エイシンティンクル 全兄エイシンヒカリに気性そっくり 距離短縮で素質開花
2018/8/5(日)
良血馬エイシンティンクルが、マイル路線の主役候補に名乗りを上げる。1800m~2000mでは1000万下でも惜敗が続いたが、マイル以下に主戦場を移して2連勝。香港カップ(G1)を制した全兄エイシンヒカリに「そっくり」という前向きな気性とスピードを活かせる舞台で素質が開花した。兄も管理した坂口正則調教師に、初めての重賞に挑む意気込みと手応えを聞いた。
-:関屋記念(G3)に挑むエイシンティンクル(牝5、栗東・坂口則厩舎)はマイル、1400mと連勝してオープン入りしました。初めての重賞挑戦ということで、どんな手応えか教えていただけますか。
坂口正則調教師:状態は良いのですが、距離を詰めてああいう競馬が出来ているということは、やっぱり短いところの方が良いのかな。やっぱりこの馬は長い距離では折り合いが付かないからね。
-:その辺はお兄さん(エイシンヒカリ)と。
坂:気性はそっくりで、よく似ているね。
-:ヒカリは1800m、2000mの馬でしたね。
坂:結果論だけど、本当はヒカリも、もうちょっと(距離を)詰めていた方が勝っていたかも分からんね。
▲この夏はエイシンティンクル、ゴールドクイーンを重賞に送り込む坂口正則師
-:可能性としては、ということですね。ティンクルもマイル以下の馬ということですか。
坂:ティンクルも1800m、2000mにこだわっていたんだけど、前からマイルくらいが一番良いんじゃないかと思っていたんだよね。なかなかそういう機会がなかったからね。
-:この間の1400mは距離を詰めたこともあるでしょうけど、馬場が極端に悪い中で。
坂:でも、良いところを走って来たよ。悪かったけど、悪いなりに和田(竜二)君が外を回ってきて、良いところを走って来たもんね。
-:まだ余力がある感じでしたか。
坂:アップアップだったけど、良く粘ったと思うね。
-:なかなかパワーがありますね。
坂:今度オープンを使ってみたら、(力が)通用するのかどうか、測れるんと違うかな。
-:その辺は気性との兼ね合いで、どういう風に折り合いを付けていくか、ということですね。
坂:そうやね。やっぱり新潟は直線が長いから、行ったらダメだもん。止まってしまう。新潟の逃げ切りは少ないわ。
-:関西圏に比べたら、けっこうペースが落ち着くような印象がありますね。前回と近い競馬が理想的ですね。
坂:番手でああいう競馬が出来れば、折り合いが付いて良いかなと思うけどね。折り合いは付くんじゃないかなぁ。
-:折り合いが付くポイントというのは、外から被せられたら嫌だなとか、条件は付きますか?
坂:この間は揉まれずに外々を行けたから、ああいう競馬で良かったけど、逆に中で揉まれると掛かってしまうかも分からんね。だから、今は外枠が当たって、内を見ながら行ける競馬が良いと思うけど、なかなかそう上手くいかんわな。
-:やっぱりこの馬は左回りが良いですか。
坂:左回りも右回りもそんなに関係ないと思うけどね。
-:使っての体の変化というのはありますか。
坂:そうないね。最近は馬体減がなくなったから。馬がだいぶパンとしたんじゃない。夏負けもないみたいだし。
-:成長の証ですね。初のオープンということで、何か注文はありますか?
坂:やっぱり折り合いが付いて、前回みたいな競馬が出来れば、終いも持つんじゃないですか。
-:この馬のセールスポイントはスタートじゃないですか。スタートでポンと出るから、下げ過ぎないけども、行かないということを上手く出来れば。
坂:スタートは良いですね。やっぱりああいう気性の馬は、1600mで逃げたらアカンわ。2走前は上手に逃げ切ったけど、やっぱりオープンになるとなかなか……。
-:それくらいやっぱり1600万とG3の壁というのは違いますか。
坂:それは違う、違う。オープンと条件は全然違うよ。今度が試金石で、どういう競馬をするかが見ものですね。それで通用するようだったら、距離を1600mくらいに決めていったら、まだ走れると思うけどね。
-:今後のプランもお考えですか?
坂:先のことと言うよりも、もう5歳だし、6歳になって残る馬もいるけど、女馬はなかなか厳しいよ。
-:今年が勝負の年ですね。
坂:そうやね。今度の競馬を見たら分かるわ。およそのアレが測れるわ、フフフ。
-:厩舎でのこの馬の特徴というのは何かありますか。
坂:この馬は、厩舎では全然問題ないからね。出ると、ちょっと何かした時にはきかないところがあるけどね。
-:それが、レースでは良い方に向いているということですね。
坂:やっぱり競走馬はそれくらいでなかったら走れんよ。ボケッとしている馬だったらアカン。走る馬というのは大概ひと癖あるよね。
-:輸送に関してはいかがですか?
坂:輸送は割と問題ないよ。
-:多分、馬場も良いでしょうし、時計も速いでしょうからね。
坂:時計は速くなるでしょうね。時計勝負は悪くないと思うんだけどね。馬場が良いに越したことはないと思う。
-:この馬のお母さん(キャタリナ)は活躍馬を出しましたね。
坂:いや~数は出ていないよ。仔出しが良くなかったのか、あんまり出ていないもんね。でも、出ている馬は走るね。ティンクルが最後じゃないですかね。他にいないと思うね。
-:そういった意味でも、ティンクルがお母さんの跡を繋いでいくということですね。
坂:この馬は良い繁殖になるんじゃないかな。
▲兄のエイシンヒカリとは香港、フランスで勝利した
-:エイシンヒカリも種牡馬として頑張っていますからね。
坂:これからどういう成績が出るのか……。やっぱり種馬は初年度から2~3年が勝負だし、それでアカンかったらアカンわ。いっぺんに種馬なんて消えていくもん。ロードカナロアみたいにテンから走る馬もいるし。
-:先生としては、最初の内からヒカリの子が走ってくれたら、ちょっとホッとしますね。
坂:そうやね。あの馬はスピードがあるから、子供がそれを受け継いでくれたら良いんじゃないかな。やっぱり種馬はスピードのない馬は出世せんよ。昔はそれでも良かったけど。
-:そういう意味では、ティンクルは良いところが全部詰まっているということですね。
坂:オープンになったばっかりだし、まだこれから分からへんわ。
-:これまで使っている数は少ないですけど、積み上げてきている経験はありますからね。
坂:本当にこの馬は数少ないわ。もう5歳なのに、何回使ったか。
-:13回ですね。13戦5勝。それだけ数は使えなかったということですか。
坂:使えないんじゃないけど、使わなかったんやな。ヒカリでも確か15戦しか走っていないでしょ。外国のレースを入れて10勝したのかな。
-:あの馬は大当たりですね。12~3戦くらいだったら、故障のない馬だったら2年くらいで行ってしまいそうな数字ですからね。
坂:あの馬も数は使っていないもん。もうちょっと使いたかったな。
-:その分、ティンクルにはどこかでタイトルを、ということですね。
坂:そうやね。
-:暑さは大丈夫ということですが、パドックではまずまず気合いが乗っていた方が大丈夫だと。
坂:そうやね。でも、この馬は疲れとかそういうところを全然見せないからね。いつもテンションが高い方だから。
-:気で走るタイプですね。最後に、エイシンティンクルを応援しているファンにメッセージをお願いできますか。
坂:長い直線をどれだけ克服してくれるか、番手で折り合いが付いて、4コーナーでジックリ構えて直線でスッと来てくれたら良いけどね。理想はそういう競馬が良いけど、良い競馬は出来るんじゃないですか。
-:楽しみにしています。ありがとうございました。
プロフィール
【坂口 正則】Masanori Sakaguchi
1948年生まれ。現在は競馬解説者の坂口正大元調教師とはいとこの関係。1967年に伯父の坂口正二厩舎で騎手見習いとなり、1974年に騎手となる。岩元市三元調教師や秋山真一郎騎手の父・秋山忠一らとは騎手時代の同期にあたる。
1981年騎手免許を更新せず調教助手に、1983年に調教師免許を取得し、調教師に転身した。調教師としては「気苦労、気遣いが大変。常に連絡はしないといけないし、携帯がなかったから、いつも競馬が終わったら、公衆電話に走って。今は携帯電話がなかったら大変やわな」と語る。
思い出に残っている馬は、湯浅三郎元調教師が目を付け、縁あって入ってきたという外国産馬のエイシンバーリン。「スピードの絶対値で何しろハナに行くしかなかった。無理してでも行って、バテても行くという感じの馬だった」。
同じくスピード馬のエーシンダックマンもお気に入りで「重賞は勝てなかったけど、大きいレースでも2着があるしね。あの馬もハナに行くしかなかったなぁ。逃げ馬に縁がある」。定年まで4年というところで、待望の中距離馬であるエイシンヒカリが出現。じっくりと成長を促しつつ使っており、古馬になっての大成を確信している。