目覚めた個性派ナムラビクター 惜敗続きにピリオドを
2015/1/18(日)
-:東海S(G2)に出走するナムラビクター(牡6、栗東・福島信厩舎)ですが、JCダートから名前の変わったチャンピオンズCで2着と頑張りました。もともとパワータイプで、パサパサのダートでないと力を出せないところがあったのですが、(以前所属していた)野村厩舎時代に最初に見た時の感想はどうでしたか?
斎藤孝厩務員:私はお姉ちゃんのナムラエバーグリンも担当していたのですが、凄く気性が勝った馬でした。初めて見た時に、この馬はバカっ走りするか、走らないか、どちらかだろうなと思いながらやっていました。調教も動かないし、とりあえず一回使ってみようとなって、芝を使ったんですよね。しかし、全く動かないし、ダートを使ってみたらどうなるんだろう、と考えると、「砂を被ると嫌がる。新馬を使った時、物が飛んでくると頭を振って逃げる」と太宰騎手が言っていましたね。彼を乗せるのは可哀想だなと思って、2戦目は渡辺薫彦騎手に乗ってもらいました。「(道中は)外々でいいから乗ってきて」と言ったら、意外に走ってきて、ちぎって勝ちました。これはダートに行ったら違うのかなと思ってやっていました。
それでも、相変わらず調教は動かないし、これはどうなるのかなと。2走目も砂を被ったら嫌がると言うので、耳なしのメンコをつけました。すると、ちょっとくらい砂を被っても我慢できたので、“これは本物かな”と思ってやっていました。調教は相変わらず動いたり動かなかったりで、この馬は気分屋ですね。最近はちょっと動くようになりましたが。
-:活躍したダート馬の中にも、坂路やウッドコースで時計の出ないタイプの馬はいますよね。
斎:反抗するんです。追い切りでも、怒るとムキになって向かってくるところがあります。攻め専の人でも、ステッキを使って行くと、逆に伸びないと言うんです。気分良く走らせた方が時計が出るんです。
-:難しいタイプですね。あんまり気分良くやらせると、馬がナメ出します。オーバーワークになるくらい走ることもあるのですか?
斎:先週が55くらいで、12.9-12.9くらいで動いたんです。今まであまり記憶にない数字です。
初勝利時の口取り 当時は今は解散した野村厩舎に所属していた
-:先週は馬場状態の関係で、全体的に速かったですね。ダートに替わって、これだけ変わる馬も珍しいですよね。
斎:珍しいですね。
-:野村厩舎も色々な条件を、色々な馬でトライしていましたが、ここまでガラッと変わるのは記憶にないです。
斎:途中にオーナーの意向で芝を一回使いましたが、全然ダメでしたね。オーナーもそれで諦めました。ナムラコクオーの妹の子にあたるので、“芝でも大丈夫”と言われたのですがね。
-:ダートの中でも、中央のダートは時計が速かったりします。それよりも、僕が見た感じでは地方の時計が掛かるダートの方が合うんじゃないかと思いました。
斎:思いますね。ただ、物見が酷いんです。影とかを見て、調教中に飛んだりするんです。地方はナイターが多いので、そういう心配はあります。
-:物見をしたりするのは、走っていて余裕があるからできることで、一杯一杯の馬にそんな動きはできませんよね。
斎:ハロン棒の影を見て、ポーンっと跨いで行くくらいなので、その度にピッチが上がっていくんです。だから、地方のナイターがどうなるかという心配はありますね。
-:去年のチャンピオンズCは中京の左回りでしたが、人気はそんなになかったです。当日の馬場状態が重かったので、これはナムラビクターに合うなと思っていましたが、僕の予想以上に勝ち馬に肉薄しました。
斎:ホッコータルマエに0.1秒くらいですが、あの馬はやっぱり強いですよね。
-:ホッコータルマエにあそこまでいったら、万々歳じゃないですか?
斎:3歳の時(レパードS)も同じパターンでした。クビ差で負けたんですよね。並びかけて行くと、もうひと伸びするんです。どこかで一回逆転してほしいと思うんですけどね。
-:そのためには賞金を加算して、上のステージでも使いたいところを使えるような馬にならないといけません。チャンピオンCを使った後の状態はいかがですか?
斎:変わりなく順調にきています。
-:この馬の体型は、一般の人から見るとちょっと太って見えますよね。
斎:馬が太いと言われるのですが、そう言われるたびに凄い競馬をしています。息遣いも悪くないと言いますし、ジョッキーも具合が良いと言います。だから心配はしてないです。
「我が強くて、歩かない時があるんです。調教でも馬場で調教できないようになったりします。無理にやろうとすると蹴りまくります」
-:パドックで見る人には、お腹回りに余裕があるように見えるかもしれませんが、この馬はこういう体型と思って見た方がいいですか?
斎:そうだと思います。体重はあまり気にしていないです。
-:普段のトレセンを歩いている姿を見せていただいても、そんなに気配良く見せる感じではないです。ちょっとダラダラ歩いている感じです。
斎:ちょっと馬っ気があるんです。他の馬に近づかないように歩いています。気性的に馬っ気を出すとかなりキツいです。
-:そういうところを斎藤さんが気にしながらやっているのですね。他の馬には近づいてほしくないですか?
斎:後ろから馬が来ると、馬を待つ癖があるんです。牝馬が来ると、ピタッと止まって待っていますし、こっちの方がかえって気を使います。
-:時々、斎藤さんが引っ張って促しているシーンを見ます。
斎:我が強くて、歩かない時があるんです。調教でも馬場で調教できないようになったりします。無理にやろうとすると蹴りまくります。
-:そういう癖馬的な一面を持ちながらも、ここまで走ってくれれば、斎藤さんとしては万々歳じゃないですか?
斎:そうですね。有り難いことです。
ナムラビクター・斎藤孝厩務員(後半)
「2015年の緒戦は万全の態勢」はコチラ⇒
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プロフィール
【斎藤 孝】Takashi Saitoh
昭和27年生まれ。父が厩務員をやっていた関係で兄が競馬場に入り、そのツテもあって自然とこの世界を志す。栗東が開設される前、昭和41年に阪神の渋川厩舎でトレセン生活をスタート。その後、一度退職して4・5年のブランクもあったが、改めて栗東の星川厩舎、吉永猛厩舎、大久保石松厩舎と渡り歩き、その後は解散するまで野村彰彦厩舎に腰を据えることになる。ナムラビクターは前厩舎から担当しており、福島信晴厩舎にともに転厩してきた。仕事をする上でのモットーは「ありふれたことですが、気を抜かないようにしています。怪我する時は不注意がほとんど。馬に気づかれないよう、張り詰めた気持ちを崩さないようにやっています」。厩務員生活は軽く40年を超える大ベテラン。
【高橋 章夫】 Akio Takahashi
1968年、兵庫県西宮市生まれ。独学でモノクロ写真を撮りはじめ、写真事務所勤務を経て、97年にフリーカメラマンに。
栗東トレセンに通い始めて18年。『競馬ラボ』『競馬最強の法則』ほか、競馬以外にも雑誌、単行本で人物や料理撮影などを行なう。これまでに取材した騎手・調教師などのトレセン関係者は数百人に及び、栗東トレセンではその名を知らぬ者がいないほどの存在。取材者としては、異色の競馬観と知識を持ち、懇意にしている秋山真一郎騎手、川島信二騎手らとは、毎週のように競馬談義に花を咲かせている。
毎週、ファインダー越しに競走馬と騎手の機微を鋭く観察。馬の感情や個性を大事に競馬に向き合うことがポリシー。競走馬の顔を撮るのも趣味の一つ。
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