関係者の素顔に迫るインタビューを競馬ラボがオリジナルで独占掲載中!

田所純調教助手

かつては桜花賞で1番人気に支持されたクロフネサプライズ(牝4、栗東・田所厩舎)。オークスでの骨折から復帰後は輝きを取り戻せずにいるが、長期休養明けとハナを切れなかったG1を思えば情状酌量の余地はあり。その敗因を見定めるためにも、今回の中京記念は重要な一戦となる。ひと際目立つ芦毛の逃げ馬のパフォーマンスと今後の展望について、田所純調教助手が包み隠さずロングインタビューで応えてくれた。

《関連リンク》 クロフネサプライズ PHOTOパドック


逃げられずに大敗したヴィクトリアM

-:サマーマイルシリーズの中京記念を予定しているクロフネサプライズ(牝4、栗東・田所秀厩舎)について聞かせてください。ヴィクトリアマイルは先行馬に有利な馬場で楽しみにしていましたが、スタートしてすぐの競り合いで主張しませんでしたね。

田所純調教助手:枠も良かったですし、あそこで行けていたら、と誰もが言いますね。柴山ジョッキーがちょっと構えていた、みたいなことも言っていました。返し馬で引っ掛かっていたので、行く馬もいないだろうと、ゲートを出てグッと持っていました。気付いた時にはヴィルシーナが来ていたので、行くのを控えたのでしょうね。

-:そこでは引かざるを得なかったのですね。一般のファンは、ヴィルシーナの競馬をクロフネサプライズがするのだと思って、馬券検討をしていたと思います。

田:もう一頭の逃げ馬がいましたが、向こうは逃げないでも良い、という話でしたし、内枠が当たったので行けるな、と僕も色気を感じていました。もしかしたら一発もある、と思っていたのです。



-:この馬の良さに驚いたのは、阪神JFの時の粘りでした。こんなにスタミナがあったんだなと思ったので、それがああいうところで出たら、人気以上に走れると思っていましたが、けっこう穴人気というか、注目を集めていましたね。しかし、14着という残念な結果でした。

田:阪神牝馬Sでは休み明けであれだけ走れたので、逃げて持ち味を見せる競馬をしてくれました。最後は後ろから流れてきましたが、1年振りの休み明けにしては状態は良いんじゃないか、という感じでした。でも、周りに他の馬がいるとムキになってケンカしちゃうんですよね。

しかし、阪神JFの時はびっくりましたね。攻め馬が違ったんです。前までは引っ掛からなかったのに、帰ってきて乗ったら、相当引っ掛かっていました。これで良くなっているのかな、と思っていたら、激走しました。次のチューリップ賞を勝ったので、変わったのだなと。決定的に変化しましたね。


-:阪神JFの時はバッチリ嵌まって、大味な競馬でも渋太さが出ていました。繊細さはどの馬にもありますし、この馬が特別に繊細だというイメージはありません。

田:正直、先行してあそこまで負けるとは思いませんでした。



坂路や返し馬のおろし方を工夫

-:調教パターンもヴィクトリアマイル以降は変えているのですか?

田:競馬に行くとグッとなるので、落ち着かせたいのです。諦めてしまえばいいのですが、それまでにせめてやれることがあれば、と馬場に入って、そのままキャンターに行かず、50mくらい並足したりしています。

-:返し馬に共通するか分かりませんが、この前のワールドカップでも、両国の選手が子供と一緒にピッチに出てきました。日本のコートジボワール戦でも、コートジボワールの選手は子供をあやしながら出てきましたが、日本の選手はけっこうイレ込んでいました。勝負気配が非常にある感じで、気合が乗りすぎているな、と感じたのです。あそこで50mでも並足ができてくれていたら、もっとリラックスしてサッカーができたかも知れないですよね。

田:確かに、そんな感じはありますよね。それで、円陣の時にビッと切り替えたら、という理想はありますね。

-:馬が特別じゃなく、どのスポーツでも消耗するだけじゃなく、自分を追い込むことも必要ですが、落ち着きも必要かなと。

田:落ち着かせることも大事ですよね。

-:それに、世界のトップストライカーはゴール前で余裕がありますよね。あそこでフルショットする選手なんていなくて、切り替えしてポンっとやらしいですよね。

田:コロンビア戦のハメス・ロドリゲスみたいなシュートですよね。あれは流石だなと思いました。あれは日本人にはできないですよね。

-:遊び心がないですよね。

田:余裕がないからですよね。そういうのも大事ですよね。


「最初の若い頃は、ガッと行ってしまえば競馬ができていましたが、ある程度の古馬とやるようになってきたら、それだけじゃ厳しいですよね。何とか持ち前の気合を利用したいです」


-:それをクロフネサプライズに注入していかないといけないですね。

田:坂路に行くと、本当に(一気に)駆け上がってしまうので、時計に出ないように抑えるだけでした。今は馬場に出て歩いて、キャンターに行く時にスッと下に落ちておろすのです。直線を向くとガッとなってくるのですが、その距離を少しずつ広げていければ良いのです。今はそれを僅かながらもやっていこうと思っていて、良くなっている段階ですね。

-:レースの時には、それを一気に忘れてしまう高ぶったテンションになります。反復練習で、そういうパターンを体に染み込ませるようにして、この先の走りに生かせれば、ですね。カレンブラックヒルなどは、返し馬から飛んで行った時の成績が良いのですよね。逆にジョッキーが手綱を置けるような時は負けてしまう。落ち着いているのか、抜けているのかの違いだと思います。クロフネサプライズの場合は、気合も乗りつつ、コントロールしたいですね。

田:その気合を上手いこと利用して欲しいですよね。

-:僕らが思っている以上に、クロフネサプライズは消耗しているということですか?

田:そうだと思います。最初の若い頃は、ガッと行ってしまえば競馬ができていましたが、ある程度の古馬とやるようになってきたら、それだけじゃ厳しいですよね。そこを何とか、利用したいです。

-:女馬にしては体もありますよね。乗った感じはどんな馬なのですか。硬さなどはありますか?

田:馬格はきわめて良いですよね。乗り味はけっこう柔らかいです。それに、良いキャンターをします。トビが大きいので、グングン持って行かれますね。それでいて、スピードに乗ってこられたら、こちらはキツいですね。

-:札幌に行ったら面白いのではありませんか?

田:滞在すれば、落ち着いて調教もできる上に、良い条件とは思います。

-:洋芝もこの馬のパワーがあれば、他の馬が気にする分、プラスになりますよね。

田:合うと思います。

-:見ていると、芝馬とダート馬の中間みたいな特徴があります。それが上手く生かせる舞台で使ってあげたいですね。

田:札幌の芝は一番良いと思いますね。

クロフネサプライズの田所純調教助手インタビュー(後半)
「左回り適性を見極めるための中京記念」はコチラ⇒

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【田所 純】 Atsushi Tadokoro

田所秀孝調教師の次男。幼少の頃は競馬に関心がなく、騎手として活躍していた父の印象については、「当時はあまり凄いとは思わなかった。今思えば、よく重賞を勝っていましたよね」と振り返る。
学生時代はサッカーに明け暮れるも、大学卒業後に競馬の世界を志す。乗馬経験すらなかったが、ケガを負いながらも馬事公苑に通い続け、競馬学校に入学。修了後は田所厩舎で勤務。
調教助手生活3年目、「父と息子」「調教師と従業員」と、両面の関係を上手に築きながら、親子鷹で高みを目指す日々を過ごしている。


【高橋 章夫】 Akio Takahashi

1968年、兵庫県西宮市生まれ。独学でモノクロ写真を撮りはじめ、写真事務所勤務を経て、97年にフリーカメラマンに。
栗東トレセンに通い始めて18年。『競馬ラボ』『競馬最強の法則』ほか、競馬以外にも雑誌、単行本で人物や料理撮影などを行なう。これまでに取材した騎手・調教師などのトレセン関係者は数百人に及び、栗東トレセンではその名を知らぬ者がいないほどの存在。取材者としては、異色の競馬観と知識を持ち、懇意にしている秋山真一郎騎手、川島信二騎手らとは、毎週のように競馬談義に花を咲かせている。
毎週、ファインダー越しに競走馬と騎手の機微を鋭く観察。馬の感情や個性を大事に競馬に向き合うことがポリシー。競走馬の顔を撮るのも趣味の一つ。

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