という答えまで言えますけど、前は「何かが違う」としか思えなかったですね。分かったところで直し方も知りませんでしたから。それが、自分よりももっともっと乗馬の障害によく精通している人に話を聞いたことで「じゃあ、こうしよう」という術が見つかって来たんですよ。だから僕の頭の中では、ただ速く走ればいい、ただ向こうに飛べばいい、じゃなくて、速く走るため、上手に飛ぶためのバランスの良い筋肉を作るためにどうしよう、といった乗馬での考え方を取り入れている感じがしますね。

-:乗馬的な考えですか。

山:障害をやっている牧場の人や、大きな障害馬術の大会に自分で馬を作って行く人に話を聞いてみると「そういう方法で馬を飛ばすのを上手くしていくのか」とか「そうやって飛ばない馬を飛ばせるのか」とか「そうやって飛び過ぎちゃう馬を上手な踏み切りに合わせるのか」とか、勉強になるんですよ。そういう人たちとの話の端々にそういう話が出てくるので、盗んでいるというか、参考にさせてもらっています。こうすれば馬は勝手に飛んでいくよ、ということをこれまでも勉強して来たつもりですし、もっと勉強していきたいですね。

-:競馬社会以外の人からのお話も参考にされてきたんですね。

山:そうですね。それらを取り入れて、厩舎の人にも手伝ってもらって競馬をしやすい馬に仕上げていくんですけど、その分僕は面倒くさがられますよね(笑)。

山本康志騎手インタビュー後半
「山本騎手が語る障害レースの奥深さ」などへ→

1 | 2





【山本 康志】Koushi Yamamoto

1977年 茨城県出身。
JRA初騎乗
95年 3月 5日 2回中山4日 2R バックファイアー(13着/15頭)
JRA初勝利
95年 8月 19日 1回新潟3日 3R アイランドロッコー
JRA通算成績は92勝
※うち障害は49勝(11/08/28現在)


■最近の主な重賞勝利
・2011年 新潟ジャンプS(クリーバレン号)
・2010年 東京ジャンプS(ギルティストライク号)


95年に佐々木亜良厩舎所属からデビュー。デビュー当初から活躍の場を求めて、障害レースにも積極的に騎乗。 障害での初勝利はデビュー3年目、重賞初勝利は05年と苦心したが、今年は既に6勝をマーク。また、今年はクリ―バレンで新潟ジャンプSを制し、秋の大舞台での活躍が期待される。