関係者の素顔に迫るインタビューを競馬ラボがオリジナルで独占掲載中!

井上泰平調教助手

悪コンディションで調教する難しさ

-:坂路の馬場状態は時計だけを見ていてもわかりにくいと思うのですけど、今日走った感触はどんなコンディションですか?

井上泰平調教助手:一発目の6時55分の組は時計が出ていたみたいなんですけど、その後になると、雪だったので、段々悪くなりましたよね。最近は雪でトモを滑らせて故障をする馬が多いので、滑るコンディションよりも若干悪くてもグリップするほぐれたところを走らそうということで、わざと意図的に遅らせてみたんですけどね。

-:それは見てもらったら分かると思うんですけど、(時間帯)一番の時は下が真っ白だったんですよね。真っ白で大丈夫かなという状況で走っていた訳なんですけど、それが5分も経てば、坂路のウッドチップの色になるという。

井:みんな通っちゃうんで、そういう色になるというタイミングで今日は行きました。

-:僕が“ジェンティルがなかなか来ないな”と思ってやきもきしていたのは、馬場がほぐれるのを待っていた訳ですね。いつ来るのかなと思って……。


井:実際に最近は大腿骨を骨折する馬が多いでしょ。前に僕も雪の時季に乗ったんですけど、滑る時は滑るんですよね。普通キャンターなんで、滑っても大丈夫なんですけど、それが速いところだったら、やっぱり抜けてしまうと折れちゃうんだろうなと。時計を出すよりも、安全に負荷を掛ける方が良いと思ってね。

-:井上さんはゆっくりソロッと入って。

井:時計を出そうと思えば出ますよ。

-:調教はそこが狙いではないですからね。

井:例えば、ウチのバンドワゴンなんかと併せ馬をしたら、2頭ですごい時計で走ってしまうと思うんですよね。それはちょっとやり過ぎになるかもしれないし、僕が併せ馬で乗っていた馬がちょっとタレちゃったので、1頭になっちゃったから、そんなにムキにならなかったんですけど、多分最後まで一緒に行けば負けないように走るんでね。

-:追い切りの話に戻しますと、福永ジョッキーは先週の感触があったから、それくらいのタイミングで仕掛けたけど、思ったより上昇してしまったから、ピューンと行ってしまったという感じですか?

井:3ハロン目の時計が12秒1だったので、3ハロン目で12秒1はちょっと速過ぎると思うんでね。

-:そこはもうちょっと並ぶ溜めが欲しかったと。

井:欲しかったような気もするんです。ただ、それくらい行き出した時の加速はすごいみたいですね。


「“競馬で引っ掛かる感覚を調教で何かどこかで見せへんかな”と思って乗っても、どこでも見せへんと思います。調教をこなすということを、馬も自分でわかっていると思うんで、バカなことはしないですよね」


-:今日は福永ジョッキーにとっても、アクセルワークの加減を知る機会になりましたね。レースではその感覚を持って乗れる訳ですね。

井:知る機会になったと思います。ただ、イメージが湧かないみたいです。乗りやすいんでね。「何回乗っても一緒やで。全然変わらへんから、どう乗っても一緒や」みたいな。

-:あとは競馬でのアドリブというか。

井:多分、“競馬で引っ掛かる感覚を調教で何かどこかで見せへんかな”と思って乗っても、どこでも見せへんと思います。調教をこなすということを、馬も自分でわかっていると思うんで、バカなことはしないですよね。

-:しかも、やり過ぎることをしないから、あれだけコンスタントに走れるんでしょうね。

井:まあ、そうでしょうね。

-:ジェンティルドンナの素質とジョッキーの感性で、どういうレースを見れるかというのが楽しみですね。


久々の当日競馬で増える可能性大

-:JCを使った後に放牧から帰ってきて、体重とか体調の変化は何かありますか?

井:いや、ないですね。体重もずっと変わらないですしね。まあ、何も変わらないのが、あの馬らしいところなので。

-:ちなみに今の馬体重というのを分かっている範囲で教えて下さい。

井:先週の木曜日時点で490。2月6日(木)時点で486キロですね。

-:と言うことはJCの時と比べると?

井:JCの輸送する週の木曜日に量った時が486とかだったんですよ。ほぼ一緒なんですけど、運ぶと減った感じもないんですが、全然違うんですよ。レースでは470やったと思うんですけど。府中のはかり(体重計)かもしれないですし、こっちのはかりの問題かも……。

-:はかりであるならば共通の仕様じゃないと意味がないんでね。

井:だから、“そんなに減ってるの?”みたいな感じで、何回行っても同じように出るんですよ。天皇賞(秋)に行った時も“エッ、こんな減ってんの?”というくらい減ってて、多分一緒の470やったと思うんですけど。


-:いつも量っているはかりで似たような体重だから、僕らはそんな誤差はないと思っておいて良い訳ですね。

井:今回は輸送が近くて当日競馬なので。最近は当日に競馬をしたことがないんですよ。ずっと遠征なので、競馬場に着いても明日競馬ちゃうかなぐらいの気持ちでいるんじゃないかと思うんですよね。

-:それは気持ち悪いですね……。ということは、そんなに誤差はないということですね。

井:誤差はないと思います。大体いつも同じ体重で、ここのはかりでは出てますんで。

-:最後にドバイ前の国内最終戦と言いますか、その走りを期待しているファンも大勢いると思うので、メッセージをお願いします。

井:今回も頑張ってくれると思いますので、応援してあげて下さい。馬は手を抜かないで一生懸命走ってくれるので。

-:強いジェンティルを期待しています。返し馬に注目しておきます。

井:結構、面白いと思いますよ。

-:わかりました。またドバイ前に取材をさせていただきますので、その時はよろしくお願いします。ありがとうございました。

井:こちらこそ。よろしくお願いします。

井上泰平調教助手インタビュー(前半)はコチラ⇒

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●ジャパンカップ前・ジェンティルドンナについてのインタビューはコチラ⇒



【井上 泰平】 Taihei Inoue

大阪府豊中市出身。9歳から乗馬を始め、高校生時代に国体を優勝。必然の流れにより大学では馬術部に入る。卒業後は美浦分場に2年間勤務。アイルランドの研修などを挟んだ後に競馬学校へと進学し、中村均厩舎からトレセン生活をスタート。その後は開業直後の角居勝彦厩舎で調教主任を務め、大久保龍志厩舎では持ち乗りから攻め専に転身。後の名門厩舎の基盤を築く。
32年に渡る馬乗り人生の中で、現在モットーにしていることは「馬との信頼関係を築くこと。分かりあえたかなと思っても、また違うのかなとそれの繰り返し」と。石坂正厩舎の屋台骨を支えるベテラン調教助手。


【高橋 章夫】 Akio Takahashi

1968年、兵庫県西宮市生まれ。独学でモノクロ写真を撮りはじめ、写真事務所勤務を経て、97年にフリーカメラマンに。
栗東トレセンに通い始めて18年。『競馬ラボ』『競馬最強の法則』ほか、競馬以外にも雑誌、単行本で人物や料理撮影などを行なう。これまでに取材した騎手・調教師などのトレセン関係者は数百人に及び、栗東トレセンではその名を知らぬ者がいないほどの存在。取材者としては、異色の競馬観と知識を持ち、懇意にしている秋山真一郎騎手、川島信二騎手らとは、毎週のように競馬談義に花を咲かせている。
毎週、ファインダー越しに競走馬と騎手の機微を鋭く観察。馬の感情や個性を大事に競馬に向き合うことがポリシー。競走馬の顔を撮るのも趣味の一つ。

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