世界も警戒した稀代の逃げ馬 トウケイヘイローが連覇狙う
2014/8/17(日)
3度の海外遠征を振り返って
-:札幌記念に向かうトウケイヘイロー(牡5、栗東・清水久厩舎)ですが、函館で行われた昨年の札幌記念を圧勝してから1年です。
清水久詞調教師:早いですね(笑)。
-:その間にトウケイヘイローは去年の冬と今年の春に海外遠征で香港、ドバイ、シンガポールと厳しい経験をしてきました。香港とドバイは、日本のファンの方もある程度イメージできると思いますが、シンガポールはあまり馴染みがないと思います。競馬場の形態や、天候、馬場などが、その時期の日本とどう違うか、教えて頂けますか?
清:馬場はほぼ平坦の左回りで、日本の京都・阪神の内回りのような大きさです。綺麗な競馬場でした。年間を通して1つの競馬場の芝コースを使っている割には、芝生の状態は凄く良かったです。
-:管理が難しそうな割には、良いコンディションだったのですね。
清:気候的なものもあって、発育も良いんでしょうね。
-:行かれた時期は日本で言うと、どんな時季にあたりましたか?
清:真夏です。赤道直下くらいの国ですし。
-:僕も2月くらいにシンガポールに行ったことがあるのですが、凄く暑かったです。住んでいる方も多国籍ですよね。
清:マレーシア、中国、インド系などですよね。
-:そういう環境でのやり難さはありましたか?
清:特になかったです。調教もオールウェザーという感じでした。
-:香港と似た感じでしたか?
清:そうですね。ただ、日本から行く場合、シンガポールは暑さに対応できるかが、一番大きなポイントになると思います。
-:厩舎をミストで冷やしたりは可能だと思いますが、環境自体は変えられません。その時期にいきなり真夏を体験するというのはしんどいですよね。
清:そうですね。5月のまだ暑くなってない時期に、いきなり行くので、輸送と温度差に対応できるかが、一番のポイントじゃないですかね。
-:トウケイヘイローのコンディション自体はどうでしたか?
清:日本にいる時と変わらなかったです。
-:イメージ的には連戦続きで疲れている時期、休む一歩前です。それでも、馬の体が萎んだりとかはなかったですか?
清:なかったです。そういう意味でも偉い馬ですね。
-:シンガポール航空国際Cはトウケイヘイローの目線でみれば、どんなレースだったか教えて頂けますか?
清:よく頑張ったと思います。欲を言えば勝ちたかったですが、無事に終わって良かったですし、馬を褒めるしかないです。日本代表として選ばれたからには、勝ちを狙いに行くことは勿論です。あそこを勝っている日本代表馬が何頭もいますから、それに続くつもりで行きました。結果は残念でしたが、無事に帰ってこられて、今があります。
-:先着を許した上位に3頭いて、世界的な馬の名前もみられました。流れ自体が先頭馬には厳しいレースだったでしょうか?
清:ヘイローにとってはそれほど厳しい展開というわけではなかったのですが、自分のスタイルに持ち込むまでに時間が掛かりましたね。
-:それは乗り替わりも影響していますか?
清:乗り替わりは関係ないです。なぜならば、四位ジョッキーと合っていたと思います。周りには香港馬もいましたし、簡単には自分の競馬をさせてもらえないですよね。
-:海外にもだんだんとトウケイヘイローの評価が知られてきて、楽な競馬はさせてもらえないですか?
清:香港での2着は大きかったですね。
-:ドバイデューティーフリーを見ていても、香港での2着が評価されていると思いました。評価されるかどうかで、海外での日本馬の立場や、レースの組み立てるやりやすさが変わってくるのかなと。
清:厳しい展開でしたね。ただ、ヘイローの香港2着が評価されたというよりも、それ以前に日本馬が世界に通用してきているじゃないですか。今まで日本の調教師さんが挑戦されて、良い結果を残してきた積み重ねで、日本馬は昔と違い今は強い、というイメージが海外にはあると思います。
-:日本馬の中には華奢な馬もいますし、ヨーロッパの関係者からしたら、日本馬は自国馬と比べて馬っぷりが良いと思っていると思います。日本馬の血統的背景も世界水準になっています。その中でもトウケイヘイローはよりマッチョな感じで、香港に行っても格負けしない体を持っています。そういうところもあるのではないですか?
清:そういうところもあるかもしれません。そこで差のない2着という結果を出したので、その後のシンガポール、ドバイではマークされましたね。普通の逃げ馬ではないですから。
「レースはジョッキーに任せるだけですし、僕らが作戦を考えてもしょうがないですから。レース前に行く馬がいたら行かせてもいいとか、心にもないこと言ってもしょうがないですし、行くしかないですからね」
-:去年の札幌記念以来、勝ち星からは遠ざかっています。ファンとしては、是非ともこの馬らしい鮮やかな逃げ切りを期待したいです。今年は新装の札幌競馬場ですが、ご覧になりましたか?
清:それがまだ行ったことないです。ただし、馬場は変わってないですからね。
-:時計の出方など、その年の傾向があります。僕の見た感じでは、函館よりもディープインパクト産駒が向くような、軽くてピュッとこられるような結果が出ていると思います。それはトウケイヘイローには良くないのかな、という気がしました。
清:テレビでしか札幌の競馬を見ていませんが、ヘイローの芝2000を意識しては見ていないです。なぜならば、レースはジョッキーに任せるだけですし、僕らが作戦を考えてもしょうがないですから。あの馬の場合は特に決まっているので、レース前に行く馬がいたら行かせてもいいとか、心にもないこと言ってもしょうがないですし、行くしかないですからね。
-:どれだけ有利にヘイローの形を作れるかですね。
清:僕が違う陣営だとして、ヘイローがいたら、少しでも脚を使わせる乗り方をしろ、と言うと思います。それをこの前のシンガポールでは、はっきりやられました。枠順を見ても、そうなるなというのは分かっていましたし、想定通りの競馬でしたから、あとは力負けでしたね。
想定馬体重は490キロ前後
-:やられた中でも、シンガポールでは4着に粘っています。札幌記念では強敵のゴールドシップやハープスターが後ろから追いかけてきます。まず、今のトウケイヘイロー自身のコンディションはいかがですか?
清:心配ないです。思惑通りにきました。
-:今はまだ栗東にいて、まず函館に輸送して、函館のウッドコースで本追い切りをしてから、直前に札幌に入るというプランですよね。そのやり方も、もう慣れていますよね。
清:輸送に関してはなんら心配してないです。
-:今の体重はどうですか?
清:大体、同じです。500台です。競馬では500を切るか、490くらいのいつもと同じ体重で出られると思います。
-:ここから1回、本追い切りをしたら、昨日見せて頂いた体というのは、もっとグッと盛り上がるというか、絞まりが出てきますか?
清:輸送でちょっと絞れると思います。着いてから4日くらいあるので、それでまた今くらいまで戻って、シュッとやる感じです。もうやってきたので来週は流す感じです。
-:輸送して絞れる分で、ベストに近いコンディションに戻るのでしょうか?
清:だいぶやってきたので、もういいと思います。
-:この馬は重めだと最後に息切れするイメージがあります。
清:いや、太いからとか、そういうイメージはないです。
-:体重以外で馬券ファンがチェックできるポイントはありますか?
清:落ち着きや返し馬など、当日の馬の状態を見る人は見るでしょうし、体重のプラスマイナスを気にする方もいると思います。僕は数字をそれほど気にしないです。大きく増減があれば別ですが、その時、その時の見た印象を重視しますね。
昨年王者も気持ちはチャレンジャー
-:オークスでのハープスターの末脚も凄かったですし、宝塚記念のゴールドシップも強かったです。この2頭がどのあたりの位置で競馬をしてくるか、気になるところですね。
清:実績では格が違うゴールドシップや、これだけの馬と競馬できるのは光栄です。なかなか一緒に走れる馬じゃないですからね。楽しみな部分もあります。
-:この馬にバッチリ嵌まる形にさえなれば、そんなに易々と差されないですよね。
清:相手はG1馬で、僕らは挑戦者ですから、そんな簡単にはいかないです。
-:それでも、雨が降った去年は強い勝ち方でした。
清:あれは馬場ですよね。僕としてはパンパンの良馬場でやりたいです。パワーを兼ね揃えてきたとはいえ、スピードのある馬は良馬場の方が良いと思います。
-:ドバイやシンガポールへ行ったことは、この夏の疲れには繋がってないですか?
清:シンガポールから完全にオーバーホールしましたからね。帰ってきてからも、ガタッとなったところもありませんでした。
-:凄い馬ですね。体調の維持というか、へこたれなさが凄いですよね。
清:普段から無駄なことをしないので、体力の消耗がないです。そういうところが良いのだと思います。イレ込んだり、イライラして汗をかいたり、調教で引っ掛かって無駄に疲労するということがなく、力の出しどころを分かっている馬です。
-:昔はありましたよね。
清:攻め馬ではなかったです。追い切りになると我慢できずに行きたがりますが、普通のところは馬も分かっているので。
-:精神的なメリハリがついた馬なのですね。そういう馬は得てして成績が良くないイメージがあるのですが、人の言う事を聞きつつ、ここまで成績が良いというのは、恐れ入りますね。
清:大した馬ですね。
-:楽しみにしています。小回りの2000ということで、先行有利なレースになればいいですね。
清:大きな馬場の外回り2000の直線が長いコースよりも、コーナー4つの小回りの方がヘイローには良いでしょうね。
-:ビッグネームの中で、トウケイヘイローがどう主張して、どの様な競馬をするか、楽しみにしています。ありがとうございました。
清:ありがとうございます。
プロフィール
【清水 久詞】 Hisashi Shimizu
父親の清水貞光氏が冠名カルストンの馬主。幼少の頃より毎週競馬場に連れられており、牧場勤務を経た後に自然とこの世界に入る。「目指そうというよりも気がついた時には厩務員になっていた」と。
トレセン勤務後は定年での解散まで浜田光正厩舎に所属しており、当時に携わったのが牝馬2冠馬のファレノプシス。その思い出を「あの経験は未だにすごく大きなもの。古馬になってからのプレッシャーは大きかった」と語る。調教師になった後も「今こうやって調教師をしているのはいろんな人の力。人と人との繋がりを大事にしていくこと」と、絆をモットーにしている。
1972年大阪府出身。
2009年に調教師免許を取得。
2009年に厩舎開業。
初出走:
2009年6月21日3回阪神2日目11Rメイショウロッコー
初勝利:
2009年8月16日3回新潟2日目6Rチョウハイレベル
プロフィール
【高橋 章夫】 Akio Takahashi
1968年、兵庫県西宮市生まれ。独学でモノクロ写真を撮りはじめ、写真事務所勤務を経て、97年にフリーカメラマンに。
栗東トレセンに通い始めて18年。『競馬ラボ』『競馬最強の法則』ほか、競馬以外にも雑誌、単行本で人物や料理撮影などを行なう。これまでに取材した騎手・調教師などのトレセン関係者は数百人に及び、栗東トレセンではその名を知らぬ者がいないほどの存在。取材者としては、異色の競馬観と知識を持ち、懇意にしている秋山真一郎騎手、川島信二騎手らとは、毎週のように競馬談義に花を咲かせている。
毎週、ファインダー越しに競走馬と騎手の機微を鋭く観察。馬の感情や個性を大事に競馬に向き合うことがポリシー。競走馬の顔を撮るのも趣味の一つ。
■公式Twitter
@aklab0328さんをフォロー