天皇賞3着、JC2着 名勝負の立役者・キセキが成長の軌跡を魅せる
2019/3/25(月)
成長したキセキが貫禄をみせる。昨秋は毎日王冠で6番人気3着という始動戦から、天皇賞・秋、ジャパンカップと逃げて好走し、名勝負を演じたキセキ。秋のG1を戦い抜くなど、勝利にこそ届かなかったものの、その評価を高めたが、やはり欲しいのは1着という結果だろう。5歳初戦に選んだのは大阪杯。昨年も幾度となくインタビューに応じてくれた陣営によれば、状態面の上積みを感じるというが、今年こそ2度目のG1タイトルとなるか。手応えのほどをお確かめいただきたい。
-:大阪杯(G1)は2019年のキセキ(牡5、栗東・角居厩舎)の始動戦になります。去年の秋からは、キセキの新しいスタイルをちゃんと確立出来たと思います。清山さんのキセキに対する信頼はより一層強くなったと思いますが、年明け初戦にあたって、どんな思いでしょうか。
清山宏明調教助手:秋一連の勢いと言いますか、ああいう形のスタイルで有馬記念まで終わって、サークル内の知り合いからも「本当によく頑張った」ということで、秋の立役者の位置づけとしての声をすごくいただいて、その気持ちはすごく嬉しかったですね。この大阪杯が目標と決まってから、秋の走りを活かすために、一番大事になるターニングポイントとなるレースになると思っていましたし、信頼感も強くなっていますね。秋4戦の激戦で、キセキが残してきた形のイメージをより強く持っているファンもいますし、僕も余計に強く持っているところもあるので、それをまたファンの皆さまにしっかり良い形で見せられるようにと思いながら、ここまで来ましたね。
-:去年の秋4戦というのは全て遠征だった訳ですけど、今回は地元というか、近場の阪神競馬場になりますが、この辺りはアドバンテージになりそうですか。
▲昨秋に続きインタビューに応じてくれたキセキを担当する清山助手
清:冷静に考えると、そこはアドバンテージと思いますよね。やっぱり阪神は走り慣れているところもありますし、輸送は目に見えない疲労があるのかなと思いますからね。ただ、輸送には問題のない子なので、あまり大きくダメージがあるようには見えないところで、ずっとレースも使えてきていたので、大きなダメージを抱えたところから、アドバンテージとしてこちらにプラスに出るかというと、そこはないのかなと思うんですけど、(今回は)キセキが良い状態でレースを迎えられるかどうかが、一番大きなポイントかなと思いますけどね。
-:残念ながら、昨秋は1着が獲れなくて、惜しくも健闘続きでした。あと残されたのは1着という席だけなんですけど、帰厩されてからのキセキの感触を教えていただけますか。
清:秋4戦の疲れをしっかり取って、馬の状態を診て、レースを選択していくというところから、本当に良い形でリフレッシュ出来ています。なおかつ疲れを取ったところから、身体のボリュームアップにしっかり繋げることが出来ましたね。どちらかと言うと、帰ってきた時の体は立派過ぎるほどだったので、そこからエネルギーを蓄えながら来ている雰囲気もあったので、本当に良い形でリフレッシュ出来たなと思っていたんですけどね。
「見るからに体がすごくボリューミーと言いますか、本当に食べたものをしっかり身に付けて、パンプアップしてきた雰囲気ですね。乗り込みは去年の秋よりも、もう少しプラスしながら来ているので」
-:ちなみに、帰厩した時の体重が分かれば教えていただけますか。
清:そこでは量っていなかったのですが、感触で言うと、524~26でしょうか。レースより(前走時は506キロ)も20キロくらい重かったですね。
-:そこから乗り込んで、締めていくということですね。今でどれくらい締められましたか。
清:今は半分くらいのところですね。ちょうど去年のジャパンCと有馬記念の1週前の時と数字は一緒なので。ただ、見るからに体がすごくボリューミーと言いますか、本当に食べたものをしっかり身に付けて、パンプアップしてきた雰囲気ですね。乗り込みは去年の秋よりも、もう少しプラスしながら来ているので。
-:そのプラスしているというのは、どの辺をプラスしたのでしょうか。
清:感覚的なものなんですけど、負荷の量ですね。
-:チョイ強めということですね。
清:そうですね。全然手控えていないですし、どちらかと言うと、これ以上攻められないかな、というくらいの普段の調教と追い切りの内容なので、競馬に向かうまでの課程とすれば、非常に順調に来られていますね。これで食べながら、しっかり筋肉が刺激を受けながら、という状況では来ていますね。
▲20日、CWコースで1週前追い切りを行うキセキ
-:追い切りだけじゃなくて、普段の角馬場での運動から強めにということですか。
清:坂路でも、こちらが思うよりもしっかりとした力強いフットワークに感じますし、なおかつ時計的にもセーブしきれないところもあったりするんですけどね。でも、それが彼の良さでもありますし、こちらが思うよりも時計が縮まっていたりするので、これ以上オーバーワークには出来ないという、ギリギリのところで止めながら来ているんですけどね。
-:それで、精神状態が崩れずにちゃんとカイバも食べられているというのは、かなり期待出来ますね。
清:本当に大人になったというところも感じますし、そういう去年の秋のことも踏まえながら、しっかり一段と大人になれたんだな、と感じますよね。
-:キセキのこれまでのレースを振り返って、阪神競馬場では5回と一番回数を使って、3着を外したのはわずかに1回だけという舞台なのですが。
清:去年の宝塚記念(8着)ですね。
-:菊花賞を勝っているわけで、もうG1馬なんですけど、ここで悲願となりそうですか。
清:そうやって期待されていたこともありますし、去年の秋の彼の功績と言いますか、走りを見ると、ファンならずしても、僕も当然期待しているところが大きいのですが、やっぱりそこを目標としてくる他の陣営もたくさんあると思います。なおかつ去年の秋の戦法からいくと、キセキをライバル視して、目の前のポジションを取るので、目標にはされやすいんですけど、今の状況で彼の力をしっかり発揮出来れば、結果は別として、キセキの走りがちゃんと見せられるかなというところにあると思いますね。そこで、希望通りに1着を獲りたいというのは、本当に純粋な気持ちですけどね。
-:ファンは「結果は別として…」じゃなくて、結果は欲しいと思うんですけどね。
清:まあまあ、そうですね(笑)。
-:ジャパンCで負けたアーモンドアイも、同じ日の深夜にドバイで出ますし、キセキも日本馬の先陣を切って、良いムードで3月の最終日を迎えられたら良いですね。
清:本当に、今の競馬界を盛り上げている一役を担うポジションにいてくれていると思うので、今年の最初のレースで、そういう良い形でスタート出来れば、盛り上げるポジションとしての立ち位置があると思いますからね。
▲ジャパンカップでは超高速決着の中、逃げて2着に粘った
-:去年の秋緒戦であった毎日王冠(3着)ですけど、この時から新しいスタイルというか、先行してけっこう攻めた内容だった訳ですけど、その時の休み明けと比べて、今回はいかがですか。
清:簡単な言葉で言うと、「別馬」ですね。夏休みを経てから立ち上げての毎日王冠だったので。今は良い形でしっかり走り切ったところからの疲労回復とリフレッシュしてきた状況で、(放牧先の)吉澤ステーブル(WEST)でもしっかり負荷を掛けてくれていたこともあったので、臨戦過程とすれば、そこは全然違いますよね。
-:僕らの見方も、単なる休み明けではなくて、良い感じで仕上げてもらっての休み明けという解釈で良いですか。
清:そう取ってもらっても良いと思いますね。僕もそういう風には思っているので。
-:馬体重に関しても、今のままで行くと、レースでは510くらいですか。
清:それくらいになると思うんですけど、しっかり食べて、しっかり負荷を掛けて、やることをやった上での数字なので。手控えた訳ではない数字なので、そこは数字に惑わされることなく、今あるキセキが、トレーニングをしっかり終えた上での数字だと捉えてもらえれば良いと思いますね。
-:有馬記念からプラスになっていても、休み明けだから重いというネガティブな感情はいらないということですね。
清:そこは、去年の秋に経験したことが身になった数字と捉えてもらえる方が、僕は嬉しいですね。
-:パドックではどんなテンションで歩いているでしょうね。
清:多分、そう大きく取り乱すことはないと思いますけどね。阪神は何回も走って、場所も知っていますしね。
-:阪神のパドックは屋根があって、馬にとっては気を使いそうじゃないですか。
清:そうですよね。でも、キセキはそういうところは賢いですからね。
-:動じないということですね。
清:ある程度、気持ちは出したとしても、取り乱すことはないですからね。
「ドンと来いというのは、ちょっとおこがましいと思うんですけど、去年のレースを見る感じではそういうポジションでしっかりレースが出来るかな、という雰囲気で出せる手応えは感じていますね」
-:そんな中で今週、1週前追い切りを終えられた訳ですけど、感触はどうでしたか。
清:ちょっと間が空いていましたし、体も立派なところもありましたので、僕の中のテーマとして、しっかり動かしておきたいというのが持ち上がってきましたね。普段から攻めてきたところでもありますし、ここでG1をしっかり獲りにいくためには、妥協することなくやれることはちゃんとやってから、来週に向かいたいという思いがあったので、ここは遠慮なくやらせてもらいましたけどね。
-:終いの反応はいかがでしたか。
清:良かったですね。去年の秋にレースを使っていた時の雰囲気が出ていたので、これは良い形で向かって行けるなという感じはありましたね。
-:目標にされても、ドンと来いという感じですか。
清:ドンと来いというのは、ちょっとおこがましいと思うんですけど、去年のレースを見る感じではそういうポジションでしっかりレースが出来るかな、という雰囲気で出せる手応えは感じていますね。
-:菊花賞では極悪の不良馬場、その後はけっこう良馬場で成績を出しているんですけど、G1を勝つとなったら、どんな馬場が理想なのでしょうか。
清:この子の走りはメチャクチャ軽くて、綺麗なので、確かに力の要る馬場もこなすと思うんですけど、見るからに本当に体を大きく使いますし、跳びも綺麗なので、良馬場が良いことは良いと思うんですけどね。今まで勝っているところも、菊花賞前までは本当に良馬場の綺麗なところで強い勝ち方をしてくれているので、大前提とすれば、良馬場の綺麗な馬場で走らせてあげたいのが一番ですね。
-:最後に、キセキの復帰を楽しみにしているファンにメッセージをお願いします。秋4戦で単勝を勝って、あと一歩のところで悔しい思いをしたファンが大勢いると思いますので、もうソロソロと思います。
清:その期待に応えられるように、本当に胸を張って競馬場に送り出せる手応えを感じられる状況にあるので、ファンの方の支持にしっかり応えられるような気持ちを持ちながら、レースに向かいたいと思います。還元出来るかどうかというのは、レースが終わってみないと分からないですけど、秋に応援してもらったファンの期待をしっかり引き継ぎながら、その期待に応えられる状況を夢見て、僕も胸をワクワクしながら、レースに持っていきたいと思うので。馬券もそうなんですけど、引き続き競馬場で応援してもらえることが、僕らは一番嬉しいですね。
-:キセキを見守って、後押しして欲しいですね。
清:そうですね。
-:川田ジョッキーのコメントが何かあったら教えていただけますか。
清:いや、会っていないんですよね。レースに乗ることをちょっと楽しみにしてくれているのでね。返し馬が終わった後に、どういうコメントを言ってくれるのか、僕は非常に楽しみにしているんですけどね。
-:それは、次走の取材の時に教えて下さい。
清:そうですね。
-:ありがとうございました。
プロフィール
【清山 宏明】Hiroaki Kiyoyama
鹿児島県出身。競馬学校騎手課程第2期生で、同期には横山典弘騎手や松永幹夫調教師がいる。騎手としては重賞4勝を含むJRA通算141勝の成績を残し、2002年に引退。重賞の舞台で、人気薄ながら2度の逃げ切り勝ちを決めたロンシャンボーイとの個性派コンビでも名を馳せた。 引退後は領家政蔵厩舎から調教助手としてのキャリアをスタート。これまでにウオッカやディアデラノビア、ラキシスなどの調教を担当したことでも知られている。