ファンタジスト 厩舎の看板馬と同じ調教メニュー 小倉2歳Sから急成長でクラシックへ
2019/4/11(木)
短距離馬のイメージを覆す激走なるか。昨年夏の中京芝1200m戦でデビューし、続く小倉2歳S、京王杯2歳Sを制した武豊&ファンタジスト。一般的には、2歳の短距離重賞を勝利した馬が後々も出世するレースは珍しいものだが、陣営に聞けば、一戦ごとに成長が窺えるというのだから、今後も軽視はできないところ。前走のスプリングSでも初距離をこなし、クラシックに挑む重賞2勝馬の可能性を探った。
-:皐月賞(G1)に出走するファンタジスト(牡3、栗東・梅田智厩舎)ですが、スプリングSで2着からの臨戦となります。前回の競馬を振り返っていただいて、いかがでしたか。
前原玲奈調教助手:周りに「距離が、距離が…」と言われていましたね。確かに体型的だったり、血統的には短距離の要素が強くて、レースの内容次第で皐月賞に行くか、マイル路線に行くかという話もあり、その中ですごく上手に競馬をしてくれました。皐月賞に繋がる競馬が出来たかな、というのがありましたね。
-:道中もシッカリと後ろで我慢していましたね。
前:そうですね。本当に折り合いが付いて、良いレースが出来ましたね。
-:終いの伸びは申し分なかったですか。
前:そうですね。もし1400mなどだったら、正直、差し切っているかなという感じがあった面は否めないのですけど、休み明けの分を考えると、まだまだ良くなる要素があったので、そこは前向きに。1回使ってすごく良くなっていますからね。
▲初めての1800m戦だった前走でも2着に好走したファンタジスト
-:朝日杯フューチュリティSから+10キロだったのですが、これは時期的に成長してもおかしくないですからね。
前:そうですね。成長プラス、多少の休み明けの余裕と両方ですね。
-:もう1回輸送が続くのですが、今のところ、馬体の回復具合はどうですか。
前:全然減った感じがなくて、そんなに減らずに行けるのかな、という感じはするんですけどね。筋肉の張り具合というか、皮膚の薄さだったりだとかは、まだ、この間は脂肪をまとっている感じがあったので。同じような体重で、そこまで変わらないかなという感じはするんですけど、中身は変わってくるかなと思っていますね。
-:そうなると、距離の話になりますと、3連勝した時は1400までで、朝日杯フューチュリティS(4着)で初めて馬券圏内を外している訳ですけど、この時は距離がマイルになったということプラス、馬場状態もちょっとありましたか。
前:そうですね。外枠が良いかなと思ったんですけど、来ているのが全部内枠だったので、そこは結果的に内枠が良かったな、と思いますね。
-:スプリングSの結果を考えると。
前:距離もやれそうな感触を掴めたかなと思いますね。
「ドンキの場合は、同じ短距離馬でもテンからガツッと行って、我慢させて引っ張り通しで時計が出るという感じなんですけど、ファンタは同じ時計を出しても、すごく促しながら、という感じですね。タイプが全く違いますね」
-:母父ディープインパクトで、父ロードカナロア、普通なら距離は持ちそうですね。
前:ロードカナロア自体がマイルくらいまでだったのと、あとお姉ちゃん(コロラトゥーレ)がウチの厩舎で1200mのみなのですよね。ただ、両方の馬に乗っていると、性格的にお姉ちゃんは本当に真面目で、すごく前向きだったんですけど、ファンタは本当に良い意味で遊びがあるので、そこら辺は融通が利く要因かなと思いますね。あとは、坂路で時計が出る馬って、すごく短距離馬が多いと言われますよね。この馬はすごい時計が出るので、こっちがすごく良いなという状態で、坂路で動けば動くほど、周りに「距離が、距離が…」と、すごく言われたということがありますね。
-:それは、走法とも関係があると思うんですけど、ピッチ気味だから時計が出るということですか。
前:そうですね。ただ、この馬は時計が同じように出るのでも、すごく遊びがあるから、終いまでシッカリ走れるという感じなんですよ。テンからガツッと行って時計が出る訳じゃなく、そういう意味では、周りが心配している要素を我々は全く感じていないというのはありますね。
-:(時計は)出そうと思えば出るのですか。
前:(レッツゴー)ドンキの場合は、同じ短距離馬でもテンからガツッと行って、我慢させて引っ張り通しで時計が出るという感じなんですけど、ファンタは同じ時計を出しても、すごく促しながら、という感じですね。タイプが全く違いますね。
▲ファンタジストの最終追い切りに騎乗する前原助手
-:「カナロア産駒は母系の影響が出る」と聞くんですけど、その割にはこの馬は距離が持っていますね。
前:そうですね。ゆくゆくは分からないですけど、現時点では。
-:「カナロア産駒は暑さに弱い」と言われているけど、この馬は小倉2歳Sに勝っていますからね。
前:暑さに弱いのですか?
-:アーモンドアイも、勝った後に脱水症状みたいになりますからね。
前:フラフラでしたからね。秋華賞の時は怪我をしたのかと思いました。あの時はフラフラというよりも、完全に脚がガクッとなっていたから、骨かなという感じに見えて…。
-:カナロア自体がそうだったみたいですよ。12月の香港で勝った時も、こちらは寒いけど、向こうは暖かいじゃないですか。だから、その暑さでちょっとヘバっていたということでしたね。
前:そうですか。全然気にしていなかったですね。
-:そこは、受け継がなくて良いところを受け継がなかったということですね。
前:現時点ではそうですね。これからドンドンレースを使っていって、あの時はローテーションがユッタリだったので、もっと詰めて使っていたら、もしかしたらもう少しカッとなってということがあったかもしれないですけどね。
-:父も母父も人気のある血統ではありますからね。
前:そうですね。今でこそ最先端の超良血みたいに言われていますけど、その時、ロードカナロアは全く出てきていないですし、お母さんもディープだけど未勝利なので、入ってきた時はそんなに注目される血統じゃなかったんですけど、アーモンドアイが距離をこなしてからね。
-:ずっとユタカさん(武豊騎手)が乗っていらっしゃるのですが、スプリングSが終わったあとの折り合いに関するコメントというのはありましたか。
前:「全然問題なかった」と言ってもらいましたし「2コーナーで一瞬噛みかけたけど、そこでちゃんと我慢が出来て、そこからは本当にすごくリラックスしてくれた」ということでしたね。
-:本番は中山2000mというけっこうトリッキーな難しい舞台ですが、そこで折り合えれば、終いもう1回脚を使ってくれる可能性がありますね。
前:そうですね。そういう意味では、ユタカさんに続けて乗ってもらえるというのはすごく強みだと思いますね。
-:馬場状態に関しては、良馬場に越したことはないですか。
前:やってみないと、というところありますが、普段調教で乗っている限りでは、パワーじゃなくて、すごく軽い走りです。バネで走る割には馬場が荒れていても全く気にしないですね。
-:同世代の中では、成長度はどうでしょうか?
前:本当にこちらがビックリするくらい、毎回、毎回成長してくれていますね。
-:小倉2歳Sの覇者と言うと、皐月賞じゃなくて、NHKマイルCじゃないか、と思われると思います。
前:あまり良いイメージがなくて、みんな小倉2歳Sを勝ったら、その後ちょっと伸び悩む傾向がありますけど、本当に成長力はすごいので。
-:厩舎側としても、挑戦というか。
前:そうですね。本当に挑戦者ですね。今度は気楽な立場で行けますし、一発言わせたいな、という楽しみはありますね。
-:大舞台に向かうにあたって、小倉2歳Sの頃から調整方法で何か上げてきている部分というのはありますか。
前:小倉2歳Sくらいまでは山(坂路)1本で、みんなと同じメニューを組んでいました。ウチの厩舎は、普段は基本的に山1本がほとんどなのですけど、ドンキとこの馬に関しては体力が有り余って、それだけじゃ足りない部分があったので、この馬はEコース1本と坂路1本という感じで、乗り込み量はかなり増やしていますね。
-:それは、Eコースから入るのですか。
前:Eコースでハッキングかちょっと軽めのキャンターを1周してから、坂路1本という感じですね。
-:乗り心地はどんな感じなのですか。
前:すごく軽いですね。でも、性格的にはすごく子供ですね。ユタカさんに乗ってもらっても「2歳馬のようやなぁ」と言うくらいでしたね。
-:それが、遊びの方に繋がっているということですね。
前:そうですね。良い遊びもあるし、Eコースである程度跳ねたりだとかして、自分で遊びながら発散して、多少、ストレッチの意味も込めての感じなんでしょうね。それで、坂路は真面目に集中して走るという感じですね。
-:ストライドはけっこう真っ直ぐ脚を出している印象があるのですが。
前:本当に綺麗な走りをしますね。
-:幼い中でも体幹はシッカリしているという感じですか。
前:そうですね。でも、まだまだシッカリしそうな感じはありますね。
-:中山と言えば急坂があるので、坂路コースが得意な馬ということでは、心強いかもしれないですね。
前:そういう意味では、そうですね。
-:来週(最終)の追い切りはどんな予定ですか。
前:日曜日は私が乗れないので、持ち乗りさんに15をやってもらう予定でいるんですけど、その感じで来週は終いだけになるのか、ある程度やるかというのは決まると思います…。軽めということはないので、前回くらいシッカリやるか、終いだけシッカリやるかというのは、雰囲気を見て、また考えたいと思います。
-:同世代にはサートゥルナーリアというけっこうな怪物級といわれる馬がいますね。
前:素晴らしい馬だと思うんですけど、まだ戦ったことがないというのもありますし、こっちは1回使っている強みもあるので、どれだけ対抗出来るか、というところですね。
-:おそらく位置取り的には向こうが前で、ファンタジストが後ろからということなのですが。
前:ユタカさんに乗り方は任せる感じで、流れ次第で前に行くかもしれないですし、後ろから行くかもしれないですけど、本当にここはお任せですね。
-:上手く導いてくれるでしょうからね。最後に、応援している穴党のファンにメッセージをお願いできますか。
前:一発言わせられるように、あと1週間良い調整が出来るように頑張っていきたいと思いますし、本当に成長力はある馬だと思うので、ここ次第で、また路線がどうなるかというのはあると思いますけど、一生懸命頑張ってくれると思いますので、応援して下さい。
-:パドックでこの馬の良い時というのは、どのような雰囲気ですか。
前:パドックは本当にリラックスして歩けるので、そこは常に変わらない感じですね。前回も中山に行っていますから、そこら辺は心配していないですけど、もしイレ込んだりしたら心配して下さい、ハハハ(笑)。
プロフィール
【前原 玲奈】 Rena Maehara
競馬学校騎手課程16期生として入学。同期には小林慎一郎、嘉藤貴行らがいる。2010年3月1日より所属する梅田智之厩舎の調教助手へと転身。レッツゴードンキやショウナンマイティらの育成に携わり、騎手時代には縁のなかったG1の舞台も経験。スタッフとのコミニュケーションに気を配り、少しでも馬の可能性を伸ばすために厩務員さんと密に話し合うようにしている。
モットーである「馬を大事にしたい」という思いを心がけて、調教に取り組み、ただ甘やかすだけではなく、昨日できなかったことが出来たら褒めてあげることも大事にしている。プライベートでは2016年に結婚。騎手時代から変わらぬ優しさを持って馬と接している。