競馬専門紙にて記者として30年余り活躍。フリー転身後もその情報網を拡大。栗東の有力ジョッキーとの間には、 他と一線を画す強力なネットワークを築く平林氏が、現場ならではの視点でレースを分析します。
【エリザベス女王杯 解説】この勝利は特別、ラッキーライラックがスミヨンで快勝!
2019/11/12(火)
19年11/10(日)5回京都4日目11R 第44回 エリザベス女王杯(G1)(芝2200m)
- ラッキーライラック
- (牝4、栗東・松永幹厩舎)
- 父:オルフェーヴル
- 母:ライラックスアンドレース
- 母父:Flower Alley
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クロコスミアが逃げてラヴズオンリーユーが2番手。このラヴズの積極策に場内がどよめく。だが流れはスロー。クロコスミアは坂の下りでジワーっと後続を離す。直線でも余力があって今年こそはと思われたが、内から鬼気迫る勢いで出て来たのはラッキーライラック。ラヴズオンリーユーが内から外へ出した瞬間にそこを通り抜けて来た。スミヨンがオルフェーヴルの子供で秋のG1を勝つ。これこそが競馬の持つ歴史、因縁の意味あいである。
藤岡佑介に導かれたクロコスミア。実にいい流れを造れた。道中は13秒台があるほどにゆったりの入り。2コーナーから向こう正面に入ったあたりで少しだけ後ろを離す。その後ろがラヴズオンリーユー。鞍上のミルコは後ろをチラッと振り向くぐらい。それほどに余裕の前の流れだ。半ばでセンテリュオがスルスルと3番手に上がる。3コーナーのカーブを廻ってからクロコスミアはさらに後ろとの差を開いていく。ラスト800のあたりでは8馬身ぐらいはあったのではないか。
ラスト600の4コーナー手前。ここでも6馬身はあっただろう。2番手ラヴズオンリーユー。その後ろが内にフロンテアクイーン、外にセンテリュオ。この2頭の間の後ろがサラキア。さらに後ろでは内がクロノジェネシス。外がスカーレットカラー。そこで1馬身切れてラッキーライラックを先頭とする中団グループだ。ラッキーライラックは内にいたはずなのに、少しだけ外へと出していた。ペースはもうマックスに近く上がって来た。直線へと入って各馬の姿が見えだした。
先頭で直線へと入るあたりで、クロコスミアの左肩に軽くムチを入れる藤岡佑介。ここでゴーサインを出したのだろう。まだリードは十分にある。ラスト300の前にステッキを入れて追い出した。さすがに苦しくなってきたのか。2番手ラヴズオンリーユーとの差が3馬身を切ったか。一旦内へ入りかけたラヴズオンリーユーとミルコだが、内からステッキを入れて外へと出す。それを信じていたのか、スミヨンのステッキで促されたラッキーライラックがラチ沿いを真っすぐに脚を伸ばして来た。
ラスト200、まだクロコスミアが先頭。だが後ろではラヴズオンリーユーの内からラッキーライラックの勢いが止まらない。ドンドンと加速をして、遂に一番前のクロコスミアを抜いて先頭に立ってのゴールとなった。ゴールを過ぎてスミヨンが馬の首をポンと軽く愛撫。さらにそのままその左手を少しあげて唇にチュっとしたあとに、指1本で勝利のポーズ。これはこの馬が一番の意味なのか、自身のG1勝利の始まりの《1》なのかは判らない。
鬼気迫るステッキ使いで、ラッキーライラックを見事勝利へと導いたスミヨン。あの2012年の凱旋門賞。一旦は先頭に立ったオルフェーヴル。日本馬がいちばん凱旋門賞勝利へ近づいた日であった。あれから7年、その子供で日本でのG1勝利。これが競馬のドラマなのである。
プロフィール
平林雅芳 - Masayoshi Hirabayashi
競馬専門紙『ホースニュース馬』にて競馬記者として30年余り活躍。フリーに転身してから、その情報網を拡大し、栗東のジョッキーとの間には他と一線を画す強力なネットワークを構築。トレセンおよびサークル内ではその名を知らぬ者はいないほどの存在。