関係者の素顔に迫るインタビューを競馬ラボがオリジナルで独占掲載中!

田所純調教助手

左回り適性を見極めるための中京記念

-:課題としては左回りもありますか?

田:あるかもしれません。今までは考えたことがなかったのですが、阪神牝馬Sであれだけの走りができたので、東京でももう少し頑張れて良い、という思いはありますね。

-:長期明けから、ひと叩きの上積みが期待された割には、でしたものね……。右回りの方がパフォーマンスが高いのでしょうか?

田:最近、薄々思っています。今回、中京を使ってみて、良い結果が出れば関係ないと思うのですが、あれだけ負けると思っていなかったので。オークスは骨折していましたが、前走はもう少しできても、と思っていましたからね。

-:怪我した箇所と左回りは関係あると思われますか?

田:左膝ですが、どうですかね……。オークスで骨折した後に、地下馬道でユタカさん(武豊騎手)と会った時に「直線向いた時にグッときたんやわ。オッと思ったが、その割には伸びへんかった」と言っていたので、もし、骨折してなければ、ヴィクトリアマイルでももう少しやれていたのかなと。最近は昔より幾らかセーブして走っている気がしますからね。

-:怪我をして、伸ばし切らないところが、馬自身にあるのかもしれませんね。

田:そうかもしれません。(コース調教が)左回りの日曜日に“15-15”を乗って、一番大事な3、4コーナーのところでフッと抜けて、そのまま行っちゃう感じでした。水曜の追い切りに佐久間騎手に乗ってもらった時も、「坂路の普通のところで乗った時もしんどい思いをしているから、4コーナーのあたりで、来るか来るかと思っていたら、そんなに来なかった」と言っていました。今日も普通のところを僕が乗ったのですが、先週にビシッと乗って、ちょっと気合が乗っている気がしました。いつもよりグッときていましたよ。

-:ここを使って、もしも、結果が芳しくなかったら、右回りに徹した方がいいかもしれないわけですね。

田:もうちょっとやれても良いと思うのですが……。

-:まだまだやれると思います。あとは人間があの馬の特徴に合う舞台をセッティングしてあげることですね。ただの早熟馬じゃないですよね。

田:そういうタイプではないですね。むしろ、ここからタイトルを重ねても良いと思います。


「チューリップ賞の時のユタカさんの乗り方がベストだったと思います。馬と上手くコンタクトを取って、その分、あれだけ離して直線で残っていました。あれが理想だと思います」


-:現状の見立てではどこを狙いますか?

田:まだ決まってないです。予定ではサマーマイルで中京記念から関屋記念です。中京を使って、あまりにも酷い負け方をしたら、北の大地に行った方がいいかもしれませんね。使って負けて、を繰り返していたら、賞金も足りず、使いたいところに使えなくなってきますからね。

-:この夏にどこかで賞金を加算しておかないといけないですね。結果が出ている右回りに頼った方が良さそうですよね。

田:(右回りは)休み明けで最低が8着ですからね。

-:この馬が、他の馬を気にすることを考えたら、先行馬だとしても、大外枠とか、外枠の方がリラックスした走りができるかもしれないですね。

田:チューリップ賞の時のユタカさんの乗り方がベストだったと思います。馬と上手くコンタクトを取って、その分、あれだけ離して直線で残っていました。あれが理想だと思います。

-:1600mでそれができるなら、申し分ないですよね。

田:あの時も行く馬がいたら行かせて、という感じだったらしいですが、誰も行かないので、そのままスーっと行けました。引っ掛かりながら構えてしまうと、引っ掛かってしまうのですが、いざ、行かせてみたら、上手いこと行くのじゃないかと。多少、ハイペースになっても、踏ん張れる力があると思います。

-:馬の精神的にも良いですよね。

田:その方が先で引っ掛からなくなると思います。ガーっと行って、ケンカしてケンカして、で終わってしまうと、また次もケンカしそうなので、一回パッと(ハミを)くれて、行かせてしまえば、それでコントロールできる気がします。

-:返し馬でできないことは、レースでもできないですよね。

田:そうですよ。あの時はユタカさんが上手く乗ってくれましたから。



-:ユタカさんはソフトで、柴山さんはガッツリしたイメージがあります。阪神JFも柴山さんでしたね。(今回は柴山雄一騎手の予定)

田:柴山さんもガッツリ抑えられるので、良い相性だと思うのですが、クロフネでは抑え過ぎて、裏目に出てしまわないかな、と心配になる時もあります。

-:この前の七夕賞を勝ったメイショウナルトもずっと引っ掛かっていましたが、追い切りは速い時計が出ていました。状態も悪くないものの、結果が出ず、レースで止めてしまう、という走りばかりをしていましたが、引っ張らないでいったら勝ちましたね。

田:ああいう引っ掛かる馬って、行かせると意外と大丈夫だったりするのでしょうね。トウケイヘイローも攻め馬で引っ掛かる馬でした。それでも、逃げてハナに行って、ユタカさんの上手さが出ましたね。

-:その活路を見出せるか、試金石の中京記念になりますね。

田:中京記念を使って、左回りがどうなのか、逃げた時にどこまで粘れるか、というポイントですね。ヴィクトリアマイルで逃げず、逃げれば良かった、という結果で終わっているので、僕の考えでは柴山さんも絶対に行かせると思います。

-:そこで左回りが大きなプラスαとして立ちはだかりますね。

田:左回りで逃げてダメだったら、右回りで同じ競馬をしてみようと。結果が出たら右回りの方が良いな、という結論になると思います。それでも、今回こそ良いところを見せたいです。乗っていて、左回りの3、4コーナーで(ハミが)抜けるんです。右回りで行っても、同じ場所で、テンが抜けるんです。だから、右回りの方が勝負所でグッとくるのですが、左回りだと、そこで抜けちゃうんです。

-:クロフネサプライズが抜けるところは、森が近いです。逆にしっかり走れるところはオープンです。馬って警戒するので、何か潜んでいるんじゃないか、という気持ち悪さがあるかもしれないですね。

田:そんなこともあるのですかね。中京はどうですか?

-:オープンです。

田:それなら良いですね。あの馬はコーナーが森だとダメでも、オープンなら良いと。そうだったら面白いですね。

-:動物って、そういうところがあるんですよ。右左という概念じゃないかもしれないです。古くはニシノフラワーなども府中じゃあダメで、輸送がダメと言っていたら、中山では問題なく勝ちました。

田:そういうのも何かあるんでしょうね。



-:嫌いな場所で、馬は徹底的に成績が出ませんからね。今回の中京記念は、穴党からしたら、左回りは走らない、とされつつあるクロフネサプライズを狙うのも手でしょうね。右回りのマイルの大舞台といえば、マイルCSしかないです。

田:秋くらいには、ちゃんとした舞台を選べるようにしたいです。京都も(森は)濃いですよね。

-:最近は濃いですよね。他には牡馬が疲れている、スキのある舞台といったら、宝塚記念ですよね。あそこをキャンセルする馬もいます。

田:引っ掛かるから短距離ではなく、あえて長いところを使ってみるのも面白いですよね。

-:引っ掛かるのもコーナーまでですし、そこでまだ引っ掛かっているような馬なら、阪神JFできてないですよね。どこかで良さを導いて欲しいです。

ファンのためにも大きなタイトルを

-:今さらながら、桜花賞は悔しかったですね。

田:悔しかったですが、自分としてはやり切った感がありました。チューリップ賞を勝ってから、桜花賞に行くまでが僕の仕事です。ゲートを出てしまえば、馬とジョッキーと、あとは運次第ですから。負けてから、あれやっとけばよかったとかはなく、やり切った感がありました。

-:あの桜花賞は、レース前にクロフネサプライズに不利なことばかりありました。内の馬場が悪く、差し馬に有利でした。

田:それでも4着にいますからね。

-:阪神JF、チューリップ賞、桜花賞の3戦は、この馬の第一次黄金期でした。そのコンディションと精神的なものを取り返してやれば、G1でも2桁着順になるような馬じゃないと思います。頑張って欲しいです。中京記念に向け、応援しているファンにメッセージをお願いします。

田:最近は結果がついてきませんが、芦毛の牝馬ということで、応援してくれている人も多いです。少しでもそういう方に応えられるようにしたいです。馬主さんも、お爺さんの代からずっとお世話になっている方で、調教師も「(オーナーの)畑さんにG1獲らせたいんだ」と言っていました。僕もなんとかその思いに応えられるようにしたいです。

-:先生がこの馬と出会ったのはセレクトセールですか?

田:そうだと思います。それで、僕に担当が偶然来ました。初めて任された2歳がこの馬なのです。エーシンダックマンの下と2頭の2歳が入ってきて、皆は「エーシンダックマンの下(が良い)だろう」と言ったのですが、僕は「白くて可愛いこちらが良い」と言ったら、結果的に走ったんです。そういうことも含めて、何とかしたいです。



-:色々なことを突き詰めて、何とかして下さい。

田:頑張ります。twitterをやっているのですが、ちょっと写メを載せたりしたら、応援してくれたりとか、ヴィクトリアマイルの時に地方から府中まできて、横断幕作ったので見て下さいと言われて、パドックに行くと「お帰り」という横断幕があったり、そういうことをしていただくと、更に頑張らなければ、と思います。成績が良くなっていけば、皆も嬉しいですからね。何とかこの仔でもう1つ獲りたいです。

-:この後に、飛躍するきっかけを掴みたいですね。

田:今は迷走中なので、しっかりとこの仔にあった舞台を考えて、見つけ出してあげることが第一ですよね。個人的には、札幌の牝馬限定の小回りの方が、逃げて勝負ができそうな気がします。

-:応援しています。また、秋に取材させてください。有り難うございました。

●田所純調教助手インタビュー(前半)はコチラ⇒

1 | 2



【田所 純】 Atsushi Tadokoro

田所秀孝調教師の次男。幼少の頃は競馬に関心がなく、騎手として活躍していた父の印象については、「当時はあまり凄いとは思わなかった。今思えば、よく重賞を勝っていましたよね」と振り返る。
学生時代はサッカーに明け暮れるも、大学卒業後に競馬の世界を志す。乗馬経験すらなかったが、ケガを負いながらも馬事公苑に通い続け、競馬学校に入学。修了後は田所厩舎で勤務。
調教助手生活3年目、「父と息子」「調教師と従業員」と、両面の関係を上手に築きながら、親子鷹で高みを目指す日々を過ごしている。


【高橋 章夫】 Akio Takahashi

1968年、兵庫県西宮市生まれ。独学でモノクロ写真を撮りはじめ、写真事務所勤務を経て、97年にフリーカメラマンに。
栗東トレセンに通い始めて18年。『競馬ラボ』『競馬最強の法則』ほか、競馬以外にも雑誌、単行本で人物や料理撮影などを行なう。これまでに取材した騎手・調教師などのトレセン関係者は数百人に及び、栗東トレセンではその名を知らぬ者がいないほどの存在。取材者としては、異色の競馬観と知識を持ち、懇意にしている秋山真一郎騎手、川島信二騎手らとは、毎週のように競馬談義に花を咲かせている。
毎週、ファインダー越しに競走馬と騎手の機微を鋭く観察。馬の感情や個性を大事に競馬に向き合うことがポリシー。競走馬の顔を撮るのも趣味の一つ。

■公式Twitter