アルアイン 勇気のいる戦法と陣営の試み 大阪杯で2年ぶりG1制覇
2019/6/17(月)
復活を遂げたG1馬が連勝へ。3歳時の皐月賞を好時計で勝利。4歳の昨年は海外やマイル戦にも活躍の場を求めたアルアイン。しかし、こと勝ち星からは見放され、年明け初戦の金鯱賞ではブリンカーを試すも、直前の乗り替わりなどのアクシデントもあり、5着に敗れてしまった。そして、迎えた大阪杯は皐月賞以来となる9番人気の低評価を覆す勝利をみせた。復活の要因を陣営はどうみているのか。陣営を直撃した。
-:宝塚記念(G1)に向かうアルアイン(牡5、栗東・池江寿厩舎)は、大阪杯で2年振りのG1勝利ということで、改めておめでとうございます。
兼武弘調教助手:ありがとうございます。久々の勝利がG1勝利でしたからね。
-:待望のG1勝利で、これまで勝てなかったのが嘘のような鮮やかな勝ち方で、しかもノーステッキで、肩ムチもないでしたからね。これまでの勝負どころでの反応の悪さというのは、若干ステッキを嫌っていたということもあったのですか。
兼:そういうところもあったということでしょうね。戦前から、ステッキ無しで行ってみようということは、追い切りを通して、試してみたいところではあったのでね。
-:それを決断出来たというのは、やっぱり金鯱賞からブリンカーを着けられて、馬の持っているパフォーマンスをもっと発揮しようという試みだったと思うのですけど、そのレースでは5着に負けた訳なのですが、その敗戦が活きたということですか。
▲大阪杯のゴール前 キセキなどの強豪を下し、復活をアピールした
兼:前日の落馬で、北村友一君が乗れなくなって、急遽乗り替わりという形になりました。そこで考えていたことをやってみたかったのですが、それは出来ずに終わったんですけどね。
-:考えていたプランというのは、どういうことだったのですか。
兼:北村君が考えていたことですね。それはステッキを使わないなど、本番でやるようなことを試してみたかったところですね。
-:ブリンカーの効果も、ですね。
兼:ええ、効果がどうなのか、ですね。
-:レースが終わってから、柴山ジョッキーとも話をされたと思いますけど、ブリンカーの効果ということに関してはどうでしたか。
兼:効果としては、まだ何とも言えないところだったと思いますけど、コース取りでちょっと外を回るという形になったので、それも良くなかったです。4コーナーでステッキを使うことになって、一瞬、置かれるような感じになったので、そういうことを考えれば、馬群に入れた方が良いだろうということやステッキを使わない方が良いだろうと、逆に再確認出来た競馬ではあったんじゃないかなとは思っていますけどね。
▲金鯱賞のレースぶり
-:逆に、大阪杯に向けて余分なものを削いでいって、アルアインにとって良いことは、ある程度、馬群の中で、外々を回り過ぎず、内に入ってということですね。
兼:内々で馬群に入って包ませて、それがこの馬には合っているんじゃないかな、というところですよね。
-:ブリンカーに関しては、同じものじゃなかったのですね。
兼:金鯱賞で一度試したブリンカーよりも、全く見えないよりも少し見えた方が良いかなということで、少し穴が開いているブリンカーを使用しました。それも上手く功を奏したかなと思いますしね。
-:そのやりたいプランがあった大阪杯で、入った3番枠というのも、やりたいことに適した枠だった訳ですね。
兼:適した枠でしたね。当日の馬場は水分を含んでいて、内から乾き始めていたということもあって、そういう好条件もマッチしましたしね。
-:この春の北村友一ジョッキーと言えば、高松宮記念、桜花賞と人気馬で敗れ、大阪杯のアルアインは(9番人気で)人気がなかったわけです。結果的に、その人気のないアルアインだけ勝てたということで、それは、やっぱりこれまでアルアインと付き合ってきた厩舎側が、アルアインの良さを活かすにはコレしかないというところが見えていたからということも言える訳ですね。
兼:あの馬の良さを活かすために、馬の性格をよく知ってもらうということで、金鯱賞前からしっかり追い切りに跨ってもらったりして、その時に、この馬の性格という意味において、感触を掴んでもらったのが大きかったと思いますね。
-:今回また阪神競馬場で、距離が200m延びるだけなのですけど、具合はいかがでしょうか。
兼:帰ってきたのが5月28日なのですけど、まだ筋肉が足りない感じもありましたし、お腹も少しボテッとした感じに見せていました。もともとそういう馬ではあるのですけど、それを考えても、少しボテッとした感じに見えたので、追い切りを消化していったら、どういう風に変わっていくかなという感じでした。今日(6月12日)、1週前追い切りを終えました。内容としては、全体時計をとにかく速く、一杯にやる目標がありましたので、上手いこと良くなってきているかなと思いますね。
-:兼武さんは併走馬(スプマンテ)に乗られていて、隣で岩崎助手の手応えを見ていたと思います。
兼:並びかけてスッと抜け出すのも良かったのですけど、しっかり追えたと思いますね。馬場は特に最後は重かったと思います。時計的には全体が50.8秒の終い12.6秒で、ラストはちょっと掛かっている感じはしますけど、それでも全体的には速いので、後半の時間帯の馬場を考えれば優秀だと思いますね。
-:3つ目のG1に向けて、今回もまた楽しみですね。
兼:ここでもう一つ獲れれば、かなり大きいですね。
▲坂路で1週前追い切りを行うアルアイン
-:馬の様子も一時より、ドッシリ構えていますね。
兼:歳のせいなのかもしれないですけど、落ち着きが出たかなという感じですね。立ち写真を撮られる時の姿勢からも、雰囲気的には変化が出たなと思いますね。
-:前は何かの物音に反応するということがあったのですけど、落ち着いていたのかなと。体重はどれくらいになりそうですか。
兼:今のところ、前走の直前と変わらないくらい感じですね。
-:大阪杯の時の気温を考えると、ちょいマイナスでも同じくらいの感じですかね。
兼:別にマイナスでも良いと思っているくらいなので。
-:今週ビッシリ追い切りをやられたということで、来週は。
兼:サラッと、というような感じですね。
-:ほぼ態勢は整いつつあるということですね。3つ目のG1に必要な要素というのは、今回もまた内枠に越したことはないということですか。
兼:前走の結果を踏まえても、その方が良いとは思いますけど、この梅雨時期ですし、どのような馬場状態になるかも分かりませんからね。レースは全く同じような展開になる訳でもないので、その時その時に応じた騎手の判断で乗ってもらえればと思っています。
-:大阪杯の戦前は、皐月賞を勝った時の時計がけっこう速かったので、アルアインの特性というのは、パンパンのスピード馬場の方が良いと思っていたファンもいらっしゃると思います。大阪杯の勝ち時計(2分1秒0)自体はそんなに速くなくて、スタミナ馬場でもやれましたし、歳も重ねているので、それだけパワーアップしていると思いますけど、乗られていて変化は感じますか。
兼:レースの時計は違いましたけど、大阪杯も皐月賞も多分スタミナの削り合いという点では一緒だったと思うんですよね。一瞬の切れという勝負ではなくて、持っているスタミナをいかに削りながら、というところでは類似していると思うんですよ。
-:この馬はブリンカーを着けて、ある程度、行きっ振りを上げて、前目に付けているという方が、最後のゴール前に活きてきているということですね。
兼:この馬にとって、そういう展開が一番良いでしょうね。
-:観ているファンとしては、ステッキを入れてもうちょっと頑張ってくれと思うところなのでしょうが、ノーステッキでそれを叩かずに乗るというのも、ジョッキーとしては勇気のいる行動だと思います。それがこの馬に合っているとしたら、それで良いんでしょうね。
兼:そういうことですよね。今まで惜敗続きだったのが嘘のように勝ち切ってくれたということですよね。
-:乗っていた北村友一ジョッキーも、終わってから感無量だったというか、やりたかったことが出来たという達成感はあったのでしょうね。
兼:そうでしょうね。こうしたいという、本当に思い描いていたプランが出来たんじゃないかなと思いますね。
-:「ノーステッキでしたね」と振ったら「肩ステッキも入れていないということも分かってください」と言っていましたからね。
兼:本当のノーステッキですね。それが、逆にあの馬の最大のパフォーマンスを引き出せたということだと思いますね。
▲大阪杯の口取り 真ん中が兼武助手
-:いかにアルアインの気持ちを削がないで乗るかということが、勝利への条件ですね。
兼:削がず、気持ちを乗せていくといった部分ですよね。
-:それだけキッチリつくっておかないと、それが出来ないですもんね。
兼:もちろん体を仕上げた状態で気持ちを乗せて、当日は気分良く走ってくれれば良いですね。
-:前回は、ファンとしてはそれほど上位人気に推していなかったのですけど、今回はマークされる立場になると思うので、上位人気には入ってくるとは思いますからね。
兼:そうかもしれませんね。でも、やることは一緒かなと思っています。
-:強敵相手に良いレースが出来るということですね。
兼:大阪杯もメンバーが濃かったですからね。
-:日本でメンバーが薄いG1というのはそんなにないので、3つ目のG1を期待しているファンに、最後メッセージをいただけますか。
兼:大阪杯で2年振りの勝利がG1勝ちということで、復活という感じになって本当に嬉しかったですし、またこれを近い内にみなさまと一緒に味わえるように頑張りたいと思います。
-:あと10日くらいありますけど、来週の追い切りにも期待しています。
兼:万全に仕上げて、競馬に行きたいと思います。
-:馬装に関しては、スリットのあるブリンカーで、大阪杯と同じということですね。
兼:ハミも微妙にちょっと水勒に替えているので。普通のハミですね。前はリングハミだったと思うのですけど…。
-:ありがとうございました。
プロフィール
【兼武 弘】Hiroshi Kanetake
滋賀県出身。1983年3月6日生まれ。初めて観戦した競馬はダンスインザダークが勝った菊花賞。中学生の時に競馬好きの知り合いが多かったため、影響を受けてこの世界に入る。高校の卒業を待たずして、北海道の千歳国際牧場で修行。その後は滋賀の湘南牧場、トレセン近郊のグリーンウッドに勤め競馬学校に入学。卒業後、池江厩舎に所属。持ち乗りを経て攻め専の調教助手に。モットーは「馬1頭ずつ個々の個性を大切にする」こと。目標は「厩舎全体のことを把握できるように頑張る」こと。業界一といっても過言ではないビッグステーブルのムードメーカー的な存在。