サートゥルナーリア 14年ぶり無敗のダービー制覇で 令和の怪物誕生へ
2019/5/19(日)
ディープインパクト以来、14年ぶりの快挙へ。皐月賞では着差こそタイム差なしだったものの、接戦を制して無傷の4連勝としたサートゥルナーリア。活躍が約束されるかの如き良血ながら、ここまでのパフォーマンスは兄たちに匹敵、もしくはそれ以上のものともいえる。新元号となり、初めて行われる競馬の祭典。サートゥルナーリアは新時代の象徴的な存在となりうるのか。独占インタビューで迫った。
-:日本ダービー(G1)で2冠目を狙うサートゥルナーリア(牡3、栗東・角居厩舎)ですが、前回から滝川さんに担当が代わりました。最初に触られた時の雰囲気、第一印象から教えていただけますか。
滝川清史調教助手:とりあえずまだ幼くて、子供だなと思いました。牧場でも期待されて大切に育てられただろうから、人間をちょっと舐めていたところもありました。我がままで、子供だな、というのが第一印象ですね。
-:それだけ大事に育てられたということですね。筋肉の触った感触とか、動きに関してはどんな印象でしたか。
▲サートゥルナーリアと担当の滝川清史調教助手
滝川助手は角居厩舎の数々の名馬を手がけてきた
滝:この兄弟の中でも肌質が全然違うのに驚きました。シーザリオも皮膚が厚い馬でしたし、リオンディーズ、グローブシアター、担当しているシーリアも皮膚が厚いので、みんな父のキングカメハメハが出ているのかなと思うんです。でも、この馬は毛色も違うし、肌質感もちょっと違いますね。
-:サートゥルナーリアだけ皮膚が薄いということですか。
滝:メチャクチャ薄いという訳でもなくて、兄弟と比べると薄いなと思います。
-:調教を進めていく上での注意点というのはありましたか。
滝:とりあえずこの兄弟というのは、みんな暴走する血統だから、そういう事がないように、みんなで協力して進めている感じですね。
-:調教が進んでいくと、自然とテンションも上がっていくじゃないですか。そこをコントロールするのは難しいですよね。
滝:新馬戦の時は勝たないといけないので、調教の本数を増やしたんですよね。その分、唯一、新馬だけレースでハミを噛んだという話を聞いているから、なるベく調教でも心掛けているんですけどね。普通に乗るのであれば、引っ掛かることもなく、何の問題もないです。昨日(5/15)の追い切りでは後ろから追い掛けていって、引っ張ったら若干行きたがる素振りは見せたけど、競馬では問題ないでした。実際に競馬に行ったら、そんなに引っ掛かることもないですしね。昨日、レーン騎手に乗ってもらって、サートゥルナーリアがどういう馬なのかを感じてもらいました。
▲15日、1週前追い切りに駆けつけたレーン騎手が騎乗
-:絶好調のジョッキーですが、調教を終えてダミアン・レーン騎手から何かコメントありましたか。
滝:深くは喋っていませんが、「調子が良い」と感じ取ってくれたようです。
-:成績も見ているだろうし、映像も観ているだろうし。
滝:そうですね。実際追い切りで感触を掴んでもらえたので、良いイメージで乗ってもらえるんじゃないですか。
-:兄弟の中でも折り合いがつくという。
滝:折り合いが付くことが一番のセールスポイントですよね。
-:前回の皐月賞を振り返っていただきたいです。勝利したものの、おそらくもうちょっと着差をつけるサートゥルナーリアを描いていたファンもいたのかなと思うのですが、いかがでしたか。
滝:タフなレースだったから、勝ち切ることに価値があると思いますね。初めて尽くしだったし、着差は際どかったけど、万全のデキとは言えなかったので…。
-:それはどういった点ですか。
滝:若干オーバーワークの影響があったかなと思いました。体も1週前に仕上がり過ぎていました。皐月賞は相手が揃うということで、CWコースで5本続けて追っていました。時計は出ていないように思いますけど、ゴール板を過ぎてからの方が時計が速いですから。やらなきゃ、やらなきゃで、馬には負担が掛かると思うので、難しいところでした。そういう不安もあったので、僕自身はレースでガス欠するのではないかと心配するほどでした。それを考えたら、よく走ってくれたなと。皐月賞は馬に勝たせてもらったという思いが強いです。
-:皐月賞後のルメール騎手のコメントでも「最後はちょっと疲れたかな」とおっしゃっていました。逆に言ったら、ダービーに向けて、もう1回リフレッシュして、調整さえ整えてやれば、こんなものじゃないという。
滝:そう思うんですけど、皐月賞で良いイメージを残せなかったというのもありますからね。
-:その辺は、2010年にヴィクトワールピサで皐月賞を勝って、2冠目を目指してダービーに行ったけども、3着に終わったということもありましたからね。
滝:やっぱり負けられないという意識が働きますから。、僕自身は気負わないと思うけど、どうしても皆は気合いが入っているし、あの時は岩田康誠も、絶対勝たないといけないと思っていたし、助手もダービーは俺が一番勝ちたいレースだと知っているから、勝たせたいと思っていました。そういう周りの思いが強すぎて裏目に出たんだと思います。
-:今回は自然体ですね。
滝:自然体で、いつもの良い状態で。
-:さて、今回のダービーですが1週前までの調整としては、順調に来ていますか。
滝:牧場に帰った時にリクエストして、若干ゆるませてもらいました。ちょっと楽をさせて、皐月賞の疲れを取ってからトレセンに戻してもらおうと思いました。「今週は調教をシッカリやってくれ」と言うことでした。それを踏まえて予定通り、今のところは上手く行っている感じですね。
-:上手いことおつりを残しながら、仕上げられているということですね。
滝:要はオーバーワークさえしなければいいんですよ。追い切り時計が遅くても、後からでも取り返しは利くから。やり過ぎてしまったら、もう戻らないから。そういうのを考えながら、段々競馬に向かって行こうかなという感じですね。
-:皐月賞の輸送に関してなんですけど、中山への輸送はいかがでしたか。
滝:輸送は何も全然問題ないですね。あっちに行ってからもカイバは食べてくれるしね。前回と同じくらいか、あれ以上で出られたら良いですけど、変わらないくらいで出走させたいなと思います。
-:感触としては、皐月賞よりも良い状態で出せそうですか。
滝:行きたいなと思いますけど、こればっかりは馬次第ですからね。なかなか人間が思うようにはいかないですから。
-:来週、まだ追い切りを控えているんですけど、僕らファンとしたら、最終追い切りの時計よりもおつりを残しているかどうかがポイントだと思って良いのですか。
滝:もともとウチは直前に時計を出さない厩舎だったんですよね。別に追い切りで速い時計を出さなくても走るからね。
-:レースで走れるのが一番ですね。
滝:当週は、それなりの併せ馬もすると思います。日曜日に坂路に入れて、最終追い切りでは3頭併せで後ろから行くと思います。併せ馬と言うより前に目標を置いておくだけで、この馬は勝手に加速していく。ゴール板まで流して、どんなものか確認するだけだと思います。
-:サートゥルナーリアは角居厩舎ゆかりの血統で、しかも、これだけ走る馬じゃないですか。担当されるのもプレッシャーが掛かると思いますけど、滝川さんに回ってきたのは、信頼されているからですよね。
滝:そんなことはないと思いますよ。
-:中内田厩舎で技術調教師として働く吉岡先生からバトンを渡された形ですね。
滝:吉岡先生がブン投げてきたんですわ(笑)。今は敵(※)ですからね、フフフ。
(※サートゥルナーリアの担当だった吉岡辰弥技術調教師(元調教助手)は現在、中内田充正厩舎で研修中)-:皐月賞2着のヴェロックス(牡3、栗東・中内田厩舎)ですね。サートゥルナーリアを担当されてきた吉岡先生が今度はライバルとして戦うと。
滝:そんな感じですね。
-:サートゥルナーリアほどの馬だと担当していて、毎日楽しいんじゃないですか。
滝:楽しまないといけないと思いますけど、淡々と仕事をこなしているだけです。まだ期間が短いので、自分の馬という感覚があまりないですね。これからまた変わってくるでしょうけどね。
-:でも、大仕事が舞い込んできた訳ですよね。
滝:あまりそういうのは考えないで、普通の馬のように、この前も言ったんですけど「新馬戦のつもりで行くわ」と。
-:ダービーと思ったら、プレッシャーを感じるけど、府中の2400mを走ると思って送り出す?
滝:500万特別を使いに行こうと、そんな感じですね。
-:それが、馬も人も一番リラックス出来るでしょうね。
滝:やっぱり周りからワイワイ来るからね。ずっと取材をされているのに、平気なんですよ。この馬は大したものですね。全然、物怖じしないですしね。
-:それだけ精神的にドッシリした馬なのですか。
滝:馬房では大人しいですからね。外に出したらヤンチャですけどね(笑)。
-:成績だけを見たら、同級生と比べて1個上のクラスなのかなという感じです。完成度が高いから勝ってきたという訳ではなさそうですね。
滝:まだまだ能力だけで勝っている感じですね。トモなんかも弱いし、体もまだまだ付くべき所に筋肉が付いて欲しいです。
-:もっと男らしい体になるということですね。
滝:あまりマッチョになったら、走らなくなるかもしれないですけど、ちょっとひ弱な面があるし、もうちょっと筋肉量が増えてもいいですよね。もともと右のトモが弱い馬なので、今は慎重にやっています。
-:ダービーで2冠達成を期待しているファンの方にメッセージをいただけますか。
滝:無事にレースを終えるのを見てもらうしかないと思うんです。どんな成績が残せるのか分からないですけど、やることだけはやって頑張っていくので応援よろしくお願いします。「無敗でダービーを勝ちます」とは言えないですし、元気な姿で走って、帰ってきてくれたら良いなと思います。
-:あの大歓声の中、1着でゴール出来るように祈っています。
滝:ありがとうございます。とりあえず無事に走ってくれたら良いです。正常心でいつも通り挑みますよ。
-:ありがとうございます。
プロフィール
【滝川 清史】Kiyoshi Takigawa
1983年からトレセンで勤務。初めて所属したの武宏平厩舎で、当時も担当馬でクラシックに挑んだ。角居勝彦厩舎の開業時に移籍すると、これまでデルタブルース、ハットトリック、ヴィクトワールピサ、ラキシスなど名門の大黒柱的存在を担当。栗東トレセンきっての腕利きとして知られている。