関係者の素顔に迫るインタビューを競馬ラボがオリジナルで独占掲載中!

須貝尚介調教師

須貝尚介調教師(S.R.S)


あらゆる意味で圧巻の競馬を見せて皐月賞を制したゴールドシップ。戦前より最大目標はダービーと明言されており、今回もその上積みは計り知れない。一方、前走NHKマイルCは不完全燃焼に終わったジャスタウェイ。同馬も一頓挫明けを使われて、未知なる条件で大駆けを狙う。競馬ラボではすっかりお馴染み、最も勢いに乗っているホースマンといっても過言ではない須貝尚介調教師にダービー2頭出しへの思いを語っていただいた。

2冠達成へ油断なし!ゴールドシップ


-:まず、皐月賞のお話は既にうかがったので、ゴールドシップの皐月賞後の様子から教えて下さい。

須貝尚介調教師:皐月賞後は短期放牧には出さず、厩舎で調整をしています。今までに比べるとレース間隔も短いですからね。

-:皐月賞は目一杯のつくりに仕上げられたと思うのですが、先生はどうみていましたか?

尚:まあ、あれがギリギリの体重(498キロ)の線なので、今回はプラス4、5キロぐらいが丁度良いのではないでしょうか。それぐらいの体に持っていきたいですね。

-:輸送面でも中山より東京の方が一時間程は短いですからね。

尚:う~ん、輸送での体重減はそれほど心配していません。今回は馬体の造り方でプラス体重になると思います。

-:これまでとは落ち着き過ぎているようにみえたのですが、先生から見て、皐月賞時のパドックの状態が理想的なのでしょうか?

尚:あの時は親バカじゃないけど、本当に良く見えて、とにかく落ち着いて歩けていましね。風格もありましたし、体全体を使って歩けていましたよ。

-:前回は馬場の悪い中目を通ってのレースでしたが、馬場についてはどうお考えですか?

尚:馬場状態は関係ないですね。好天で良馬場の共同通信杯で33秒3の脚を使えているので、良馬場であろうと不良馬場であろうと走ってくれるのが、この馬の強みですね。



-:ダービーでの位置取りについてはいかがでしょうか?

尚:その点は内田ジョッキーに任せています。

-:枠順を加味した上でジョッキーが判断するということですね。

尚:そうですね。まあ、他の馬も条件は一緒ですからね。

-:前走の内容からも、同世代の中では完成度がスバ抜けて高いように思えるのですが?

尚:今まで戦ってきたメンバーもいますし、まだ対戦していない馬もいるので、客観的に見て、おもしろいダービーになりそうですね。皐月賞ではウチの馬が道悪上手なので、ああいう競馬になりましたけど、常識的な競馬になっていれば、結果は分からなかったと思います。今回のダービーでは計算されていない面が出てくるのではないかと考えています。

-:確かにコースロスのない競馬をしたとはいえ、馬場の悪い内側を抜けてきた根性は素晴らしかったと思います。

尚:あの判断は内田ジョッキーが素晴らしかったけれども、本来は馬にとってキツい競馬だったでしょうね。今回はああいう極端な競馬にはならないと思います。

-:皐月賞で見せた能力の違いを東京の2400mでも活かせるかどうかですね。

尚:能力の違いがあれば良いのでしょうけどね……。まあ、これから1週間無事に調整して、本番を迎えたいですね。

-:1週前追い切りを終えてタイムが50秒4(坂路1番時計)、ラスト1ハロン13秒1でしたが、いかがでしたでしょうか?

尚:マコトリヴァーサル(3歳オープン)を6馬身追い掛けましたからね。まあ、少し離され過ぎていたので、「届くのかな?」と思って見ていたのですが、道中並びかけるまでの脚力があるから併せ馬の形にできたのでしょうね。

-:追い切り後、先生と内田ジョッキーと秋山ジョッキー(マコトリヴァーサル騎乗)の3人で話をされていましたが、何を話されていたのですか?

尚:2頭共に動きは良かったということでした。内田ジョッキーは「まだまだ成長していますね」と言ってくれました。マコトリヴァーサルも秋山ジョッキーが「前とは全然違う」と言ってくれたように能力はあるのですよ。今回は前に行かすつもりです。道具も付けたし、ダブルでね。チークピーシーズとシャドーロールです。「良く効いています」ということでした。あの時計でもまだ余裕があったみたいですよ。



-:内田ジョッキーも皐月賞前より反応が良くなっているということでしたが。

尚:反応が良くなるように、メリハリの効いた調教を施していたので、内田ジョッキーがそういう判断をしてくれているのならば、調教方法が間違いではなかったということでしょう。今度は2400mなのでギアチェンジをもうひとつ増やさないといけないので、それを踏まえて調教をやっています。今までは“3速”がトップギアとすれば、今度は“5速”が必要になるので、5速を上手く使い分けて乗ってもらいたいですね。

-:来週の本追い切りの予定について教えて下さい。

尚:あと1回追い切ったら理想の体重へ持っていけると思いますので、馬場状態を加味しながら当日判断することになります。坂路かCWコースか現時点では未定です。

-:皐月賞2着のワールドエースの評価が高まっていますが?

尚:そうですね、トップクラスの調教師である池江さんの管理馬ですから、それなりにダービーに向けて馬をつくってくるように思います。あれぐらい実績のある調教師ならば、百戦錬磨で戦い方も知っているだろうしね。こちらはダービー初出走になる訳ですからね。まあそれぞれ調教師が考えていることがあると思うので……。例えば矢作先生はディープブリランテの2400mは「歓迎だ」とおっしゃっているので、何か策があるのでしょう。ダービーというのは皆が夢を持って出走させてくるので、一筋縄ではいかないレースになると思います。今まで戦ってきたメンバーには勝ってきていますけど、息の抜けないレースにはなるでしょうね。

-:勝った後、気を引き締めなければとおっしゃっていましたね。では、改めて、ゴールドシップを応援してくれているファンへコメントをお願いします。

尚:皐月賞後はファンの方も増えて、評判も上がっているみたいですね。日高の古い血統の生産馬ということで、今の経済状況を考えても、元気が出て、世間の方に感動を与えられるようなレースをして欲しいですね。この馬は須貝厩舎だけの馬ではないという気持ちで預からせてもらっているので、良い競馬をして欲しいです。皆さまも応援よろしくお願いします。

未知の魅力が十分!もう1頭の刺客ジャスタウェイ


-:続いて、ジャスタウェイのNHKマイルCを振り返って下さい。

尚:全然悲観することはないと思います。あのレースは秋山君(勝ち馬カレンブラックヒルに騎乗)の好騎乗が光ったレースでしたからね。その中でもジャスタウェイは枠順(14番)とレースの流れを考えれば、終いは最速タイ(34秒2)で上がってきていたので、着順(6着)云々よりも評価できる内容だったように思います。まあ、秋山君が上手く乗ったレースだったので、勝利を称えてあげないといけないですね。それに応えたカレンブラックヒルも強かったですね。

騎乗予定だった後藤君が落馬事故で乗れなくなった後、秋山君の方から連絡があって「乗せて欲しい」という申し入れがあったのでお願いしました。ジャスタウェイも直線あれだけ離されて大外からあの脚は使えないですからね。自分の競馬はしていたと思います。正直使った後のダメージがどれぐらいあるのかが心配でしたが……、レースを使った後も体調が良いのでね。この馬も繊細なところがあるので、すぐに表面に現れてくるのですが、今回に関してはそういった兆候はなかったので、今も元気一杯です。今週の追い切りは控え目にしましたが、中2週で間隔が短いので、ケアをしながら本番を迎えたいと思います。


-:数字(馬体重)的な目安はどれくらいになりそうでしょうか?

尚:最低でもマイナス4キロぐらいで、多分プラスマイナスゼロぐらいに持っていけるのではないでしょうか。ダービーは馬主さんの意向もあって出ることになりましたが、3歳世代の夢のレースですからね。出走できる賞金を持っているのであれば、やっぱり出してあげたいですね。2400mとなると今までとは勝手が違いますが、マイルと同じような脚が使えるかどうか楽しみではありますね。

-:マイル戦で結果を出してきて、2400m戦でコーナーの数が2つ増えて、コーナーを4度回ることになります。

尚:この馬はレース中に引っ掛かったり、カリカリしたりすることもないので、すごく乗りやすいタイプだと思います。あとは心肺能力の問題ですけど、お父さんのハーツクライ(ダービー2着)が活きていれば良いですね。2000m以上の距離を使ったことがないので、どのように左右するのか楽しみのひとつではありますね。



-:軽い走りをする馬だと思うので、直線の長い府中の良馬場はもってこいの条件ではないでしょうか?

尚:この馬はゴールドシップと違って馬場に条件がつきますね。あまりヒドい馬場状態になると武器が使えないという懸念がありますが、晴れればその武器の威力は倍増するでしょうね。

-:それでも、馬場が悪かった東京スポーツ杯(4着)では直線頑張って盛り返していたように思えました。

尚:まあ、外枠が良かったのかもしれませんね。あの時は馬場に水が浮いた状態での競馬だったので、完全にスベってましたしね。それでも我慢してよく4着に残ってくれたと思います。

-:体のデキきっていない2歳時にあの極悪馬場を使った影響はなかったのでしょうか?

尚:やはりガクッときましたよ。この馬はずっと重賞戦線で頑張ってくれているので、他の馬よりも負担は大きいと思います。ただ、分かりやすいのですよ。ダメージが出た場合はすぐに体に現れますからね。

-:ニュージーランドTは感冒で取り消されましたね。

尚:あれはあれで良かったと思います。まあ1回使えなかった分、ダービーに使えるという考え方もできますからね。



-:未知の魅力があるということですね。

尚:そうですね。未知な部分が多いですからね。ダービーでどのような結果が出るか楽しみですね。

-:今後の成長面という意味ではゴールドシップ以上に楽しみなのではないでしょうか?

尚:まあ、それぞれタイプが違いますからね。ゆくゆくはこのダービーだけでなく、G1戦線でもお互い切磋琢磨してもらいたいですね。

-:それでは、ジャスタウェイのファンに一言お願いします。

尚:まあ、皆さまもご存じのように、アニメ「銀魂」の脚本家の大和屋さんの馬で、ジャスタウェイというのはその中に出てくるキャラクターの名前が由来です。馴染みのある馬名なので、競馬ファンのみならず、マンガ・アニメファンにも競馬の魅力と感動を味わっていただく、いいキッカケになると思いますし、とにかく無事に本番を迎えたいというのが、僕の最大限の望みです。レースはジョッキーに任せますので、そこまで無事にケアしていきたいと思います。

(取材・写真)高橋章夫


【須貝 尚介】 Naosuke Sugai

1966年滋賀県出身。
08年に調教師免許を取得。
09年に厩舎開業。
JRA通算成績は81勝(12/5/20現在)
初出走:
09年3月8日 1回阪神4日目7R ワーキングウーマン(11着)
初勝利:
09年3月14日 1回阪神5日目7R ホッコーワンマン


■重賞勝利
・12年 皐月賞/12年 共同通信杯(共にゴールドシップ号)
・12年 アーリントンC(ジャスタウェイ号)


父は昨年で定年による引退を迎えた須貝彦三 元・調教師。自身は騎手として4163戦302勝。うち重賞は01年のファンタジーS(キタサンヒボタン)など4勝。 09年は年間10勝だったが、10年は25勝を挙げて飛躍。昨年も29勝をあげるなど、一躍、関西のトップステーブルにのし上がった。今年はゴールドシップとジャスタウェイで重賞2勝をおさめ、遂には皐月賞を制覇。押しも押されぬ注目厩舎の一つとなっている。
「トレセンLIVE!」でコラムを掲載している榎本優也調教助手が在籍していることでも、競馬ラボではお馴染み。