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鮫島一歩調教師

かつてはクロフネなどのケースもあったが、芝の重賞ウイナーでありながらも、これだけのダート適性を見せる馬も近年では珍しい。準オープン、オープン特別をアッサリ通過すると、重賞も2戦目で難なくクリア。それでいて、克服していく課題も見つかっているというのだから、辿り着いたG1の舞台でも期待せずにはいられない。ダート重賞に初挑戦したエルムS直前に続き、鮫島一歩調教師にJCダート勝利への可能性を伺った。

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枠順確定後・鮫島一歩調教師のコメントはコチラ⇒


1週前追い切り後・福永祐一騎手のコメントはコチラ⇒


価値があり、課題も見つかった勝利

-:ブライトライン(牡4、栗東・鮫島厩舎)のみやこSは鮮やかな勝利でした。おめでとうございます。

鮫島一歩調教師:ありがとうございます。

-:エルムSでは期待していたほどのパフォーマンスが出せず、3着に敗れたわけですが、そこからすぐに巻き返して、恐ろしく速い時計で勝ったというところで、先生としても良い感触でJCダートへ向かえますね。

鮫:前回の勝利は非常に大きく、JCダートへ結びつく勝利だったのですが、課題が残ったレースでもありました。今日の追い切りでも、異常なパワーで持って行くんです。坂路でやって52秒だけど、終いは流しいました。この前のレースみたいなものですね。今回で(福永)祐一君は3回目だけど、その辺の折り合いがどうかですね。本当にパワーがある馬なので、前回のレース後も、「人間の方もパワーつけないと!」といった話をしていましたよ。今回の追い切りでも思ったのですが、パワーとテクニックをミックスした乗り方をしないと、ちょっと難しい馬だなと思うレースでした。

-:前回のレースを見ていると、あの距離にしては流れたレースだったと思うのですが、4コーナーぐらいで、もう我慢できない感じで緩めて、馬に任せましたよね。ひとつの懸念としては、あれ以上ペースが落ちる場合や、前半流れても向正面でグンとペースが落ちるケースというのも有り得るパターンです。そうなった時にどうなりますか?

鮫:馬に任せるつもりです。行ってもいいのかなと思っています。「行くと結構フワっとした」という前回のコメントもあったので、案外、行く馬がいなければ行ってしまって、気を抜かせながら行ければ一番ですね。行かせようと思っては行かないですし、エスポワールシチーがいますが、ウチが行けば無理して行かないはずですし。

-:エスポワールシチーも1400を使った後の1800なので、いつもより前半行きたがるシーンがあるのかなと思います。それとワンダーアキュートもある程度のポジションを取りに行くと思います。

鮫:うちのはそれほど取りには行かないけど、本当に馬が行きたい分だけ行かせるような感じでね。祐一君もそう思っていると思います。“このポジションで”などとは思ってないはずですよ。


「ブライトはちゃんとオンとオフがありますね。あとはジョッキーの技術で、いかに馬とのコミュニケーションができるのか、というところですね」


-:この馬自身の折り合い面というか特徴としては、強すぎるパワーの塊をどういう風に1800mの中で保たせるかというところですね?

鮫:芝の時もそうだったんだけど、距離的に使っていっていると、短くせざるを得ない状況になって、それこそダートで言えば1600ぐらいがベストという感じですよね(笑)。1800のスタミナは当然あるけど、いかにコントロールできるかに懸かっていると思います。一回使って、状態は非常に良いですから。

-:一回使ったことでガス抜きができていたら、坂路の調教でもリラックスするところがあるのかなと思ったら、前半から掛かっていましたからね。

鮫:特にジョッキーが乗ったから、行く気満々でしたね。

-:“燃えるフジキセキ”の血統の特性そのままですね。

鮫:フジキセキの仔は普段からキャッキャしているわけじゃなく、角馬場に行くぐらいまではトロトロしているんですよ。ケージーフジキセキという凄く走った馬で、ハーツクライなどと、いい勝負していた馬がいました。凄い能力があったけど、その馬は普段から凄かったです。だけれども、ブライトは違います。ちゃんとオンとオフがありますね。あとはジョッキーの技術で、いかに馬とのコミュニケーションができるのか、というところですね。




燃える気性を抑えるための秘策

-:ジョッキーに手綱を託す前に、普段の調教でいかに良い状態に持っていけるかが鍵になってくると思うのですが、助手さんが乗られている時のこの馬の動きはどうですか?

鮫:助手も最近は持っていかれるんですよね。昨日(11/19)でも(坂路4F)60秒をちょっと切っているくらいで、他の2歳も今日はコンディションが悪かったけど、昨日は不思議と凄く良かったんですよ。他の厩舎の馬もみんな62、3秒とかがバンバン出ていて、うちの2歳も61秒台くらいが出ていました。だから、60秒を切ったことは全然気にしていません。前はそんなことなかったのですが、行くようにはなってきましたね。

普段の調教で『キネトン』という鼻を圧迫するものに変えて、それが凄く良かったんですが、慣れてきたみたいで。それに慣れてくると、こっちが反対に引っ張っても反抗するような感じになるんですよ。今日もつけたのですが、反対にそれが良くないのかなという気がしています。レースの時はつけないですし、外しちゃって、ハミを抜いて上手いこと折り合いをつけるということを、短期間の内にやろうかと思っています。


-:キネトンと言ったら、調教で走り過ぎるブルーコンコルドが少しでも遅く走るためにつけていましたよね。

鮫:ハミにカチャッと掛けて鼻梁の方にいくから、ハミを引っ張ると圧迫するんです。ハミに反抗する馬は、ここで抑えられることによって案外落ち着くんです。

-:口の感覚だけではなくて、鼻の痛みによってコントロールしようという馬具ですよね?

鮫:そういうことです。

ブライトラインが使用しているキネトン


-:他には舌を縛ったりして折り合いがつくようにしますよね?

鮫:それこそエピファネイアも舌を縛って変わった、という話を聞きましたけど、舌を縛って反対に燃える馬もいるんですよね。結局、レースの時に縛るので、縛ると戦闘モードに入る馬もいるんですよ。

-:でも、普段はつけないで、一発勝負に懸けて、レースだけつけてみるというのも手ではないですか?

鮫:日曜日にある程度やるんだけど、舌を縛ってもいいのかなと思います。だいたいが縛って悪いことはないですし。今回は言ってないですが、祐一君が「舌を縛って」と言っていることもあるから。


「私は反対に、もともとスタミナがあれば、ガーッと行く馬は1200くらいで自分で気持ち良く走らせて、そこで折り合いがつくようになったら延ばす、という使い方をします」


-:今朝の調教を見ると、何らかの策を施した方がレースでは良いのかなという気はしたのですが?

鮫:確かに言う通りです。

-:ジャスタウェイも舌を縛ったり、縛らなかったりしていましたけれども、関屋記念で負けた時にだいぶ舌を出していて、天皇賞(秋)の時は縛っていました。外国人ジョッキーのコメントを近くで聞いていても、若馬に対してコレだったらすぐに縛った方が良いんじゃないかと。フランスの騎手は特に舌を縛りたがると聞きます。

鮫:海外は本当に、写真を見ると、縛っている馬が多いですよね。

-:しかも、包帯で縛るのがいいみたいですね。エピファネイアは特殊な黒いバンドみたいのでやっていましたけれども、人によっては“ガーゼみたいな素材が良いんだ”という人もいますよね。やりすぎて切れている馬もいますからね。

鮫:難しいんですよね。革だって締め付け過ぎても、緩すぎても駄目ですから。気管も極限まで狭まくなるので、2歳馬などはDDSPに近いような状態になる馬もいるんですよね。

-:これくらい行く気のある馬を、先生はこれまで芝も走らせましたし、1200のダートも走らせました。でも、結果が出ているのは中距離です。かなり珍しいパターンじゃないですか?1200ダートまで行ったら究極の距離短縮で、そこからまた延長するというのは、あまりないパターンなのかなと思うのですが。

鮫:私は反対に、もともとスタミナがあって、ガーッと行く馬は1200くらいで自分で気持ち良く走らせて、そこで折り合いがつくようになったら延ばす、という使い方をします。最初のうちは、1400や1600であんまり行く馬は、まず短くして気持よく競馬をさせて、それで勝ってクラスが上っても、折り合いがつくようになれば延ばしてもいいと。

-:馬の場合は、これから自分が走る正確な距離を理解していないと思うので、若干の距離の融通は利くと思うんですけれど、1800ダートといったら、明らかにコーナーが4つなので、たぶん馬も1200とは違うな、というのは分かると思うんですよ。それを克服して成長した秘訣はどこにありますか?

鮫:気持よくレースをさせて、レースで折り合いをつけていくというか、ヘタに長い距離で喧嘩しながら行くんだったら、本当にサーッと行かせることです。こういう馬はスピードもあるし、本当に良い結果を出して、延ばしていくという考えですね。スタミナはあるのだから、テンからのそこそこの距離だったら、掛かっても大したロスにはならない。それこそ攻め馬代わりですね。1200のダートで気持ちよく走らせて、という。




自ら海外のセリで選んできた血脈

-:この馬のお母さんは、どのような馬ですか?

鮫:お母さんは、アメリカのセプテンバーという有名な競りで、繁殖用に前田幸治社長にお願いして買って頂いたんです。

-:先生が選んだんですか?

鮫:私が選びました。お母さんの兄弟が日本で短いところで走っていたんです。結局、脚元が弱くて、検疫に入った時に屈腱炎だったんですよ。心配には思ったけども、「繁殖としても価値のある馬を買ってこいよ」という話だったので、こういう馬が出たのは良かったと思います。

-:先生の相馬眼が証明されたわけですね。

鮫:ラフアウェイという牝馬も残してくれたから、あの馬がまた良い仔を産んでくれれば。

-:お母さんのシェリーズスマイルは、サーガノヴェルの姉妹なんですね。サーガノヴェルとこの馬は気性的に似ていますか?

鮫:キツかったイメージがあります。

-:あの馬も凄かったですよね。サーガノヴェルは短距離で、こちらは距離が違いますが、どちらも強烈ですよね。

鮫:厩での性格などは優しいんですけどね。牡馬は人参を持って撫でに行くと、威嚇してくるんです。エールブリーズなんかは猛獣みたいで怖いです。他の牡馬もけっこう我を張るんですが、ブライトは大人しいんですよ。

-:性格的には中距離を乗ってよさそうなおっとりさがあるんですね?

鮫:そうですね。乗り方ひとつなんですかね。

ブライトラインの鮫島一歩調教師インタビュー(後半)
「課題が残って正解だった福永騎手とのコンビ」はコチラ→

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【鮫島 一歩】Ippo Sameshima

1954年鹿児島県出身。
1999年に調教師免許を取得。
2000年に厩舎開業。
初出走:
00年3月4日 1回阪神3日目12R
イケツキフジ、同アイアルカング
初勝利:
00年5月6日 3回京都5日目12R ギャンブルローズ


■最近の主な重賞勝利
・13年 函館SS/12年 キーンランドC/アイビスSD(パドトロワ号)
・13年 みやこS/12年 ファルコンS(ブライトライン号)


鹿児島南高校馬術部時代にしごかれた先生が、“トシ”の冠名でお馴染みの馬主の上村叶氏(かみむら かなえ)。
卒業後はブラジルで酪農をやる夢を抱き、鹿児島から北海道に渡り酪農学園大学の酪農科に入学。高校での厳しい訓練に音を上げた馬術だったが、馬を見ると乗りたくなってしまい馬術部に入る。
この大学時代の同期が飯田雄三調教師。飯田師が4年で卒業した後も留年して、1年遅れで昭和53年に栗東の増本豊厩舎に調教助手としてトレセン入り。
2000年に厩舎開業してからは、馬術を基礎にした地道な調教で活躍馬を送り出した。「馬の気持ちを考えながら馬と対話したいですね。毎日苦しい調教に耐えている馬に優しくしないとね」。
主な管理馬はエースインザレース、シルクフェイマス、レインボーペガサス、マコトスパルビエロ、キングトップガン、パドトロワなど。


【高橋 章夫】 Akio Takahashi

1968年、兵庫県西宮市生まれ。独学でモノクロ写真を撮りはじめ、写真事務所勤務を経て、97年にフリーカメラマンに。
栗東トレセンに通い始めて17年。『競馬ラボ』『競馬最強の法則』ほか、競馬以外にも雑誌、単行本で人物や料理撮影などを行なう。これまでに取材した騎手・調教師などのトレセン関係者は数百人に及び、栗東トレセンではその名を知らぬ者がいないほどの存在。取材者としては、異色の競馬観と知識を持ち、懇意にしている秋山真一郎騎手、川島信二騎手らとは、毎週のように競馬談義に花を咲かせている。
毎週、ファインダー越しに競走馬と騎手の機微を鋭く観察。馬の感情や個性を大事に競馬に向き合うことがポリシー。競走馬の顔を撮るのも趣味の一つ。