同厩アエロリットに続けるか!?前哨戦を制して堂々参戦ウキヨノカゼ
2017/5/7(日)
デビュー僅か3戦目で重賞を制し、その後は長期のブランクを経て1200mのキーンランドCを快勝。スプリンターズSでは3着と、短距離路線でもG1奪取目前まで迫り、今度は1800mの福島牝馬Sを快勝してみせたウキヨノカゼ。昨今でもここまで異色のローテを組み、また、結果を残してきた馬と陣営は珍しい。先週のアエロリットに続き、菊沢隆徳師がここでしか語れない逸話を披露してくれた。
-:ヴィクトリアマイル(G1)に出走するウキヨノカゼ(牝7、美浦・菊沢厩舎)の前走を振り返っていただきたいのですが、福島牝馬Sのレース前は吉田隼人騎手と何か話をされましたか?
菊沢隆徳調教師:初めてなので、1週前の追い切りに跨ってもらう前に、見ている感触と乗った感触の違いを教えました。それは、走り出してからはとても乗りやすい馬だということですね。馬場に出るまではちょっとうるさいのですが、出てキャンターに行ってしまえば本当に乗りやすい馬だということを騎手に自信付けさせて。結果、案の定「乗りやすいですね」ということでしたね。
-:1週前追い切りの段階で、ジョッキーが感触を掴んでいたということですね。
菊:ええ。ゲートなんかでも黙っていれば遅いけれども、少し急かしたってすぐに折り合いが付くから、ということは教えたのですよね。
-:レース当日の馬の気配に関しては、先生がご覧になられていかがでしたか?
菊:パドックも良かったし、ここ2戦はパドックもすごく落ち着いていますよね。
-:それが結果に繋がったということですね。
テン乗りで即結果を残した吉田隼人騎手
菊:そうですね。返し馬が終わってしまえばおとなしくて落ち着いているのでね。ある程度1コーナーまで出していって、あの馬にしてはちょっと中団より良い位置だなと思って観ていたのですよね。向正面で少し促しているから、“アレッ”と思ったんですよ。馬場がボコボコしていたので、脚を取られているのかなと思いながら。
-:本来ならもうちょっと構えて。
菊:楽に付いていって、ジッと我慢できるぐらいなのかなと思ったのですが、そこは予想外でしたね。3コーナーでユタカさんのクインズミラーグロがビュッと来て、今日は全然ダメだなと思っていたら……。
-:ちょっと置かれるような感じに観えたということですね。
菊:踏み遅れというか、そうしたら、4コーナーに向かう前にまたそれで火が点いたのか、グーンとなって。でも、これで捌けるのかなと思っていたんですけどね。
-:福島ですしね。
菊:上手いこと外めに張り出してくれて、脚色も良かったのでね。あとでジョッキーに手応え悪くなかった?と聞いたら「かえって抜けている感じで、動かせばガンと来そうな感じだったので、ちょうど良かったです」と言っていましたけどね。
-:ジョッキーとしては、ゴーサインを出せば弾ける感じはあったということですね。
菊:というような感じだったみたいですね。
-:2015年のキーランドC以来の勝利でしたが、1200mの重賞を勝ったり、1800mを勝ったり、異例ですよね。
菊:もともとオープン、重賞のG3クラスだと力上位なんですよね。しかし、使い方というか、若い時に1年9カ月休んだ後というのは、上手に競馬はするものの、どうしても終いが伸びないといいますか、道中の見た目は力が違うのかなという格好をしているのですが、伸びないというようなレースぶりでした。
中身なのか適性で距離が短くなってきたのかなと思いながら、阪神の1400m(2015年3月14日、うずしおSで10着)を竹之下君で使った時は、馬場も悪くてゴチャゴチャした競馬で、しかし、脚は余っている感じがあったので、ポジションは後方でも良いから1200を使って、最後まで諦めない競馬をさせようというのでシフトさせようと思ったんですけどね。その時はまだ準オープンでしたが、馬の脚のためにも福島や新潟の1200はとても無理だという感じで、北海道の洋芝なら軟らかいし、そんなに速い時計が出る訳でもない。頭数も揃う訳じゃないから、ということで、北海道で復帰させたのです。それが功を奏しましたね。
15年の北海道では1200m戦で連勝、キーンランドC制覇
-:1200mで結果が出て、ずっとそのままでしたね。
菊:一昨年のスプリンターズS(3着)でも上がり32秒台の脚を使っていたので、すごいなと思ってね。去年の高松宮記念(13着)ではどちらにも行き場がなくて不完全燃焼で、去年の東京のヴィクトリアマイル(7着)に関しては超高速馬場だったし、いま考えれば馬のデキも硬くなっていた感じで、案の定、球節の骨片が取れてしまって、あんまり高速馬場は嫌だなと思っていましたけどね。
-:そういう紆余曲折があったわけですね。
菊:それからターコイズS(4着)で復帰して、ノリちゃんに稽古にも乗ってもらったら「これは1800が絶対に良いよ」と言ってもらって「中山牝馬Sに行こう」なんて話していました。
-:ターコイズSの時点で1800mは大丈夫だと。
菊:気性的にもオバサンといいますか(笑)、オン、オフがだいぶ分かってきたので、これなら距離を延ばしてもと。逆に1200で忙しいのより、1800でちょっとごまかして終いだけで打ち破れないかなという気持ちは芽生えていたので、ターコイズSは休み明けで良い競馬でしたよね。本当にあわよくば勝つかというような。それで、1800(中山牝馬Sで6着)で田辺君に乗ってもらって、これまたドスローで、距離を延ばしたは良いけど、今度はドスローになっちゃう恐れが一番嫌でしたね。
-:展開が向かなかったと。
菊:でも、折り合いは全く心配ないなというのをそこで思って、終わって田辺君に「次の福島牝馬Sは大丈夫だろう?」と言ったら「そうですね。福島は絶対にドスローになることはないですからね」という話になって。田辺君には先約があったし、僕は吉田隼人君の腕は買っているので、ちょっと乗ってもらおうかなと思って。彼自身、福島は得意だしね。そういうのがあって、彼もたまたま運が良かったんだよね。
-:しかも、終いを伸ばす良い勝ち方が出来て、今回のヴィクトリアマイルも同じコンビで行こうということですね。
菊:そういうことですね。
菊沢隆徳調教師インタビュー後編
『悲願のG1制覇に向けての展望』はコチラ⇒
プロフィール
【菊沢 隆徳】Takanori Kikuzawa
1988年に柄崎義信厩舎所属としてJRA騎手デビューを果たす。同期は内田浩一氏、岸滋彦氏などで、初年度は13勝をあげた。1993年に天皇賞(秋)でG1初騎乗を果たし、同12月の愛知杯にて重賞初制覇を成し遂げる。現役22年のうちフェアープレー賞を5度受賞するなど、その騎乗スタイルは若手騎手の手本として評された。
2011年に調教師として厩舎開業を果たすと、初年度にオープンガーデンで阪神スプリングジャンプを制し重賞初制覇。この春はアエロリットがNHKマイルCを勝ってG1初制覇。ダイワキャグニーがプリンシパルSを快勝しダービーの有力候補に挙がるなど充実したシーズンを迎えている。