国枝栄調教師インタビュー後編 ラストダービーへ!名伯楽が語る未来
2024/9/22(日)
楽しみな2歳馬たちといざ出陣
琴:2026年2月をもって国枝先生は定年引退を迎えられます。今の2歳世代は先生にとって最後のクラシックとなりますが、アロンズロッドの他にも注目の2歳馬が多数。その中でも8月3日の2歳未勝利で2着に7馬身の差をつけて勝ったアルレッキーノは本当に強かったですね!
国枝栄調教師(以下国):チェッキーノってチェルヴィニアにしてもこの馬にしても、本当にいい仔を出すよね。
琴:先生から見てアルレッキーノのストロングポイントはどのあたりにあるとお考えでしょうか?
国:チェッキーノの仔は競走馬にとって一番必要なものを持っていると思うんだ。それは何かというと、とにかく走りたいという気持ちの面。とにかく前向きなんだよね。あとはそれをどうコントロールするかっていう話にもなるんだけどね。
琴:天栄に取材した際に見せていただいたんですが、スタッフの皆さんが「枠に収まらない」という表現をされていました。
天栄で英気を養うアルレッキーノ
国:とにかく圧倒的なスピードがあるからね。デビュー戦は勝ったクロワデュノールも強かったんだけど、こちらはスピードがあり過ぎるからスッと前に出ちゃうんだよね。すると馬はドンドン行っちゃう。
次はサウジアラビアRC(10月5日、東京芝1600m)を予定していて、ここで相手に合わせて走る形の競馬ができてくると、その後は距離を延ばしてもいいと思う。誰かハナに行ってくれるような馬がいるといいね。
琴:先生の感触としては、距離はどのくらいまでもちそうでしょうか。
国:そうだな、とりあえず適性が高いのはマイルだろうね。今後はできればハナにこだわらず、相手に合わせる競馬ができれば一番いい。馬体だけ見たら全然短距離の格好じゃないから、別に2000mでも2400mでもいいと思うよ。
ブリックスアンドモルタルの中には扱いが難しい、ウルさい馬もいるみたいだけど、この馬はそんなことはないんだ。母親のチェッキーノがよく出ているんじゃないかな。
琴:本当に楽しみですね!そして、ノーザンファーム天栄の木實谷場長が秋の東京デビューの注目馬として国枝厩舎の2歳馬ガルダイアを挙げていました。こちらはいかがでしょう?
国:この馬もいいんだよ!お母さんのアステリックスはウチの厩舎にいた馬で、母としてはアエロリットを出しているんだ。弟のガルダイアもお姉ちゃん同様スピードがあるし、前向き。
身体がちょっと細いんだけどね。男馬らしさがある体というよりはスラっとして手脚が長い。アエロリットとは全然違う体型でそこらへんがどう出るかだね。普通にいけば新馬からサっと行けそうな馬だよ。
琴:どの2歳馬も楽しみにされていると思いますが、ここまで出てきた以外でも、楽しみな2歳馬がいれば伺いたいです。
国:アパパネの仔のアマキヒかな。お父さんはブラックタイド。馬はいいんだ。お兄ちゃんのバードウォッチャーもウチにいるんだけど、お兄ちゃんよりずっと迫力がある。
馬の格好だけいえば、この馬は今までやった馬の中でも相当良いレベル。馬格があるし、目の力がある。ボスタイプだよね。あとはアパパネの仔は結構気性がワガママというか、気持ちがちょっと強い仔が多いからそこがどうかな。
琴:アロンズロッドにアルレッキーノ、ガルダイアにアマキヒ。楽しみな馬がいっぱいいますね。ダービー4頭出しまであるでしょうか?(笑)
国:まだダービー勝ったことないのにな(笑)
琴:悲願のダービー制覇へラストチャンスとなりますね。
国:だんだん悲願でもなんでもなくなってきてるよ(笑)
琴:え、そうなんですか?
国:あと1回だし、もちろん取れればいいなとは思うけどね。
琴:今年のダービーは関西馬のワンツースリーという結果でした。国枝先生は"栗東留学のパイオニア"とも言われています。美浦も坂路が改修されるなどしていますが、今後この東西の力関係はどう変わっていくと思われるか伺ってみたいです。
国:正直なところ、遠征競馬の場合トレセンからの輸送は道路事情の関係で関西の方が有利だと思うので、これが改善しないと遠征競馬で関東馬が結果を出すのは厳しいかもしれないね。
輸送するのは栗東も一緒なんだけど、美浦のある関東は首都高速があるから、関西圏に行くにはどこに行くにしても前日の朝4時に出なきゃもうダメなんだよ、混んじゃって。
逆に関西馬が東京に来る時は首都高を通らなくていいから、 夕方16時に着くにはトレセンを10時とか11時に出ればいい。混まないから朝の調教を終えてからゆっくり来れるんだ。
栗東滞在で桜花賞、秋華賞を勝ったアパパネ
美浦が関西遠征に行く時は首都高を越えて、栗東を越えてようやく着く。関西馬は美浦なんて通らずその手前に東京、中山がある。東京だったら首都高を通る必要もない。
新潟に行くにしても向こうは高速に乗ってすぐに行ける。昔は滞在競馬だったから有利不利は無かったけど、輸送競馬の時代になってから圧倒的に栗東のほうが有利な立地になったと思うんだよ。
まあそれでも、磐越が繋がったり圏央道が整備されたりして昔よりはマシなってきているんだけどね。もっと改善していかないと厳しいことには変わりないと思う。
琴:それでも今は関東勢がだいぶ盛り返してきた感覚があります。私は美浦育ちなので、やっぱり関東馬には頑張って欲しいところです。
国:俺も美浦の調教師をやってるからね。関東馬の更なる活躍を願っているよ。
琴:今年から夏の新潟で発走時間をずらす取り組みが行われました。こちらのお話も聞いてみたいところで、効果は感じましたか?
国:感じたな。特に効果があったのはパドックの周回時間を短くしたこと。2周か3周にしたんだよね。あれが一番だよ。
競馬ってほら、装鞍所に行って鞍を付けて、パドックに行って、返し馬にいってようやくレースを迎えるでしょ?これをもっと手軽にしたいんだ。最も馬が安全で落ち着ける場所ってどこだと思う?
琴:うーん…どこでしょう…?
国:厩舎の馬房なんだよ。今はエアコンも効いているからね。だからそれこそ厩舎で鞍をつけてもいいんだよ。そしてもうパドックを一回りして、馬場に入れてすぐにレーススタート。これが最善だと思う。
琴:なるほど。確かに馬にとってはかなり優しい流れに感じます。
国:暑い時間になるべく馬の負担が少なくなるやり方を取ってあげたいんだよ。我々がなんでここまで負担軽減について考えるかというと、レースはその日の競馬だけじゃないから。その次にまた別のレースを使うことになる。
だからレースでは次に向けてできるだけ負担がなく、それでもっていい状況をキープしたまま使いたい。例えばトライアルを使って本番に向かいたい状況下で、ものすごく暑い中トライアルを走ったりするともう馬はヘロヘロになってしまう。先がないんだよ。
琴:本番を使う前にヘロヘロになってしまっては意味がないですものね。勉強になります。国枝先生、今日は貴重なお話をありがとうございました。またよろしくお願いします!
国:こちらこそありがとう。またよろしくね。
プロフィール
【国枝 栄】Sakae Kunieda
1955年4月14日、岐阜県生まれ。東京農工大卒業後、78年に美浦・山崎彰義厩舎で調教助手となる。90年に厩舎を開業すると99年スプリンターズSをブラックホークで制しG1初制覇。それ以降もマツリダゴッホやアパパネ、アーモンドアイなど10頭のG1馬を育てあげた。リーディングトレーナー争いの常連でもあり、栗東留学のパイオニアとしても知られ、その人柄に惚れこむホースマンは枚挙にいとまがない。多くの名馬と多くの人を育て上げている日本競馬屈指の名伯楽。
成瀬 琴 - Koto Naruse
茨城県出身。JRA鹿戸雄一調教師の長女。馬事文化応援アイドル「桜花のキセキ」の元メンバーで、現在は主にタレントとして活躍。現役ジョッキーや調教師とも仲が良く、横山家と家族ぐるみの付き合いがある。幼なじみの横山武史騎手のほか、C.ルメール騎手とも日頃から連絡取り合う仲。