武藤雅騎手 節目の100勝、JRA重賞初勝利へ駆け抜ける
2019/8/1(木)
-:話題は替わりますが、レース前の準備はどんなことに重点を置かれていますか?
雅:まずはレースをしっかり観ることですね。それまでの過去のレースを観て、あとは調教に乗れる機会があるようでしたら、しっかり乗るように心掛けていますね。レースで初めて乗ることもありますけど、調教で乗って損はないことなので、出来るだけ乗るようにはしていますね。一番はしっかりとレースを観ることで、乗っていたジョッキーに聞けることがあれば、先輩方にしっかり聞いて、準備できることをしっかりしていくということですね。
-:レースを観られる時は、どういったところにポイントを置いていますか。
雅:その馬の特徴を見ることですよね。前に行く馬なら前に行く。後ろから脚を使う馬なら、差しを利かす。とは言え、イメージばかりに執着するのも良くないと思います。調教に乗ったりして掴むことで可能性も探っています。それこそ、後ろから行く馬で逃げて、勝つ場合もたくさんあるので、感覚になるんですけどね。
-:準備も必要ですけど、もちろん乗っての反応、瞬時に考えられるかも大事ですね。調教で乗られることも多いと思いますけど、日頃の準備じゃなくて、トレーニングは特別にされていたりしますか。
雅:週1回トレーナーに診てもらっています。僕のトレーナーは競馬専門ではないのですが、自分が普段乗っていて、こうしたいという考えとレースを観てもらい、意見をすり合わせながら、トレーニングに組み合わせていく感じですね。
-:年々、体の強さが出てきているかなとは感じていました。
雅:ただ、トレーニングも必要ですが、これだけ競馬に乗せていただいているので、そこが一番のトレーニングですね。やっぱり競馬に行って、キツくなったところでしっかり最後まで諦めずに乗ることが第一ですからね。そこは、デビュー当初からこだわっていますけどね。それによって、自分がキツくなったところで追っているというところで、体も鍛えられてきている気がしますね。
▲新潟開幕週も早速勝利を挙げた
-:そういう意味では、ヤングジョッキーズシリーズで公営に行かれて、ダート戦で馬を動かすことは勉強になりそうですね。
雅:そうですね。地方競馬もとても勉強になりますね。色々なところで乗せてもらって、たくさん乗せてもらえることが本当にありがたいですね。
-:騎乗において心掛けているポイントもありますか。
雅:体が小さいので、どちらかと言えば、周りよりも「前」で乗るタイプな気がしますね。重心の位置は分からないですけど、鐙は短く、手綱も短くという感じですね。そうなると、どちらかと言うと、重心は前になる感じですね。ただ、前に乗ろうという意識はないですし、僕は前に乗るよりも後ろの方が良いと思っているので。でも、後ろ過ぎれば落ちてしまうし、前過ぎると転びやすいし、重心に関してはやっぱり真ん中が一番良いですよね。
-:特に中山ダートの1200mはすごく勝っているイメージがありますね。
雅:そうですね。多分、イメージが強い方も多いと思いますね。自分で特別な意識がある訳じゃないですけど、確かに勝ち星は多いと思いますね。今回、初めて来た函館であったり、福島だったり、新潟の特に短い距離はけっこう前々で決まることが多いですが、中山は最後の坂で、絶対に後ろにいてもチャンスが回ってくるので、そこは面白いし、最後までチャンスがあると思いますね。
-:本人に自覚はあるけども、特に得意にしているという訳じゃないのですね。
雅:そうではないですけどね。やっぱりイメージがあるので、良い馬を依頼されることも多いと思いますね。
-:もちろんそれに限らず、依頼されるようになった方が良い訳ですからね。データ的にバレていないけど、ここは好きだ、得意だというポイントを教えてください。
雅:でも、僕は新潟競馬場が好きですね。得意といいますか、すごく乗りやすいです。東京競馬場は上手く立ち回って勝つこともありますけど、どうしても日本の競馬の中で馬の力が影響しやすい競馬場だと思いますからね。新潟は乗りやすい中で、差しも利きますし、逃げも来ますからね。ただ、まだ千直(芝直線1000m)で勝ち星がないので、今年は勝ちたいですね。
-:今は函館、普通なら札幌となりそうですが、この夏は乗る機会はあるのですか?
雅:今年は新潟に戻るので、札幌は行かないです。1年目は新潟を経験できたのですが、ちょうど2年目の夏はケガをしてしまったので、今年の夏はフル参戦する予定ですね。今年はまだ勝ち星のない千直で勝ち星をあげたいなと思いますね。夏の一つの目標ですね。
-:馬具のこだわりはありますか。
雅:僕はあまりないですかね。馬具ではないのですが、神社がすごく好きです。神社と、あとは石と清めの塩にはこだわっていますね。そこがこだわっているところですかね。気持ちが安らぎますから、それが僕にとってのルーティーンかもしれないですね。もともと親が好きだったので、その影響ですけどね。とても気持ちが安らぐというか、自分の中でリセットされるので。
▲父である武藤善則調教師と
-:神社好きの武藤騎手から、どこの神社がお薦めでしょう。
雅:普段、毎月行っている神社が鹿島神宮と香取神宮で、そこの2つは毎月行っています。
-:願掛けですか。
雅:そうですね。それこそ石やお清めの塩もそうですね。乗る前に自分で塩を撒くんですよ。毎レース掛けているんですけどね。ケガが多かった時もあったので、ケガをしないように。1年目の後半から2年目の最初くらいからやるようになりました。
-:今後、特に期待している馬も教えてもらえますか。
雅:2歳はそこまで乗っていないのですが、ジョディーが今年、去年を含めて、本当に僕に良い経験をさせてくれている馬なので、日本にまた戻ってきて、人馬ともに経験したことをしっかり活かせられるように頑張りたいなと思いますけどね。馬も気持ちが強くなって帰ってきてくれると思うので、僕自身もG1(オークス)でも乗せていただいて、とても思いがあるんですけどね。ラインカリーナも門別(ブリーダーズゴールドC)で8月使いますからね。新潟に帰ってからもレパードSと関屋記念に2週続けて乗せてもらえるので。
-:レパードSはすぐに行われますね。
雅:リープリングスター(セ3、美浦・木村厩舎)の依頼をいただき、能力がある印象なので楽しみですね。もともとゴルトマイスターの予定だったのですが、出走が叶いませんでした。あの馬もすごく楽しみにしていたのですけどね。
-:新たに経験することも多く、充実の日々を送られているのではないかと思いますが、今後の目標を教えていただけますか。
雅:今年は関東オークスも勝たせていただいて、一つの目標をクリアできました。JRAの重賞でもしっかり顔を出しつつ、勝利を掴めるようにしたいですね。まずはJRAの重賞を獲るということと、あとは少しで減量も外れるので、そこも可能な限り充実した内容でしっかり外したいです。ただ、数だけではなく、身に付けるべきことを身に付けて、減量を外してからも多くの依頼を受けられるようなジョッキーになれるように乗っていきたいですね。
-:言葉に気持ちの強さがある感じがしますね。
雅:どうなんですかねぇ(笑)。
-:レースで慌てることもないですか。
雅:慌てることはないと思いますね。
-:逆に踏み遅れることはどうでしょうか?
雅:やっぱりそこが一番の課題かもしれないですし、先生にも指摘されます。踏み遅れるといいますか、やっぱり外国人ジョッキーを見ていたら、ポジションを取っていかないといけないから、抑え込むという部分では僕に足りないところだと思いますね。例えば、掛かる馬がいたら、それこそ折り合い重視で乗ってしまうこともありますし、逆に外国人ジョッキーが乗っていれば、掛かっていても出していって、そこから抑える技術がある。それを身に付けるということが課題かもしれないですね。
-:外国人騎手の方はまた違いますね。
雅:しっかり抑え込みますからね。そこが外国人ジョッキーの強みといいますか。
-:今年も新たな顔ぶれが来ましたね。オイシン・マーフィーやダミアン・レーンは来て早々に大活躍でしたが、今まで見て、一番参考になった外国人ジョッキーはいますか。
雅:最近の人ではありませんが、僕の中で別格は(ランフランコ)デットーリ騎手ですね。ちょうど競馬学校に入る前に、日本に来たんですよ。その日の2レースだったかなあ(3歳未勝利をアルベルティで勝利)。勝ったと思うんですけど…やっぱりあの時はすごく驚きというか。
-:2011年の日本ダービーでデボネアに乗った時ですね。
雅:そうですね。あの時のレースはすごく記憶に残っていますよね。当時は競馬学校に入学する前だったのですが、アッと思わせる、一緒に乗りたいというジョッキーでしたね。それこそ今年はレーンさんが来たり、マーフィーさんが来た中で、僕とちょっとしか歳が違わないジョッキーがそれだけ活躍していたので、刺激にもなりましたし、本当に上手な方々たちでしたね。僕も負けないように、もっと研究していって、自分とどこが違うのかとか、ここが自分に足りないのか、逆に自分が優れている部分があれば、もっと磨いていきたいですしね。一緒のことをしていても、結局、一緒になってしまうので、色々な方向で吸収できれば良いかなと思いますけどね。
-:去年、イギリスに行かれた時というのは、デットーリさんの姿を見ることはあったのですか。
雅:いや、向こうでは見られなかったです。その際はずっとユタカさん(武豊騎手)に付き添わせていただいたんですけどね。終わってから、ユタカさんは騎乗のため、フランスの方に行ってしまったので、その後はニューマーケットに戻ったら、川田(将雅)さんが連絡を下さって「1人でいるんだったら、一緒にご飯でも食べに行こうか」ということでした。食事をさせてもらって、次の日は、川田さんがいる厩舎で1日見学をさせていただいたんですけどね。
-:1人で行ったのは大変じゃなかったですか?
雅:そこから英語が分からない中で電車とバスを使って、1人でニューマーケットに行ったのですが、バスですごく迷ってしまいました。駅からすごく遠いところにバス停があったので、ナビで調べたのですが、全然違うところに行ってしまって、人に聞きながら行ったんですけどね。それも含めて、良い経験になりましたね。
-:そこは持ち前の気持ちの強さが(笑)。
雅:動じることはなかったですね(笑)。夜もまたニューマーケットからロンドンに戻って、前日はロンドンに泊まって、飛行機の時間までに向かって、日本食があるところを探して、1人で行きましたけどね。
-:海外遠征については、具体的に決まっていることはないですか。
雅:まだはっきりしていないので、何とも言えないのですが、行きたいという気持ちはありますね。減量が切れる前にはもう行けないと思うので、しっかりと計画を立ててから行きたいですね。僕のスタイルからすると、ヨーロッパかアメリカなら、アメリカでしょうか。イギリスはイギリスで勉強になることもたくさんあるんですけどね。それこそ今回、アメリカでは(ウィリアム・)モット厩舎でずっと調教も乗らせていただいたので、先生とも顔合わせが出来たので、一つの繋がりが出来ましたから。今回はアメリカのビザが取れて10年持っているので、上手く使えたら、という思いはありますね。今の政権に替わってからビザをとるのが厳しいみたいですけどね。
-:同期の富田暁騎手はオーストラリアに行ってしまいますからね。
雅:そういうしっかりとした考えを持っている同期もたくさんいますから、負けずに。
-:まずはしっかり追うというポリシーを忘れずに夏競馬も、今後も頑張ってほしいです!
雅:はい、最後まで諦めずに追うということが、僕の中のポリシーで、大事にしていることなので。それを見て、良く思ってくれる方が少しでもいれば、励みにもなります。まだゲートでカバーしきれないところもあって、未熟ですし、最後まで諦めずに追うということは誰にでも出来ることだと思うので、大事にしながら、もっと先輩ジョッキーを見習って、もっともっと技術を身に付けて、欠点がないジョッキーになりたいなと思いますね。
-:ありがとうございました。
雅:ありがとうございました。
プロフィール
【武藤 雅】Miyabi Muto
1998年1月10日生まれ、茨城県出身。父は元JRA騎手の武藤善則調教師。2017年3月4日、美浦の水野貴広厩舎から騎手デビュー。同期の新人騎手の中では最も遅く勝ち星を挙げたが(59戦目)、結果的には年間24勝をマークし、同世代の中では最多勝に。2年目の2018年は左手首の骨折で1ヶ月半、戦線離脱を経験したが、年間37勝を挙げ、勝ち星を伸ばした。
今年はジョディーでクラシック初騎乗を果たすと、7月にはベルモントオークス招待で海外初騎乗を経験。6月にはラインカリーナで関東オークスを制し、重賞初勝利。より一層の飛躍が期待される。趣味は音楽鑑賞で、好きなアーティストは銀杏BOYZ、BisHなど。昨年末はカウントダウンジャパンにも足を運んだという。