シュヴァルグラン 大事に育てて6歳でも衰えなし 得意の舞台で再び輝く
2018/11/18(日)
6歳馬の連覇なるか。昨年のジャパンカップではキタサンブラック、レイデオロらの強豪を退け、悲願のG1初勝利を挙げたシュヴァルグラン。今年は秋初戦の京都大賞典で4着という結果に終わってしまったが、得意の舞台で巻き返しが期待される。ラストシーズンとなる今秋、再び頂点を極めることができるのか。友道康夫調教師が語ってくれた。
-:シュヴァルグラン(牡6、栗東・友道厩舎)ですが、ジャパンC(G1)は3年連続3回目の挑戦になりますね。しかも去年の覇者ということで、ファンは期待していると思うのですが、それ以前に、この馬がここまで無事に競走生活を続けてこられた理由を教えていただけないでしょうか。
友道康夫調教師:そうですね。3年連続ですね。本当に、大事に使っているというか、無理せずに使ってきました。この血統は、きょうだいに活躍した2頭の牝馬(ヴィルシーナとヴィブロス)がいるのですが、その2頭共に歳を取る毎に成長してくれる血統でした。それを踏まえて、3歳の秋も菊花賞に出られるくらいの賞金はあったのですが、そこは無理をせずに、着実に500万、1000万、準オープンと3連勝したんですよね。
-:500万、1000万を勝って菊花賞に出られるようになって、そこで菊花賞に行かずに、12月の準オープンのオリオンSを勝ったということですね。
▲昨年のジャパンC 佐々木主浩オーナーとも歓喜の記念撮影に
友:そこが良かったですね。そこで無理して菊花賞に使わずに、着実に一歩ずつ階段を昇っていったことが今に繋がっていると思いますよ。
-:佐々木主浩オーナーからしたら、やっぱり一生に一度の菊花賞というところはあったと思うのですが。
友:今でも覚えています。秋の阪神競馬場で、別の馬を使っていて、お会いした時にそういう話になったのですが、もちろんオーナーは「菊花賞に行きたい」ということだったのですけども、この馬に関してだけではなくて、どの馬でもそうなのですが、やっぱり現場の意見も聞いてくれる方ですね。ご自身も昔、スポーツをやっていただけあって「現場のことは現場の人が一番知っているから」ということで、こちらに任せてくれたというか。
-:そこを我慢するというのは、お姉さんが古馬になってから結果を出しているから、ここはちょっと待って、ということですね。
友:こちらも、待ってもらって走るという確信まではないとしても、やっぱりここで無理をするよりも、待った方が成長はあるかな、という見立てはあったので。
-:その後、重賞初挑戦になるのが、年明け緒戦の日経新春杯(2着)で、続いて阪神大賞典で重賞初制覇をする訳ですけど、その辺では菊花賞当時よりも馬のコンディションはちょっと成長していたのですか。
友:本当にしっかりはしてきましたよね。最初の頃はトモも甘くて、ゲートの出も悪くて、なかなか良い位置も取れなかったですが、その辺くらいから普通にゲートも出るようになりました。良いポジションが取れて、当然折り合いは付くし、距離も持つし、という競馬になってきましたね。
▲1週前追い切りにC.デムーロ騎手が騎乗(上最内)
引き上げてきたシュヴァルグランをチェックする友道師(下)
-:なかなか骨量の多いタイプですよね。
友:小さな時から骨太ではあったけども、まだちょっと緩いところがあって。
-:動かしきれる筋肉が、まだ最初の頃は備わっていなかったということですね。それくらいになってきたら、やっぱり調教の動きも変わってくるものですか。
友:いや、今でもそんなに変わらないけども、本当にこの馬の特徴と言えば、調教は全く動かない(苦笑)。ウチの未勝利馬と行っても負けるくらいなので。そこは昔に比べれば、時計が出るようになってきたけども、今でも本当に調教はそんなに動かないですよね。
-:それで実戦は走ってくれるとなれば、アスリートとしてはなかなか大したものですね。
友:本当に練習と本番が分かっているというか。
-:なかなかいないタイプですか。
友:珍しいですよね。珍しいというか、最初の頃は本当にこれで大丈夫かな、というような調教だったけども、それでも競馬に行って走るから。
-:競走馬の調教判断と言っても、1200の馬と長距離馬とでは。
友:一般論ですけども、やっぱり調教を走る馬は短距離の馬が多いので、長距離を走るのだからそうだと思います。
-:最初の重賞挑戦だった日経新春杯でも2着で、2戦目の阪神大賞典でいきなりG2を勝ってしまっているというくらい高い能力を持っている馬なのですが、ジャパンCの左回りの2400mというのも、この馬は常に人気を上回って走ってきますね。
友:やっぱり跳びも大きいですからね。一番合っているコースというか、東京の広いコースは合っているし、右回り、左回りはどうか分からないですが、東京は合っていますよね。
-:去年も今年も、秋は京都大賞典から始動していますね。
友:一昨年は宝塚記念を使った上半期の疲れが残っていて、アルゼンチン共和国杯だったので。
▲秋は2年連続京都大賞典から始動したシュヴァルグラン
-:と言うことは、去年、今年というのは夏を順調に過ごせたということですか。
友:去年は宝塚記念を使ったけど、そんなに疲れは残っていなかったですね。今年は馬のこともあるし、結局、ヴィブロスを宝塚記念に使うこともありましたからね。
-:シュヴァルグランにとったら、十分リフレッシュ出来ましたね。
友:リフレッシュ出来て、その分、今年の秋緒戦の京都大賞典はちょっと久々だったので、いつもより力んで走っていました。その分、最後は伸び切れなかったところがありましたね。あれを1回叩いて、ガス抜きにもなっただろうし。
-:2戦目で走り頃でしょうか。
友:ええ、良いと思いますよ。
-:ジャパンCと言えば、一昨年は外枠(17番)、去年は内枠(1番)でしたが、ただ、どちらも3着、1着ですからね。
友:繰り返しになりますが、本当に東京コースは合っていると思うので。この馬に限らず、東京の2400mは内枠の方が有利ですよね。それにオーストラリアって、枠順が左右するらしいですからね。だから、去年乗ってくれた(ヒュー・)ボウマンはすごく枠順を気にするんだよね。ジャパンCの時も1番が当たったら「ラッキー、ラッキー」とずっと言っていたほど。それで、有馬記念はちょっと外(10番)が当たって、少しガックリしていましたから。聞いたら「オーストラリアは最初の位置取りが重要。オーストラリアのジョッキーはみんな枠順をすごく気にする」と言っていたけど、その通りでしたね。だから、ジャパンCで1番が当たった時は喜んでいたもんね。
-:スタートが抜群で、いつもよりも、もう一歩前のポジションをガッチリ取れて、勝つのかなと。
友:という意味でも、去年は本当に完璧でしたよね。
-:あれが良いお手本となって、今年のジャパンCに繋がるということですね。
友:そうですね。
-:今回はボウマンさんがメルボルンCでの騎乗停止があった影響で、クリスチャン(デムーロ)に決まったということですね。
友:明日(11月15日)追い切りに乗ってもらいます。明日の具合を見て、来週また乗ってもらうかどうか決めます。こちらとしても、ああいう追えるジョッキーは合っていると思いますよね。
-:1週前なのですが、先週までの動きというのは、京都大賞典からどれくらい上昇しているか教えていただけますか。
友:前回はそんなに走っていなかったので、疲れは残っていないですよね。むしろもうちょっと走った方が良かったかなという気がするくらいです。
-:その分、明日の追い切りは。
友:しっかりやってもらおうと思っています。
▲追い切り後、大勢の報道陣に対応する友道師
-:「調教では動かない」ということなのですが、どれくらい反応するか楽しみですね。
友:時計的には動かないし、今は馬場も悪いし、そんなにビックリするような時計は出ないと思うけど、乗った感覚を掴んでもらえれば。
-:僕らファンは、この馬に関してはそんなに時計が速い、遅いじゃなくて、実戦ではちゃんと走ってくれるということですね。
友:(時計は)全然気にはしていないですけどね。実戦ではいつもちゃんと走ってくれるし、2400m以上では崩れることもないし、ちょっと大阪杯では負けはしましたけど、あれは明らかに距離不足ではあったし。
-:府中の2400mという舞台ではごまかしも利かないですし、力通りの結果が出るということですね。
友:力通りになりますからね。
「僕の考えは馬の能力が100としたら、それを僕らの調教で110や120では出来ないと思うので、いかにその100ある能力の減点を少なくするかが僕らの仕事だと思います。100ある能力を競馬で100発揮出来るように、それが90になるのか、80になるのか、それをいかに少なくするかが、僕らの仕事だと思っていますから」
-:ファンは多分、上積みに期待していると思いますからね。最後にファンにメッセージをお願いできますか。
友:去年も勝って、連覇を狙えるのはこの馬1頭だけです。このまま行けば、ジャパンCと有馬記念で引退の予定なので、あと2回本当に無事で走ってきてくれれば良いと思っています。
-:素晴らしい馬によく巡り会う厩舎ですね。
友:本当に馬が頑張ってくれていますよね。
-:馬を大事にしつつ、どこかでは勝負を懸けないといけないということですね。
友:やっぱり僕の基本は、馬は大事に使っていった方が絶対、先々成長すると思うので。
-:なかなか出来そうで出来ないことですね。結局、馬の精神状態が壊れていないというか、走ることに嫌気を差していないことが。
友:僕の考えは馬の能力が100としたら、それを僕らの調教で110や120では出来ないと思うので、いかにその100ある能力の減点を少なくするかが僕らの仕事だと思います。100ある能力を競馬で100発揮出来るように、それが90になるのか、80になるのか、それをいかに少なくするかが僕らの仕事だと思っていますから、あまり無理はさせたくないですよね。
-:シュヴァルグランの能力100に近いところが府中の2400mに向いていると。
友:コース設定としては一番発揮しやすいと思うし。
-:馬場コンディションに関してはどっちが良いはありますか。天皇賞(春)はすごく速い時計が出ていましたが。
友:二つに一つなら速い時計の方が良いと思うけど、あんまり速すぎても、やっぱり…。ほどほどに速いのが良いですね。
-:その辺はみんな五分の条件ですからね。楽しみに、あと1週間しっかり見届けたいと思います。ありがとうございます。
友:ありがとうごございます。
▲3年連続で挑むベスト舞台で連覇となるか
プロフィール
【友道 康夫】Yasuo Tomomichi
1963年8月11日生まれ。兵庫県出身。1989年5月にJRA競馬学校厩務員課程に入学し、同年9月から栗東・浅見国一厩舎所属の厩務員となる。1996年11月に松田国英厩舎へ移り、2001年に調教師免許を取得。2002年11月に厩舎を開業し、2005年の朝日チャレンジCをワンモアチャッターで勝って重賞初制覇。2008年の天皇賞(春)をアドマイヤジュピタで勝ってG1トレーナーの仲間入りを果たし、2016年の日本ダービーをマカヒキで制してダービートレーナーに。今年はワグネリアンで2度目のダービーを制した。その他にもヴィルシーナ・シュヴァルグラン・ヴィブロスのきょうだいを送り出すなど、今や押しも押されもしない栗東を代表する調教師。