夢を現実にする大器リアルスティール
2015/4/12(日)
数々のG1馬に跨ってきた腕利きの感触
－：これだけ決め手のある馬ですから、中山の馬場で雨が降った時、道悪ではどういう対応ができそうですか？
渋：雨はこなせるのかなと一抹の不安がありますよね。しかし、意外と掻き込むタイプの走りなので、重はそんなに苦にしないタイプだと思っています。
－：ただ、体とかを見させていただくと、若干緩さというか、若さがあるので、どれだけ成長するのかなというのも楽しみではありますよね。
渋：デビュー当初の頃を考えたら、馬場に出した時でもちゃんと動くまで真面目に走れるのかなと思うぐらいです。中間かなりゲートに時間を要したので、強い調教も1本ぐらいしかできなかったですしね。それが、返し馬の時には全部完璧にできていたんですよね。レースもそうでした。
－：この馬は意外に実戦タイプだと。
渋：やっぱり才能が違うのだなと。これはディープブリランテで感じた時もそうですが、全然普通の馬じゃないなと思って。
－：遡れば、渋田助手はメイショウドトウなどにも携わっていて、かなり早い時期から「G1を勝てるんじゃないか」と言われていましたが？
渋：ドトウは1年半、僕しか乗らなかった馬ですからね。初日からずっと、あれだけ長いこと取り組んだ馬はいないですよね。
－：経験してきた数多くのG1馬に近い雰囲気があると。
渋：はい、あります。
「ここに来てから強い調教に耐えてくれて、ドンドン力を付けていって良い方に向いてくれていますね。ノーザンファームしがらきさんもしっかりケアしてくれて、連携もすごく良くやれています。馬にも、そういう環境がすごく良いんだろうと思います」
－：そういう渋田さんがリアルスティールに乗られて、この馬の一番の良さはどこですか？
渋：実は入厩からの1カ月だけで、最近はこの間のレース後に1回乗ったくらいで、最近はほとんど乗っていないのですよ。
－：最初はどうでしたか？
渋：とにかく緩くて、坂路1本、上まで上がるのがやっとという感じでしたが、僕は「この馬は絶対に走る」と(担当の)柿崎に言ったので。柿崎も感じていたし、僕も何の疑いもなかったですね。というのは、背中とバネ感ですか。色々緩みがあって、なかなか四肢をまとめて走ることができなかったですが、最初ゲート練習をやった時も全くダッシュも何もなくて、とても競馬なんていうスピードは乗らなかったですしね。ところが試験の段階になって出るようになったら、やっぱりキチッとスピードに乗れたり。短距離馬みたいな、そういうダッシュの出方をする馬じゃないのですがね。
－：それだけ成長遅れというか、緩さがあった馬が一気にここまで上昇してきたのは……？
渋：逆にここに来てから強い調教に耐えてくれて、ドンドン力を付けていって良い方に向いてくれていますね。レースの後も、ノーザンファームしがらきさんもしっかりケアしてくれて、連携もすごく良くやれています。この間のスプリングS後も、疲れを取るのは全部ノーザンファームしがらきさんにやってもらって、ウチではまた仕上げに入る段階を。馬にも、そういう環境がすごく良いんだろうと思います。
福永祐一騎手もその思いはひとつ
－：スプリングSから距離が1ハロン延びるだけで、前回と似たような状況ですが、ファンの注目するポイントというのは、前回のような競馬をするのか、もしくはもうちょっと先行勢をマークして見ていくのか、というところだと思います。
渋：普通のペースだったら、むしろ前回の位置取りはパーフェクトな競馬だと思いますよ。ただ、1800はゲートが開いてすぐにコーナーですが、2000はやっぱり直線が長いから、ある程度位置の好みは自分でセレクトできると思うのですよね。スタートをしてから、1コーナーまでの距離があるから、そこで各馬の戦法はあるだろうし、そこはリーディングトップを走っているユウイチ君が乗る訳なんで、ユウイチ君の判断に任せたいです。
－：福永ジョッキーも「乗りやすい」と言っていました。今も付きっきりですか？
渋：速いところ(追い切り)は全部乗ってくれています。
－：それだけ、この馬に懸ける思いというのが福永ジョッキーにもあると。
渋：伝わってきますね。「何とか獲らせてあげたい」と思ってくれているのだな、というのは、すごく伝わります。
－：G1に向けて、リアルスティールに欲しい枠順、条件、天気の希望などはありますか？
渋：やっぱり6、8、10枠ですね。G1になると、やっぱり偶数枠がどうしても欲しいですよ。奇数枠で先に入れて、ゲートで待たされるのはどの馬も分が悪くなるというか、リスクがあるので。隣の馬が1頭暴れたとか、そういうことで巻き添えもありますからね。そういう意味では、後入れの偶数というのはみんなが欲しいしね。奇数枠だったら7か11が良いですね。
4/8(水)、CWコースで福永祐一騎手が騎乗して一週前追い切り
タイセイドリームを追いかける形で7F97.3－11.8秒をマークした
－：大ベテランの渋田さんも認めたリアルスティールは楽しみですね。
渋：本当に、最初からどんな馬になってくれるのかなと思っていました。最初に出逢った時に思いましたが、やっぱりこういう馬になるんだ、というのが。どんな馬でも出逢った時は大きな夢を見ます。しかし、リアルスティールは本当に……。
－：今まで色々な馬に乗られてきて、やっぱり良い面を見抜いて、この馬は上に行くんじゃないかと思ったとしても、緩いままで終わったりなど、そういう例も多いじゃないですか。その中で僅か4戦目で皐月賞に向かえるという、このパーフェクトな成績というのはやっぱりリアルスティールという馬を褒めてあげたいですか？
渋：正直、レースだからこそ負けてしまいましたが、力では負けていないんだ、という気持ちは持っていますしね。
－：その気持ちは、騎乗している福永祐一騎手も「負けてしまったけども、内容としては良かった」と思われていると思うので、もう一度期待したいですね。応援しているファンにメッセージをお願いします。
渋：今年は桜花賞でも無敗対決で、皐月賞も色々な意味で楽しい対決で競馬が盛り上がって欲しいです。その中でリアルスティールは今日の時点では何一つ心配なく順調に来られているということもあるし、「本当に勝てる」と言いたいのですが、本音を言えば、「勝ちたいな」という気持ちですかね(笑)。
－：厩舎としては、ディープブリランテで獲れなかった皐月賞ですから、先生も強い思いをお持ちだと思いますしね。
渋：但し、本音を言ったら、皐月賞よりダービーになったらもっと良いなと思っているんですよね。やっぱりこの馬は、折り合えるというアドバンテージを今持っている以上は、そこ強みにもなりますし、本当に皐月賞、ダービーで大暴れして欲しいですね。
－：両方獲れることを祈っています。
渋：出す方は、毎回獲る気満々です。
－：それに我々も乗っかりたいと思います。ありがとうございました。
(取材・写真＝高橋章夫 写真＝競馬ラボ特派員)
●リアルスティール・渋田康弘調教助手インタビュー(前半)はコチラ⇒
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プロフィール
【渋田 康弘】Yasuhiro Shibuta
調教助手歴は約30年にも及ぶ大ベテラン。安田伊佐夫厩舎在籍時代には攻め専の助手として、メイショウドトウを手がけた。時代の風潮もあり厩舎を転々としていたが、現在も所属する矢作芳人厩舎は開業当初から従事していたこともあり、「特別な居場所」と語るほど思い入れが強い。
矢作師については「120パーセントの力を出せる場所を与えてくれる」と全幅の信頼を置き、調教専門の助手として厩舎を支える存在となっている。調教時は「全ての判断が出来る歩き始めの“一歩目”」に気を使っており、馬の変化を見逃さないよう、全力投球を心がけている。
【高橋 章夫】 Akio Takahashi
1968年、兵庫県西宮市生まれ。独学でモノクロ写真を撮りはじめ、写真事務所勤務を経て、97年にフリーカメラマンに。
栗東トレセンに通い始めて18年。『競馬ラボ』『競馬最強の法則』ほか、競馬以外にも雑誌、単行本で人物や料理撮影などを行なう。これまでに取材した騎手・調教師などのトレセン関係者は数百人に及び、栗東トレセンではその名を知らぬ者がいないほどの存在。取材者としては、異色の競馬観と知識を持ち、懇意にしている秋山真一郎騎手、川島信二騎手らとは、毎週のように競馬談義に花を咲かせている。
毎週、ファインダー越しに競走馬と騎手の機微を鋭く観察。馬の感情や個性を大事に競馬に向き合うことがポリシー。競走馬の顔を撮るのも趣味の一つ。
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