関係者の素顔に迫るインタビューを競馬ラボがオリジナルで独占掲載中!

甲斐純也調教助手

弥生賞は4番人気で単勝オッズ9.8倍だったワンアンドオンリー。恐らくかなりのファンがラジオNIKKEI杯2歳Sの勝利をフロック視していたに違いないが、戦前の甲斐純也調教助手の自信に間違いはなく、単勝オッズ1.6倍のトゥザワールドにハナ差まで迫った。これにより俄然注目を集めることになる皐月賞だが、逆転に繋がる中間の上昇度などを今回も聞かせてもらった。

弥生賞は4センチ差の2着

-:弥生賞前にも取材をさせていただいたワンアンドオンリー(牡3、栗東・橋口厩舎)ですが、戦前の自信通り、あわや勝ったかというレースとなりました。悔しかったことと思いますが、いかがでしたか?

甲斐純也調教助手:いや、よく頑張ってくれたと思いますよ。

-:レースを見て“まさかトゥザワールドより後ろにいるとは”とびっくりしました。あれはトライアルで試してみたということですか?

甲:ジョッキーも周りの動きを見ながら、相手をトゥザワールド1頭に絞っての騎乗をしたんじゃないでしょうか。

-:個人的には、おそらく皐月賞では先行すると思っていますが、タメたらどれだけキレるかを、本番と同じ競馬場で試してみたんじゃないかと見ています。

甲:それはあるかもしれませんね。同じ舞台、同じ距離ですから。


「中山の芝は重たいです。見た目よりタフだと思います。軟らかいというよりは、荒れている感じです。この子は、荒れた馬場を苦にせず走りますからね」


-:流れが速かった時に、後方からの競馬でどういう脚を使うかですが、最後はスパッとキレる感じではなくて、ガムシャラに走っている感じでした。本番では先行してくれたら、荒れた馬場ともマッチして、楽しみが増すんじゃないでしょうか?

甲:あんまり後ろ過ぎてもね。この間のことも生かして、積極的に乗るんじゃないでしょうか。

-:使える脚は大体分かったと思うので、楽しみな皐月賞ですね。

甲:ええ、そうですね。

-:弥生賞に限らず、中山の芝は適性がないと、実績馬でも苦しむじゃないですか。あの馬場の上を歩いた甲斐さんから見て、どのような馬場でしたか?

甲:重たいです。見た目よりタフだと思います。軟らかいというよりは、荒れている感じです。

-:そういう馬場で本番を迎えることに関しては、ワンアンドオンリーにとっては追い風ですよね?

甲:この子は、荒れた馬場を苦にせず走りますからね。

-:逆に、勝ったトゥザワールドなどの方が、苦手かな?というイメージもあります。パンパンの良馬場のほうがスパッと来そうですよね。



遅い時間の調教は橋口流の作戦?

-:皐月賞のド本命馬と一騎打ちを、弥生賞でしてしまったわけですけど、その他にも有力馬が出てきますし、頭数も増えるので、難しさはあると思います。水曜日(4/9)の追い切りについてですが、かなり入念に坂路の角馬場で行って、赤木助手に乗り替わって追い切られましたが、動きはどうでしたか?

甲:この子なりには良かったと思います。時計の出やすい馬場状態でしたけど、1週前としては十分です。

-:結構遅い時間帯でした。あの時間帯に走らせることに関して、何か狙いはあったんですか?

甲:ほぼ最後の時間帯でしたね。橋口先生の思惑はあったんじゃないですか。

-:開門直後の良い馬場ではないところで、動きを見たかったとか。

甲:いつもなら先生は絶対に馬場状態のいい時を選ぶので、珍しく昨日は遅い時間帯でした。1週前なので、負荷をかける意味合いがあったのかもしれません。

-:当日の朝に先生にお会いして、追い切り時間を聞いたら「後半ですよ」とポロッと言ったので、不思議に思いました。いい負荷をかけて、中山に連れていきたい意図があったのでしょうか。

甲:先生にとっては、悔いの残らない仕上げでいきたいですからね。



-:気になる馬体重ですが、前回は10キロ増えて484キロでした。今回はそれより少し減るでしょうか?

甲:いや、前走とそれほど変わらないくらいです。

-:これだけの調教をしていたら減りませんか?その分ちゃんと食べているということでしょうか。

甲:飼い葉も食べていますし、前走と調整はほぼ変わっていませんからね。コースも坂路も入念に乗ったりしていましたから、調整過程はほとんど一緒、何も変わらずきています。(久々だった)前走も、1週前はビッシリ追い切りして、それでプラス10キロでした。今回は大幅に減ることも、増えることもないですね。

-:昨日の馬体を見てみると、体のツヤが増していたので、ちょっとシャープになったように見えました。光り輝く毛ヅヤでしたね。

甲:状態に関しては、本当に不安はないです。

-:あの中山の馬場を走った後は、馬も疲れたんじゃないですか?

甲:それでも、この子はいつも通りでしたね。どのレースでも、どの競馬場でも、疲れ度は変わらないです。

-:逆に、今の中山は時計がかかるので、ある程度クッションも効くとは思いますが、脚には優しいですか?

甲:高速馬場に比べたら優しいかな。あまり時計が速すぎると、故障のリスクも増えますが、かといって馬場状態が悪いと、馬にも負担はくると思います。

-:この馬はどちらかといえば骨太なタイプで、パワーもありますよね。

甲:それで疲労度が変わらないのかも。



厩舎ゆかりのハーツクライ産駒

-:新馬戦が10番人気、2戦目の未勝利戦で2着に来た時が13番人気でした。その馬が、クラシックの舞台まで来るとは。これぐらいの人気の馬は、未勝利戦を勝つのがやっとだったり、勝てずに夏まで流れこんだりするパターンが多いですが、何が変わって、走るようになったのでしょう?

甲:使う度に、競馬を分かってきたのが大きいです。やっぱり初戦はどの馬でも、全く環境の違う場所に連れて行かれて、多少なりとも不安な気持ちになりますよね。特に新馬戦は小倉でしたから、阪神や京都と比べて何倍もの時間をかけて輸送して、一晩全く知らない馬房で過ごしますから、この子はそれに対応できず、興奮したまま新馬戦を迎えて、レース前にを馬っ気を出していました。パニックというか、落ち着ける状態の無い中での本番でしたからね。2戦目は、もう雰囲気も分かってきていました。

-:1戦で、そんなにすぐ分かるものなんですか?

甲:賢い子はね。あとは使う度に、どこで力を使うか分かるようになってきたから。

-:母の父がタイキシャトルということで、彼の血が入っている馬の中には、結構気性が激しいタイプもいますが、この子には、そういう面は伝わっていませんか?

甲:僕は血統に詳しくないけど、この子は大人しいですね。凄く大人しいわけではないし、ヤンチャな面も見せますけどね。

-:手が付けられないレベルではないですか。

甲:全然、問題無いです。


「来年は自分たちがドバイへ行こうと言っていましたよ」


-:父はハーツクライなので、来年、再来年はより一層走ってくれると思いますが、ハーツクライ×タイキシャトルは結構珍しいですよね。では、皐月賞本番に向けての調整は順調ですね。 (現時点で5頭。同世代はワンアンドオンリーのみ)

甲:ええ、すこぶる順調です。

-:先生にとっては、管理されていたハーツクライが父親ですし、ダービーに挑めるのはあと2回ですから「橋口先生にぜひともダービーを!」と願っているファンも多いですよね。

甲:先生の悲願ですし、それがハーツクライなら尚更良いですね。

-:先日、ドバイでジャスタウェイが優勝しましたが、レースの後に先生は「名誉を上げてくれてありがとう」と、須貝先生にメールしたらしいですよ。

甲:嬉しいでしょうね(笑)。「来年は自分たちが行こう」と言っていましたよ。

-:楽しみですが、そのためにも国内でのタイトルを獲らないといけませんね。今は輸送しても、寂しがったりはしませんか?

甲:全く無いです。輸送も問題ないし、特に不安はないです。



ライバルに逆転の手応えあり!

-:この馬に接する上で、他の馬と変えていることはありますか?ニンジンは細かく切っておられましたが。

甲:細かく切るのはレッドアリオン用ですね。この子は擦ってあげています。

-:何か理由はあるんですか?

甲:食べやすいかなと思って。

-:歯が強くなるとか、食感を楽しめるのは、塊のほうかと思いますけど。

甲:それは手であげています。飼い葉用には擦っています。

-:手間をかけているんですね。脱線してしまいましたが、ワンアンドオンリーの性格を一言でいえば、どんな感じですか?

甲:"マイペース"です。僕に似ているのかもしれません。



-:ちょっとボーッとしているところですか(笑)?

甲:ハハハ(笑)。あの子は全然慌てることもないし、普段の調教でも、周りが暴れていようが知らん顔です。でも、自分から暴れるときは暴れますからね。走っている最中でも、後ろから馬に抜かれても、カーッとなることもなく、マイペースに走っています。

-:本番で跨る横山典騎手にとっても、乗りやすい馬ですね。

甲:色々試していけると思います。本当に操縦がしやすいです。

-:おそらく、上位3頭の一角には入ってくると思いますが、手応えはありますか?

甲:みんなあるんじゃないですか(笑)?もちろん、僕もありますけどね。

-:その中で、ワンアンドオンリーが好走するための条件は何でしょうか?天候だったり。

甲:う~ん、特に希望はないかな。

-:弥生賞のハナ差は、もう1回対戦したら逆転できる可能性はあると。

甲:十分あります。この間、あまりにも大敗していたら強気なことは言えませんけど、勝ちに等しい内容の競馬をしてくれたし、次に繋がるレースでしたからね。



-:甲斐さんにプレッシャーがかかってくる部分もあると思います。

甲:僕は大丈夫ですよ。プレッシャーよりも、この前負けたのが悔しくて、次は絶対負かしてやろうって、更に強く思いました。

-:はじめの方で、悔しくなかったと言っていましたけど、やっぱり悔しかったんですね(笑)。

甲:あの4センチがね(笑)。何回見てもね……。まあ、これも競馬ですからね。仕方ないです。

-:皐月賞を勝てば「あのレースが生きた」と言えますから、楽しみですね。応援するファンも多いと思いますので、ファンの皆さんにメッセージをお願いします。

甲:いつも応援ありがとうございます。今回は、この間の悔しさを、4センチ差を逆転できるように頑張ってくれると思います。

-:楽しみなG1週、あと10日ほどですが頑張ってください。

甲:ありがとうございます。

弥生賞前・ワンアンドオンリーについてのインタビューはコチラ⇒



【甲斐 純也】Junya kai

幼少時代から競馬サークル内で過ごして自然と厩務員を目指した。池添、太宰騎手らとは幼稚園から一緒の同級生。亡き父も橋口弘次郎厩舎の厩務員で、ダイタクリーヴァや、オールドファンなら御存知のツルマルミマタオーなどを担当していた。アイネスフウジンが勝った年でツルマルミマタオーは橋口厩舎初のダービー出走馬。当時、自身はまだ小学5年生だった。「親父と一緒に馬運車に乗って行きましたよ。当時は土曜日も学校があったから休んで行っていました」。

18歳から4年間、岡山の栄進牧場で働いた後、栗東の野元厩舎に所属する。23歳でトレセンに入って2年目で出会ったのがエイシンデピュティ。野元厩舎解散後は縁もあって橋口厩舎に入る。仕事をする上で、いつも心がけている事は「馬は友達」という言葉。


【高橋 章夫】 Akio Takahashi

1968年、兵庫県西宮市生まれ。独学でモノクロ写真を撮りはじめ、写真事務所勤務を経て、97年にフリーカメラマンに。
栗東トレセンに通い始めて17年。『競馬ラボ』『競馬最強の法則』ほか、競馬以外にも雑誌、単行本で人物や料理撮影などを行なう。これまでに取材した騎手・調教師などのトレセン関係者は数百人に及び、栗東トレセンではその名を知らぬ者がいないほどの存在。取材者としては、異色の競馬観と知識を持ち、懇意にしている秋山真一郎騎手、川島信二騎手らとは、毎週のように競馬談義に花を咲かせている。
毎週、ファインダー越しに競走馬と騎手の機微を鋭く観察。馬の感情や個性を大事に競馬に向き合うことがポリシー。競走馬の顔を撮るのも趣味の一つ。

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