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兼武弘調教助手

デビュー戦こそバンドワゴンの後塵を拝したトゥザワールドだが、その後は破竹の4連勝で重賞ウイナーに。残念ながらライバルの戦線離脱でリベンジの機会は持ち越しになったが、より皐月賞馬の頂に近づいたといっても過言ではないだろう。名門厩舎における的確なコメンテーターとしてお馴染み、兼武弘調教助手に一族悲願のタイトル奪取に向けての態勢を伺ってきた。

4センチ差で凌ぎきった弥生賞

-:皐月賞は池江厩舎から2頭出走します。前走の弥生賞を4連勝で勝ったトゥザワールド(牡3、栗東・池江寿厩舎)ですが、最後はワンアンドオンリーに差されたのかとヒヤッとしたゴール前でしたが?

兼武弘調教助手:よく耐えて、凌いでくれたなというところですね。

-:イメージよりも伸びがちょっと鈍ったかなと?

兼:ジョッキーの話によると「道中で色んなことを試していた」という風な話をしていたので、その分が最後に出たのかなといった感じですね。

-:それでも勝てたということが。

兼:大きいですね。勝ち切ったというのが大きいです。

-:事前のインタビューをさせていただいた時には「トゥザワールド自身は重い馬場の適性は、正直やってみないと分からない」ということでしたけど、あの中山の荒れた馬場で2000を2分1秒掛かって走った感触としてはどうですか?

兼:こなしてくれたという感じの印象です。馬場をこなしたというのもプラスになると思いますし、もちろんこのコースを経験できたというのも非常に大きいですね。


「前回やったことを踏まえて本番は指示を出してくれるでしょう」


-:川田ジョッキーがトライアルの弥生賞で試していたというのは、具体的に言えばどの辺だと思いますか?

兼:以前から位置取りだったりだとか、早目に出てどれぐらいなのか、抜け出した時の気配などですか。

-:そういうトライアル仕様の競馬で手応えを掴んだ川田ジョッキーにとったら、皐月賞本番はバッチリと?

兼:やったことを踏まえて本番は指示を出してくれるでしょうし、道中では遊んでいたという感じの言い方もしていたので。こういうことをしたらどういう反応を見せるかとか、表現するのは難しいけど、色んなことを試していたということですね。

-:レースを見ていて驚いたのは、トゥザワールドよりワンアンドオンリーが後ろにいたということなんですよ。向こうは向こうで、トライアルとしてトゥザワールドを目標にして乗ったら、どれぐらい切れるのかということを試したように見えたんですが?

兼:相手も、こっちが人気をしていましたし、見ながら競馬をするというのが頭にあったでしょうしね。

-:色々と試した中、4センチ差で凌ぎ切ったというのは、陣営としてはちょっとヒヤッとされたと思いますけど、改めてトゥザワールドの能力の高さを示せたと?

兼:勝ち切ったというのは、本当に大きいと思いますね。



トライアルの収穫と中間の状態

-:初めてタフな競馬をされたと思うので、その後の疲れというか、帰ってきてからの疲労度というのはいかがですか?

兼:やっぱり、なんぼかはあったと思いますね。すぐにサッと、ノーザンファームしがらきの方に短期放牧に出しまして、向こうでも疲れを取るということを重点に重きを置いて調整をしてもらって、そのお陰もあって帰ってきてからは順調に調教をこなせることが出来て、今日(4/10)は帰厩後2本目で、1週前の追い切りをこなせて、良い感じで上がってきていると思いますね。

-:先週の2週前に追い切った時にはそれほど強くやらないで、反応を確かめる程度だったと思うんですけど、今週は仕掛けてどれぐらい伸ばせるかと?

兼:と言うよりも、やったらやるだけ動ける馬なので、どちらかと言うと、やり過ぎないようにセーブ気味ぐらいの気持ちで。

-:それで、あれだけ終いピュッと来た訳ですね。

兼:そうです。良い状態になりつつあるんじゃないかと見ていますけどね。

-:あとは来週の追い切りですか?

兼:整うだろうと思っています。帰ってきて、普段は食う馬なんですけど、思っているよりもちょっと食いが落ちていたりしていたので、それをここに来てグッと食べ出したので、その辺は体調が良くなってきたという証拠じゃないかなと思っています。


「この馬は内を突いて競馬をすることも全然可能だと思いますし、その辺は全然心配ないです。本当に器用なので、あとはジョッキーがどう乗ってくれるかだけですけどね」


-:血統的にも注目をされている馬ですし、初めてのG1に向けて楽しみな一戦になりますけれど、体重的には今現在どれぐらいか教えて下さい。

兼:514で先週と変わらずでした。前走直前は518キロで競馬も518で変わらなかったので、今回もそれが指標ですかね。

-:皐月賞で問題になってくるのは、中山2000mというコース形態にどうトゥザワールドがアジャストしていくかということだと思うんですけど、前回は意識的に下げ気味のポジションで中団だったと?

兼:もちろん、どのようなことになっても良いようなことを考えて競馬をしたと思いますし、トライアルだからこそできるということもありますしね。一度経験をしたことでかなりプラスになると思いますし、この馬は本当に器用ですしね。

-:先週、中山はBコースになって内ラチが出て、ダービー卿のカレンブラックヒルとか、若干内目が残ったというか、内枠も良かったじゃないですか。それというのは例年の皐月賞時季よりも内が活きている状態だと思うんですよ。それは別に、トゥザワールドにとってはネガティブな要素にはならないですか?

兼:この馬は内を突いて競馬をすることも全然可能だと思いますし、その辺は全然心配ないです。競馬の仕方というのは、その時の枠にもよりますしね。本当に器用なので、あとはジョッキーがどう乗ってくれるかだけですけどね。



一族悲願のタイトルをクラシックで

-:トゥザワールドはG1の本命馬としての資質を十分に備えた馬ですか?

兼:それはもちろんです。

-:この血統ですから、もちろん前評判は高い訳ですけど、実質的に悪く言うと、G1は勝ってないんですね。

兼:そうですね。トゥザグローリーもG2勝ちは多いですけど、G1までは届いてないですしね。

-:その悲願は厩舎にとってだけではなく?

兼:「この血統の」というところもあるでしょうしね。

-:それを達成するのがクラシックの皐月賞なら最高ですね。

兼:可能性は十分にあると思っています。

-:何か事前のイメージでは、皐月賞よりもダービーの方が向くんじゃないかと思ったのですが?

兼:もちろん大目標はダービーで、そこに向けて馬づくりをしている訳ですけどね。皐月賞ももちろん大きなレースですし、恥ずかしくないように仕上げています。

-:この馬なら、もちろんここはクリアして欲しいと、5連勝で?

兼:それはもちろん期待はしていますよ。同厩舎に最大のライバルもいますが、頑張ってくれると思います。

●“同厩舎最大のライバル”
トーセンスターダムについてのインタビューはコチラ⇒


●弥生賞前
トゥザワールドについてのインタビューはコチラ⇒



【兼武 弘】 Hiroshi Kanetake

滋賀県出身。1983年3月6日生まれ。初めて観戦した競馬はダンスインザダークが勝った菊花賞。中学生の時に競馬好きの知り合いが多かったため、影響を受けてこの世界に入る。高校の卒業を待たずして、北海道の千歳国際牧場で修行。その後は滋賀の湘南牧場、トレセン近郊のグリーンウッドに勤め競馬学校に入学。卒業後、池江厩舎に所属。持ち乗り(エアラフォンやバトードールを担当)を経て攻め専の調教助手に。モットーは「馬1頭ずつ個々の個性を大切にする」こと。目標は「厩舎全体のことを把握できるように頑張る」こと。業界一といっても過言ではないビッグステーブルのムードメーカー的な存在。


【高橋 章夫】 Akio Takahashi

1968年、兵庫県西宮市生まれ。独学でモノクロ写真を撮りはじめ、写真事務所勤務を経て、97年にフリーカメラマンに。
栗東トレセンに通い始めて17年。『競馬ラボ』『競馬最強の法則』ほか、競馬以外にも雑誌、単行本で人物や料理撮影などを行なう。これまでに取材した騎手・調教師などのトレセン関係者は数百人に及び、栗東トレセンではその名を知らぬ者がいないほどの存在。取材者としては、異色の競馬観と知識を持ち、懇意にしている秋山真一郎騎手、川島信二騎手らとは、毎週のように競馬談義に花を咲かせている。
毎週、ファインダー越しに競走馬と騎手の機微を鋭く観察。馬の感情や個性を大事に競馬に向き合うことがポリシー。競走馬の顔を撮るのも趣味の一つ。

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