敵は新潟の馬場!?遂に戴冠なるかハクサンムーン
2014/9/28(日)
手掛けた中でも1、2を争う身体能力
-:セントウルSの2着からスプリンターズSに向かうハクサンムーン(牡5、栗東・西園厩舎)ですが、まずは今年の高松宮記念を振り返っていただけますか?
西園正都調教師:スタートで挟まれて致命的な出遅れをして、エーシントップの武幸四郎が「(酒井)学はどこ行った」と探しながらハナに行ったんですよね。出遅れたことはありますが、あんなに後ろからの競馬になったのは初めてでした。それでも5着まできてくれて、新しい面を垣間見た気がしました。
-:調教時計の出方を見ると、ただのスピード馬で、ゴール前にかけてラップが遅くなるという、逃げ馬特有のラップのつなぎ方ではなく、差し馬のような時計を出せる馬ですね。
西:アイビスSDの時にも、2F目を9秒台で行きました。普通のサラブレッドでは出せないスピードを持っています。
-:それでいて、差し馬に必要な瞬発力も同時に持っているという、恐ろしい面もあります。
西:高松宮記念でああいう競馬ができたことで、今回の2番手に控えるという競馬につながりました。
「身体能力は凄いと思います。僕も開業してから、たくさんの馬を手掛けたし、名馬もいましたが、その中でも身体能力は1、2を争うと思います」
-:かなり昔の話ですが、僕は秋山真一郎騎手が乗った葵Sを凄く覚えています。
西:詰まって詰まって、何もできずに終わったレースですよね。
-:何もできずに終わりましたが、レースの後に秋山騎手と話したら「凄く勿体ない競馬をしてしまった。この馬はたぶんG1を勝てる。逃げ馬じゃないと思う。凄い瞬発力も持っている」と言っていました。
西:身体能力は凄いと思います。僕も開業してから、たくさんの馬を手掛けたし、名馬もいましたが、その中でも身体能力は1、2を争うと思います。
-:もうひとつ、この馬の強味だと思っていることは、安定してコンディションを維持できることです。
西:旋回する割には、脚元の不安などで泣いたこともないので、それは大きな強味かなと思います。
-:あれだけのスピードと瞬発力がある馬は、もっとカリカリしているイメージがあるのですが、それもあまりないですよね。
西:大人しいです。洗い場で洗う時もジッとしています。
-:写真を撮らせてもらう時も、短距離馬特有のチャカチャカしたところがないです。
西:うちのはみんなそうですね。エーシントップもしらん顔をしていますし、サダムパテックも短距離馬じゃないですが、写真撮ろうが何しようがしらん顔しています。
-:気性的にも長距離馬のマッタリ感がありますよね。どういう育て方をしたらこうなるのですか?
西:意識してそういう育て方をしてはいないのですが、この馬に限らず周りの環境に順応しやすいです。馬場の近くで写真を撮るのは構わないです。ウチの厩舎は、昔の調教師さんみたいに鍵掛けて入ってくるな、とかはないですよ。写真を撮られていじけている様では大きいレースは獲れませんから。特別に大騒ぎしたり、フラッシュを炊くのはダメですが、その辺に人がガヤガヤ来て、写真を撮る分には構わないです。
-:先生の考えと、スタッフさんのチームワークがあってこそですよね。
西:記者が来ている時よりも、従業員の前での方がワーワー喋っていますからね。普段からワーワー喋っていることに慣れているから、気にもしないんだろうし、物怖じしないというのは強味ですよね。
-:人間が厩舎に来て、明るい雰囲気でピリピリしていないというのは、馬にとってもプラスですよね。
西:まして、大きい怒鳴り声を上げたり、ケンカしたりすることなく、和気あいあいとやっています。その刺々しくない雰囲気は馬にも伝わると思います。
新コンビ・戸崎圭太との相性
-:残念なことに、今までコンビを組んで一緒に戦ってきた酒井学ジョッキーから、戸崎圭太ジョッキーに乗り替わったセントウルSだったのですが、開幕週ということもあって、レース前から差す競馬をさせたいというテーマを考えると、大外枠はあまり歓迎できる枠ではないなと思っていました。先生はいかがでしたか?
西:去年のセントウルSも一番大外枠でした。同じような出遅れをして、その時はあまり行く馬がいなかったのでハナに行って、ゆっくりなペースで行けて、怪物(ロードカナロア)を破りました。割と出遅れ癖があるし、今回の外枠は別に構わないかなと。控える競馬を試したい、という意識もあったので、戸崎には「内を見ながら、控えても競馬はできるから、出たなりで行ってくれ」と。何事もプラスに考える性格ですし、建設的な物の考えしか僕はしないです。外枠でもまあ、いいかな、と考えていました。
-:ポジティブシンキングなのですね。ただ、レースを見ると、テンのスピードが速かったですね。
西:上がってきて、戸崎が一声で「先生、馬が速過ぎます」って。「この感じを捉えて、上手に絵を描いて乗ってくれ」と言っています。
-:テン乗りの戸崎ジョッキーの競馬を見ると、ハクサンムーンを研究してきているなというところがあって、この馬は手前を替えるのが下手ですよね。
西:下手ですね。
-:それで、戸崎ジョッキーも4コーナーを回って、一回替えようと思ったけど替えなくて、あの辺は替え難いというのを分かっていたのですね。
西:あれだけの実績を挙げてきた乗り役なんだから、漠然と乗っているはずはないし、他の馬のこともよく調べています。競馬もよく見ていると思います。
-:その面では、新コンビとして安心して見てられますね。
西:上手くスムーズに乗り替わったと思います。
気になる新潟適性はこう見る
-:これまでのハクサンムーンの好走パターンを見てきた感覚でいうと、レース前の返し馬に入るときの馬場入りで、勝っている時はかなりクルクル回転します。スピードも速く、しつこく回っていて、見ている側をハラハラさせます。セントウルSの時は意外にスッと行ったので驚いて、これがプラスなのかマイナスなのか、ちょっと悩みました。
西:回り方が足りなかったから負けたと言う人もいますが、それはこの馬のパフォーマンスですし、たくさん回ったから走って、たくさん回らなかったから走らないというのは、競馬をして2着だから関係なかったと思います。戸崎も一回跨って、こんな感じだと掴んでくれたと思うので、次はもっとスムーズにいけると思います。
「正直、中山開催なら『勝ちます』と言えます。ただ、新潟の左回りで、3開催も使った一番最後に1200mの18頭で、枠順がどうなるか分かりませんが、不安は不安です」
-:今回の一番の注目点というのは、中山から新潟に替わることです。新潟になると、出走頭数が増えて18頭になりますし、馬場も使い込んでいる競馬場なので、セントウルSの様な好時計の決着にはならないんじゃないかという予想ができます。しかも、直線競馬があるコースですから、馬場が荒れてきて外が良いかといったら、外は外で使っているという、僕らにとっては悩ましい馬場状態になりそうですが、左回りでの勝ち星がまだないです。先生としてはそのハクサンムーンにとってのテーマは何かお持ちですか?
西:正直、中山開催なら「勝ちます」と言えます。ただ、新潟の左回りで、3開催も使った一番最後に1200mの18頭で、枠順がどうなるか分かりませんが、不安は不安です。色々なことを考えてしまいますが、ここで競馬があるのは決まっているものですから、そこはプラス思考で考えて、一回乗った戸崎に任せて、絵を描いてくれるんじゃないかと考えています。それでも、新潟開催に疑問視は残りますよね。
-:先生が自信を持てないのは、左回りということですか?
西:勝ってないけど、左回りに不安は何も持っていません。負けたとはいえ、高松宮記念でもあわや2着というところにきていましたし、その後のCBC賞でも結果は出していますので。短距離においてはたくさんの馬が出てくるし、ガラッと着順が入れ替わるところで2、3着にきているということは、能力を発揮できていないわけではないです。展開のあやでそうなっただけで、今回も同じです。
-:セントウルSを見たら、レース前のテーマであった、差し馬として乗れるのかというところは、あの馬の絶対スピードの高さを考えると、あまり現実的ではないのかなと思いました。
西:去年のセントウルSみたいに行く馬がいなくて、出遅れてスローでいければ、一番良いことだけど、中にはテレビに映ってやろうか、という馬も出てくるわけだから、それはその時で対応していかないといけないし、なるようにしかならんというか、差す競馬をさせたいという気持ちもあるし、それでも前目で捌いていかなければと思います。
ハクサンムーン・西園正都調教師インタビュー(後半)
「本番は若干のマイナス体重が理想」はコチラ⇒
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プロフィール
【西園 正都】 Masato Nishizono
1955年12月29日鹿児島県生まれ。騎手時代は安田記念、マイルCSを勝ったノースフライトのデビュー戦を任されるなど303勝をマーク。調教師に転身し、1998年に厩舎を開業すると坂路を主体とした独自の調整方法で活躍馬を量産。特に00年代後半からはハクサンムーンのほか、マイルCSを勝ったエーシンフォワード、サダムパテック、川崎記念を勝ったフィールドルージュ、気っぷのいい逃げでファンを沸かせたシルポートなど、短距離~マイル戦線で毎年のようにスピードあふれる有力馬を送り出している。また、栗東トレセンきってのオープンな人柄でも知られ、マスコミ対応も積極的に行っている。
【高橋 章夫】 Akio Takahashi
1968年、兵庫県西宮市生まれ。独学でモノクロ写真を撮りはじめ、写真事務所勤務を経て、97年にフリーカメラマンに。
栗東トレセンに通い始めて18年。『競馬ラボ』『競馬最強の法則』ほか、競馬以外にも雑誌、単行本で人物や料理撮影などを行なう。これまでに取材した騎手・調教師などのトレセン関係者は数百人に及び、栗東トレセンではその名を知らぬ者がいないほどの存在。取材者としては、異色の競馬観と知識を持ち、懇意にしている秋山真一郎騎手、川島信二騎手らとは、毎週のように競馬談義に花を咲かせている。
毎週、ファインダー越しに競走馬と騎手の機微を鋭く観察。馬の感情や個性を大事に競馬に向き合うことがポリシー。競走馬の顔を撮るのも趣味の一つ。
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