重賞制覇の舞台で能力全開クラリティスカイ
2015/5/3(日)
逃げて5着に粘った皐月賞
-:前回の皐月賞ですが、これまでトライアルで馬場に泣かされていた面があったと思います。ようやく時計の速い馬場になって、クラリティスカイ(牡3、栗東・友道厩舎)がどんなレースをするか、僕も注目して見ていたのですが、まさか(ハナに)行くとは思いませんでした。
安田晋司調教助手:僕もまさか逃げるとは思わなかったですが、ノリさん(横山典弘騎手)が言うには「内めの方がいい」と。「一番いいところを通りたいし、外枠だったので、内側のラチ沿いを走るとなったらあの戦法しかないから、作戦的には凄く良かったのではないか」と話していました。
-:暮れの朝日杯FSでも3着に来たくらいのスピードがある馬で、よくコントロールが利いたというか、よく馬が我慢して2000mを持ちこたえて5着に粘りきったな、という印象を持ちました。
安:逃げはしましたが、引っ掛かっているわけではないですし、折り合った中で生かせて我慢させるという競馬だったので、スピードに任せて「あ、行っちゃった」という感じではありませんでした。
-:制御の利いた中での競馬だと。
安:そうですね。乗りやすい馬なので。前回でノリさんも3度目のコンビになりましたが、馬の特徴をよく知ってくれているので、こちらとしては馬の長所を生かせるような競馬をしてもらえればと思っていました。
-:いちょうSを勝って賞金も十分あった中での皐月賞ですが、体を見せていただいた時、ひとえに見た目だけなら、まだまだ成長途上といいますか、子供の部分を残しつつ、同期との成長度合いでいえば、決して進んでいる部類には入らないのではないかと個人的には思っていました。安田助手的には乗られていての感触はいかがですか?
安:やっぱり、良くなるのはまだまだ先かなと思います。き甲も抜けていないですし、トモの甘いところとか、体全体に緩いところがあるので、良くなってくればもっとその辺も解消して、シッカリしてくればもっといい馬になると思うのですが、まだ現状、注文を付けるとしたら、成長待ちというところですね。
ヴィルシーナの調教を担当していたことでも知られる安田助手
世代の牽引役を担うローテーション
-:蹄の形を見ると、決して良馬場だけしか走れないというタイプではなく、あまり手先は軽くなさそうに見えるので、その辺の適性はどう判断すればいいですか?
安:ダートでも走れそうな感じはするのですが、芝の少し渋った馬場は走れないですよね。
-:その辺がこの馬の未知な部分といいますか。むしろ、こなしそうな……。
安:そうですね(笑)。体が緩いから走れないのか、蹄などの造りの問題で走れないのか、現段階ではまだ分からないですね。
-:これから馬も成長して、体の充実度が増してくると、その辺りも変わってくるかもしれませんね。成長してくると、少しムチッとした、柔らかそうな筋肉をまとった馬になりそうですが、皐月賞を使ったことで馬体はシャープになった印象があります。
安:皐月賞でも決して太くはなかったのですが、飼い葉をよく食べてもあまり実になってくるタイプではないのです……。馬体が減らないように意識はしていましたが、皐月賞を使った後はさらに張りが出てきました。トモの張りも良くなっていますし、動きも弾みが出てきました。
-:皐月賞後ということもあって、それほど強い追い切りではなかったのですね。
安:疲れがあるから調教をセーブしたというよりも、馬体のキープと、「それほど強い負荷はいらない」という先生(調教師)と僕との判断ですね。“15-15”くらいを予定していたので時計は少し速くなりましたが、それだけ馬なりでもスッと時計が出るということで、状態は上向いていると思いますね。
「終いがキレるタイプではなく、良い脚を長くバテずに使えることが長所です。そういう特徴をジョッキーも掴んでくれていると思うので、スタートさえ普通に出られれば、良いポジションを取れるのではないでしょうか」
-:それだけ馬に走る気がみなぎっているということですね。皐月賞からNHKマイルCというローテーションですが、朝日杯FSの勝ち馬が出てこないということもあり、上位評価になりそうです。ファンからもマイルでの信頼度は厚いと思われますが、皐月賞では逃げの手に出ているだけに、どんな戦法で出てくるのかが興味深いところです。
安:あまり終いがキレるタイプではなく、良い脚を長くバテずに使えることがクラリティの長所です。そういう特徴をジョッキーも掴んでくれていると思うので、スタートさえ普通に出られれば、良いポジションを取れるのではないでしょうか。
-:ポジションの話が出ましたが、時にゲートが不安な場面もあるのでしょうか?
安:出が悪い時はないのですが、過去に躓いて後方に置かれた時もありました。デビュー2戦目ですね。当時はまだ馬体が緩かったからしょうがないかなと。
-:振り返れば、未勝利勝ちは3戦目でした。
安:そうですね。そして4戦目にいちょうSを勝って。
春3戦では一番と言える状態
-:普段乗っている安田さんの視点から、この馬の長所はどこだと感じられていますか?
安:操縦性が高いところですかね。後は良い脚を長く使えて、最後まで頑張って走ってくれるところです。途中で止めたりしませんからね。
-:優等生タイプですね。厩舎での雰囲気はどうですか?
安:大人しくて乗って手がかからない馬です。競馬にいっても大人しいですし。
-:いちょうSまでのローテーションもキツかったですからね。その後、どうなるかと心配でした。
安:厩舎へ入ってくる時はけっこうテンションが高くて、これはテンションが上がってきそうだし、気をつけて調教せなアカンな、と思っていました。それが今は一切そんな素振りもなくて、凄く乗りやすいですね。ただ、皐月賞の2週間前くらいからはだいぶピリっとしてきましたね。ちょっととボケているというか、あんまりダラダラさせるとボケてくるタイプなので、刺激を与えてそうさせないように意識はしていますね。
-:僕が見る限り、皐月賞からNHKマイルへの馬体を見た変化では、皐月賞前のほうが丸みがあって、緊張感が出てきたのかという気はしていました。
安:張りがある中でシャープになってきて、良いと思いますね。皐月賞の時も弥生賞も、僕はパドックでも見ましたが、皐月賞の時点では全然違いましたからね。その点、今回は乗っていても変化を感じますし、見た目にも良くなってきたと感じますからね。
-:結果的に弥生賞の馬場も合わなかったと思いますし、今回も雨が降ってしまうと若干割引かもしれませんが。
安:これまでの成績を見ると、強気にはなれないですね。皐月賞も良馬場ではありましたが、お昼くらいからパラパラとは降っていたので、それがなんぼかタフになったみたいですね。僕ら客観的に見る分にはわかりませんが、乗り手の感触では感じるようですね。
-:ただ、弥生賞の頃から来れば、雲泥の差ともいえるほど良くなっていますね。その結果、5着という結果にも出ているわけでしょうからね。
安:ええ、良くなっています。良馬場ならもっと力を出してくれると思います。
-:最後にクラリティスカイ、パカパカファームを応援しているファンにメッセージをお願いします。
安:春3戦になりますが、この春で一番良い状態ですので、応援よろしくお願いします。
(取材・写真=高橋章夫)
プロフィール
【安田 晋司】Shinji Yasuda
高校卒業後、信楽牧場に約8年勤務。厩務員過程を経て、友道厩舎へ。 信楽時代はエプソムカップを制したアドマイヤカイザーを担当。友道厩舎では、持ち乗りと、攻め専を経験。12年の6月からはヴィクトリアマイルを連覇したヴィルシーナを担当した。攻め専時代、自分の調教技術を向上させてくれた思い出の馬は「全頭です(笑)。でも、ウチの厩舎はけっこういい馬が多いんで、そういういい馬の背中を教えてもらうっていう面でも、すごく勉強になっているかと思います」。その中でも印象に残った馬はサクラローズマリー。
【高橋 章夫】 Akio Takahashi
1968年、兵庫県西宮市生まれ。独学でモノクロ写真を撮りはじめ、写真事務所勤務を経て、97年にフリーカメラマンに。
栗東トレセンに通い始めて18年。『競馬ラボ』『競馬最強の法則』ほか、競馬以外にも雑誌、単行本で人物や料理撮影などを行なう。これまでに取材した騎手・調教師などのトレセン関係者は数百人に及び、栗東トレセンではその名を知らぬ者がいないほどの存在。取材者としては、異色の競馬観と知識を持ち、懇意にしている秋山真一郎騎手、川島信二騎手らとは、毎週のように競馬談義に花を咲かせている。
毎週、ファインダー越しに競走馬と騎手の機微を鋭く観察。馬の感情や個性を大事に競馬に向き合うことがポリシー。競走馬の顔を撮るのも趣味の一つ。
■公式Twitter
@aklab0328さんをフォロー