ロジャーバローズ “2頭出しの人気薄” 大本命の陰に潜む素質馬
2019/5/19(日)
名門厩舎が放つ、もう一本の矢。皐月賞を無敗で制し、今年のクラシックの大本命と目されるのがサートゥルナーリア。しかし、侮ることなかれ、同じ角居勝彦厩舎が送り出すロジャーバローズも前走の京都新聞杯で2着に好走し、ダービーへ駒を進めてきた。聞けば、2走前には惨敗を喫したが、明確な敗因があるという。キャリアもローテも伸びしろたっぷりのディープインパクト産駒について、陣営を直撃した。
-:京都新聞杯(G2)から日本ダービー(G1)に挑むロジャーバローズ(牡3、栗東・角居厩舎)ですが、5戦2勝でダービー出走に辿り着いた訳ですけど、4月から担当されているということですね。
米林昌彦調教助手:それ以前は他の方がやってくれていました。「新潟(新馬)の時は輸送でイレ込みもなかった」という話を聞いていましたし「馬の能力自体も高い」ということを聞いていましたが、スプリングSでは「パドックからイレ込んで、競馬にならなかった」とのことでしたね。
▲担当したばかりの京都新聞杯で早速結果を残したロジャーバローズの米林助手
-:これまでで一番、着順を落としたのが、そのスプリングSですが、その時のイレ込みは京都新聞杯では解消されていたということですか。
米:前任者からは「装鞍所、下見所、ゲートまで、この一連の流れの中でずっとイレ込んで、ゲート裏の時点で勝負にならないと思った」と言っていました。実際に競馬でも良いところなしだったので、それを事前に分かっていたのと、当日輸送でもありましたから、最初はメンコを着けました。
それに、馬運車の中でもずっと付いていって、出来るだけ落ち着かせることだけを考えましたね。ゲート裏ではやっぱりテンションが上がっていたんですよ。ゲートの中でもちょっと悪癖が出ちゃいましたけど、それまではこの馬なりに落ち着いていましたね。課題としては、その辺はある程度クリア出来たと思いますね。
-:今度は(東京までの)輸送ですね。
米:そうですね。前日輸送で、前回の状況まで持っていけたら…。輸送と言っても、長時間の輸送なので、例えば高速に入るまでは付いていって落ち着かせたり、メンコを着けていくとか、そういう簡単なことしか出来ないと思うんですよ。ただ、それ以前にカイバの方で工夫はしていますね。
▲京都新聞杯のゴール前 左がロジャーバローズ
-:京都新聞杯のレースは、もうあと一歩のところで、勝ち馬に差されてしまった訳ですが。
米:勝てると思ったんですけどね。初めて逃げました。今までは2~3番手、4~5番手の競馬をやってきたのですが、この間の逃げで、番手からの競馬も出来るという、戦術も広がったと解釈して良いと思います。
-:上がってきた浜中ジョッキーは、何かコメントをしていましたか。
米:「2着じゃダメ。勝たなきゃダメだ」と言っていました。ただ、彼のお陰で、2着でもダービー出走の権利を手に入れましたし、短期放牧明けということも考えたら、まだダービーでもチャンスはあると思います。同じ厩舎に強い馬(サートゥルナーリア)がいますけどね、ハハハ。ただ、こちらは課題を一つずつクリアして、伸びしろがあるので。
-:レース間隔が詰まっているので、追い切りの動きというよりは、今週のメニューはどういった内容でしたか。
米:今週は坂路で追い切って、緩めずにシッカリ追いました。週末はハッキングなしで、そのまま坂路で調整していきます。馬体自体は太ったり、痩せたりということもないし、良いコンディションのまま、ここまで来ていますね。
-:前回の馬体重が494だったのですが、輸送をして、先ほどおっしゃられていたように、カイバで調整して、目安としてはどれくらいで出られそうですか。
米:今のところは、ほぼプラスマイナスゼロで行けると思います。カイ食いはすごく良い馬なんですよ。
-:性格はどのような馬ですか。
米:すごく甘えたがりですね。ヤンチャというか、人間を馬だと思っているというか(笑)。最近こそ立ち上がったりしないですけど、前は立ち上がってきたりしていました。僕が担当する前は、馬房が横だったのですが、横でいつも立ち上がって、担当に抱き着こうとしてケンカになっていましたね。僕もエサをあげに行ったりすると、立ち上がってきて、襲ってきたりだとか。
▲「人懐っこい」ロジャーバローズと触れ合う米林助手
-:それは、この馬なりの友達としての表現ということですね。
米:そうなんですよ。悪さをしている気はないのですが、遊んで欲しいんでしょうね。カイバを食べるのに、こうやって人がいたら寄ってくる感じで、とにかく遊んで欲しいんですよね。そういう意味で、幼いんですよね。
-:どこかレースのイメージと違いますね。
米:そう、違うんですよね。
-:そういう意味では、オンとオフがあるということですね。
米:ええ。だから、疲労の抜けも早いですし、ご飯が食べられるのも、オンオフがシッカリ出来るからでしょね。競馬前になったら調整するのか、少し残したりしますけどね。
-:普段の操作性はいかがですか。
米:かなり良い方だと思いますよ。スプリングSではあんなにイレ込んでいましたけど、普段はすごく大人しくて、扱いやすいですね。
-:ダービーとなったら、ペースがどうなるか、まだ見えないところはありますね。
米:他に逃げたい馬もいるだろうし、周りとの兼ね合いでしょうね。
-:前目のイメージですか?
米:他の人がどう考えているか分からないですけど、僕としては前目を希望していますけどね。この間みたいに、粘り強い競馬が出来たら良いかなと思います。
-:前目でスムーズに流れに乗って、最後の瞬発力勝負にするよりは、余力に懸けるということですね。馬場に関してなのですが、この馬は、もし雨が降った時というのはどう思われますか。
▲1週前追い切りを坂路で行った(15日撮影)
米:フットワーク的にちょっと苦手じゃないのかなと思いますね。この間の京都みたいな、走りやすい馬場の方が持ち味を発揮出来るんじゃないですかね。
-:まだ馬体的にも成長途上ですか。
米:そうですね。まだまだ良くなると思いますね。
-:でも、デビューの時から換算すると、けっこう体重は増えているんですよね。
米:そうですね。デビューした最初の頃は480キロ台で競馬をしているんで、10キロ以上は増えています。それだけパワーアップはしていますね。右腰の甘さがあって、それがここに来て、一気に解消されてきたので。前の担当も、それで四苦八苦していたみたいですけどね。春になって暖かくなって、動きも良くなってきましたからね。右腰の弱さも解消されてきて、けっこう楽しみですね。
-:大一番を控えているとは思えないほど、かわいらしい顔つきですね。
米:僕に緊張感がないのかな、ハハハ。
-:緊張感がないのは良いことですね。
米:僕自体が初G1ですからね。
-:馬より人がイレ込まないように、ですね。
米:そうですね。若い人ほどイレ込まないですけど、出来れば、僕も自然体で臨みたいので。この馬も気性が気性だけに、人間があまりイレ込むとこちらもイレ込んでしまいそうなので。
-:いつもと違うよと、敏感に察知して。
米:馬に伝わらないようには気を付けていこうかなと思っていますね。
-:同厩舎に怪物候補がいるとは言え『2頭出しの人気薄』という格言もありますので、この馬を応援しているファンにメッセージをいただけますか。
米:本当に意外性がある馬なので、応援して欲しいですね。サートゥルナーリアの方を応援するファンも多いかもしれませんが、厩舎スタッフ皆も僕のことを応援してくれているので、一発やりたいなと思いますね。
-:猪熊オーナーにとっても、アントニオバローズでダービー3着がありますからね。
米:今年、ダービーオーナーになって欲しいですね。
-:あと1週間、楽しみに待っています。
米:応援よろしくお願いします。
-:ありがとうございました。
プロフィール
【米林 昌彦】Masahiko Yonebayashi
16歳の頃、草野仁さんの著書『たかが競馬されど競馬』を読んだことで、競馬界に興味を持つ。高校時代に乗馬クラブに通い始め、卒業後はオーストラリアにわたり、開業したての厩舎の元で研修するも、落馬により、腰椎を骨折。一時は再起不能の状態に。それでも、諦めることなく、リハビリを続け、ホッカイドウ競馬の佐藤邦茂厩舎で見習い騎手となり、2年間ほど調教に携わる。
その後は酪農学園大学に合格し、馬術部に所属するも、アルバイトとの兼ね合いの中、睡眠時間がとれない日々が続き、過労で体調を崩してしまったという。結果、23歳にして、競馬学校厩務員課程に合格。トレセンでは2つの厩舎を経て、角居勝彦厩舎へ。
馬と接する上で意識することは「相手に敵意を持たせないこと。馬を扱う基本に、モンティ・ロバーツの考え方をすごく取り入れているので、フレンドシップというか、仲良くなりたいと思います。主従関係を先につけたいという考え方もあるでしょうが、馬によっては最初にフレンドシップを重視した方が良いと、僕は考えているんですよ」と語る。思い出の馬はトーホウチェイサー。