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吉村圭司技術調教師

吉村圭司技術調教師


兄・ドリームジャーニーを凌駕するか、皐月賞馬・オルフェーヴル


-:まずはオルフェーヴルについて、お聞かせ下さい。皐月賞は予想以上の内容だったと思います。

吉:僕らは心配していなかったのですが、左回りに不安が囁かれていた中で、折り合いもついて上手に走ってくれましたね。いい競馬はできるだろうと思っていたけれど、予想以上に突き放してくれました。(抜け出して)一頭になってからも、後続を突き放して最後までしっかり走ってくれていたように、成長を感じさせてくれる内容でした。

-:新馬戦を新潟で勝ったものの、兄(左回りが苦手なドリームジャーニー)のことや京王杯の大敗もあって、左回りは不安視されていましたね。

吉:京王杯の時はすごく入れ込んでいましたからね。あれは気の問題ですからね。兄のドリームジャーニーは手前を替えないから、左回りも駄目だったんですけれど、オルフェーヴルは気持ちの問題だけだったんでしょうね。

-:肉体的な面でドリームジャーニーとの違いはありますか?

吉:でも、かなり似ていると思いますよ。乗り味なんかもそうですし、新馬でおろす前から、兄と同じく、しっかりした歩様、足取りもしていました。坂路でも新馬戦の前から、楽に(4F)53秒台で上がっていましたし、2歳馬特有のトモの緩さはなかったですね。

-:他に似ている部分はありますか?

吉:やっぱり、スピードに乗る時の速さ、グッとハミを受けるところでしょうか。ジャーニーも追い切りでは、乗り手が油断していると、すぐに前の馬を速く抜こうとしますからね。

-:追い切りで行き過ぎないようにすることも、調教では気をつけたところでしょうか?

吉:そうですね、やっぱり調教でも1回、2回でなく、普段からの積み重ねが大事ですから。謙一(池添謙一騎手)も調教に乗ってくれていましたし、競馬でも使いつつ、だいぶ覚えてきてくれた感じですね。

-:これまでは内にモタれるところがありましたが、前回はそんな面をみせませんでした。

吉:新馬の時はかなり内に切れ込んだりして、後ろにいた馬には間違いなく迷惑をかけてしまったけれど、その時とスプリングS以外は、そこまで酷くはなかったですからね。それでも、皐月賞の時は大一番で綺麗に上手に走ってくれましたよね。

-:皐月賞の馬場も芝丈が長くて、特殊な馬場だったように思えます。

吉:長かったですねえ。ダービーはまた違った馬場になるでしょうけれど。

-:あの馬場であれだけ走れるのですから、見た目とは裏腹にスタミナやパワーよりのタイプなのかもしれませんね。

吉:そうですね。坂路でもよく動きますからね。力強いから、多少、雨が降ったとしてもこなせると思いますよ。

-:もしかすると、北海道の洋芝などは合いそうですね。

吉:走りそうですねえ。そう思います。

-:理想とすれば、ペースは流れた方がいいのでしょうか?

吉:乗り易さでいえば、そうかもしれませんが、皐月賞の時もピタっと折り合っていましたからね。謙一も折り合いのコツをわかっているでしょうし。

-:リングハミは2戦目からずっとつけているのでしょうか?

吉:2戦目からずっとオーソドックスなタイプのリングビットです。やっぱり、ハミが回らないですよね。新馬の時も回らなくて、ずれていましたから。そこがずれない分、ササる馬には効果がありますし、抑える時も御しやすくなるようです。このハミも口当たりも優しくて、口向きが悪い馬を矯正するには、良いらしいですね。



-:2歳の時から課題がありながらも、順調に使って来られている、この馬のタフネスさは素晴らしいですよね。

吉:そうですね。調教も目一杯やったことはないんですよ。それもこれだけの時計も出ますから。昨日(5/18)でこそ、坂路の時計は51秒台でしたが、それでも目一杯はやっていないと思いますよ。

-:坂路で水準の時計を出したら、若駒ならば、すくんだりしてしまう事もありますよね。それでも全く堪えないというのは、この馬の筋肉の質の良さでもあるんじゃないでしょうか?

吉:そういうことも全くないし、痛まないですよね。ジャーニーも今は球節を痛めていますが、それまでに何もなかったし、あの兄達もそういうトラブルにかかったことがないですよ。フィジカル面の強さがあるんじゃないでしょうか。

-:フィジカルが強いということは、メンタルも強いんじゃないでしょうか?

吉:それが噛み合ってくるといいですよね。新馬も勝ったけれど、調教に乗っていてもガツンと来るところがあるというのはわかるじゃないですか?京王杯もああいう競馬になってしまったし…。

-:逆にいえば、京王杯でああいうことがあったのが良かったかもしれませんね。

吉:そうですね。シンザン記念でも3着で惜しい競馬はしているんですけれど、ああいう結果が(皐月賞の結果に)繋がってきているでしょうからね。

-:そこで池添騎手に目先の結果を求めるわけでなく、厩舎サイドも池添騎手に託したことが大きいですよね。

吉:謙一も兄弟を知り尽くしているわけですし、ずっと任せ続けたことは大きかったですね。

-:デビュー時には植木に突っ込んだり、池添騎手を振り落としたりと、大変だったようですが、改善するために特別されたことはありますか?

吉:池江厩舎は集団で調教をこなすのですが、先生が普段の調教から、あえて一頭にしたり、周りと同じく集団でやったりと、工夫をされたりしていましたね。もともと馬を恋しがるところがありますからね。それに新馬の時って、普通は競馬だとわかっていないから、そこまで入れ込むことってないんですよ。新馬であれだけ悪癖をみせたのは、それだけ、入れ込みが強かったということでしょうから。

-:もしかしたら、ジャーニー以上の器かもしれませんね。

吉:それを考えると、夢は広がりますよ。やっぱり、東京は一番、G1レースがありますし。ゆくゆくは海外にも目を向けられるでしょうからね。


トーセンレーヴは精密機械?


-:父がディープインパクト、姉がブエナビスタと、これだけの血統で注目を浴びていましたが、デビューまで時間がかかりました。

吉:ええ、爪にアクシデントがあって、遅れてしまいましたが、デビューしてからも短い間隔の中、結果を出してくれて、青葉賞でも3着。プリンシパルSは連闘の中でもよく頑張ってくれました。

-:この馬は乗ってみると、どんなタイプでしょうか?

吉:あれもしっかりしていましたね。血統は勿論ですが、それを差し引いても、人の手でよく教育されたエリートだな、という感じをしました。

-:人の手でよく教育されていたということですね。

吉:そうですね。それでいて、キャンターでも手綱を離すと、ギュンと加速しそうな雰囲気を持っていましたし、かなり教育されているという感じを受けました。厩舎長クラスの人じゃないと、乗っていないでしょうからね。

-:それくらいじゃないと任せられないと。

吉:あの血統であの値段ですからね。

-:リスポリ騎手が初めて調教に乗った時に「マシン」だと評していました。

吉:あんな動きをする馬って、そういないですよ。頸の使い方も上手で速い。ガンガンガンガンと木馬のように、造られた動きをするんです。だから、リスポリ騎手がそう言うのもわかりますよ。乗った人間にしかわからない感覚があります。

-:連闘後ですが、楽しみはありますね。

吉:連闘のあとですが、思ったほどダメージもないですからね。前走も連闘だったということもあって、そんなハードな競馬もしていないでしょう?直線も狙いを定めて、馬体を併せて抜け出す形で目一杯の内容ではなかったから、ダメージもなかったのかと思います。

-:連闘で反動がないとは凄いですね。

吉:幾らか疲れはありましたけれど、青葉賞の後と殆ど変わらないですよ。時間が掛かると思わされることもなかったし、予定通り乗り出しも出来ました。

-:その前走は、中間に放馬もあったようですね。

吉:ああいうアクシデントもありましたよね。流れも悪いかな、という中で頑張ってくれました。走っている時の表情をみても、一生懸命な馬なんです。健気な子ですよ。

-:逆にいえば、もうちょっと抜けるところが欲しいくらいですか?

吉:そうですね。ハミを受け過ぎる、噛み気味なところもありますから。

-:噛み気味な馬って、肩は緊張するタイプが多いと思います。

吉:ノーザンファームしがらきの方が言うには、ブエナも肩が出ないから、あの兄弟自体がそういうところはあるみたいですね。歩様がコツコツしている。

-:見た目はブエナとも違うタイプで。

吉:ブエナとは似ていないですね。お父さんも違いますし、小柄で小さくてディープっぽいですね。

-:この馬のここに注目して欲しいというところはありますか?

吉:上積みというよりは、前走の状態を維持しているところですが、間違いなくポテンシャルは世代トップクラスですからね。ああいう形で権利をとって、常識では図れないですけれど、それを覆すだけの能力は持っていますから。 サダムパテックや他の陣営も、ここへ向けて仕上げてくるでしょうし、オルフェーヴルやウチの馬がなんとか勝ってくれればと思います。

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【吉村 圭司】Keiji Yoshimura

1972年熊本県出身。
2011年に調教師免許を取得。


飯田明弘厩舎を経て、2004年から池江泰寿厩舎に在籍。今年は見事、調教師試験に合格。厩舎スタッフとして貢献しつつ、厩舎の開業を控えている。