リスグラシュー 小柄な馬体に秘めた資質 悲願のGIタイトル奪取へ
2018/11/6(火)
これまで4度のG1・2着。惜敗キャラとしては現役屈指のリスグラシュー。今年もヴィクトリアマイルで2着になるなど、牝馬ではトップクラスの実力を有していることは疑いようがないが、昨年8着とこれまででも大きく崩れたレースがエリザベス女王杯だ。ジョアン・モレイラ騎手を背に挑む今年、昨年のリベンジとなるのか、初のG1タイトルとなるか、可能性を探った。
-:(エリザベス女王杯の)リスグラシューですが、この前の府中牝馬Sはほぼ勝ったんじゃないかというところから、またしても2着になるという結果でしたが。
宮内茂貴調教助手:何か持っていないというか、前走もあの馬自身はほぼ完璧なレースをしていると思うんですけど、それでも差されてしまう…常に誰かが前に1頭いる感じですね。
-:リスグラシュー自体もすごく速い上がり(32秒6)の脚を使っていながら、差されるという。
宮:あれは勝った馬がすごいとしか言いようがないですもんね。
▲上がり勝負の府中牝馬S、高速決着となった安田記念から巻き返しを期す
リスグラシュー 攻め専の宮内助手は適性を語る
-:ただ、このレースの前に、僕が個人的に思っていたことと言うのは、リスグラシューはけっこう時計勝負の経験が少ないというか、G1に出ている時でも稍重のレースが多かったりして、持ち時計自体があまりないというところがあったんですけど、それがこのレースでは良馬場だったので。
宮:そうですね。能力がない訳じゃないですけど、安田記念の時でも、スピード決着でも馬自身は走っていると思うんです。それでもあの着順(8着)ということは、得意ではないのかなと思いましたね。
-:リスグラシューのパターンとして、休み明けから使って、2回目までは良いけども、3回目で崩れるんですよね。ローズS(3着)を使って、秋華賞(2着)までは来ているけど、エリザベス女王杯(8着)で崩れるという、去年のパターンで言ったらそうじゃないですか。
阪神牝馬Sが3着で、ヴィクトリアマイルが2着で、安田記念が8着と、安田記念が時計勝負に対応出来なかったのではなくて、3走目でちょっと疲れが残っているパターンなのかと思ったので、安田記念は本当のMAXのデキじゃなかったかもしれないから、この一戦だけでは時計勝負は計り知れないところがあると思っていたんですけど、府中牝馬Sではやっぱり対応出来るというところが分かったというのは大きいですね。
宮:そうですね。だから、安田記念も状態はすごく良かったらしいですけどね。相当良かったみたいですよ。
-:安田記念を使った後、聞いている話だと「体重がけっこう増えている」と。
宮:そうですね。北海道でかなり増えましたね。
-:でも、レースの時は12キロ減と、そんなにメチャクチャ大きくはなっていないですからね。
宮:そうですね。もうちょっとあっても良いと思うんですけど。
-:レース後のコメントで、先生も「もうちょっと体重が欲しい…」という話をされていたのですが、トレセンではもっとあったのですか。
宮:現状で480くらいですが、やっぱり競馬に行って輸送を挟むと、かなり減ってしまいますね。以前よりはだいぶマシになっているとはいえ、やっぱり減っちゃいますよね。
-:でも、見た目は、デビュー前から見ているとだいぶシッカリしてきたというか、ボリュームが出てきた感じですね。
宮:カイバを食べるようにはなっているので、身にはなってきているのですが、もうちょい欲しいところですかね。
-:体重的には、この間は府中まで輸送したわけで、「現在は480」とおっしゃっていたんだけど、近場の京都に行くとすれば、前回の+12から、またさらに増える可能性もありそうですか。
宮:当日も、けっこう輸送したらスイッチが入ってしまうというか、当日だけでもけっこう減っちゃうので。
-:前走よりも減ることはなさそうですか。
宮:そうですね。前走と同じくらいか、もう少し増えたらありがたいですかね。
-:今週の1週前追い切りは宮内さんが乗られましたが、坂路の馬場状態はどうですか?また、チップの入れ替え工事をやっていて、途中までしか終わっていない状況で、どの馬も全体的に時計が掛かっているし、特に上がりが出ない状況で行われた1週前調教でしたけど、いかがでしたか。
宮:今の馬場はかなり悪いです。来週の最終追い切りは終いをサッと伸ばすイメージだったので、昨日(11月1日)に内にある程度やってしまおうということで、テンから行かせましたけど、全体時計(51秒5)は優秀だと思います。今の馬場では良いと思いますよ。ただ、終いで止まってしまったのは馬場もありそうですね…。
-:終いが13秒掛かったんですね。
宮:13秒4ですか。さすがにあのラップで行ったら、終いは止まるなとも思っていました。50秒を出してもいいと思っていましたが、この馬場ではさすがに無理でしたね。
-:ピッチ走法の馬で短距離馬と言ったら、坂路で時計が出るイメージがあるんですけど、リスグラシューはどちらかと言ったら、性格的にもマッタリとしていると思いますし、坂路で時計が出るイメージとは違います。それだけスイッチが入る時はスッと行ってくれるということですか。
▲宮内助手が騎乗した1週前追い切り
宮:そうですね。普段のキャンターでも、跳びはすごく大きいのですが、体幹がシッカリしていますよね。全然ブレないというか。
-:見た目はどちらかと言ったら、薄めに見えるじゃないですか。見た目だけではわからないですね。
宮:そうなんですよ。今はモズアスコットなどにも乗せてもらっているので分かるのが、アスコットだと滑ってバランスを崩して走りがバラついてしまうところ、リスは滑ってもブレないんですよね。そのまま普通に走っているから、体幹がシッカリしているというか。
-:トモだけじゃなくて、4本使ってバランスをキープしているということですか。
宮:そうなのかな。本当に軸がブレない感じですね。そういうところで他がちょっと苦にする分、馬場が悪い時の方が結果は出やすい気はしますね。
-:手綱から伝わるコントロール、乗りやすさはどうなのですか。
宮:普段の調教はけっこうしんどいですけどね。一時はオークスでも折り合い面を苦労したみたいなので。しかし、レースでは前走も1800mで折り合い面は大丈夫だったので。
-:今度はコーナー4つになりますけど、そんなに心配はないですか。
宮:はい、大丈夫だと思います。
-:今回、勝つための秘策はありますか?
宮:昨日、他の新聞記者さんの方と話していて「ハーツクライは京都コース自体が苦手だけど、2200mの外回りだけ産駒の成績が良い」らしいんですよね。「何でやろ?」という話になって、安藤さん(助手)とも話をしたところ、ハーツクライ産駒は器用に脚を使えないみたいなんですよね。「スッとギアが入りきらないけど、外回りのコーナーの下り坂を使って、加速がスムーズになるから、ハーツクライ産駒の成績が良いんじゃないか」みたいな話になって、それですごく納得しましたね。
-:ハーツクライが現役時代も、安藤勝己さんが「まだ3歳の頃は、コーナーを曲がるまでバラバラになるから踏めなかった」と言っていましたね。それくらいハーツクライ自身は平泳ぎみたいな変わったフットワークだったから、余計にコーナーで踏むとバラバラになるというところがあって、やっぱり直線に向くまで追い出せなかったから、取りこぼしやすかったし、有馬記念の時は前から行っていたけど、その成長する前に行けなかったというのは、そういうところにあると思うんですけどね。リスグラシューにもその血が流れているとすれば、競走成績の後半からグッと良くなるはずですからね。
宮:そうですね。馬は確実に良くなっていますよね。
-:あとは勝ち方を覚えることですね。
宮:そうですね。さっき聞いた「外回りの京都2200mの成績が良い」というのはプラス材料かなと、勝手に思いましたけどね。
-:今回の乗り役さんは…。
宮:モレイラ騎手ですからね。今までもすごいジョッキーばかり乗ってくれていますけど、ここで新しい味というか、マジックマンに期待を。
-:ポジションを取りに行くのですかね。
宮:どうですかねぇ。ペース的に速くなるのかぁ…?そんなにポジションはこだわらなくても良い気がしますけどね。速くはならないですよね。
-:明確な逃げ馬がいないんじゃないですか。
宮:そうですよね。それを考えたら、ある程度前で競馬をしても、良いのかなぁ…。
-:リスグラシューの成長を見るのには、バッチリの舞台ですね。1回叩いて2戦目で、ファンとしては買いやすいところですしね。
宮:何とか結果を出したいですね。厩舎的にもエリザベス女王杯と(モズアスコットの)マイルCSと続きますし、2頭ともにチャンスだと思うので、ポンと勝てたら厩舎的には盛り上がりますけどね。
「前走は意外にも落ち着いていたので、その辺りはやっぱり成長があるのかなと思いますね。あれくらいのテンションで行ければ、全然無駄な体力は消耗しないですし」
-:この馬のパドックでの気配はどうですか。
宮:前走は意外にも落ち着いていたので、その辺りはやっぱり成長があるのかなと思いますね。装鞍所からパドックに行くまでの間がメチャクチャうるさかったのは東京なので余計に、ですが、パドックに入ったら意外と落ち着いたので。あれくらいのテンションで行ければ、全然無駄な体力は消耗しないですし。
-:今回の京都の装鞍所からパドックというところはいかがですか。
宮:東京ほど長くないし、大丈夫だと思いますよ。
-:悲願のタイトルを。
宮:そうですね。とりあえず何かタイトルが欲しいですよね。どのレースも、この馬自身は良い競馬をしているんですけど、常に先着されているので。今年のヴィクトリアマイルも絶対に勝ったと思ったんですけど、なかなか難しいですね。これこそ勝ったと思ったくらい。
-:でも、思っているよりも時計勝負でもいけるということが分かったし、今の京都も、先週まではちょっと時計が掛かる傾向があったので。
宮:今週からBコースに替わるから、そこがどうか、ですね。
-:今度は自力でG1を掴んでください。
宮:そうですね。頑張ります。
-:来週の追い切りはもうサッとですね。
宮:そうですね。来週はモレイラが乗るので、僕はお任せします。
-:最後に、前回共々リスグラシューを応援している人はなかなか勝てなくて、辛い思いをしていると思うので、メッセージをいただけますか。
宮:まだ大きなタイトルは獲れていないですけど、ローテーション的にも馬の状態というか、この夏は相当成長もしているので、本当にチャンスがある舞台だと思うので、何とか京都の2200で結果を出したいと思います。
-:ありがとうございます。
プロフィール
【宮内 茂貴】Shigeyuki Miyauchi
当時流行していた競走馬育成ゲーム・ダービースタリオンをキッカケに競馬に興味を持つ。もともと阪神競馬場の近くに住んでいたこともあり、高校時代に競馬界を意識するように。滋賀県の牧場を経て、北海道競馬の林和弘厩舎で勤務。道営競馬での勤務を始め、3年目の時にミスイガーが函館競馬で勝利。それを機に中央競馬の華やかさに惹かれ、競馬学校厩務員課程を受験するには牧場経験が必要なことから、伝手でシュウジデイファームへ。
現在所属する矢作芳人厩舎の管理馬の育成を多く手がけるシュウジデイファームでの勤務中にはスーパーホーネットやタイセイアトムなども休養のため牧場に訪れていたという。記憶に残る馬はヘンメイレン。矢作師から「太らせてくれ」と言われ、牧場の石川代表と試行錯誤して、なかなか太らせられなかったという思い出も。現在は矢作厩舎にきて、8年目を迎える。