ドバイワールドカップデー Vol.2『和田栄司コラム』

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ドバイワールドカップデーのクライマックス第2弾は、芝2410mで行なわれるG1ドバイシーマクラシック、11頭立て。日本の三冠牝馬で年度代表馬ジェンティルドンナとG2・2勝馬トレイルブレイザーの2頭が出走した。馬券発売したどの国でも1番人気はジェンティルドンナだった。

レースは、トレイルブレイザーが1番のスタートを決めたが、その内からセントニコラスアビー、1番枠のシャリタ、外からジェンティルドンナ、4頭が前に行き、思わぬ展開である。その中からシャリタがペースセッターになった。セントニコラスアビーが2番手、ジェンティルドンナも4分の3馬身差で3番手、譲らない。トレイルブレイザーだけが下がって5番手となった。

人気の有力馬3頭が前で戦う展開、フラクションは 50.71-1:15.47-1:40.20 これまでの2年間では全くお目にかかれない速いペースである。セントニコラスアビーは、残り500mでシャリタを捕えて先頭に立ち、2000mの通過ラップは2分03秒69。3番手ジェンティルドンナとの差は1馬身である。しかし、ゴールでは残り350mで2番手に上がったジェンティルドンナとは2馬身4分の1に広がった。

セントニコラスアビーの勝ちタイムは2分27秒70、30秒の壁さえ破れなかった時計が一気に縮まるトラックレコードでの優勝だった。ラスト410mの上りは、セントニコラスアビー24秒01に対し、ジェンティルドンナの上りは24秒20、更にジェンティルドンナから1馬身4分の1差3着したカタールのヴェリーナイスネームは7番手から24秒03の上りで追い込んでいる。

19才の若いジョッキー、ジョセフ・オブライエンは「スミス(共同オーナーの1人)が昨年2着の後、何が起こるかを見るためにも少し前で騎乗した方が良いと言った。奴はタフだと知っていたから、ハードにトライさせようと思った。今日はとてもリラックスしていて、偉大な走りだったと思う」と話した。

オブライエン・シニアは「皆、厩舎では一生懸命働いてくれている。明らかにジョセフは大きな助けになっている。とても素晴らしい環境です。私はいつもこの馬は少し苦しめた方が良いと感じていた。しかし、ジョセフとデリック・スミスは違う考えだった。明らかに彼らの方が今日は正しかったと言えるでしょう」と語った。

ジョセフ・オブライエン騎手で勝ったセントニコラスアビーは5つ目のG1優勝、通算成績を20戦8勝、2着2回、3着7回とした。今年は今までとは違ったセントニコラスアビーの走りが期待出来そうである。馬群の中5番手を追走したトレイルブレイザーは直線に入って手応えが怪しくなり失速して最下位に終わった。

DWCデーの締めくくりは、タペタ馬場の2000mで行なわれる、総賞金1000万米ドルの世界で最もリッチなG1ドバイワールドカップ、当日前年の勝馬モンテロッソの歩行に不具が見られた為出走取消、これに伴ってアフリカンストーリーはキーラン・ファロン騎手からミカエル・バルザローナ騎手に騎手変更が行われた。

レースは、マイク・スミス騎乗のエクリプス賞最優秀古牝馬に輝いたロイヤルデルタが思い切りよく飛び出した。フラクションは 26.59-50.02-1:13.63 初手はスローペースに抑えた為、外から2011年のケンタッキーダービー馬アニマルキングダムも楽に上がって行き2番手に収まる。英サイドグランス、ゴドルフィンのハンターズライトが前団を形成した。

アニマルキングダムは早くも4コーナーで先頭に立ち、直線で飛び出し2分03秒21のタイムで優勝、最後の大レースでアメリカの乾きを一掃した。直線8番手から内ラチ沿いに入れて急追した香港ヴァーズ勝馬の英レッドカドーに2馬身差まで詰め寄られはしたが、全く危なげのないスペクタキュラーな走りだった。その後ろは直線5番手から外を追い込んだプラントゥールが4馬身4分の3差で去年に続いての3着、サイドグランスはクビ差で4着に残った。

2010年にDWCがメイダン競馬場に移ってタペタ馬場で行なわれるようになって以来、この国際イヴェントの上位3着までに北米勢が入って来なくなった。アニマルキングダムは以前の米国勝馬、1996年シガー、1998年シルヴァーチャーム、2001年キャプテンスティーヴ、2004年プレザントリーパーフェクト、2005年ロージズインメイ、2007年インヴァソール、2008年カーリン、2009年ウエルアームドに続いた。

優勝ジョッキーのジョエル・ロザリオ騎手は「直線に向いたところで彼はソラを使った。長い直線だったので、馬には余力を十分残しているつもりだった」と話す。この勝利は、オーストラリアでも分かち合った。ルロワデサニモーの5歳の牡馬は、昨年12月、アローフィールドのジョン・メッサーラ氏がチームヴェーラーから種牡馬として購入していた。

チームヴェーラーは売却に伴う少数株主持ち分を保持しながら、アニマルキングダムの種牡馬としての生産に拘って行くことになる。アカテナンゴ産駒のダリシアから生まれたアニマルキングダム、母のダリシアは今日本で繋養され、第1仔は今年デビューになる2歳である。

アニマルキングダムは、2月9日のG1ガルフストリームパークターフHを2着して臨んだ。ジョエル・ロザリオ騎手はこの時初めてアニマルキングダムに騎乗したが、バックストレッチの半ばから先頭に立ってポイントオブエントリーの1馬身半差2着に敗れた為、その早い仕掛けについて批判を浴びた。

「この馬はある種の武勇伝を持っている。浮き沈みの大きい。我々は皆それを知っていた。ダービーでもBCマイルでも」とチームヴェーラーのバリー・アーウィン氏は語る。グラハム・モーション調教師は「1年前に怪我をした時、バリーは2013年のDWCを目標にしようと言った。私は彼がクレイジーだと思った」と話すと、アーウィンは「君がBCマイルに行きたいと言ったのと一緒じゃないか」とレスポンスして周囲を笑わせた。

アニマルキングダムは、販売の時点で、ドバイから英国に飛ぶ予定になっている。引退前の可能なレースは、6月のロイヤルアスコットで行なわれるG1プリンスオブウェールズS(芝10F)である。今彼の通算成績は11戦5勝、2着5回。唯一着順表示板を外したのはスロッピー馬場で行なわれたベルモントSの6着である。この日の1着賞金600万ドルが加算されて、アニマルキングダムの生涯獲得賞金は839万9884ドルになった。


海外競馬評論家 和田栄司
ラジオ日本のチーフディレクターとして競馬番組の制作に携わり、多岐にわたる人脈を形成。かつ音楽ライターとしても数々の名盤のライナーを手掛け、海外競馬の密な情報を把握している日本における第一人者、言わば生き字引である。外国馬の動向・海外競馬レポートはかねてからマスメディアで好評を博しており、それらをよりアップグレードして競馬ラボで独占公開中。