モーニンの完全復活が近づいている。2016年のフェブラリーSを制すまで7戦6勝。ダート界のスター誕生を思わせたが、その後は競馬を嫌がるようになって不振に陥った。陣営の試行錯誤やジョッキーの進言もあり、前走のコーラルSでフェブラリーS以来の勝利。担当の濱名浩輔調教助手に、沈黙の2年間と久々のG1制覇への意気込みを聞いた。

G1馬復活の陰に名手の進言

-:かしわ記念(Jpn1)に挑むモーニン(牡6、栗東・石坂正厩舎)について伺います。2年前のかしわ記念の時に取材をさせてもらったのですが、それ以後のことについて、色々お聞かせ下さい。まずはコーラルSで久々の勝利、おめでとうございました。

濱名浩輔調教助手:ありがとうございました。

-:レース後、感動されていたという話を聞いたのですが。

濱:泣いてはいないですけど(笑)、感動してジーンと来るものがありましたね。涙はこぼれなかったですよ。涙が出ていたら良い話になっていたかもしれないです、目頭が熱くなるようなところがありましたね。

-:2016年にG1(フェブラリーS)を勝ってから、なかなか勝てず、苦労されたと思います。

濱:2着はあったのですが、あれ以来勝っていないので……。馬の状態自体はそんなに悪い感じはなくて、いつも状態には自信をもって送り出していました。それでも、だんだん馬が競馬を嫌がるようになってしまいました。他の馬に寄られると競馬を止めちゃったり、力を出し切れない競馬が続いていたので、もどかしかったですよね。やっぱり気持ちが萎えてしまって競馬を止めていく競走馬ってけっこういるんですよね。そういう馬は一度そうなってしまうと、なかなか戻ってこられないですからね。このまま終わらせてしまうのはすごく勿体ないと思っていたので、それなら復活出来る道を、しんどいけどやっていかないといけないと思うので、今回は無事に結果が出て、諦めずに信じてやってきて良かったと思いましたね。

モーニン

▲約2年ぶりの勝利となったコーラルS 右が担当の濱名助手

-:年齢面の衰えよりも精神面の衰えによる競走能力の低下が競走馬には多いのでしょうか?

濱:どうでしょうねぇ。ほとんどは肉体の衰えだと思うのですが、やっぱり頭が良い馬は、苦しいところで競馬を止めることを覚えてしまうと止めてしまうので、それを治していくのは難しいですよね。体調面の管理はこっちが頑張っていけるのですが、精神面のコントロールというのはなかなか難しいですし、ましてや競馬に行ってのことなので。モーニンに関しては、調教は相変わらず良い動きをしてくれていましたし、馬体には成長を感じていました。

-:前に伺った時には「成長する余地がかなりある」とおっしゃっていて、これくらい走る馬なのに意外に思った記憶があります。

濱:本当に馬自身はすごく成長していますね。今年も阪急杯(16着)はダメでしたけど、馬は成長していると感じていたので。やっぱり昔よりも歩様が良いし、身のこなしもしなやかな感じが出てきて、昨年も阪神C(6着)を使いましたけど、今だったら芝でも走れそうな雰囲気があるくらい、良い状態ですね。

-:阪神カップも追い込む形でしたけど、厳しいペースのレースでした。離されはしましたが、芝の経験がない割に、この時計で走るんだなと思いました。

濱:上がり(33秒7)も良かったし、メンバーもマイルチャンピオンシップと遜色のないくらいのメンバーでしたからね。

「ノリさん(横山典弘騎手)に騎乗してもらった時に『馬が競馬に飽きちゃっている。最後まで頑張らせることをもう一度馬に教えてあげないといけない』と言われたのです」


-:精神面のケアは、昨年はかなり意識されたことですか?

濱:どうしたら競馬で頑張ってくれるかということは、ずっと考えてやっていましたけど、それがなかなか結果に出なくて……。もう走らないんじゃないかなと思うこともありましたね。去年の武蔵野ステークスからまずはブリンカーを着けてみたりしたのですが、それが良かったのかなと。やっぱりジョッキーに聞くと「効果はありそうだ」と言ってくれて。

-:コーラルSでは、試行錯誤の甲斐もあって、ようやく結果を残してくれましたね。

濱:やっぱり今までと戦ってきたメンバーと比べたら、随分楽なメンバーでしたからね。斤量も58.5kgと他馬とは差がありましたけど、59kgでも競馬をしていたので、大丈夫だと思っていたので。ただ、下と実績の差があるので、馬の格というか、今までのレースとはペースも楽に感じたのかもしれないし、さすがだなと思いましたね。

-:阪神カップもそうでしたが、差す競馬が増えてきましたね。

濱:ノリさん(横山典弘騎手)に騎乗してもらった時に「馬が競馬に飽きちゃっている。このままソコソコの競馬をして、ソコソコ着順を拾う競馬をしていくのか、もう一度この馬を勝たせるためにやっていくのかを考えた時に、後ろから行くというか、最後まで頑張らせることをもう一度馬に教えてあげないといけない」と言われたのです。さらに「その競馬が馬に馴染んでくるまでは、あとはメンバーペースで展開がハマる、ハマらないで、着順が良くなったり、悪くなったりもあると思うし、苦しい時が続くかもしれないけど、そこでも我慢をしてやっていかなきゃダメだよ」とも言われました。

モーニン

▲昨秋、横山典弘騎手が騎乗したことがキッカケになった

結果、トップジョッキーからのアドバイスだったので、そういう競馬をしていこうとなりましたね。中には前に行っていれば勝てるやろう、と思う人もいるし、持ち味じゃないだろうと思う人もいるかもしれないけど、今のモーニンがそういう競馬をしちゃうと、先に競馬をあきらめてしまうという気持ちが働いてしまうから、今は頑張らせるという競馬を続けていくしかしょうがないですね。もともとはやっぱり先行してスピードで押し切るというタイプの馬なので、それが本当だと思うのですが、今はそれが出来る気持ちじゃないんでね。

-:その形を変えることによって、走る気を出せるというか、結果を残すことが出来ましたからね。

濱:今回はそれが上手くいきましたからね。本当は高松宮記念を使いたかったのですが、(賞金不足で)入らなくて、回避をしたわけじゃなく、本当は入ってほしかったんですよね。でも、結果的にあそこで除外を食らって、コーラルSを使って勝つわけですから、やっぱりそういう運もあって、まだまだ運にも見捨てられていなかった気がしますね。

-:そのアドバイスはいつもらったのですか?

濱:具体的なアドバイスというのは武蔵野S(9着)の後で「芝に行ったらどうだ」という話が出たのが、初めて追い切りに乗ってもらった後ですね。その時に「芝に使ったことはないの?使ってみてほしいな」とノリさんが言ってくれました。その後の阪神Cはそういう経緯で使ったのですが、ああいう競馬も意図したものでしたね。

かしわ記念は勝負であり、リスタートの舞台

-:コーラルSは前が残っている中、差しきったレースでしたね。

濱:上がってくる時の脚はちょっと抜けていたから、さすがだなと。(和田)竜二さんが上がってきて「息が上がらへんわ。まだ本気で走っていない」と言っていたほどです。阪神Cの時も岩田さんが「フーフー言わへんな。まだ走れるわ」とも言っていましたし、あの馬が本気で走れるようになったわけではないのかなと。まだ、そういう不安はあるのも事実ですが、これがキッカケになって一つの形が出来たと思うので頑張っていけるかなと。

-:本気を出せるようになるといいですね。

濱:何とも言えないですけどね。でも、やってきたことが結果に出たから、いまはこのままやっていくのが良いのかなと。変に変えることもなく、馬に求め過ぎてもアカンし。

モーニン

-:現状では、あまり内枠に入らない方がいいでしょうか?

濱:この馬は常々、外枠の良い枠を引いたほうが成績はいいですね。包まれて揉まれるとあまり良くないので。今回はそういう運もあったし、スムーズな競馬が出来ましたからね。

-:ヘニーヒューズの他の産駒も早い段階から走って、だんだんと落ちてしまう傾向がありますね。

濱:やっぱり(同じヘニーヒューズ産駒の)アジアエクスプレスと比較されることが多いです。あの馬も「化け物」と言われていて、後々は苦戦してしまいましたよね。「同じ道を辿っている」というようなことはやっぱり言われたので。(馬場幸夫)オーナーも一緒ですからね。でも、触っていると本当に馬がどんどん良くなっているし、パワーアップしているなと思っていたので。

-:ヘニーヒューズ産駒はアメリカでは2000mを走るような馬もいますよね。

濱:そうそう。モーニンも1800くらいだったら許容範囲だと思いますよ。ただ、今は集中力を持たせるために短い距離の方が良いと思いますけどね。やっぱり距離が長くなればなるほど、集中力が持たなくなってくるので。

-:競走馬は、レースの中での集中力というのは大事ですか。

濱:大事だと思いますね。

-:ハナに行っても、集中力が切れて止めてしまう馬もいますもんね。

濱:ええ、いますね。

-:そういう意味では、コーラルSもこういう競馬をしたいということは(和田)ジョッキーに伝えていたのですか?

濱:今まで馬を触ってきた感じと競馬を観てきて、今回はこういう感じで乗ってほしい、ということは念のために伝えましたね。(石坂)先生も「押さず引っ張らずの競馬をしてきてくれ」といった感じで言っていました。馬にストレスなく、出たなりと言えば出たなりなんですけど「気分良く走らせてほしい」と。

モーニン

-:その点、次のかしわ記念は条件も替わりますね。

濱:もちろん競馬なので、勝負の意識で挑みますが、正直、勝ちに行く競馬をするのは難しいかなと思っていますね。メンバーもメンバーだし、自分から動いていく競馬をするという状態ではないし、そういうコースでもないしね。

-:走りやすそうな馬群になりそうですが、なかなか展開が向くかと言われれば、そこまではイメージがわかないところはあります……。

濱:ノンコとゴールドドリームが後ろから行くし、そことの兼ね合いになってくると思うんですけどね。ただ、力を出し切れば、十分相手になると思うので。

-:まだまだ先がある馬ということですよね。

濱:もう1回、ここからスタートかなと思っていますね。もう一度馬にタイトルを獲らせてあげたいですね。

もう一回大きい舞台でタイトルを
かしわ記念・モーニン陣営インタビュー(2P)はコチラ⇒