【POG】ミッキーアイルの弟ら良血続々 音無厩舎を直撃!
2015/6/7(日)
大化けの可能性もある?穴馬候補
-:あと穴っぽいというか、化けそうなところを教えて下さい。
音:それは先ほど挙げたルミナーラやアルマンディンですか。ミガット(牝、父マンハッタンカフェ、母シルバージョイ)はオウケンブルースリの妹ですよ。僕は、オウケンブルースリの兄弟はオウケンブルースリとその下の妹(オウケンシスター)をやりました。その下の妹は、生まれた時にオーナーに言われて僕が見に行ったのですよ。「小さいから止めた方が良いですよ」と助言したのですが、やっぱり小さいままで、410くらいで競馬をして勝てなかったのです。それで、この馬は牝馬ですが、現時点でも500近くありますよね。今年はマンハッタンカフェの牝馬が結構走っているでしょ。
-:走っていますね。大活躍でしたね。
音:それになぞらえてちょっと期待しています、ヘヘヘ(笑)。
-:今年ブレイクしている馬は、結構中型のマンハッタンカフェが多かったイメージがあります。
音無厩舎で芝・ダート問わず活躍を続けたブラボーデイジーの初子も遂にデビューする
音:だから、仕上がったら470~80でしょう。それ相応になりますね。それにデイジーフローラ(牝、父キングカメハメハ、母ブラボーデイジー)ですね。これは初仔ですが、良い馬ですよ。ウチの生野(元騎手で現調教助手)が乗って、福島牝馬S~ヴィクトリアマイルで2着の馬。先ほどのブラボーウォームのめいになりますね。
-:今年、バリバリ当たっているキングカメハメハ産駒です。大きさはどれくらいですか?
音:今の時点で470~80ありますよね。まだ入れませんが。
-:これも桜花賞狙いですか?
音:そうです。もちろん2000も走るはずだから、オークスでもOKだと思いますよ。
-:お母さんに似て、前向きで先行力のあるタイプですか?
音:そこまで言えませんが、キンカメでブラボーデイジーなら、タフな馬場にも対応できると思います。
-:そして、9200万円もの価格をつけたミッキーロケット(牡、父キングカメハメハ、母マネーキャントバイミーラヴ)というのはいかがですか?
音:もう少し体が欲しいかなというところです。これもキンカメですね。
-:これもキンカメで野田みづきさんとあったら、ファンの期待が高まりますね。
音:そうやね。あと馬が良いのは、アメリカンイナズマ(牡、父Smart Strike、母River's Prayer)ですね。これは“外車”ですが、メッチャ良い馬ですよ。化ける可能性を秘めていますね。これも8月のどこかで入れて、9月頭に阪神の芝の新馬を狙っています。
-:スマートストライクはダートで走っていますよね。
音:芝もダートも両方走っていますね。アメリカから来るのはダートと決めつけない方が良いですよ。芝でも走る。サンデーサイレンスもそうだったでしょう?
-:アメリカから来る馬は、飛節がたっている馬が多いですよね。
音:飛節がたっているのも、気にする人は気にする。しない人はしない。僕は、飛節が曲飛は嫌ですが、直飛だったら良いと思うのですよ。曲飛はダメですよ。スピードが出にくいのでね。それに、最近は馬を見る時、そこで欠点を見出すのは止めています。あんまりそれをすると、欠点ばかり見ていたらみんな排除していかないとダメになるからね。脚が曲がっているのもけっこう走っているので、それも止めていますよ。
-:日本は脚が真っ直ぐな馬が少ないですからね。
音:アメリカ人は、脚が曲がっていても全然気にしないですよね。まあ、極論は別ですよ。
音無流の馬の見方
-:沢山、紹介していただきましたが、最後に僕らが走る馬を見付ける時のポイントというのを、先生ならではの目線で教えて下さい。例えば、この写真で見る時のポイントを。
音:う~ん、僕は写真で走る馬とかは分かりません。申し訳ないですが……。
-:しかし、僕らはこれを見て選ばないといけないのです。
音:ですが、僕らが実馬を見ても、想像するしかないのですよ。写真では想像が出来ないから。写真で語る人もいますが、僕は実馬を見ています。昔は真っ直ぐ歩かせて、前後の歩き方をよく見たのですが、今ノーザンファームや社台ファームに行ったら、要するに曳いて回るのもカックリ曳いて回るのですよ。真っ直ぐ行って真っ直ぐ帰って来ない。それはなぜかと言うと、脚の運び、首の使い方等が重要なのですね。脚を上げ下げする時に、首を上手に使って歩いているかどうか、というところを見ています。しなやかさと柔らかさ、脚が真っ直ぐかどうかばかりではありません。ですから、僕は首を上手に使って歩く馬が好きですね。だって、その時点で馬は走っていないじゃないですか。そんな馬を買うとしたら、歩きを見るしかないです。
-:そこから想像する訳ですね。
音:想像するしかないですよ。その時はもちろん肢勢は見ていますよ。逆に聞けば、写真は全部違いますが、どこを見ていますか?
-:芝馬で首の太い馬はあまりいないから、首の太さ、蹄が薄過ぎないか、そういう外見的なところですね。顔が綺麗な相であるとか。
音:当たってるね。ただ、僕らと違うのは、僕らは先に背中を見るんですよ。その後に高橋さんが言ったところを見ますが、先に背中です。
「馬を見る時は、キ甲からの流れ、背中への線を見るんですよ。この線が短いかどうかを僕は見ています。走る馬の相馬眼の中で基本は“長駆短背(ちょうくたんぱい)”、背中が短く胴が長い馬が良いわけですよ」
-:その背中の見方、ぜひ教えてください。
音:それが、一言では言い表せないですね。例えば、競馬ブックにG1を使う馬の写真が載っているじゃないですか。こういうのでも好き嫌いがあって、これに載っている以上は全部走る馬じゃないですか。ただ、まず牝馬は何が走るか分からない。だから、牝馬は見るのを止めた方が良いです。牝馬は良い馬が走らないですよ。もう血統しかないです。
馬を見る時は、キ甲からの流れ、背中への線を見るんですよ。それから、 (本などで写真を隠して)これに対するこの線、それを見たかったら隠して背中だけを見ます。また今度、実馬を見た時に見て下さいよ。そうしたら、背中の線というのはよく見えるから。この線が短いかどうかを僕は見ています。昔、教科書に書いてありましたが、走る馬の相馬眼の中で基本は“長駆短背(ちょうくたんぱい)”、背中が短く胴が長い馬が良いわけですよ。
-:これは背が長いからダメですか?
音:ただ、一概にダメかダメじゃないか、ということではありませんよ。短背というのは背中のことなのだから、ここまでなのです。ここがあまりに長さないのはダメなのですよね。要するに、日本の相馬眼の基本は長駆短背です。なぜか分かりますか?
-:馬場が硬いからですか?
音:いや、違います。昔の日本の競馬体系が、全部クラシックは長い距離だからですよ。その一昔前は、天皇賞は東京も京都も3200ですから。あとクラシックの2400のダービー、オークス、さらに今は短くなって、G1で1200も1600もありますが、昔はなかったですからね。いわゆる大きなレースというのがクラシックと言われるもので。長駆は長くて背が短いということを表しているのですよ。だから、胴が短いのは不利です。この時点で引っ掛かるから、胴が長くて背が短いというバランスですね。それは何頭も見ないと、これを一枚見ただけじゃ分かりませんね。だから、「僕は実馬じゃないと分からない」と言ったわけです。ダービーに出てくる馬で、マイラーはほぼいない。それだから、そういうところからの視点で馬を見た方が良いですね。2400と言うのは中距離というか、どちらかと言うと長距離の部類に入りますよね。
-:馬の世界は難しいですね。
音:特に牝馬はどの馬が走るか分からんでしょう。例えば、クラシックでも活躍するある先生のところで走っている馬は沢山いますが、見た目にこれは良い馬だ、というのは少ないですよね。
-:確かにその厩舎の名牝も、決して見た目は全然良い馬に見えませんでした。見掛けは牡馬の方が重要ですか?
音:牡馬は見た目の方が良いですね。牡馬はちゃんと走るから。もちろん良い馬でも、中には走らないやつもいるよ。そして、走るか走らないか見極めろと言われて、分からない部分は頭ですよね。性格や気性、それから競争心。
両親の精神面はその子に遺伝する?
-:成長度も分からないですね。
音:それも分からない。例えば、ラムタラが入ってきた時、これはすごいのが入ってきたと評判になった。あのラムタラも僕が調教師になりたての時だったので覚えていますが、すごいなと思いました。僕はラムタラを取り入れた関係の人たちに「ラムタラは根性で走った馬ですよね」と言ったのです。僕が疑問に思ったのは、根性は遺伝するかどうかを聞きたかったから。僕もその時は駆け出しの調教師だったから。そうしたら、それが遺伝するという理論だったのです。僕は、それから色々な馬をやって、根性が遺伝しているのかどうかという難しい問題に、自分でもやりながら色々試行錯誤しながら考えたのです。そうすると、勝負根性や競争心、そういうのは環境因子が大きいと分かってきたのです。
-:育て方もですか?
音:ええ、育て方も。ですから、ラムタラに根性があったから、その子供はラムタラと同じように全部根性があるというのは、ほぼ怪しいですよね。受け継がれるのは、スピードとバネと骨格でしょう。馬格、そういったものは親から遺伝される。もちろん研究によるもので、僕も勉強しましたが、遺伝的な要素は、優性も劣性も両親から一緒にもらうのですよね。それは人間も同じ。だから、同じ兄弟でも同じように出ないわけです。どちらかに強く出たりとかするからね。そういう遺伝の関係からしても、根性を譲り受けるのと言ったらそれは違うのでしょう。やっぱり根性は生まれた後の環境因子で培っていくものでしょう。それは人間が創っていくもの。初めからこの馬の根性を受け継ぐというのは、あまり信用しにくいですよね。これは僕の理論で教科書には書いていないですよ。
今、僕らは母親のスピード、父親のスピードとスタミナ、そういうところが遺伝するから、そんな資質を良い方に導いてやるのも僕らの仕事ですから。それが最初から分かれば、苦労しないのですよ。だって、買う時は走る、走らないは分からないもの。みなさんは競馬で馬をご覧になりでしょ。僕のさっきの視点から言ったら、良い馬の見分けは付かないですよ。なぜか分かります?牧場で馬を見る時、裸馬を見てるでしょ。競馬の日、パドックで馬を観る時は、鞍を置いていて背中が見えないですから。
-:ええ、鞍つきは鞍つきで比べないとダメだと思いますね。
音:そうでしょう。だから、競馬の時の視点は違うのですよ。鞍が乗っている背中が見えないから、お腹がちゃんと仕上がっている、毛艶がどうこう、首差し、あとは歩きがちゃんとゴツゴツしていないか、コズんでいないか、それらは分かると思いますが。
-:色々と考えていたら、シャッターチャンスを逃しまくるという。
音:しかし、こういう話はあんまり聞かないでしょう。牝馬はあんまり走らんよ、気性で最後は分からへんよ、なんて。そういう事実はあるので、僕らも競馬を使うまでは、ハッキリ言って分からないですよ。稽古でもある程度はみえてきますよ。しかし、最後の勝負根性であったり、馬込みを嫌ったりだとかは分からないもの。しかも競馬を使いながら勝負根性が付いてくる馬もいるからね。例えば、ディープスカイだって、やっと6回目ぐらいに未勝利を勝ってダービーを極めたでしょう。去年のダービー馬(ワンアンドオンリー)も、新馬戦はケツですよ。だから、競馬って使いながら成長していく方が大きいところを獲れる馬もいるのですよ。
-:成長度が見えたら良いのですが、それが分からないのですね。
音:もちろんディープインパクトみたいに、テンから連戦連勝で行く馬もいるので、これは一概に言えません。
-:あの馬もあの馬なりに成長した過程が?
音:もちろんそうです。成長はしていますよ。
-:分かりました。たくさん勉強になる話をありがとうございました。読者の方々もぜひ参考にしてほしいですね。
音:こちらこそありがとうございました。厩舎の馬たちの応援をよろしくお願い致します。
(取材・写真=高橋章夫 写真=武田明彦)
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プロフィール
【音無 秀孝】 Hidetaka Otonashi
1979年に騎手デビュー。1985年のオークスをノアノハコブネで制したが、通算は1212戦85勝と決して振るわなかった。脚光を浴びるようになったのは厩舎を開業させてから。開業年にイナズマタカオーで重賞を2勝。 以降も坂路を主体とした調教方法で実績を積み重ねると、オレハマッテルゼ、ヴィクトリー、オウケンブルースリ、カンパニー、ミッキーアイルらのG1馬を輩出。常にリーディング上位に名を刻む栗東のトップステーブルとして、その地位を固めている。
1954年宮崎県出身。
1994年に調教師免許を取得。
1995年に厩舎開業。
初出走:
95年6月24日 3回中京3日目12R キーペガサス
初勝利:
95年7月23日 2回小倉4日目11R イナズマタカオー
【高橋 章夫】 Akio Takahashi
1968年、兵庫県西宮市生まれ。独学でモノクロ写真を撮りはじめ、写真事務所勤務を経て、97年にフリーカメラマンに。
栗東トレセンに通い始めて18年。『競馬ラボ』『競馬最強の法則』ほか、競馬以外にも雑誌、単行本で人物や料理撮影などを行なう。これまでに取材した騎手・調教師などのトレセン関係者は数百人に及び、栗東トレセンではその名を知らぬ者がいないほどの存在。取材者としては、異色の競馬観と知識を持ち、懇意にしている秋山真一郎騎手、川島信二騎手らとは、毎週のように競馬談義に花を咲かせている。
毎週、ファインダー越しに競走馬と騎手の機微を鋭く観察。馬の感情や個性を大事に競馬に向き合うことがポリシー。競走馬の顔を撮るのも趣味の一つ。
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