関係者の素顔に迫るインタビューを競馬ラボがオリジナルで独占掲載中!

山田誠二調教助手

昨年は日本ダービーを勝利し、フランスの前哨戦ニエル賞を制した上で凱旋門賞4着。日本競馬を最も盛り上げたといっても過言ではないキズナだが、さらに圧巻だったのが2番人気に甘んじた大阪杯での勝ちっぷり。エピファネイアとの再戦も、難なく最後方から上がり33秒台の末脚で突き抜けて見せた。今回は競馬ラボ初登場となる山田誠二調教助手に、フランス遠征時の中間との比較、天皇賞(春)に臨むにあたっての理想論などを伺ってきた。

陣営の想像をも超えた大阪杯

-:よろしくお願いします。山田さんは普段からキズナ(牡4、栗東・佐々晶厩舎)に乗っておられますが、凱旋門賞から帰ってきて、一時は有馬記念を目指して調整を進めていましたね。その後は休養して、今年の緒戦が大阪杯でした。あの時の1週前追い切りは坂路で併せ馬をしていたと思うのですが、その時も山田さんが騎乗されましたか?

山田誠二調教助手:この馬本来の動きではなかったので、有馬記念は残念ながら回避することになりました。大阪杯の1週前は僕ですね。あの時は僕が必死で乗っていました。

-:あの時の動きを見て、まだ反応が重いように感じたのですが、いかがでしたか?

山:ちょっと前に出たら、馬が遊んじゃったんですよね。それで終いも時計が掛かっていたし、馬場も重かったんです。

-:大阪杯までの日にちを考えると、ちょっと太目残しで行くのかなと思ったんです。

山:でも、若干の余裕があるような感じではありました。

-:ただ、レース内容としては文句なしでしたよね。

山:こっちが思っている以上に動きました。



-:あのレースを振り返って、キズナの能力の高さや気性の良さを感じました。山田さんとしては、どこが一番驚かれましたか?

山:間隔も開いていましたし、半信半疑のところもありましたが、“やっぱり走るな”というのが正直なところでした。

-:僕は自分の見る目のなさを痛感しました。あれで十分、このクラスの馬なら走れるんだということを痛感しました。大阪杯のゴール前の写真なんかを見ても、以前より四肢がまとまって宙に浮いている時が撮れているような気がしました。特にラジオNIKKEI杯の時なんかは、弾む感じではなかったような気がするのですが、走り方自体は普段の調教から変化は感じませんか?

山:特に変わったなというところはありません。ただ、去年から比べるとしっかりしたなというのは感じます。ずっしり感が出ました。ただ、走り方とか何かが変わったというのは感じないです。


「ニエル賞の時よりは今回の大阪杯の方が仕上がっていました。今回が8分なら、ニエル賞の時は7分だったと思います。今回の方が仕上がっている感じはあります」


-:フランスのニエル賞前も山田さんは向こうで乗られたんですか?

山:はい。ニエル賞の時よりは今回の大阪杯の方が仕上がっていました。今回が8分なら、ニエル賞の時は7分だったと思います。今回の方が仕上がっている感じはあります。

-:それでもニエル賞に勝てるんですね?

山:それも能力が高いなと思います。あの時は検疫の間に速いところをやらないで行ったので、向こうに着いて1回目の追い切りなんかはモタモタしていました。馬場が違うのもあって、仕上がりとしては物足りない感じでした。

-:今回の方が仕上がりは良いのですね。

山:今回の方が本数もしっかりやっていますし、向こうでやるのと日本でやるのでは、人間の経験値も違います。フランスでは手探り状態でした。

-:ニエル賞から中2週で凱旋門賞を迎えて、日本のファンも相当熱くなってキズナの勝つシーンを期待していたのですが、凱旋門賞前のコンディションはどうでしたか?中2週というローテーションは結構厳しいものでしょうか。

山:特に疲れが抜け切らなかったということはなかったです。レース間隔としては問題なかったと思うんですけどね。

-:帰国後は有馬記念をキャンセルしたことで、結果的に馬がもう一段階成長しましたね。

山:体も大きくなりましたしね。秋に帰ってきた時は、そこまでの感じではなかったので、結果的に良かったと思います。無理をしなくて。




馬場状態云々は言っていられない馬

-:4歳でこれだけ成長したということを考えると、天皇賞や今秋に向けて頼もしいですが、古い世代のファンからすると、ステイヤーにしては若干立派すぎるというか、たくましい気がします。馬の体や血統は日々進化していますが、山田さんは距離についてはどう考えていますか?

山:「距離は問題ない」とジョッキーも言ってくれているし、僕は正直3200mと2400mの違いと言われてもわからないので、やってみないことにはね。ジョッキーが「大丈夫」と言うのだから、信頼して、大丈夫なんじゃないかと思います。

-:距離をこなせるかどうかも含めて、コンディションが大切になってくるかと思いますが、今週の追い切りの感触はいかがですか?

山:ジョッキーは「いつものキズナやね、良いねえ」って、それだけでしたね。変わらないのが一番だと言ってくれました。













-:大阪杯を使った効果はありそうですか?

山:落ち着きも出てきていますね。うるさい面もあった時はありましたけど、大阪杯の前後からだいぶ落ち着いてきて、雰囲気はいいです。素軽さも出てきています。

-:大阪杯は、古馬の一線級のレースにしては時計のかかる馬場でしたが、京都コースに変わって、一転して硬い馬場で走るということになりますが、合いそうですか?

山:条件云々を言っていられない馬ですから、こなしてくれると思いますよ。

-:このクラスの馬に、どちらが良いかを聞くのも失礼ではありますが、ファンとしては馬場状態が合う合わないは気になるところです。昨年はフェノーメノが一変しましたしね。

山:距離、馬場状態をひっくるめて、こなしてほしいですけどね。

-:むしろ、重い馬場で走れる馬ですから、良馬場で走らせたらより強さが発揮されるかもしれませんね。

山:ダービーの時もいい馬場状態でしたからね。あの時も平坦コースではないですけれど、問題無いと思います。


「右よりも左回りのほうが若干良いような気はしますけどね。どちらかと言えば、右手前のほうが好きな馬なんです」


-:右も左も、京都も阪神も関係なく走れるであろうと。

山:右よりも左回りのほうが若干良いような気はしますけどね。どちらかと言えば、右手前のほうが好きな馬なんです。右回りでコーナーを走っている時に右手前なのは当たり前ですけど、直線でも右を出したがる傾向にはあるので。それはやっぱり左回りのほうがいいのかもしれないですけど、問題ないでしょう。

-:コーナーで使っている方の手前が好きということですか?

山:それにも色々な意見があって、他所の調教師さんに聞いても「右手前が好きなら、右回りの方が得意だろう」という人もいるし、「(右回りだと)直線は左手前になるから、左回りのほうが良い」という人もいます。一概には言えないところですよね。

-:イメージとしては、直線で手前を替えた時に、得意な方に替わるほうが良いということでしょうか?

山:ただ、決して左手前だからスピードに乗らないわけではないし、今までのレースを見てきても、右回りでも最後は左手前に替えて走っているので、問題はないと思います。

-:あえて言えば、ということですね。

山:それこそ、重箱の隅をつつくようなことを言えば出てきますけど、それはどんな馬でもあることですからね。

本番は若干のマイナス体重が理想

-:昨年のダービーと比べて、20キロほど体重が増えているじゃないですか。あれは成長分だと考えると、そこから著しく減らなくても問題ないですか?

山:若干余裕はあったので、少し減るのが理想じゃないかなとは思います。4キロから6キロ程度です。10キロも減らなくても大丈夫ですね。490~495キロくらいがいいかな。

-:ファンの注目は、人気馬に差し馬が多いということで、京都の3200mの長丁場ということを考えると、若干気持ち悪さというか……。

山:わかりますね(笑)。



-:「前残りになるんじゃないの?」という考えもありますが、キズナは、どういうペースでも後方から終いの良さを生かすことになりそうですか?

山:そこは春天通算6勝で、レースを知り尽くしている武豊さんですから、僕らが心配するところじゃないですね。

-:大きい期待に応えられるだけの馬であることは、これまでの実績で証明していますよね。

山:そう願っています。コメントが常に控え目なのは、性格なので……(苦笑)。

-:最後に、キズナを応援しているファンに向けてメッセージをお願いします。

山:とにかく良い状態で出せるように。ここまではすこぶる順調にきているので、レースまで良い状態で持っていけるように頑張りますので、応援してください。

-:ありがとうございました。

産経大阪杯前・キズナのインタビューはコチラ⇒





【山田 誠二】Seiji Yamada

兵庫県淡路島(南あわじ市)出身。親を含め、周りが誰も見ないにも関わらず、競馬の世界に興味を持つ。高校3年で騎手過程を受けたものの不合格となり、社台ファームで2年間勤務した後に競馬学校入学。中村好夫厩舎でキャリアをスタートし、ロイヤルタッチやプライムステージに跨った伊藤雄二厩舎を経て、現在は佐々木晶三厩舎で攻め専として助手を務めている。名門厩舎でキズナをはじめ、かつてはコスモサンビーム、インティライミ、アーネストリーらの追い切りもつけていた調教職人。


【高橋 章夫】 Akio Takahashi

1968年、兵庫県西宮市生まれ。独学でモノクロ写真を撮りはじめ、写真事務所勤務を経て、97年にフリーカメラマンに。
栗東トレセンに通い始めて18年。『競馬ラボ』『競馬最強の法則』ほか、競馬以外にも雑誌、単行本で人物や料理撮影などを行なう。これまでに取材した騎手・調教師などのトレセン関係者は数百人に及び、栗東トレセンではその名を知らぬ者がいないほどの存在。取材者としては、異色の競馬観と知識を持ち、懇意にしている秋山真一郎騎手、川島信二騎手らとは、毎週のように競馬談義に花を咲かせている。
毎週、ファインダー越しに競走馬と騎手の機微を鋭く観察。馬の感情や個性を大事に競馬に向き合うことがポリシー。競走馬の顔を撮るのも趣味の一つ。

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