2番人気に推された朝日杯FSこそ⑦着と崩れたものの、本番を想定しながら権利も譲れなかった弥生賞でしっかりと立て直してきたブライトエンブレム。その母ブラックエンブレムの秋華賞激走で知られるように、策士のイメージが強い小島茂之調教師だが、クラシックに向けての見通しはシンプルそのもの。話の節々には馬と田辺騎手への揺るぎない信頼が感じられ、現時点で陣営がタイトルを掴むシーンを思い浮かべることすらできた。

弥生賞を使った経緯と率直な感想

-:皐月賞(G1)に出走するブライトエンブレム(牡3、美浦・小島茂厩舎)ですが、昨年末の朝日杯FS後、今年の春シーズンはどのようなローテーションで進めていく予定だったのか教えて頂いてもよろしいですか?

小島茂之調教師:オーソドックスに共同通信杯を使ってトライアルへと思っていました。東京は1回走りましたが、「1回だけ」とも言えますし、キャリアも3戦でしたから使おうかなと思っていたのですが、牧場の人から「まだ無理をせず慌てないでいきましょうよ」と言われました。僕としてもどうしても使いたい、という訳ではなかったので、それならそれで構わないとは思っていました。その時点で賞金もある程度稼いでいましたのでね。今年の緒戦のどちらを使うとなれば、やっぱり本番と同じ条件である弥生賞だろうと。そこの意見は一致しましたね。

-:その弥生賞、年明け緒戦ということで気を付けていたことはありましたか?

小:その時点では調整している段階で良い状態に持っていければいいかなと思っていましたし、賞金的にも持っていましたからね。淡々とやっていたと思いますよ、特に課題もなかったですから。強いて挙げるとしたらゲートですかね。ちょっとガタガタすることもあったのでそこは練習しましたね。

-:課題らしい課題はなかったと。

小:ただ、丁寧にやらないと行きたがる馬ですので、その辺りは常に気を遣っています。ちゃんとコントロールできるように、とは思っていますね。今はパワーもついてきたみたいで、持ち乗りの人が乗っても抑えるのは大変みたいです。田辺(裕信騎手)はもちろん、競馬に行っても大丈夫でしょうが、気を付けなくてはいけないな、とはずっと思っていますよ。だからと言って、そこに凄く神経をすり減らしているわけではないですよ。ただ、前走みたいな休み明けの時は、その傾向が強く出てしまいます。行きたがるというよりは、ハミにグッと強くきますね。フォームが少し変わったり、体が少し緩んで、ハミに頼りたくなるのだと思います。

ブライトエンブレム

-:それは厩舎で乗り込んでくれば変わる部分なのでしょうか?

小:体ができてきて、我慢だよ、ということを伝えれば、そのようなところは順応できる馬ですしね。そこに気を遣い過ぎている訳ではないですし、帰ってきたらまたハミが伸びているなと思うぐらいです。ただ、今回帰ってきてからは強く引っ張るなとは思いました。やっぱり力がついてきたのでしょうね。

-:弥生賞で気を付けていたのは、強いて挙げればゲートと乗りやすいように、という点でしょうか?

小:そうですね。コントロールしやすいようにしとけば、最後に弾けることにつながる訳ですからね。

-:レース当日の雰囲気はいかがでしたか?

小:1週前に強くやって当週は軽くサッとやるつもりだったのですが、1週前に大したことはなかったものの、どうしても気になる仕草をしていました。慎重に作ってきた馬ですから無理はせずに、と。


「あの状態であのようなレースをしてくれましたし、道中外に振られたことも踏まえれば、負けたとはいえ良い内容だったのかなと思います」


-:筋肉痛と言われていましたね。

小:簡単な言い方をすればそうなのですが、人間と同じようなものかと言えばそうじゃない。調子に乗って坂路を2本登ったりもしていましたから、やっぱりキツかったのだと思います。立っている仕草が疲れている感じがしましたからね。微々たるものではあったのですが、万が一のアクシデントも考えられますし、危ない橋をわたる必要はなかったのでね。もちろん当週に強く追い切りことも悪いことではないですし、それはそれで上手くいったのですが、今まで大人しかった装鞍所のところで初めて暴れたらしいのです。やっぱり直前に強くやったことで興奮が抜け切れていなかったのかなと。それで田辺には「スタートが上手くいかないことも頭に入れといて」とは言いましたね。実際にゲートは大丈夫でしたが。

-:用心深く出たのかもしれないですね。

小:そうかもしれないですね。それと直前の感じでは「賞金が危ない」という話もありましたので、権利は外せないぞと。

-:重賞をひとつ勝っていたにも関わらず、ですね。

小:勝ちに行った朝日杯FSではもろく崩れましたが、前走は絶対に3着は外さないというレースをしました。その上で2着にきてくれたのは本当に助かりましたね。ダービーがどうなるか分からなかったですし、ここで賞金を積めたのでダービーも大丈夫でしょう。

-:先々のローテーションを考えた上でも収穫があったということですね。

小:大きかったですね。あの状態であのようなレースをしてくれましたし、道中外に振られたことも踏まえれば、負けたとはいえ良い内容だったのかなと思います。

ブライトエンブレム

▲弥生賞でのパドックの様子


皐月賞もダービーも獲るつもり

-:弥生賞、レース後の状態はいかがでしたか?

小:息も良かったですし、特別何かがあったわけでもありませんでした。レース後は放牧に出すことが決まっていたので、いくぶん長めに厩舎に置いてから牧場に戻しました。

-:それで今回帰ってきたらハミに掛かるようになっていた訳ですね。

小:中5週はありましたが、牧場に行って環境が変わり、疲れが出るかもしれないですし、もともと輸送をすると馬が小さくなってしまうタイプでもあるので、しんどいところはあったと思います。帰厩後の初日というのは大体馬が硬いのですよね。それで乗ってみると良くないなとは思うのですが、次の日に乗ってみると良くなるんです。輸送は苦手なのかもしれないですね。今回も同じ感じでしたよ。

-:厩舎での時間が続いていくと、段々と良くなってくるのですね。

小:厩舎や牧場というよりはやっぱり輸送だと思います。多分、我慢しているのでしょう。普段も乗っていると我慢しているタイプなのです。あまり表に出さないんですよ。兄のテスタメントは結構バタバタしていましたが、この馬はバタバタしたいけども我慢している印象を受けます。

-:何か秘めているものがあると。それが輸送の時にはストレスになっているのかもしれませんね。

小:我慢している分のストレスになっているのかもしれませんね。血統的に考えればうるさいはずなんですが、それでいて我慢しているのですから、相当キツイところはあると思います。出さないストレスというのは発散できていないので、強いかもしれません。


「色々なプランを考えていた時に、牧場の方から『先生、前回ぐらいで大丈夫でしょ』って言われまして。仕上げの部分では1週前に強いところをやれなくて、ちょっとピリピリしたから位置取りをわざと後ろにした、“要するに勝ちきる競馬をしていない”と。それを考えたら、ウチの馬も落ちなければいい競馬になるのは間違いないと」


-:乗り込むうちにイレ込みというのはありますか?

小:帰ってきた時はちょっと馬が寂しく見えましたね。「残りのひと月をどうしようか」と思って。まず体を戻さないと、ということで、帰ってきた週末から普通なら速い時計を出していくのですが、今回は出さなかったのですよ。週末やらなかったことで、だいぶフックラとして、今はホント大きくなっていい感じになっています。

-:肉体面に関しては、そこで無理をしなかったのが大きかったのですね。

小:もうひとつ助けになったのは、色々なプランを考えていた時に、牧場の方から「先生、前回ぐらいで大丈夫でしょ」って言われまして。僕らはトライアルから上げなきゃいけないと何となく自然に思うのですが、前回をよく考えたら、敗れたものの、強い負け方をしていますし、仕上げの部分では1週前に強いところをやれなくて、ちょっとピリピリしたから位置取りをわざと後ろにした、“要するに勝ちきる競馬をしていない”と。それを考えたら、相手も上がってくるかもしれませんが、ウチの馬も落ちなければいい競馬になるのは間違いないと。

あと、僕らがひとつ考えないといけないのは、クラシックに出る馬は「皐月賞がメイチ」というわけにはいかないじゃないですか。皐月賞で春はラストの馬ならいいですが、皐月賞からNHKマイルCに行く馬がいて、皐月賞からダービーに行く馬がいて……。両方獲るのは凄く難しいじゃないですか。3冠馬がそんなにいるわけでもないですし。だからといって皐月賞で手を抜けないでしょう。皐月賞の方が中山で向いているかもしれないし、直線長くて、距離が長い方がいいかもしれない。両方獲りに行くとなれば両方勝てる仕上げをしなければいけない。言葉では言い表せませんが、そう考えると難しいですよね。でも、今それがうまくいっている気がするのですよ。

-:調整、さじ加減が?

小:お母さん(ブライトエンブレムの母ブラックエンブレム)の桜花賞とオークスに関しては、あまり桜花賞向きと思っていなかったので、ちょっと余裕残しで造ったのです。あれはあれで失敗したなと。プラス10キロで出る形で仕上げが甘くなりまして。オークスでは4着に来て、しかし、あれは桜花賞で仕上げすぎずに済んだので、オークスで目一杯に仕上げられた。今回は両方獲りたい。皐月賞を獲れたのはいいが、ダービーでカスカスになって、みんなに期待されて持ち上げられて落ちるのも嫌ですしね。そういうことも考えつつやっています。

ブライトエンブレム

▲自ら調教にまたがる小島茂之調教師


-:皐月賞の先を考えながらの仕上げだけど、ここも獲れるだけの仕上げですね。

小:ここはメイチではありませんが、仕上げは甘くできない。遊びの部分を残しながらキチッと仕上げるのは難しいですね。

-:そのあたりのさじ加減をどうしようと思っていたら、牧場の話が。

小:そうそう。言われてみればそうだなと。使った8日分は自然とできるから。そういうことを思いながらやっていたら、ちょっとフックラするのを待ってあげた分、フックラしてきて、なおかつ遊びの部分、ダービーへの余力を残したまま仕上げられそうな雰囲気にはなっています。

-:そのあたりの強弱というのは調教のメニューですか?

小:メニューだったり、日々の様子だったり、感覚ですよね。

-:馬の状態を見ながら?

小:馬を見ながら、厩務員の話を聞きながら、自分で乗って感じながら。ボロ(糞)から何からね。特にボロは一時期気になった時があったので。厩舎の中ではシッカリしたボロするのに、馬場に入って中でするボロがちょっと緩い時期があったのですよ。これ以上進めていくと、もっと苦しくなるよという合図だから、そのボロが良くなるのをちょっと待つ感じで。本人は見えないところでアピールしているのでしょうね。

-:そのあたりにも神経を遣いながら。

小:そういうのを見てきた分、照準が合ってきているのかなと気はしています。

ブライトエンブレム・小島茂之調教師インタビュー(後半)
「本番の位置取りはどうなる?」はコチラ⇒

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