今年は牡馬相手に好勝負連続 モズカッチャン 好ローテで2つ目の勲章獲りへ
2018/12/16(日)
潰えた連覇の夢をグランプリでうっぷん晴らしへ。今年は京都記念から始動。牡馬と好勝負を続けるも、秋の目標としていたエリザベス女王杯で3着に敗れたモズカッチャン。結果、前哨戦を使えなかった誤算が響いた格好だったが、この有馬記念へ向けては余裕のあるローテで挑めることは好材料だろう。今回は鮫島一歩調教師が手応えのほどを語ってくれた。
-:有馬記念(G1)に挑むモズカッチャン(牝4、栗東・鮫島厩舎)について伺います。去年のエリザベス女王杯を勝って、その後まだ勝ち星がないというところで、ファンはモズカッチャンの勝利を待ち望んでいると思うのですが、先生としては、前回のレースを振り返って、いかがですか?
鮫島一歩調教師:頑張ったという思いはありますし、前の府中牝馬Sを一叩きとして使えなかったということで、僕自身は影響がない思いで仕上げていったのですが、負けたことの言いわけではないけど、多少(影響が)あったのかもしれないですね。それと、勝った馬(リスグラシュー)と2着(クロコスミア)の馬は自分に合った、本当に良い競馬をしていましね。それらが前に来て、競馬は色々なことがあるから運もありますし、流れ一つだし、その中で頑張ったなと。その前の札幌記念(3着)でも、本当に際どいレースをしてくれたしね。
-:札幌記念は後ろからの競馬で、エリザベス女王杯はぶっつけということにもかかわらず、牝馬同士ということもあってか、ポジションを取りに行きましたね。
鮫:そうですね。自分の競馬が出来たことは出来たんだけどね。
-:欲を言えば、逃げ馬を交わしていいくらいの力はもちろんあるのに、それが出来なかったというのは、やっぱり道中の力みや久し振りでテンションが上がっていたことなどでしょうか。先生なりの敗因はどこにあると思われますか。
▲府中牝馬ステークスをパスした誤算を指摘する鮫島師
鮫:それが足りなかった部分かもしれないです。道中でも色々あったけど、100%にほぼ近い感じで仕上げたつもりだったけどね。実際、熱発で(府中牝馬Sを)回避して、その後は順調だったから、「大丈夫だ」と半分言い聞かせていた部分もあるのですが、結果もうちょっと攻めれば良かったかなという部分もあったし、これは終わってから考える部分であって、そういう差かな、と。
-:逃げた馬からさらに3馬身負けるというのは、1番人気に推された馬らしからぬ敗戦だったというところがあって、だからこそ次のレースを待ち望んでいて、それが香港になるのか、有馬記念になるのかという選択肢があったと思います。終わった後の持って行き方というのはいかがでしたか。
鮫:オーナーの希望が一番大きかったんだけど「有馬記念に行きたい」ということでした。海外の予備登録はウチの厩舎としてはけっこうやるの、選出もされたのですが、オーナーとしても「やっぱり(有馬記念に)行きたい」ということでした。僕自身も有馬記念は面白いのではないかな、という気はしていたので、オーナーと相談して(有馬記念に)行きましょうか、ということでしたね。
オーナーも有馬記念やジャパンCという昔からあるG1の中のG1に出て勝ちたいという思いがあったそうですし、なかなかそういう路線に使える、勝ち負けになる馬って出てこないですからね。短距離やマイル路線はいても、本当に盛り上がって日本一の馬を決めるレースにはなかなか出られないし、そこに有力馬を送り込むチャンスはなかなかないから、オーナーも最初からそう決めていたみたいですね。-:それで、今回の有馬記念に挑むにあたって、ジョッキーの動向が気になるところでしたが、12月7日の発表でスワーヴリチャードが回避したので、モズカッチャンがミルコ・デムーロ騎手になったことは、良いリズムで有馬記念に向かえることになりましたね。
鮫:そうですね。乗り慣れたジョッキーが乗ってくれるというのが一番だし、今日、正式にそれが決まったというのは、こちらサイドとしてはありがたいです。もちろんスワーヴリチャード側の事情もあるので、喜んでばかりいられないのですが、乗り慣れたジョッキーが乗ってくれるというのはカッチャンとしては良いことだと思いますね。
-:舞台としては京都から中山に替わるわけですけど、いかがでしょうか。
鮫:それこそ札幌記念でもああいうレースが出来たし、色々なレースが出来るだろうと思います。自分の本当に得意なパターンに持っていくには、中山はけっこう合っているんじゃないかなと思います。レースは上手いから、中山のトリッキーなコースもこなしてくれるでしょうね。
-:自在性があるだけに、ファンとしてはモズカッチャンが牡馬相手にどの辺のポジションで、というところが気になるところです。
鮫:スタート次第だよね。札幌記念は偶然ああなったけど、外枠でちょっと遅れて、ペースも速かったし、自然とあの位置になってしまいましたから。
-:でも、あれも強みの一つとして、選択肢としてはある戦法なのかなと。
鮫:それは、流れが速くなったりすれば、ですね。そういう面では自在性があるし、それこそ全部知っているミルコが乗ってくれるのは、もう任せたぞ、ということで、一番良いのですが、僕自身としてはちゃんと出てくれて、普通に競馬して、無難なレースをして欲しいという思いはありますよね。その辺は本当に任せるといいますか。
-:先生としては、モズカッチャンのエンジンが最後全開で回せるようなコンディションに持っていくということですね。そういう面ではエリザベス女王杯を1回使って、フレッシュな状態で有馬記念に行けるということは、他の馬と比べた場合にはよりフレッシュに向かえるということですね。
鮫:まあ、そうですね。カッチャンとしては、ローテーション的にも一番良いんじゃないかな。
-:レース後の気配はいかがですか?
鮫:さすがに2週間は疲れもあって、そんなに無理はしていなかったのですが、2週間目の日曜日に(坂路で)57~8秒のサラッとした軽いところをどんなものだろうという感じで追い切って、2週前は53秒台で終いは12秒台だったのですが、本当は55秒くらいという指示で出したのですが、結局、今はグッと気合が乗っているものだから、スッと自然に時計が出ちゃうんだよね。馬場が良かったわけでもないんだけどね。追い切った後の獣医のチェックも「硬いわけでもないし、これだけ走った割には良いね」というジャッジを受けましたね。
-:心肺機能のチェックをしたら、そこまで疲れはなかったということですね。中山2500というトリッキーなコースだけに、あまりテンションは上げずに持っていきたいというところですね。
鮫:そうですね。1回エリザベス女王杯を使ってだから、その辺はちょっと工夫して持っていきたいなと思いますね。
-:お父さんはハービンジャーで元気一杯な産駒が多い種牡馬ですから、そこまでビッシリ大人しいということはないと思うのですが。
鮫:あの馬はガッとテンションが上がっちゃいますからね。秋華賞の前は馬場に出る前に鉄がズレて、落鉄した経緯がありますからね。その後は競馬に向かうにあたって、そういう対応はきちんと出来ているから、もう心配ないけど、それなりにテンションは上がりますよね。
「本当にいつも頑張ってくれると思いますね。これまでも流れ一つで勝てるチャンスもあったレースもありますから、それでまたファンの評価も違っただろうと思いますから」
-:レースですからね。ただ、そういう気性を持ちながらも、成績を見ると安定していますし、勝てなくても上位には必ず顔を出しているというところは、やっぱり体力と精神力のレベルが高い証拠ですね。
鮫:高いと思います。本当にいつも頑張ってくれると思いますね。これまでも流れ一つで勝てるチャンスもあったレースもありますから、それでまたファンの評価も違っただろうと思いますから。
-:競馬というのは終わってから見ると、あそこがこうだったらというのを思うけど、ライブの一発勝負ですからね。
鮫:そうそう。
-:それが僕らからしたら楽しみであって、先生からしたら苦しみでもあるということですね。
鮫:そう。僕らは特にモズカッチャンしか見ないというか、他に馬にも色々なことがあるわけだからね、ハハハ(笑)。
-:色々なことが絡み合って、一つのレースになるわけですからね。
鮫:そうそう。札幌記念だって狭くなったところをこじ開けてきたわけだから。
-:今度は色々な歯車が噛み合えば、もちろん有馬記念でも上位に来られる、ということですね。
鮫:そうだね。
-:今の体のサイズや感触感じはいかがですか。
鮫:今の感じはもう出来ているよね。間隔的に中5週で、前走から2週間ちょっとリフレッシュして、疲労を取って立ち上げてきたわけだけど、それこそ来週に競馬でも問題ないくらいの感じにはなっていますね。
-:3歳の時から、体の面で何か成長というのを感じられるところはありますか。
鮫:体重的にもそんなには変わってきていないんだよね。けっこうプリプリしていて、良い筋肉を持っていたから、体重自体はそんなに…。それこそ同じハービンジャーでも、ディアドラなんかはドンドン増えて成長しているけど、この子はそんなに体重的には変わらないけど、伸びが出て、筋肉が付いて余分な脂肪が取れてきました。馬にとっては一流アスリートに近付いていくような体型になって、結果体重は変わっていないということですね。
-:体脂肪率が減ったということですね。
鮫:そうそう。結局脂肪が減って良い筋肉が付いたり、ちょっと胴が伸びて、本当だったら、もうちょっと体重が増えても良いんだろうけどね。
-:この世代というのは、当初ソウルスターリングが絶対女王といった存在で始まった桜花賞だったと思いますが、さっきもおっしゃっていたディアドラも後から注目され出した馬ですし、ソウルスターリングやリスグラシューや、活躍馬が多い中で、ここまで無事にトップを走り続けてきましたね。牝馬はリズムを崩すところがあって、立ち上げが難しいところもあるのですけど、この馬はいつも真面目に走っているのに嫌にならないというか、まだ頑張れるという源は何でしょうか。
鮫:本当にビックリするのですが、レースでもほぼ安定したトップの成績で頑張ってくれるというのは、多分「オン、オフ」なんだろうね。厩の中でもオットリしているし、精神的に追い込まれると牝馬は厩の中でもけっこうキリキリしてくるんですよ。それがそれほどないんですよね。最初の頃とは目つきが違うんだけどね。やっぱりそういうところが良いのかもしれない。
-:ちゃんと抜くところは抜いてくれているということですね。
鮫:競馬でも装鞍所でそんなに煩くないし、パドックではちょっとリップチェーンを着けないといけないし、馬場入りもリップチェーンを着けて、ゲート前で外すような感じだけど、いざレースに行くとそんなにグワッとは。だから、精神面が強いんだと思う。それは苦しいレースをしているから、うわっ、嫌だとなってしまう牝馬は多いけど、この子はならないんだろうね。
-:しかも、最後は終いちゃんと脚を使うという、頭が下がる思いですね。
鮫:そうだね。本当に頭が下がるよね。この子に出会えて、俺なんか何回も何回も挑戦してきて、ずっとG1は勝てないかなと思っていたからね。この子でやっと獲れて、俺でもG1が獲れたなと。本当に一つ獲れたのだから、今度は気楽に二つ目という気持ちで獲れると良いんだけどね。
-:ミルコさんもルヴァンスレーヴで勝って良い流れですからね。
鮫:イタリアの人って乗っている時は怖いくらい乗ってくるようですからね。その点でも、またミルコが乗ってくれるというのはカッチャンにとって心強いですし、良いレースをして欲しいなと思いますね。
-:最後に応援しているファンに、エリザベス女王杯でも1番人気に推されていたので、応援しているファンも大勢いると思いますから。
鮫:なかなか(昨年の)エリザベス女王杯以降勝てなくて、やきもきしているところはありますが、それでも彼女は一生懸命走っているし、本当に強いレースをしているので、今度も本当に良いレースをして、出来れば結果が付いてきて欲しいな、勝って欲しいなと思います。
-:枠はやっぱりそれなりに。
鮫:枠のことをあまり言うと、後でガッカリするから、ハハハ(笑)。
-:自然体で。
鮫:どこでも。後は上手くジョッキーが乗ってくれるでしょう。
-:モズカッチャンにとっても二つ目のG1を期待しています。お忙しいところ、ありがとうございました。
プロフィール
【鮫島 一歩】 Ippo Sameshima
鹿児島南高校馬術部時代にしごかれた先生が、“トシ”の冠名でお馴染みの馬主の上村叶氏(かみむら かなえ)。
卒業後はブラジルで酪農をやる夢を抱き、鹿児島から北海道に渡り酪農学園大学の酪農科に入学。高校での厳しい訓練に音を上げた馬術だったが、馬を見ると乗りたくなってしまい馬術部に入る。この大学時代の同期が飯田雄三調教師。飯田師が4年で卒業した後も留年して、1年遅れで昭和53年に栗東の増本豊厩舎に調教助手としてトレセン入り。2000年に厩舎開業してからは、馬術を基礎にした地道な調教で活躍馬を送り出した。「馬の気持ちを考えながら馬と対話したいですね。毎日苦しい調教に耐えている馬に優しくしないとね」。