歴史的名馬と接戦したG1馬 年下には負けられない リアルスティール
2018/5/31(木)
ドバイを制し、歴史的名馬と接戦してきた底力を見せる。国内G1ではドゥラメンテ、キタサンブラック、モーリスと接戦しながら2着に敗れてきたリアルスティール。ドバイターフからの臨戦過程は11着に惨敗した2016年と同じだが、当時とは馬も、陣営の対策も違う。柿崎慎調教助手に2年前からの成長、イレ込む原因となっていた装鞍の工夫を聞いた。(1週前段階で取材)
-:安田記念(G1)に出走するリアルスティール(牡6、栗東・矢作厩舎)ですが、担当の柿崎助手に伺います。まずドバイの話から聞かせていただきたいのですが、装鞍所でイレ込むこともこれまでにあったと思います。当日の対策はどうされていたのですか?
柿崎慎調教助手:最近、日本では厩舎装鞍にしていまして、ドバイでも厩舎装鞍出来ないか、という相談は出したのですがNGということでした。毎日トラックコースで調教に乗った後に、レース本番でも鞍を置く装鞍所に移動して、毎日装鞍練習をしていました。
-:実際に、速く走るトレーニングに加えて、鞍を着けることに慣れさすということですね。
柿:そうですね。あらかじめ日本からもレース用の鞍を持っていって、キャンター調教が終わった後に、一度、調教鞍を取って、それからレース用の鞍を着けるという練習を毎日やっていましたね。
▲若くしてリアルスティールと共にクラシック三冠に参戦、ドバイも制した柿崎助手
-:そういう地道な作業が結果に結び付きましたか。
柿:ただ、あくまでもそれは調教で走った後という状況ですからね。レース本番になるとやっぱり馬の雰囲気が違うというか、さらにテンションが上がりますから、練習はしていましたけど、やっぱり装鞍ということに関しては、不安があるような状態だったんですけどね。僕が前で持って、ウチの助手の(攻め専の)安藤さんとドバイに来てくれた坂井瑠星(騎手)の2人が、スピーディーにパッと本当に上手に置いてくれました。
-:F1のタイヤ交換みたいですね。
柿:本当にそうですね。それは良い例えですね。
-:そういうこともあって、(ドバイターフは)惜しい3着同着でしたね。乗り役さんも急遽(デットーリ騎手からバルザローナ騎手に)変更になりましたね。先生からはどんなオーダーがあったかということを教えていただけますか?
柿:バタバタになりましたね。オーダーは僕もそんなに詳しく聞いていないですけど、(矢作)先生も普段からそこまでのオーダーは出さない人ですから。
-:何か手前のことを助言されていましたか?
柿:スタートでゲートから出て、左手前で出ることもあるから、その辺はちょっと意識してほしいということですね。最初は右手前で出して、コーナーで左手前に替えて、最後の直線でもう1回右を使う、という話をチラッとしていましたけどね。
▲ドバイでの調教(坂井瑠星騎手が騎乗)
-:レース後、先生に伺ったら「バルザローナのクラスになると、きっちりオーダー通りにやってくれる」という話をされていました。やっぱり悔やまれるのは、調教パートナーを日本から連れていけなかったということですか。
柿:いや、それは関係ないですね。2年前に勝った時も、ずっと単走で調教していましたし、ドバイは他にも日本馬が一杯いますけど、なかなか併せ馬の相手を探すというのは難しいですからね。
-:こっちでキッチリつくっていって、向こうでは微調整くらいの感じですね。
柿:イメージとしては、そうですね。
-:柿崎さん自身も体調を崩されたみたいで、その辺をちょっと心配したのですが、やっぱりプレッシャーも掛かっていたのですか。
柿:いや、レースに関してはそこまでプレッシャーは感じないですけど、本当にたまたま僕以外でも一緒に飯を食った人間もみんなそうなっていたから、おそらくその時に食べた食事が原因なのだろうなと見当が付いたんですけどね。
-:と言うことは、精神的なプレッシャーではなかったということですね。
-:日本に帰ってきて、今週が1週前なのですが、ドバイと比べて馬の雰囲気はどんな感じだと思われますか。
柿:ドバイに関しても、去年の天皇賞(秋)を使った後はやっぱり疲れもあって、なかなか調子が上がってこなかったですね。中山記念も使わないでドバイに直行するという状況で、ドバイを使う1カ月前にトレセンに帰ってきた時も、まだ状態がどうなのかなと感じだったので、何とかちょっとずつ上げていったという状況でしたね。安田記念に向けて帰ってきた状態としては、体つきなんかを見ても良いとは思いますけどね。
-:今朝(5月23日)、坂路で見せてもらった感じでは、もうちょっと覇気があっても良いのかなと。
柿:感じがしましたか。 ある意味、ちょっと馬が落ち着いたのかな、ハハハ(笑)。
▲1週前追い切りには岩田康誠騎手が騎乗
-:古馬になって、もうベテランの域に達していますからね。ここから、どのような感じで馬のコンディションを上げていこうと考えられていますか。
柿:今日も時計(坂路で4F52.1-12.1秒)は出ていましたけど、息の入りはもう一つかな、という感じもあったので、もう来週がレースですから、最近のこの馬のパターンとしては、だいたい1週前にやって当週はサラッと、というイメージなんですけどね。
-:今朝は岩田ジョッキーに乗り替わって、初めて感触を確かめてもらったのですが、乗る前と乗った後の感触を聞いていたら教えてください。
柿:最近は岩田さんも多くを語らないので、そんなに大した話はしていないですけど、とりあえず坂路での折り合い面はどうですか、ということは聞いたんですけど「問題はなかった」と。それくらいの話しかしていないですね。
-:特段、心配はないということですね。ドバイ以上でのコンディションでは持っていけそうですか。
柿:そういう風に持っていけるように努力したいですね。今年2戦目という意味では、良い方に捉えれば、ドバイを叩いて安田記念という感じで考えれば……。
-:来週は、今日よりも時計的にはサラッと、ですか?
柿:イメージとしては、そうですね。まあ、自然と時計は出ちゃう馬なので、出たら出たで、しょうがないですけどね。
-:レースに向けてのポイントがあったら教えてください。
柿:難しいですけど、とりあえず2年前は(11着で)惨敗しているコースなので。2年前はドバイで勝って帰ってきてからだったから、人間側も本当に意気揚々だったというか、ここももちろん勝ち負けで、あの時はモーリスも出ていて、モーリスとガチンコ勝負や、みたいな気持ちで行ったのですが、結果は大惨敗でしたからね。
-:それは振り返ってみて、後で思えばこうだったのかという敗因の答えみたいなものはありますか。
柿:体調的にも問題ないと思って送り出しているし、言い訳は出来ないですけどね。レースで若干引っ掛かったというのはありましたけど……。
-:馬場状態はありますか?
柿:この馬はそんなことを言い訳に出来る馬でもないし、馬はたまにそういう時があるから、ハハハ。
-:馬は機械ではないから、いつも能力通りに走れるかどうかは分からないし、生身の生き物ですからね。
柿:ただ、この馬は今まで走った日本のG1でも、その惨敗した安田記念以外は全部掲示板には来ていますから。勝っていないけど2着も3回ありますしね。
-:そろそろ国内でもタイトルが欲しいところですね。
柿:もう6歳ですからね。一つドバイで大きいところを勝っているから。僕の気持ち的には余裕じゃないですけど、一つ勝っているのだから、というのはありますけど、やっぱり勝たせてあげられるものなら勝たせてあげたいですよね。
-:ドバイは1800で平坦でしたが、別に坂が苦手という訳ではないのですか。
柿:別に、そうですよね。
-:あとは、馬のコンディションを絶好調に持っていけるかですね。
柿:そうですね。あと1週間ちょっとで。
-:さっきも聞いたのですが、最近は気温のアップダウンが激しいじゃないですか。馬の体調管理に神経を使うと思うのですが。
柿:そうですね。やっぱりこの馬は、2年前の毎日王冠も夏負けで使えなかったということもあったので、どっちかというと暑さに気を使っていますけどね。
-:涼しくなる分には問題ないですか。
柿:今日もだいぶ涼しいですけどね。
-:国内では厩舎装鞍が出来るから、装鞍の面では心配ないですね。
柿:そうですね。今年のドバイでは何とか無事にクリアして帰ってきたので、そういう面では、日本でレースが出来ることはすごく余裕があるというか。
-:人も馬も一回りタフになって迎える安田記念ですね。
▲同世代のかつてのライバルたちが種牡馬入りする中、ドバイターフでも3着に健闘
健在ぶりをみせつけたリアルスティール
柿:そうですね。2年前から人も馬も2つ歳を取っていますから。
-:頼もしい相棒に初めての国内のタイトルを獲らせてあげたいですね。ファンが多い馬だと思うので、最後にメッセージをいただけますか。
柿:2年前に惨敗しているレースで、もう一度挑戦するという気持ちですけど、これまで本当に強い馬たちと戦ってきて、経験で言ったら他の馬に負けないくらいの経験をしてきている馬ですから、そういう経験がこの舞台で活きてくれたら。本当に強い馬だと思っているので。
-:同期の馬が種牡馬になりましたね。
柿:ドゥラメンテ、キタサンブラックやモーリスとも一緒に走ったことがあるし、そういう馬たちと走った時に2着に負けていますけど、どれも歴史的名馬ばっかりですからね。その時に2着に来ているんですよね。
-:振り返ったら、すごい相手と戦っているんですもんね。
柿:さすがに、そこには勝てなかったけど、今度はまた新しく、初めて戦う年下の馬が多いですからね。
-:今度は若い伸び盛りの馬たちと戦う訳ですね。
柿:そういう立場になってきますよね。
-:これまで色々なレースを使われていますけど、リアルスティ-ルにとって、どの枠が一番良いというのがあったら教えてください。
柿:前と比べたら、最近は折り合いもだいぶスムーズになってきているし、もちろん馬場状態などは綺麗な方が良いですけど、去年の天皇賞(秋)でも、あれだけの不良馬場でも頑張って4着に来ていました。そればっかりは望んでもこちらの思っている通りにはならないですけど……。やや内枠ですかね。2年前の時は、割と外枠(11番)で前に壁をつくれなくて、引っ掛かってガッと行っちゃって、それで失速してしまったので。あの時はまだ折り合い面でもちょっと危ない面がある馬だったから、そういう面が出てしまって。
-:今日の感じだと、別に枠はこだわらなくて良い感じですか。
柿:まあ、そうですね。まだ1週間以上ありますけど、無事に送り出したいですね。
-:あと10日くらいですけど、無事に送り出して、状態をアップ出来ることを願っています。
プロフィール
【柿崎 慎】Shin Kakizaki
父親の影響で中学生の頃から競馬を見始め、牧場での勤務に憧れを持ち、高校卒業と同時にBTC(軽種馬育成調教センター)の門を叩いた。1年間の研修を受けた後は様々な牧場での勤務を経て、競馬学校に合格。しかし、競馬学校卒業後も定員に空きが出ず、1年間の待機を余儀なくされることに。待機期間に一路フランスへと渡り、コレ厩舎で研修へ。現地の競馬場を転々とし、凱旋門賞の空気を生で感じるなど、フランスでの経験が馬の仕事への思いをより強くした。
ドーヴィルで開催されたセリで偶然、矢作芳人調教師に出会ったのがきっかけとなり、08年から矢作厩舎に所属。これまでグランプリエンゼル(09年函館スプリントS優勝)などを担当している。