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井上泰平調教助手

ドバイの地で一年越しのリベンジを果たしたジェンティルドンナ。次なる目標は、昨年1番人気で3着に落とした宝塚記念だ。昨秋はJC連覇を達成したものの、圧倒的なパフォーマンスは影を潜めており、その後の京都記念は惨敗。しかし、今年は海外G1という勲章を手にした後、川田騎手とのコンビ復活も相まって、最強牝馬の完全復活に期待が懸かる。お馴染みの井上泰平調教助手に、改めて同馬の凄さを聞かせてもらった。

地力でもぎとったドバイの勝利

-:改めまして、ジェンティルドンナ(牝5、栗東・石坂厩舎)のドバイシーマクラシック優勝おめでとうございます。

井上泰平調教助手:有り難うございます。

-:凄いレースでしたね。

井:故障するんじゃないか、というくらい激しいレースでした。

-:ムーア騎手も内から出てくるのが得意な騎手ということで、ずっと内を狙っていたと思うのですが、開かず開かず、の状態でした。出した時には、時すでに遅しかと思ったのですが。

井:ああいう状況になって、そこから伸びてこられる馬はあまりいないと思います。京都記念が終わって、旬が過ぎた、みたいなことを色々と書かれていたのですが……。あの京都記念は本当に走らなさ過ぎて、原因は何かなと今では思います。

-:もともとジェンティルは、そんなに休み明けを走るタイプではないですよね。

井:叩いてからの方が調子を上げてくるタイプの馬です。

-:だからこそ、京都記念を使ってからドバイに行ったのですね。

井:あの負け方をしてどうなるのかな、と心配もしたのですが、きっちりと先生(石坂正調教師)の指示通りに仕事もできました。


「ジェンティルのデビューから今までの成績を、違う馬でもう一度やれと言われても、とてもできる気がしないです」


-:結果の上ではジャパンCも勝っていますが、勝ち方はあわや勝った、ようやく勝ったというような感じがしました。ジェンティルドンナの強さよりも、デニムアンドルビーの軽量3歳馬の切れ味の方が目立っていたと思います。それが、ドバイシーマCの勝ち方は地力でもぎとった勝利、という感じでした。

井:馬の精神状態も環境もいつもと違いましたし、それが競馬なのだと思います。そこで発揮できなかったら、力が足りなかったのだなと。去年はジェンティルも負けてしまいましたが、そこから色々な意味で揉まれて、精神的には強くなっていると思います。

-:ジェンティルも牝馬です。好調が崩れると戻らずに引退する馬も多い中で、ここまで使って、ドバイで揉まれて、2回目で勝ちました。それは凄いことですよね。

井:ジェンティルのデビューから今までの成績を、違う馬でもう一度やれと言われても、とてもできる気がしないです。

-:こんな馬はそうそうめぐり会えませんよね。今回は宝塚記念に出走します。昨年はドバイ帰りで結果が出ませんでしたが、今年の場合は心配しなくて大丈夫ですか?

井:今年の方が、ドバイから帰ってくる輸送にダメージがないです。輸送にも慣れたのか、帰ってきてから牧場でも凄く調子が良かったみたいです。元気が良かったと聞いています。

-:去年の宝塚記念3着というのは、そういう影響もあったのでしょうか?

井:それは分からないです。馬場が悪かったですし、突かれる形でマークされてしまい、しんどかったです。今年は折り合いもつくようになってきていますし、一時の引っ掛かる感じは解消されています。




ドバイでジェンティルドンナの調教をつける井上助手


川田騎手とオークス勝利以来のコンビ

-:馬体に関してですが、昨日の立ち写真の感じを見ると、京都記念や日本で走っていた頃と比べて、体重的にはちょっと減っていますか?

井:そうでもないですね。

-:シャープに研ぎ澄まされた、良い状態になっているということですか?

井:今回は速い時計をそんなに出していませんが、乗り込み量が豊富で、無駄な肉が落ちてきている部分はあると思います。細いということはないです。

-:数字的には今どれくらいですか?

井:484キロくらいです。レースでは470キロ後半くらいになるのではないでしょうか。

-:そうなると、心配は梅雨時期の馬場に尽きますね。

井:良馬場でやりたいとは思っています。

-:昨日(6/18)は坂路で51秒台という素晴らしい追い切りでした。川田騎手が乗っていましたが、併走馬は井上さんが乗られていたのですか?

井:そうです。クレスコモア(古馬500万)で併走しました。

-:あの追い切りを正面で見ていると、若干前が詰まり気味で、壁になっているのかな、という気がしました。正面から見ているからそう見えるだけで、スペースはあったのですか?

井:ええ、全然大丈夫でしたよ。





-:乗り終わった後の川田騎手のコメントはいかがでしたか?

井:「良かったですよ」と。逆にクレスコモアが凄く好調で「その馬も凄いですね」という感じでした。対等に走れていました。

-:最初から状態が良いと分かっていたから、ジェンティルの併走馬に選ばれたのですか?

井:ある程度、状態が良いとは分かっていたのですが、まさか51秒で行けるとは思っていませんでした。52秒ぐらいは出るのかな、という感じだったのですが、ついていけるかとは思っていたものの、意外でしたね。注目度の高い追い切りなので、時計を見たらファンの皆さんも分かるんじゃないですかね。

-:久しぶりの川田騎手になりますが、ジェンティルの変化や成長は伝わっていますか?

井:もともと調教が乗りやすい馬で、今回も乗りやすかったみたいです。

-:角馬場に行くようになったのは、いつからでしょうか?

井:京都記念の後ぐらいからです。今も行っていますよ。

-:そこでハッキングや、ウォーミングアップをしているのですね。それはジェンティルの成績に繋がるプラスポイントがあるのですか?

井:精神的に少し落ち着いた気がします。角馬場でも人間のいうことを凄くきいてくれる馬なので、調教での乗りやすさや精度は上がってきたと思います。前よりも乗り手の指示に忠実になりました。

ジェンティルドンナの井上泰平調教助手インタビュー(後半)
「狙ったレースを確実に使える強味」はコチラ⇒

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【井上 泰平】 Taihei Inoue

大阪府豊中市出身。9歳から乗馬を始め、高校時代に国体を優勝。必然の流れにより大学では馬術部に入る。卒業後は美浦分場に2年間勤務。アイルランドの研修などを挟んだ後に競馬学校へと進学し、中村均厩舎からトレセン生活をスタート。その後は開業直後の角居勝彦厩舎で調教主任を務め、大久保龍志厩舎では持ち乗りから攻め専に転身。後の名門厩舎の基盤を築く。
30年以上にわたる馬乗り人生の中で、現在モットーにしていることは「馬との信頼関係を築くこと。分かりあえたかなと思っても、また違うのかなとそれの繰り返し」と。石坂正厩舎の屋台骨を支えるベテラン調教助手。


【高橋 章夫】 Akio Takahashi

1968年、兵庫県西宮市生まれ。独学でモノクロ写真を撮りはじめ、写真事務所勤務を経て、97年にフリーカメラマンに。
栗東トレセンに通い始めて18年。『競馬ラボ』『競馬最強の法則』ほか、競馬以外にも雑誌、単行本で人物や料理撮影などを行なう。これまでに取材した騎手・調教師などのトレセン関係者は数百人に及び、栗東トレセンではその名を知らぬ者がいないほどの存在。取材者としては、異色の競馬観と知識を持ち、懇意にしている秋山真一郎騎手、川島信二騎手らとは、毎週のように競馬談義に花を咲かせている。
毎週、ファインダー越しに競走馬と騎手の機微を鋭く観察。馬の感情や個性を大事に競馬に向き合うことがポリシー。競走馬の顔を撮るのも趣味の一つ。

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