春の悔しさをこの秋晴らす。マイル女王へ突き進むアエロリットが2度目のG1制覇に向けて万全の調整を進めている。ヴィクトリアマイル、安田記念と惜敗続きも、道悪や落鉄に泣いてきた。ひと夏超えて力強さを増した3歳マイル女王は身体的にも、精神的にも成長。英国の名手を鞍上に迎えて再度G1獲りに挑む陣営のホンネに迫る。

仕上がり途上で道悪に泣いたヴィクトリアマイル

-:マイルCS(G1)に挑むアエロリット(牝4、美浦・菊沢厩舎)ですが、まずは春のヴィクトリアマイル(4着)と安田記念(2着)の2戦を振り返っていただけますか。

菊沢隆徳調教師:ヴィクトリアマイルは中山記念(2着)以来で、約3カ月ちょっと間隔が空いていたので、調整過程にモタつきもあってちょっとモッサリしている部分もあったんですけど、ギリギリ仕上がってきた感じでした。幾分、休み明けを感じる状態で、(追い切りで戸崎)ジョッキーにも乗ってもらいましたね…。レースに関しては道悪ですよね。スタートの態勢が悪くて、なおかつ落鉄というツイていない部分がありましたね。この馬には、難しい競馬になってしまいましたよね。ハナにも行けず、流れも落ち着いてしまいましたから。

-:スローペースになりましたからね。

菊:でも、直線で捌いて、上手く抜け出して、というところもあったのですが、外から来ている馬たちの方が決め手はあったので、仕方ないところでしたね。

アエロリット

▲春はヴィクトリアマイル、安田記念と転戦したアエロリット

-:そのヴィクトリアマイル後の状態というのはいかがでしたか。

菊:中2週でしたけど、幸い走りきった訳でもなかったので、ダメージもなく、立ち上げも、安田記念に向けて程良く仕上げていけば、という状態でした。これ以上何かを特別にやらなきゃとかではなく、あとは自然に任せて、という気持ちではいましたけどね。馬に乗っていても、1回競馬を使ったことで、弾みに素軽さが出てきましたね。これならヴィクトリアマイルよりも良い状態で行けそうだな、という弾みが出てきた感じがしましたね。

-:実際、レースを振り返られていかがでしたか。

菊:安田記念でも落鉄してしまいましたね。ハッキリここだとは言えないんだけど、3コーナー辺りの掘れた馬場のところで、ちょっと減速した時じゃないかなと思います。踏み込みが大きめの馬で、器用にグリップしないので、そうすると引っ掛けてしまう部分もあって、これまたツイていなかったんですけどね。

-:勝ち馬(モズアスコット)が切れたというのもありましたけどね。

菊:そうですね。走る馬だし、それが上手い具合に走って、なおかつ直線で上手いこと開いてという、(アエロリットにとっては)勝負運が悪かった感じがしましたけどね。しかし、東京の1600、1800といった条件だったら、この馬は男馬相手でも十分に戦える能力があるのだと再認識しましたけどね。

-:安田記念後の過ごし方というのはいかがでしたか。

菊:ノーザンファーム天栄で夏を越した訳ですけど、暑さもあって牧場スタッフの方も苦労されたと思います。北海道以外は全国的に猛暑だったのでね。ただ、この馬に関しては夏競馬に使うということはなかったので、この馬に合わせた調整で上手く乗り越えてくれたんじゃないかと思います。

アエロリット

毎日王冠は快勝 ひと夏越えて成長見せた

-:秋の復帰緒戦は毎日王冠でしたが。

菊:そうですね。開幕の馬場ですし、条件的にも良いし、復帰戦には良いレースじゃないかなと思っていましたけどね。

-:ひと夏越えての馬の状態はどうご覧になられていましたか。

菊:全体的なバランスと力強さということに成長を感じますし、なおかつ精神的に良い意味では気負うところがあるけど、普段のオン、オフの付け方がすごくリラックスしていますからね。そういった意味で生ズルいというか、女の子にしてはちょっとズブくなってきたなと思ったんですけどね。

-:以前はもっとカリカリというか。

菊:スイッチが入りやす過ぎちゃって、ちょっと行き過ぎないようにしないと、というのが、育て方の一番のテーマだったんですけどね。

-:毎日王冠では、前走の安田記念から+6キロということでしたけど「バランスが良くなって、パワーも付いた」ということですね。

菊:背も伸びているし、明らかに大きくなっていますのでね。普段、ウチや牧場にいても、520キロ以上あるので、その辺は数字にはあまりこだわっていないので。

-:歳を重ねるにつれて、年々成長度が増しているということですね。毎日王冠はモレイラ騎手とのコンビでしたけど、レース自体はどのようにご覧になられましたか。

アエロリット

菊:レース前に映像は観ていたと思うんですけど、モレイラも初めて乗るので、僕が思っているこの馬の特徴を説明したんですけどね。

-:先頭に立って、そのまま押し切るというレースでしたが。

菊:後で聞いたら、本人は「2番手くらいから」と思っていたらしいんだけど、僕はメンバー的に見て、「行っても良いよ」とは言っていたので。

-:逃げ切りの割には、けっこう上がりも速かったですね。

菊:そうですね。そこは「この馬は上がり34秒台を切ってくるようなタイプじゃない」ということは事前に言っていたので。だから、「直線はちょっと長いけど、この馬としては気持ち早めに仕掛けてくれないか」とも言ったんですけどね。

-:切れるタイプではないからというところで。

菊:早めにちょっと吹かしていってくれないかと。流れも本当に理想的というか、アエロリットにとっては本当にこの上ない展開だったなと思いますね。

-:一番力を発揮できる形だったということですね。レース後の馬の状態はいかがでしたか。

菊:あれだけ速いタイムで走っているので、若干疲れは出ましたよね。それは前からもそうなのですが、調教をやっていても、そういった疲れが出やすいところがあるので、そこは実際に出たので、大丈夫かなと思いながら…。だけど、回復して、良かったなと思っています。その後は、週末までこちらでケアをして、それからまた(ノーザンファーム)天栄に出して、見に行って向こうとのやり取りで、本当にまた良い感じで帰ってきたなと思います。

調教時計速くても「へっちゃらな体になった」

-:マイルCSに向けてということになりますけど、先週の日曜日に時計を出されて、昨日(11月7日)の水曜日に1週前追い切りということでしたが。

菊:時計というか、坂路に入れたらあれくらいは普通に出ちゃうから、予定よりは、乗っている人の感覚よりもちょっと速いのでね。でも、楽そうだったし、無理して出している訳じゃないので。

-:やっぱりこれくらいの時計は出てしまうと。1週前は先生が乗られて、ウッドで追い切られましたけど、この狙いと実際の感触はいかがでしたか。

菊:右回りの確認と来週に向けての動きの確認、あとは前にたまたま2頭いたので、その中で我慢をさせて、というようなシチュエーションで、やり過ぎないように、とは考えていましたね。

アエロリット

-:やればいくらでも時計が出てしまうのですね。

菊:出てしまいますね。そういうのが課題でもないし、1週前だからビシッとやらなきゃとか、というのは全く考えずに、競馬に向けて徐々に上げていけば、それで良いという感じですね。

-:先ほどの話だと「頑張り過ぎて、反動が出ちゃうタイプである」ということですね。

菊:そうですね。みんなが驚くようなパフォーマンスを出そうと思えば、3歳の頃から出そうと思えば時計は出ていた馬なので、ただ出さなかっただけで。

-:調教過程においては、そういうことだったということですね。

菊:必要ないということですね。

-:この後は状態を見ながら、ということだと思いますけど、来週の予定というのはいかがですか。

菊:坂路くらいで良いかなと思っていますけどね。サラッと、といいますか、多分サラッとでも良い時計が出ると思いますよ。51秒くらいは普通に出ると思うので。

-:アエロリットにとってそれくらいは。

菊:力が付いて、それくらい出しても良い、この馬にとってはへっちゃらな体になってきているので。

-:秋華賞(7着)以来の京都コースということですが、こちらに関しての見立てはいかがでしょうか。

菊:あの当時とは精神面的にも全然変わってきたので、その辺の成長は違うんじゃないかなと思うし、ましてや距離も違うので、2000の内回りを1周するのと1600でスピード比べになる競馬とは違うでしょうし、京都の外回りの下り坂とか、そういうのは経験して克服しなきゃいけない部分だと思うので、これはやってみないと分からないですね。

アエロリット

▲昨年の秋華賞以来に京都コースでのレースに挑むアエロリット

-:今回はムーア騎手ということですね。

菊:本音を言えばモレイラ騎手に乗ってもらいたかったんですけどね。やっぱり前走で乗ってもらって、京都ということで…。

-:最後に意気込みをお願いできますか。

菊:全くシチュエーションが違います。挑戦者ですよね。僕的に京都に1600に関してはね。

-:未知の部分があるということですね。

菊:ジョッキーでも乗った人なら分かると思うけど、下りというか、外回りというのは見ているより乗って難しいコースだと思うので、乗り慣れた人とか走り慣れた馬とはまたちょっと違うと思いますね。

-:そこら辺が未知でもあるので、挑戦者であるということですね。

菊:未知ではあるけども、状態に関しては、さらに毎日王冠以上の使った上積みが感じられるので、そこで克服できないかと思っていますけどね。

-:ありがとうございました。活躍を楽しみにしております!