関係者の素顔に迫るインタビューを競馬ラボがオリジナルで独占掲載中!

井上泰平調教助手

狙ったレースを確実に使える強味

-:ドバイでは熱発していたと聞きました。

井:半日ほどしていました。

-:それでも勝てるのですね。

井:こっちはドキドキしますけどね(笑)。すぐに治まってくれたので、調教に支障はなかったです。

-:そこからあれだけ走った後は、相当疲れそうです。バタっときませんでしたか?

井:脚がむくんだりもしないし、ケロッとしていました。何もなかったです。

-:帰厩直後、担当の日迫助手に「脚は大丈夫なんですか?」と言ったら、ケロっとして「何もないよ」と。レースを見たら直角に曲がったりしていました。ジェンティルはあまりトビも大きくないですし、中距離クラスを走るフットワークじゃないと思っていました。なので、どちらかと言えば、マイルなどで強さを発揮するかと思っていましたよ。そのフットワークの良さで、ああいう小脚を使ったステップで出てきました。

井:体幹が強いんでしょうね。普通ならもっとグニャっとなりそうですが、キュっと曲がれますからね。ボディーバランスが凄く良いのだと思います。

-:天性のものがありますよね。どちらかというと、お姉さんのドナウブルーの方が柔らかさがありますよね。

井:あっちの方がしなやかですよね。ドナウはあそこで怯んじゃうタイプですけど。

-:ジェンティルは闘志剥き出しの女なんですね。

井:そうですね。そういうラフプレーの中で走るのが強いですよね。体も大きいですし、気も強いですから。


ジェンティルドンナと担当の日迫調教助手


-:良い意味で体調が変わらないですよね。

井:狙ったレースを全部使えている馬はたぶんいないでしょう。何かおかしくなって回避するとかはよくあるのですが、ジェンティルみたいに描いた青写真の通りに使って行けているというのは、凄いことだと思います。

-:昨日もプリンスオブウェールズSというレースに凱旋門賞を勝ったトレヴが出ていたのですが、そこで勝ったのがザフューグという順調に使えていた馬が勝ちました。ザフューグもドバイでジャスタウェイが勝ったレース(ドバイデューティーフリー)に出ていました。トップクラスの順調に使えている馬は、疲れを心配しますが、結局はビッグタイトルをモノにしていきますね。

井:予定通りに出走できるというのは、その馬が持っている強さだと思います。

-:どうして、あの馬は季節や状況に負けずに、同じパフォーマンスを維持できるのですか?

井:賢いからじゃないですか。余計なことをあまりしませんし、行きたがったりもしません。指示通りに何でも調教をこなせるところが、故障をちょっとでも回避していける要素かなと思います。日迫助手も一生懸命ケアしていますからね。

-:あとは天気ですね。テルテル坊主でもつくりますか(笑)。

井:ジェンティルだけがタイムが落ちるわけではないんですけどね。雨が降ったらみんなタイムが落ちます。馬場が良ければ大丈夫ですね。

世界の名手も認めるコンディション

-:相手で言えば、メイショウマンボと初顔合わせになります。ジェンティルにとってはどの馬が相手とか、ライバルかとかは考えていられないでしょうが、ファンからしたら、昨年の最優秀3歳牝馬と、日本を代表するトップクラスの牝馬とが対決するというところに注目しています。お姉さんとしては負けられないですね。

井:どんどん下から元気な馬が上がってくるので、負けないように一戦ずつ頑張りたいと思います。

-:トップクラスの馬に、どの競馬場の成績だとか言っていられないですが、左回りの方がパフォーマンスが高そうなイメージがあります。それはなぜでしょうか?

井:分からないですねえ。普段はどっち回りの馬場でも同じなんですよ。

-:競走馬の限界で走っているところですかね。このレースは川田騎手にとっても、久しぶりのオークス以来ですね。

井:勝率は100%です(笑)。100%男は日本人騎手では川田騎手だけです。



-:ちなみに、ドバイが終わった後、ムーア騎手は褒めてくれましたか?

井:凄く喜んでいましたし、記者会見のコメントも良い内容でした。

-:思い返すと、ジャパンCを勝った後、「世界に行ってどうですか?」という質問をされて、「かなり厳しい」という辛口のコメントをされていた人だけに、あの時よりもコンディションが上がったということですかね。

井:感じは凄く良かったみたいです。

-:梅雨時ですが、強い馬は色々なものを持っています。もしかしたら、快晴の宝塚になるかもしれません。

井:普段の行いを良くしておこうかと思っています(笑)。神頼みです。

-:来週、また最終追い切り後に聞きに行かせてもらいます。有り難うございました。

●井上泰平調教助手インタビュー(前半)はコチラ⇒

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●ドバイシーマC前・ジェンティルドンナについてのインタビューはコチラ⇒



【井上 泰平】 Taihei Inoue

大阪府豊中市出身。9歳から乗馬を始め、高校時代に国体を優勝。必然の流れにより大学では馬術部に入る。卒業後は美浦分場に2年間勤務。アイルランドの研修などを挟んだ後に競馬学校へと進学し、中村均厩舎からトレセン生活をスタート。その後は開業直後の角居勝彦厩舎で調教主任を務め、大久保龍志厩舎では持ち乗りから攻め専に転身。後の名門厩舎の基盤を築く。
30年以上にわたる馬乗り人生の中で、現在モットーにしていることは「馬との信頼関係を築くこと。分かりあえたかなと思っても、また違うのかなとそれの繰り返し」と。石坂正厩舎の屋台骨を支えるベテラン調教助手。


【高橋 章夫】 Akio Takahashi

1968年、兵庫県西宮市生まれ。独学でモノクロ写真を撮りはじめ、写真事務所勤務を経て、97年にフリーカメラマンに。
栗東トレセンに通い始めて18年。『競馬ラボ』『競馬最強の法則』ほか、競馬以外にも雑誌、単行本で人物や料理撮影などを行なう。これまでに取材した騎手・調教師などのトレセン関係者は数百人に及び、栗東トレセンではその名を知らぬ者がいないほどの存在。取材者としては、異色の競馬観と知識を持ち、懇意にしている秋山真一郎騎手、川島信二騎手らとは、毎週のように競馬談義に花を咲かせている。
毎週、ファインダー越しに競走馬と騎手の機微を鋭く観察。馬の感情や個性を大事に競馬に向き合うことがポリシー。競走馬の顔を撮るのも趣味の一つ。

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