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三浦堅治助手

三浦堅治助手(美浦・二ノ宮厩舎)


-:凱旋門賞出走に向け、フランスへ遠征中のナカヤマフェスタ、ナカヤマナイトについて、二ノ宮厩舎三浦堅治助手にお話を伺います。よろしくお願いします。

三:よろしくお願いします。

-:2頭のここまでの実績に関して競馬ファンは十分ご存知だと思いますので、ここでは三浦さんからご覧になった2頭の印象について、お聞かせください。まずはナカヤマフェスタからお願いします。

三:ナカヤマフェスタという馬は、騎乗者にとって本当に難しい馬ですよね。というのは、乗り手の指示に対して凄く反抗するような我の強さを持っているんですよ。

-:そうなんですか。

三:普通、馬というのは「歩け」と指示すれば歩くし、手綱を引いて「止まれ」と指示すれば止まるというように、乗り手に従うのが普通なんですけどね(笑)。それがナカヤマフェスタは利口な馬で、調教場に行くと「あ、このコースに来ると走らなきゃいけない、強い調教をやらされる」と、もう分かっているので「今日はもう嫌だよ」という感じで、反抗して立ち上がってみたり、後ずさりしたりして、走っていかなかったりするわけです。でも気分が良いときには、坂路であれポリトラックであれ、自分からグッと速いキャンターに行ってみたりするんですよ(笑)。

-:気分次第で(笑)。それは大変ですね。

三:それでフェスタに携わっている佐々木幸二助手が、ずっと付きっ切りで乗っているんですよ。彼はかなりの技術を持った助手ですし、二ノ宮先生も「慣れている人間の方が良いだろう」ということで、ずっと佐々木助手が付きっ切りで乗っています。今回、出国前にトレセンで調整しているときも、フェスタが立ち上がると周りの馬に迷惑をかけますから、他の馬がいない時間帯に馬場に行ったり、佐々木助手も凄く気を使っていましたよ。

-:そうなんですね。慎重に調整をされているようで、去年に引き続き好走を期待しますけれども、レースに向けての過程で、去年と今年で違う点がありましたら教えてください。



三:去年と事情が違うのは、去年の場合は6月の宝塚記念を勝って、調子を上げながら遠征をして、フォワ賞と凱旋門賞で2着になったんですよね。今年は、去年のジャパンカップ以降、左肩のハ行があったり、ちょっとトモの疲れが出たりで、休養期間が長くなりましたけど、そういう流れの中でも、こうして何とかフランスまで遠征をすることが出来ましたし、向こうに行ってからは、かなり体調はアップして来ているようです。

-:追い切りを重ねるごとに状態が良くなって。

三:そうですね。先週の、フォワ賞1週前追い切りでは、ちゃんと良い時計も出ましたからね。でも、行った当初は、やっぱり前の年のことを覚えていたせいか、キャンターの場所に行ったときに反抗をしていたようですよ(笑)。

-:「ここに来たら厳しいことをさせられるんだ」と(笑)。

三:そうでしょうね(笑)。でも、佐々木助手が上手になだめながら、通常の調教メニューが消化出来たようです。この取材がフォワ賞の前なので、まだ結果がどうなるかは分かりませんけれども、とりあえずステップレースに間に合ったというのは大きいですね。

-:なるほど。

三:やっぱり競走馬というのはアスリートですから、本番一本だけでは厳しいと思うんですよ。ましてや凱旋門賞は頂点のレースですからね。やっぱり1回叩くことによって、馬はグッと調子がアップして、本当に変わりますからね。だからそういう面で、前哨戦を使えるということは大きいですし、凱旋門賞に向けて良いステップになると思います。

-:良いレースを期待しています。では続いてナカヤマナイトについてお聞かせください。三浦さんはナカヤマナイトに対してどのような印象をお持ちでしょうか?

三:フェスタと同じステイゴールド産駒ですけど、ナイトは前向きですよね。フェスタみたいに乗り手に抵抗するようなことはありませんし、指示にも従います。ただ、気持ちが前向き過ぎて、2歳の頃は、馬場に入ると頭を下げたままガーッと突っ走ってみたりするところがありましたね。

-:そうなんですね。

三:そういう前向き過ぎるところがあるので、デビューからずっと乗ってくれている柴田善臣ジョッキーも、スタートしてからいかに折り合えるか、というところを考えながら乗ってきてくれましたね。馬のクセも知っているので、後ろから行ってみたり、スタートが良ければ無理にケンカせずにそのまま行ってみたりと、上手に乗ってくれて、皐月賞でもダービーでも掲示板に載ることが出来ました。

-:クラシックでも健闘しましたよね。

三:そうですね。でもナイトは、背中や腰にまだまだ弱い部分があって、馬体的にも成長過程にある馬なので、今回海外遠征を経験することによって、もっともっと成長してくれると思います。二ノ宮先生も、そういうことも含めて帯同させたんじゃないか、と思いますね。

-:海外で調整することによって更に成長するんじゃないか、と。

三:はい。シャンティイの調教場は、芝も長いし、起伏もあって、かなりハードですからね。それに日本よりもいろんなコースがありますから、ハードなだけでなく、精神面でも凄くリラックス出来る作りになっていますしね。



-:それはメリハリのきいた調整が出来ますね。ところで、ナイトの方は前哨戦の結果次第で次走予定が決まるんですよね。

三:そうですね、前哨戦に勝てば凱旋門賞に行けますけど、そうじゃないと賞金的に出られないので、その場合は凱旋門賞の前日に行われる3歳限定のドラール賞に行くことになると思います。

-:ぜひ凱旋門賞に出走して欲しいですね。

三:ねえ(笑)。やっぱり3歳馬は古馬と比べて斤量が軽いので、ますます夢が広がりますからね。それにナイトの場合は、出国する前から美浦で70-40くらいの時計を出していって、良い状態でフランスに行けたので、楽しみも大きいです。

-:期待が持てますね。

三:前哨戦のニエル賞のメンバーも結構揃っているようですけど、楽しみの方が大きいですね。こういうレースに出走するということは、今後ナイトにとって良い経験になるんじゃないかと思います。本当に、こういう経験をさせてもらえるのも、和泉オーナーのご理解が一番大きいですね。他の方々も、ホースマンとして海外に行きたいという思いはあっても、なかなか海外に行くというのは簡単な話ではないですからね。

-:そうでしょうね。

三:あとは二ノ宮先生の、世界に向かっていく前向きな気持ちでしょうね。和泉オーナーのご理解があって、その中で先生も海外で実績を残して来たので、またこういうチャンスをいただけたのかな、と思います。

-:なるほど。ところで、三浦さんご自身も騎手時代にフランスへ遠征されたご経験がおありだそうですね。

三:はい。97年と98年に行って、経験させてもらいました。

-:そのときに、今まで自分がやってきた仕事と違うな、と印象的だったことはありますか?

三:僕は障害騎手として行きましたけど、まず海外で一番先に驚いたことは、馬そのものがみんな大人しいというか、人に対して言うことを聞くんですよ。

-:従順なんですね。

三:そうです。それがまず一番驚いたことですよね。中にはクセのある馬もいるでしょうけど、周りを見ていても、日本の馬みたいに、年がら年中神経質な感じになっているような馬もいませんし、しつけがしっかり出来ているんでしょうね。それに一番驚かされました。

-:なるほど。

三:あとは、馬場でキャンターとかに行きますよね?やっぱり、そこでの騎手の騎乗技術は勉強になりました。行きたがる馬をいかに馬とケンカしないで我慢をさせて、あのハードな馬場を乗りこなすという騎乗法。平地騎手、障害騎手に限らず、ヨーロッパの上手な騎手はみんなその騎乗法を身に付けていますよね。馬とケンカして、道中苦しくなってくると、騎手の拳がグーッと上がって来るんですけど、それをいかに拳を上げずにそのままの体勢で抑えつけられるか、それが大きいんですよ。それと、馬を追う姿勢がブレないんですね。タフな馬場にも関わらず、最後の追い込みの場面でも、体がバタバタしないで馬をグッと推進させる技術を持っていますよね。

-:その我慢のさせ方と体をブラさずに追う姿勢が、最後の伸びに繋がるんですね。

三:そうです。瞬発力、スタミナ、脚をもたせるというところに繋がると思います。日本に来るヨーロッパの騎手も、かかる馬でも抑え方が上手ですし、馬を追う姿勢もブレませんよね。中でも、今年アイルランドから来ていた、フランシス・ベリー騎手は抑え方が上手いなと思いました。あとはフランスのルメールスミヨンも上手ですよね。あ、あと「やっぱり凄いな」と感心させられたのは、デットーリですよ。

-:今年は日本ダービーにも騎乗していましたね。

三:その日はダービーにナカヤマナイトが出走するので、僕も競馬場に行っていましたけど、かなりの不良馬場だったんですよね。それで馬がノメってバランスを崩す中でも、デットーリは姿勢がブレませんでしたからね。「やっぱり超一流は違うな、上手いなあ」と思いましたよ。彼らは、ただ単に強い馬に乗って勝つというだけではなく、馬の能力以上のものを引き出していることもあると思います。もちろん日本の騎手も海外に行って勉強をしたり、だいぶレベルは上がっていますけどね。

-:なるほど。

三:僕が海外に行って感じたことは、そういう部分が大きいですよね。そこで経験したことが、今、調教助手になって、ホースマンとして役立つ部分がたくさんあります。本当に、こういう経験が出来たのは、僕が騎手をやっている頃から二ノ宮先生が「三浦もチャンスがあったら世界に行って、見てきた方がいいよ」と言ってくれていたのが大きいですね。

-:そういうお話もされていたんですか。

三:そうですね。海外遠征のチャンスをいただいた頃に、二ノ宮厩舎の調教をたくさん手伝っていたので、僕が海外に行くことによって、ちょっと厩舎に迷惑をかけることもあると思って先生に相談をしたら「ぜひ行って来なさい」と言っていただいて。

-:後押しをしていただいたんですね。



三:はい。そういう貴重な体験が出来て、それで今こうして二ノ宮厩舎で働けているというのはね、やりがいがあるし、楽しく仕事が出来ています。調教助手として「ジョッキーが乗ったときに、乗りやすいように馬を仕上げて作る」ということをモットーにやっていますよ。

-:そうなんですね。ところで、2頭が海外遠征をしていて、先生がご不在のことも多いですよね。厩舎内のコミュニケーションを取っていくのも大変じゃないかと思いますけれども。

三:いえ、僕だけじゃなく他の助手も厩務員さんもいますし、二ノ宮厩舎のスタッフって、みんな優秀ですから。先生がいなくても、みんな個々の仕事をキッチリとやっていますよ。先生と連絡を取っている助手がいるので、先生からの指示もみんなに行き届きますし、先生も、在厩馬の状態や今週の出走馬の予定など、どこにいても厩舎の状態を把握出来ていますよ。

-:万全の体制ですね。

三:そうですね。それと、今、二ノ宮厩舎のスタッフは優秀だと言いましたけど、もうひとつ優れているな、と思う点は、馬の小さな変化を早く見つけて先生に連絡出来るところですね。やっぱり馬は生き物ですから、調子が悪くなったりすることの方が多いですけれども、みんなそういう変化にすぐ気付いて、先生に報告しています。僕は乗り手で、調教に携わっているので「ちょっとこの馬は疲れが来ているな」と思ったときには、先生に相談をして「じゃあ、無理をしないで休養をさせよう」という話になったりしますよ。

-:スタッフの方たちの意見が反映されるんですね。

三:それが当たり前だと言われれば当たり前なのかもしれませんけど、そういう信頼関係がしっかり築けているのがやっぱり大きいと思うんですよね。

-:なるほど。海外遠征の2頭だけでなく、国内で走る馬の活躍も楽しみです。

三:ありがとうございます。競馬ファンの方たちも、ナカヤマフェスタ、ナカヤマナイトの2頭と共に、国内で走る二ノ宮厩舎の応援をよろしくお願いします。

-:それではお時間が来ましたので、この辺で。三浦さん、今日はお忙しい中、ありがとうございました。

三:ありがとうございました。


【三浦 堅治】 Kenji Miura

1982年から2006年までジョッキーとして活躍し、通算107勝をあげ、4つの障害重賞タイトル(東京障害特別春・マイネルトレドール号、新潟ジャンプステークス・チアズニューパワー号、東京オータムジャンプ・マキハタコンコルド号、東京オータムジャンプ・ヒゼンホクショー号)を手にした。また、97、98年にはフランス遠征を経験。98年10月にポピーデュー号に騎乗し、海外初勝利を挙げた。騎手引退後は調教助手に転身し、現在は美浦・二ノ宮厩舎で所属馬の調教を担当。厩舎の躍進を支える。