アルバートドック 惜敗の春から主役の座を窺う秋へ
2015/9/21(月)
結果的に奏功したローテーション
-:春を振り返ると、ゆきやなぎ賞~毎日杯~京都新聞杯というローテーションは厳しかったのではないですか?
藤:でも、毎日杯が中1週で、調整しやすかったです。ウチのパターンがあるので、あんまりレース間隔が長いよりはその方が良いです。ただ、先生は「権利を獲れたら」ということだったと思うので、そこは何も思わなかったです。言われた通りにやっておけば、結果は付いてくると信じてやっていました。
-:京都新聞杯ではダービー2着のサトノラーゼンが勝って、2着にポルトドートウィユ、3着がアルバートドックでした。この結果に関しては満足されていますか?
藤:終わった後はハナ差が大きかったですね……。2着だったらダービーに出られたのかと思いました。
-:直前で出走予定馬が動きましたからね。
藤:「大きなハナ差でした」と、周りの人に言っていたのですが、今となったらそれでも良かったかと思う面もあります。ダービーでどこまで勝負をできたか、分からないですし、賞金面で言ったら、白百合Sで確実に菊花賞までは出られると思うので。
-:現時点で3勝していますからね。結局、ダービーに行かずに白百合Sを勝ったことで、秋のローテーションが楽になったということですね。
藤:そういう意味では、僕は前向きに捉えています。結果論かもしれないですが。
「ええ、(菊花賞は) 気性的にも合っているんじゃないかと思います」
-:珍しいことに、この馬は京都と阪神しか出ていなくて、このまま菊花賞に行ったら、京都、阪神から動かずに地元で戦っていく馬になりますね。先々を見据えて、今回の神戸新聞杯はもちろんでしょうが、菊花賞の3000mというところにも楽しみがあるのではないですか?
藤:ええ、気性的にも合っているんじゃないかと思います。
-:ディープインパクト産駒と言うと、どうしてもファンは2000m以下の距離で極限の瞬発力をと?
藤:ゆきやなぎ賞の前に競馬ラボのデータを観たら、阪神の2400mでは勝った馬がいないと書いてありました。これは嫌なデータだと思いましたが、勝てたので、どこか長距離に対する自信にはなりましたね。
-:しかも、白百合Sではあの中で7番手から、いくら馬場が良かったとはいえ、上がり最速の33秒1でした。けっこう前から思っているのですが、レコードを出すような馬って、一瞬の脚しかない馬は無理じゃないですか。やっぱり瞬発力も必要ですが、疲れないでエンジンを回し切る持続力というところがすごく必要だと思うので、そういう面では京都の3000というのは今から楽しみですね。
藤:それは、白百合Sが終わった後から楽しみにしていました。
-:松田博資厩舎と言えば、先行よりも差し、追い込みという競馬を貫かれているかと思います。そう考えると、菊花賞を見据えたレースというのを神戸新聞杯でするのか、それともアルバートドックは折り合いも苦にしないから、神戸新聞杯でどのポジションを走ろうが、次走で引っ掛かって折り合いを苦にすることはないという。それもまた強みなのですかね。
藤:そう思います。まあ、そこは(レースに)出た時にジョッキーが考えるんと違いますか(笑)?前に行くことはあまり想像できないです。
-:メンバーを見渡せば、ライバルはリアルスティールですか?
藤:あまり考えないようにしています。それを乗り越えないと勝てないので、強い相手はいますが、相手云々じゃなくて、上手いこと調整していけば自信を持って行けるかなと思っています。
定年迫る師匠に結果で恩返しを
-:ちなみに、藤田さんがパドックで周回している時に、重賞だったら緊張しますか?
藤:特にそこまで緊張しないです。松田厩舎に入って、G1には出たことはないですが、アルバートドックもそうですし、ある程度何回か他の馬も重賞に出ていますし。ファンファーレが鳴って、ゲートを出るまでが緊張します。出たら、冷静に競馬を観戦しています。
-:今回はゲートまで行かれるのか、それとも馬場で見送ってスタンドから観るのか、どちらですか?
藤:基本的には行かなくて良い馬だと思いますが、先生に「放牧明けやから1回行ってくれ」と言われるかもしれないし、それは現時点では分からないです。
-:菊花賞に向けて、良い発進ができることを祈っています。
藤:僕もそうなって欲しいです。今のところは順調に来ていますから。
-:この馬を持たれている会員さん、応援しているファンの方にアピールしていただけますか?
藤:これだけの馬をやらせていただいて、責任も感じています。僕も牧場で働いていた頃は、みなさんと同じような目線で観ていたので、シッカリとやるべきことはやって競馬に向かって行きたいです。
-:2冠馬のドゥラメンテが秋は使わないということで、3歳クラシック戦線最後の菊花賞は混沌としてきた様相ですが、そこで新たに頭角を現す1頭になって欲しいです。
藤:そうですね。先生も残り半年ぐらいなので、何とか恩返しをしたいですね。僕も、トレセンでここまで育ててもらいましたから。厳しい先生なので、まだまだですが。
-:何か先生との思い出があったら教えてください。
藤:普段通り仕事で接しているので、特にありませんが、厳しくて、いい加減なことが嫌いだと思うので、そういう意味では僕も気が抜けませんね。それでも、周りの従業員は、和気あいあいとふざけたことも言うので、良いバランスで行けていると思います。
-:親分がグッと締めていると。
藤:そうですね。何も言わず、でも、みんな分かっているという雰囲気です。
-:一生を牧場で捧げると思っていたのが、一転して最前線に来たということですからね。
藤:そうですね。こんな素晴らしい環境に入れてもらえたのでね。
-:お忙しい時間にありがとうございました。
藤:ありがとうございました。
プロフィール
【藤田 一郎】Ichiro Fujita
京都府宮津市出身。ゲームで競馬に興味を持ち、中学生の時に父親に連れられて乗馬クラブへ通うようになる。馬に近い環境を求めて高校は両親の出身地である北海道・江別市の学校に通うが、本格的に競馬の道へ歩もうと2年で高校を中退。その後、タイキシャトル、ホワイトストーンなどを育成したファンタストクラブに入り、現在京都競馬場で誘導馬となっているマイソールサウンドやウインラディウスといった重賞ウイナーの育成に携った。当初は競馬場より牧場志望で、競馬学校には規定最後の年に合格。卒業後、現在の松田博資厩舎へ。入った当初はブエナビスタが現役で「だいぶ慣れました」というが、名門ゆえに「馬に乗る前とか脚元を診る時とか、やっぱり毎日緊張はしますよ」と。馬に乗る時も「脚が絡まることもあるので、極力馬の動きを無理やり止める感じではなく、真っ直ぐ動かして止めるようにしています。脚がぶつかると良くないですから、そこは気を使っています」と最善のケアを心掛けている。