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池江泰寿調教師

池江泰寿調教師


昨年はこの宝塚記念で5頭出しの大攻勢を懸けた池江泰寿厩舎だが、本年もオルフェーヴル・トゥザグローリー・マウントシャスタという強烈なラインナップを送り込んでくる。まさに「池江厩舎のジャッジを制する者が馬券を制す」といった様相だが、今回は池江泰寿調教師自らが3騎のポイントについて答えてくれた。ファンのためにありのままを話すことをモットーとする師の発言にご注目いただきたい。


ファン投票1位、日本競馬の至宝オルフェーヴル


-:宝塚記念に出走する4頭について聞かせてください。まずはオルフェーヴルからお願いします。前走の天皇賞(春)の敗因についてはどのようにお考えでしょうか?

池江泰寿調教師:そうですね、理由はひとつだけではなかったように思います。位置取りが悪かったとか、メンコをしていたとか、調教再審査で負担が掛かったとか、馬場が向かなかったとか、展開に泣かされたとか、色々な要素が複雑に絡み合っているという感じですね。レース後すぐに明確な敗因を答えられるような単純な問題ではなかったです。こちらも敗因がすぐに答えられたら楽だったのですけどね……。例えば、メンコが影響したなら外せば良いだけのことですからね。う~ん、色々なことが絡み合っていて難しかったですね。正直今でも手探りの状態で、これが明確な敗因だという理由を突きとめられていないのですよ。もちろん、みんなで意見を出し合って精査はしていますけどね。

-:天皇賞(春)の日は多くのお客さんが足を運んで、オルフェーヴルの敗戦にショックを受けたと思いますが、先生もショック受けたのではと思います。

池:まあ、あれだけ支持していただいた訳ですから。でも、決して状態が悪かった訳ではないのですよ。確かに調教再審査のため、ダートコースでの調教を強いられて、段々、前捌きが硬くなって、コズミもでて、調教中に躓くこともありました。あの馬にはあり得ないことですからね。下痢もしていましたし、内臓にも相当ストレスが掛かっていたのでしょう。それでも調教は動いたのでね。タイムや動きは決して悪くなかったですから。ベストの状態ではないけれど、競馬に行けばキッチリ走ってくれると思ったのですが……。

-:複雑なことが絡んだと思いますが、競走馬が負ける時は、肉体面に限らず、精神面でのダメージはあったと思います。

池:確かにありますね。例えば、体に違和感があったり、馬場が硬かったり、重馬場で下が緩かったり、道中モマれて他馬との接触があったりとか、何かひとつの原因によっても力を発揮できなくなってしまう馬もいます。逆に歯を食いしばって、逆境にめげず、闘争心に火がつく馬もいますからね。ひょっとしてオルフェーヴルの場合、体の違和感とか、馬場が硬くて合わないと感じたら、レースを投げてしまうところがあるのかも知れませんね。兄弟もそういうところがありましたから…。悪い癖が出たのかな。まあ、返し馬が全然良い頃とは違いましたからね。

-:あの時の京都開催は異常に馬場が硬くて、その影響か、天皇賞出走馬にも故障馬が続出していましたね。

池:多かったですね。ウチのトーセンジョーダンも脚元(左前脚球節炎)を痛めましたからね。あの馬は裂蹄で2回休んでいるのですが、脚元はすごくキレイな馬だったので、負担が掛かったというのが信じられなかったぐらいです。ジャガーメイルの堀調教師も「あの馬が骨折(左第1指骨剥離骨折)するなんてありえない」と言っていました。屈腱炎を発症した馬(ナムラクレセント)や腱に負担が掛かった馬(フェイトフルウォー)、報道では出ていませんが、歩行検査をした馬や体調を崩した馬なんかもいました。

-:気持ちの面でいえば、阪神大賞典で逸走しながらもレースを投げずに2着まで盛り返した内容を見る限り、精神的に脆いタイプには見えなかったのですが。

池:う~ん、阪神大賞典の時は体に違和感はなかったですから。僕がさっき精神的に競馬を投げ出すと言ったのは、馬場が合わなかったということと体に違和感があって体調が今ひとつだったということで、接触があったとか、逸走してちょっと強引な競馬になったということとは別なのですよ。オルフェーヴルは道悪とか接触に関しては踏ん張ってくれた馬なのです。ただ、硬い馬場というのは別の問題ですし、コズミが出てそれを気にしたのかも知れないということもそうです。だけど馬場がどのような状態であれ、もしかしたら走らなかったかも知れません。レースに行く前から闘争心のようなものがなくなっていたし、魂が抜けているような感じもありましたので……。

-:悔しい一戦だったと思いますが、先生の目から見て立ち直りの兆しは窺えるでしょうか?

池:まず、馬体ですが、これは数字ではなくて、筋肉の張りとかボリュームが徐々に良くなっていますし、前捌きの硬さはよくとれて違和感ない状態に戻っています。強いて言えばトモの筋肉量が戻って、踏み込みと蹴っ張りが良くなれば……。僕が一番フィジカルの面で引っ掛かっているのはその点です。その部分が完全でないというか戻っていないですね。あとは気持ちですね。まだこの馬本来のギラギラした感じが戻っていないです。それでも天皇賞前に比べると調教でも、前の馬を抜かそうという気持ちは出てきていますが、もっと荒々しいところがあった馬ですからね。



-:今の阪神は若干、硬めの馬場だと思いますが、馬場は柔らかい方が理想的ですか?

池:硬いのは気掛かりですね。もうちょっと柔らかくなってくれた方が良いかな。でも、ダービーのようなあんまり酷い馬場も困りますけどね。脚質的に道悪は不利ですからね。やや重ぐらいまででレースを迎えられれば良いですね。

-:JRAの馬場というのは、通常が硬い傾向にありますからね。

池:この春は馬場の硬さが顕著でしたからね。(京都開催は)異常でしたね。僕が今まで経験したことがない馬場の硬さでした。どう捉えているのでしょうね。反省とまでは言わないですけど、見直そうと思っている人がいるのかどうか……。

-:馬が故障してしまうとファン離れにも繋がりますからね。

池:そういう危機感を持っている人がいるのかどうか。手直しをしてくれるのかどうか。僕たちはどうしようもないのでね。馬場の状態に関してはイジれないですから……。

-:天皇賞(春)や安田記念を見ていると、タイムが出過ぎていて怖くなる……。

池:怖いですね。そういう馬場であるということは分かっている訳ですから。例えば海外だと散水しますし、売り上げが下がって、予算が減っているとは言え、競走馬というのは競馬にとって財産ですから。少々そういうところでお金が掛かっても、ファンを定着させるには必要な経費ですよね。逆に削れる経費はドンドン削っていけば良いのですよ。特にG1に出てくる馬というのは財産ですから。そのあたりをどういう風に捉えているのか……。


「昨年の三冠や、秋3戦のコンディションであれば、はっきり言ってこの馬に勝てる馬は世界中どこにもいないでしょうね。それだけは断言できます!」


-:ファンがパドックを見た時にオルフェーヴルがどこまで良くなっているか、ジャッジできるポイントを教えて下さい。

池:まず毛艶ですね。内臓とリンクしていますからね。競馬週刊誌なんかの誌上パドックを見比べて下さい。写真は西日や天候の関係で毛艶が分かりにくい面もありますが……。あとはトモのボリュームですね。横からでは分かりにくいので後ろから見て下さい。70~80キロ違うトゥザグローリーのような大きい馬は別として、この馬のサイズでは一番、大きいと思います。トモの上の部分の膨らみ、内股の膨らみですね。パドックで目の前を過ぎ去っていく後ろ姿を見て判断して下さい。

あと軟便(下痢)をしていると、ストレスを抱えていると判断できます。厩舎を出て装鞍所までに下痢をした場合は手入れをしていなければ下痢の跡が尾っぽや後ろ脚などに付いていることもあります。そこを見て体調面を判断してください。気持ちの面では、二人曳きでスタッフをグイグイ引っ張るような力強い仕草を見せているかどうかも参考になります。一番重要なのは“輝きがあるかどうか”ですね。王者の雰囲気ですね。天皇賞(春)の時はなかったですから……。当日そのような状態にどこまで持っていけるかですね。僕やスタッフの感触では去年の菊花賞、有馬など良い頃の7割の状態にはもっていけると考えています。その状態でどこまで勝負できるかですね。




-:オルフェーヴルを応援してくれているファンにメッセージをお願いします。

池:阪神大賞典と天皇賞(春)では皆様の期待を裏切ったにもかかわらず、ファン投票で1位に支持していただいて本当に有難うございます。正直なところ、昨年の3冠レース、有馬記念の状態には戻っていません。現状におけるベストの状態に持っていこうと僕もスタッフも池添ジョッキーも必死でやっています。勝負事なので僕たちは勝つことを目標に、昨年の強いオルフェーヴルをお見せすることが使命だと思ってやっていますが、ただ、去年とは違うということもご理解いただきたいと思います。その中でベストを尽くそうとしているところを応援していただければと思います。

まあ、昨年の三冠や、秋3戦のコンディションであれば、はっきり言ってこの馬に勝てる馬は世界中どこにもいないでしょうね。それだけは断言できます!それだけの馬だからこそ何とかしたいのです。変な状態では出せないのかもしれないし、今回も本当は出したらいけないのかも知れないけれど、立ち向かっていかないとダメなのです。勝つのは難しいかもしれませんが、ファン投票でも1位に支持されていますし、今出来る最善を尽くして出走させたいと思っています。


-:もう一つ大きいオルフェーヴルになるためのステップになるかもしれませんからね。

池:そうです。例えば病的な故障がある、骨折するかもしれない、腱がおかしい、靭帯がおかしいという状態であれば、この馬は日本競馬界の宝ですので絶対に使わないです。コンディションが戻ってきている途中で完璧ではないけれど、ファン投票で1位に選ばれている訳ですし、この状態の中でベストを尽くして、ファンの皆様の期待に応えたいですね。

-:それは管理されている先生や、担当されているスタッフにしかわからないことだと思いますけれど、一番いい時を知っている先生だからこそ、そう感じるわけですね。

池:そうです!こんなもんじゃないという気持ちがありますからね。

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【池江 泰寿】Yasutoshi Ikee

1969年滋賀県出身。
2003年に調教師免許を取得。
2004年に厩舎開業。
JRA通算成績は305勝(12/6/17現在)
【初出走で初勝利】
04年3月20日 1回阪神7日目5R ソニックサーパス(1着/14頭)


■最近の主な重賞勝利
・11年 有馬記念/菊花賞/日本ダービー/皐月賞(共にオルフェーヴル号)
・12年 エプソムカップ(トーセンレーヴ号)
・12年 鳴尾記念/日経新春杯(共にトゥザグローリー号)
・12年 京都新聞杯(トーセンホマレボシ号)
・12年 京都記念(トレイルブレイザー号)
・12年 きさらぎ賞(ワールドエース号)


惜しまれつつ定年により引退した池江泰郎元調教師を父に持ち、武豊騎手とは同級生であり幼馴染でもある。開業3年目の06年にドリームジャーニー号で朝日杯FSを制しG1初制覇。同年に最高勝率調教師賞を受賞し、さらに08年には最多勝利調教師賞も受賞。多数の名だたるオープン馬を育て上げ、もはや知らぬ者などいない誰もが認める調教師の一人。昨年はオルフェーヴルで牡馬クラシック三冠を達成。所属馬のレベルは競馬界の銀河系軍団ともいうべき押しも押されるトップステーブル。今年は有力馬3頭出しで宝塚記念を盛り上げる。