2016年の無念から涙のタイトル獲得 念願の大舞台がラストラン ララベル
2018/2/14(水)
-:厩舎の初重賞制覇がフサイチミライ(09年トゥインクルレディー賞)で、その後ハーミア(戸塚記念)、オリークック(ローレル賞)、レッドクラウディア(しらさぎ賞)など、牝馬の活躍馬が多いですね。
荒:重賞は21勝していますが、半分以上の12勝が牝馬です。ただ重賞は勝たせていただいても、同じ馬で2勝以上できなかったんです。レッドクラウディアもいくつも重賞勝てると思ったら1つしか獲らせてあげられませんでした。その『ジンクス』を払拭してくれたのもララベルなんです。
-:まもなく厩舎通算500勝を迎えようとしています(2月12日現在494勝)。この数字は順調と捉えていらっしゃいますか?
荒:実はあまり数字にはこだわったことがないんです。記念グッズを作る業者さんたちが「もう少しで○○勝です」と言われて、ようやく気づくくらい、気にしてないんです(笑)。開業して10年、まさかここまでの厩舎になるとは思っていませんでした。本当にいいオーナーさんやスタッフさんに恵まれたと思います。僕が何をやったわけではないですから。いい馬が集まって、オーナーさんたちの期待に応える仕事をスタッフがやってくれている、その結果です。
-:お父様の故・荒山徳一元調教師の勝ち星(318勝)を抜き、大井競馬のトップステーブルになりました。荒山元調教師は若き日のアブクマポーロ(※)管理されていましたね。
※アブクマポーロ……生涯戦績32戦23勝。1998年帝王賞、東京大賞典などG1を4勝した南関東が生んだダートの帝王。
荒:忘れられないのは、後にポーロを管理した出川克己先生が「荒山徳一先生が若いころ無理に使わず、あそこで大事に使ってくれたから、あれだけ活躍したんですよ」と言われたことですね。親父はとても馬を大事に使う人でした。使っては休ませて馬を強くしていく感じで。「荒山徳一先生には本当に感謝している」と言われた時は本当に嬉しかったですね。ずっと覚えています。
-:お父様の方針はララベルなどの使い方にも通ずるものを感じます。
荒:大事に使うところは継いでいるかもしれませんね。親父は馬で飯を食っているのに、厩舎の馬房が空いても、悪い時は休養と、調子の良くない馬を戻したりすることはありませんでした。今の時代はなかなか難しいことではありますけどね。うちの厩舎も「このくらいだったら使える」というのはナシにして、無理はさせないようにしています。
-:レース前、先生の強気なコメントは滅多に見ませんね。
荒:順調さを欠いたのに「調子がいい」と言って負けた時、まず批判されるのはジョッキーの場合が多いんです。僕はジョッキーをやっていてそれを味わっているので、ジョッキーの気持ちが分かるんです。「荒山先生は正直に言ってくれるから、また荒山厩舎の馬に乗ろうと頑張ることができます」と、ジョッキーたちも言ってくれます。自分がされて嫌なことを現役のジョッキーたちに味わってほしくないんです。馬は普通にいい時はあるけど、「これは凄くいい」という時は少ないものですから。ただ僕が「これはいい!」ということはほとんどないですし、いいと思った時は意外と負けてもいるんですけどね(笑)
-:一昨年の金盃を勝ったジャルディーノもじっくり使われて出世した、厩舎の代表馬ですね。蹄にトラブルを抱えていたと聞きます。
荒:そうです、蹄の骨の先が溶ける病気でした。オーナーサイドが休ませてくれたことが大きかったです。最初レントゲンを撮ってもどこが悪いのか原因が分からず、最後にもう悪いところは蹄しかないというところまでは来たのですが、熱もないし、でも蹄しか考えられないと思いレントゲンを撮ったら、蹄骨の先が三日月状に溶けていたんです。奇病でした。すぐ牧場に戻してじっくり治療したら薄く骨ができてきて、歩様も戻って一気に出世してくれましたね。金盃まで勝ってくれました。
-:ジャルディーノにはそのような経緯があったのですね。彼は競馬場で返し馬の時に立ち止まって動かなくなる姿が話題になり、大井でも人気者でしたね。
荒:不思議な馬でしたね。大輔が乗った時だけ止まって動かなくなるんです。他の騎手が乗ると止まらない。でもそういう時はだいたい走らなかった。大輔が乗った時は返し馬で動かなくなるけど走る。2回くらいありましたね、馬券投票の締め切りのベルが鳴っているのにまだ動いていないということが(笑)。ただ、あれがジャルのルーティーンですからね。
-:今年は楽しみな馬が多いですね。みやこSを勝ったロワジャルダンも転入から2度の2着、今後の飛躍が楽しみです。
荒:あの馬もまだ良くなる余地がある中で2着を続けていますからね。身体も使えるようになってきていますし、前走の報知グランプリカップは少しポジションが悪かっただけでもっとやれそうです。トロヴァオと一緒にマーチSに行く予定なので楽しみです。
-:3歳には鎌倉記念を勝ったリコーワルサーがいますね。
荒:2戦目のサプライズパワー・メモリアルでゴチャゴチャした展開ながらギュンと伸びて3着。この馬は走ると思いましたね。鞍上の岡部騎手も絶賛してくれました。京浜盃からの始動を考えています。今休養中ですが、身体は20キロ以上増えて500キロを超えています。楽しみな馬です。
-:楽しみな馬が揃った厩舎の今年の目標を教えていただけますか?
荒:毎年目標という目標はないのですが(笑)、ここ2年くらい、この時期はまだ開催も少ないのでリーディングトレーナーの上位ランキングにも載っていなかったんです。それで「荒山は調教師を辞めたんじゃないか?」と言われることもありました(笑)。いつもは他の厩舎がスタートして1コーナー曲がるあたりで、うちはようやくゲートを出たような感じですからね。でも今年はある程度いい感じで成績が出ているので、久々にリーディングに返り咲きたいなと。あとこれは開業当初からの目標なのですが、中央競馬で勝ちたいですね。
-:ここまで長くインタビューさせていただきました。ここで先生から、ララベルに対してメッセージをお願いします。
荒:荒山厩舎というネームヴァリューを上げてくれたのもララのおかげですし、中央のG1がラストレースになるというのも、ララが『持ってる』からだと思います。出たくて出れる舞台ではありませんからね。最後はララらしい走りをしてもらって、無事に帰ってきてお母さんになって、将来「ああ、ララベルの子だ!」と呼べるような馬を出して欲しいですね。
-:ララベルは非常にファンが多い馬ですが、ファンへメッセージをいただけますでしょうか。
荒:地方馬ながら、いつも本当に暖かく見守っていただいたり、応援していただいてありがとうございます。皆さんの声援はララに届いていたと思います。最後、24日に大井競馬場で引退式の予定もあるので、ファンの皆さんの前に姿を見せるのはそれが最後になるでしょうから、フェブラリーSも、引退式も応援に来て頂ければと思います。
プロフィール
【荒山 勝徳】Katsunori Arayama
1968年12月28日生まれ。東京都出身。父は大井競馬で名ジョッキーと名を馳せ、調教師としても活躍した故・荒山徳一元調教師。1987年に大井競馬場で騎手デビューすると、ホワイトシルバーで制した東京大賞典など226勝を挙げ、2007年調教師に転身。2年後トゥインクルレディー賞をフサイチミライで制すると、その後もアートサハラで羽田盃を制するなど数年で大井競馬のトップステーブルを作り上げた。数々の馬を立て直し復活に導くその手腕は『荒山マジック』と呼ばれ、一見強気に見えないコメントは『泣きの荒山』としてファンに親しまれている。地方競馬を代表する名トレーナー。